【相続放棄の注意点】間違えている人が多い部分を4つに分けて説明

相続放棄の注意点
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相続放棄を選ぶなら、実務上の注意点を知っておく必要があります。

なぜなら、期限や相続財産の扱いを間違えて判断すると、相続放棄できなくなる可能性もあるからです。

この記事では、私が1,000件以上の依頼を受けた中で、特に間違えやすいと感じている「実務上の注意点」を、時系列に沿って解説していきます。

なお、制度上のデメリットについては、「相続放棄のデメリット|4つの不利益を確認してから判断しよう!」で説明しています。

この記事の執筆者

  • 司法書士 小嶋高士
  • 大阪司法書士会|第4921号
  • 相続放棄の相談・依頼1,000件以上

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目次

相続放棄の注意点(1)3か月の熟慮期間

相続放棄には3ヶ月の期間制限がある

注意点の1つ目は、3ヶ月の熟慮期間です。

相続放棄できる期間は法律で決まっており、相続の開始を知った日から3ヶ月以内(熟慮期間)となります。

もし3ヶ月以内に相続放棄の手続きをしなければ、期間経過により単純承認したとみなされます。

1-1.期間経過により単純承認したとみなされる

あなたが相続放棄したいと思っても、相続の開始を知った日から3ヶ月経過すると、「単純承認」したとみなされます。

単純承認

亡くなった人の権利・義務をすべて相続すること

以下は、民法の条文です。

第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
(中略)
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
 
第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。(後略)
出典:e-Govウェブサイト(民法921条2項・915条1項)

期間経過(3ヶ月経過)により単純承認したとみなされると、相続放棄はできなくなります。

例えば、相続の開始を知った日が5月15日の場合、9月になってから相続放棄しようとしても手遅れです。

相続放棄の手続きには期間制限があるので、後回しにしないよう注意してください。

1-2.被相続人の死亡日から3ヶ月以内ではない

熟慮期間の開始日を説明した図

勘違いしやすいのですが、熟慮期間は被相続人の死亡日から3ヶ月以内ではありません。

正しくは、「相続の開始を知った日」から3ヶ月以内です。

つまり、相続の開始を知らなければ、被相続人の死亡日から3ヶ月以上経過していても、熟慮期間は経過していません。

死亡日からではなく、相続の開始を知った日から3ヶ月以内なので、勘違いしないよう注意してください。

1-3.相続の開始を知った日は相続人によって違う

相続の開始を知った日の違いを表した図

相続放棄は各相続人の手続きなので、相続の開始を知った日も相続人ごとに判断します。

したがって、相続の開始を知った日に違いがあれば、熟慮期間の開始日も違います。

例えば、亡くなった人と同居していた相続人と、何年も疎遠になっていた相続人では、相続の開始を知った日は違うケースが多いです。

他の相続人が3ヶ月経過したからといって、あなたの熟慮期間まで経過しているとは限りません。いつ相続の開始を知ったのか確認してください。

1-4.後順位は先順位の相続放棄を知った日

先順位相続人が存在する場合、後順位相続人は相続人ではありません。

したがって、被相続人の死亡を知っていても、後順位相続人は相続の開始を知ったには該当しません。

後順位相続人の相続の開始を知った日は、先順位相続人の相続放棄を知った日です。


■亡くなった人の家族構成

子ども(第1順位)
兄と妹(第3順位)
※直系尊属は亡くなっている。

■相続の開始を知った日

兄と妹(第3順位)の相続の開始を知った日は、子ども(第1順位)の相続放棄を知った日です。亡くなったことを知っただけでは、熟慮期間(3ヶ月)はスタートしません。


直系尊属や兄弟姉妹は先順位相続人の有無で、相続の開始を知った日が変わります。相続の開始を知った日は重要なので、間違えないように注意してください。

1-5.家庭裁判所への提出までが3ヶ月以内

相続の開始を知ってから裁判所への提出までを表した図

相続放棄の3ヶ月以内とは、申述書を家庭裁判書に提出するまでの期間です。

したがって、提出後の期間は、相続放棄に影響しません。

例えば、相続の開始を知った日が5月15日で、家庭裁判書に申述書を提出した日が7月22日であれば、相続放棄の受理された日が8月25日でも問題ありません。

たとえ残り期間が短くても、家庭裁判書に申述書を提出さえすれば、3ヶ月以内の条件はクリアできます。

3ヶ月以内に何をする必要があるのか、間違えないように注意してください。

相続放棄の注意点(2)相続財産の処分

注意点の2つ目は、相続財産の処分です。

相続放棄をするなら、相続財産の扱いには注意してください。

なぜなら、相続放棄できる期間内(3ヶ月以内)であっても、相続財産を処分すると単純承認したとみなされます。

2-1.相続財産を処分すると単純承認したとみなされる

相続人が相続財産を処分すると、単純承認したとみなされます。

単純承認

亡くなった人の権利・義務をすべて相続すること

以下は、民法の条文です。

(法定単純承認)
第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

出典:e-Govウェブサイト(民法921条1項)

たとえ相続の開始を知った日から3ヶ月以内であっても、相続財産を処分すると単純承認したとみなされます。

例えば、相続の開始を知った日が5月15日でも、相続財産を5月30日に処分すると、単純承認したとみなされるので、相続放棄はできません。

相続放棄をするなら、相続財産の扱いには十分に注意してください。

2-2.相続財産から葬儀費用を支払うなら金額に注意

相続財産から葬儀費用を支払っても、原則として相続放棄は認められています。

ただし、葬儀費用が常識の範囲内であればの話です。

相続放棄が認められているからといって、相続財産から高額な葬儀費用を支払うと、単純承認したとみなされる可能性はあります。

常識の範囲内がいくらを指しているか、現時点では判断されていません。安全に相続放棄したいのであれば、できる限り葬儀費用を抑えた方が良いです。

以下の記事では、相続放棄と葬儀費用について、より詳しく説明しています。

相続放棄と葬儀費用を読む相続放棄は葬儀代を支払っても認められるのか?

2-3.相続財産から借金を支払うべきではない

亡くなった人の借金(負債)を、相続財産から支払うのは止めてください。

なぜなら、相続財産から誰に借金を返済するかは相続人が決めるからです。相続放棄する人(相続放棄した人)に決める権利はありません。
※自分の財産から支払う場合は除く。

もし借金の返済が相続財産の処分だと判断されると、単純承認したとみなされます。判例の中には、相続財産の処分だと判断したケースもある。

亡くなった人の借金だからと、安易に相続財産から支払うのは、危険なので止めてください。

2-4.相続財産を請求すると処分に該当する可能性

相続放棄するなら、相続財産を請求するのは止めてください。

なぜなら、相続財産を請求する行為は、権利の行使と判断される可能性があるからです。

例えば、亡くなった人に高額医療費の還付金が発生している場合、還付金は相続財産となります。そして、相続財産を請求できるのは相続人だけです。

相続放棄するつもりなら、安易に還付金などを請求しないよう注意してください。

もし還付金などを請求して受け取っている場合は、使わずに相続財産として保管しておきましょう。

相続放棄の注意点(3)家庭裁判所の手続き

注意点の3つ目は、家庭裁判所の手続きについてです。

相続放棄は家庭裁判所の手続きなので、ルールに沿って行う必要があります。

3-1.家庭裁判所への申述以外では成立しない

相続放棄は家庭裁判所に申述書を提出しない限り成立しません。

以下は、民法の条文です。

(相続の放棄の方式)
第九百三十八条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

出典:e-Govウェブサイト(民法938条)

よくある勘違いとして、次の2つがあります。

  • 相続人同士の話し合い
  • 相続分の放棄書に署名捺印

上記の行為では、相続放棄の効力が発生しません。

相続人同士の話し合いでは成立しない

相続人同士で相続放棄について話し合っても、家庭裁判所に申述書を提出しなければ、相続放棄は成立しません。

たとえ相続人全員が同意して、書面に署名捺印していても結論は同じです。依然として、相続人であることに変わりはありません。

相続人同士で話し合いをするのは自由ですが、家庭裁判所への申述を忘れないよう注意してください。

「相続分の放棄」は相続放棄ではない

紛らわしいのですが、「相続分の放棄」は相続放棄ではないです。

相続分の放棄

自分の相続分を放棄することで遺産分割協議から抜ける行為

あくまでも、「相続分」を放棄して、遺産分割協議から抜けるだけなので、相続人であることに変わりはありません。

また、相続分の放棄をしても相続人なので、被相続人に借金があれば相続します。
負債は遺産分割協議の対象から除外されている。

他の相続人が用意した「相続分の放棄書」に署名捺印しても、相続放棄にはならないので、勘違いしないよう注意してください。

3-2.相続発生前は手続きができない

あなたが相続放棄したいと考えても、被相続人が亡くなる前(生前)は手続きできません。

相続放棄ができるのは、相続の開始を知った日から3ヶ月以内です。生前(相続発生前)に相続放棄はできません。

例えば、親に高額な借金があると分かっていても、相続発生前なので相続放棄は認めてもらえません。

仮に家庭裁判所へ申述書を提出しても、要件を満たしていないので、却下(取下げ)になります。

どのような事情が有っても、生前に相続放棄はできないので、相続の発生を待ってください。

3-3.管轄は被相続人の最後の住所地

相続放棄は申述書を家庭裁判に提出しなければ成立しません。

ただし、どこの家庭裁判所でも良いわけではなく、被相続人の最後の住所地を管轄する裁判所です。

住所地管轄
被相続人の最後の住所地
被相続人が亡くなった場所×
申述人の住所地×

被相続人の最後の住所地とは「住民票上の住所」です。実際に住んでいた場所ではないので注意してください。

管轄については、下記の記事で詳しく説明しているので、しっかりと確認しておきましょう。

3-4.申述人によって必要な戸籍の枚数が違う

相続放棄の申述には、「相続の発生」と「相続人」であることを証明するために、戸籍等を添付する必要があります。

ただし、申述人によって必要な戸籍等の枚数が違う点には注意してください。

以下は、亡くなった人の「配偶者・子ども」と「兄弟姉妹」が、相続放棄する場合の戸籍比較です。

子どもと兄弟姉妹が相続放棄する際の戸籍比較図
※被相続人の戸籍全部とは出生から死亡までの戸籍

亡くなった人の配偶者や子どもが相続放棄する場合は、多くても3枚添付すれば済みます。

一方、亡くなった人の兄弟姉妹が相続放棄する場合は、6枚や7枚必要になるケースも珍しくありません。

必要な戸籍等が多くなると、準備(収集)にも時間がかかるので、期間経過には十分に注意してください。

3-5.裁判所から照会書が届いたら忘れずに返送

家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出すると、原則として「照会書」が届きます。
※省略されるケースもあり。

照会書

相続放棄の申述書を提出した後に、家庭裁判所から届く確認書類のこと。本人の意思確認等のために送られてきます。

家庭裁判所から照会書が届いた場合、忘れずに返送してください。

なぜなら、本人の意思確認をする目的もあるので、照会書を返送しないと申述を受理しないからです。

申述書を提出した後に家庭裁判所から郵送物が届いたら、照会書かもしれないので放置しないよう注意しましょう。

照会書については、下記の記事で詳細に説明しているので、ぜひ参考にしてください。

相続放棄が終わった後の注意点

相続放棄が終わった後にも、次のような注意点があります。

  • 家庭裁判所は相続人の変更を知らせない
  • 終わった後でも債権者からの請求は届く
  • 申述受理通知書は再発行できない
  • 相続財産の占有者には保存義務が残る

4-1.家庭裁判所は相続人の変更を知らせない

先順位相続人が全員相続放棄しても、家庭裁判所は相続放棄を次順位相続人に知らせません。

誰かが知らせなければ、次順位相続人は自分が相続人だと気付けないです。

一般的には、以下のどちらかで相続放棄を知ります。

  • 先順位相続人からの連絡
  • 債権者から督促状が届く

先順位相続人が知らせない場合、債権者からの督促状で気付くケースが多いです。

先順位相続人が全員相続放棄しても、家庭裁判所は知らせないので注意してください。

4-2.終わった後でも債権者からの請求は届く

相続放棄が終わった後でも、債権者からの請求は届きます。

なぜなら、あなたが相続放棄した旨を知らせていなければ、相続人だと思って請求してくるからです。

前述の『5-1.家庭裁判所は相続人の変更を知らせない』で説明したとおり、家庭裁判所は申述人以外に相続放棄の受理を知らせません。

そのため、相続放棄が完了していても、債権者は知らずに請求してきます。

債権者から請求が届いたときは、無視するのではなく、相続放棄している旨を伝えてください。

以下は、相続放棄した後に市役所から請求が届いた場合についての記事です。

4-3.申述受理通知書は再発行できない

家庭裁判所から届く「申述受理通知書」は、再発行できないので注意してください。

申述受理通知書

家庭裁判所が相続放棄の申述を受理すると送付する書面のこと。受理日や事件番号などが記載されている。

一般的に、債権者などに相続放棄した旨を説明する際は、申述受理通知書のコピーを渡します。原本を紛失すると説明が面倒になるので、気を付けて保管してください。

ちなみに、「相続放棄申述受理証明書」は何度でも取得できるので、通知書を紛失した場合は証明書でも説明は可能です。

4-4.相続財産の占有者には保存義務が残る

相続放棄した人は相続人ではないので、亡くなった人から権利義務を引き継ぎません。

ですが、相続放棄する時に占有していた相続財産については、相続人または相続財産清算人に引き継ぐまで保存義務があります。

以下は、民法の条文です。

第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
出典:e-Govウェブサイト(民法940)

亡くなった人の権利義務を引き継ぐわけではなく、占有していた人固有の義務になります。

保存義務に関しては、以下の記事で詳しく説明しているので、確認しておいてください。

5.よくある質問(相続放棄の注意点Q&A)

相続放棄の注意点に関して、よくある質問と回答をまとめました。

債権者から届いた書面を失くしたら、相続放棄できませんか?

書面を失くしても相続放棄はできます。家庭裁判所から書面のコピーを求められた場合は、正直に紛失したと説明してください。

入院費を相続財産から支払うと、相続放棄できなくなりますか?

実務上は、相続財産から入院費を支払っても相続放棄は認められています。ただし、曖昧な部分が多いので、安易に支払うのはお勧めしません。

被相続人の部屋を片付けると、相続放棄はできませんか?

部屋を片付けるだけであれば、相続財産の処分ではないので、相続放棄は認められます。ただし、金銭的価値がある財産を処分すると、単純承認したとみなされ可能性があります。

相続放棄の申立ては、相続人全員で一緒に行う必要がありますか?

相続放棄は相続人ごとに行う手続きであり、全員が同時に行う必要はありません。各相続人が個別に判断して申立てを行います。

上記以外にも、相続放棄のQ&Aは100以上あるので参考にしてください。

6.注意点を理解したうえで知っておいた方が良い点

前章までで、相続放棄の注意点を説明してきました。注意点を理解するだけでも、実務上のリスクは下げれます。

ただし、あわせて知っておいた方が良い点もあります。

  • 相続放棄の失敗例(過去の事例)
  • 専門家に相談する際の注意点

事前に、相続放棄の失敗例を確認しておくことで、自分が同じ状況に陥る可能性がないかチェックできます。

▶『【相続放棄の失敗例】過去の事例を4パターンに分けて説明

相続放棄は専門家に相談できますが、相談する際にも注意点はあります。相談を検討しているなら確認しておいてください。

▶『相続放棄の相談はどこでできるのか?相手によって特徴が違う

まとめ|相続放棄の注意点

相続放棄をするなら、事前に知っておくべき注意点が4つあります。

  • 熟慮期間(3ヶ月)
  • 相続財産の処分
  • 家庭裁判所の手続き
  • 相続放棄が終わった後

これらの点を理解したうえで手続きを進めることで、相続放棄に関する実務上のリスクを減らすことができます。

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