亡くなった人が不動産を所有していると、相続放棄した後の管理義務で悩みます。
現在の法律では、相続放棄後の管理義務は曖昧なので、正解は誰も知りません。
ですが、令和5年4月1日施行の民法で、相続放棄後の管理義務の責任者は明確になります。
今回の記事では、相続放棄後の管理義務について説明しているので、管理義務で悩まれているなら参考にしてください。
目次
1.専門家ごとに相続放棄の管理義務に関する回答が違うのはなぜ?
相続放棄後の不動産の管理義務について相談すると、専門家ごとに回答(考え)が違うはずです。
「相続放棄しても近所の人から損害賠償請求される恐れがあります」
「相続放棄後に誰が管理義務を負うかは不明です」
「金銭に余裕があるなら相続財産管理人を選任しましょう」
「最初に相続放棄した子どもに管理義務があります」
「最後に相続放棄した兄弟に管理義務があります」
相談者からすると混乱するかもしれませんが、専門家は嘘を言っているわけではありません。
では、なぜ回答が違うのかというと、前提となる法律の条文が曖昧だからです。
2.現在の法律では相続放棄後の管理義務が曖昧
まずは、現在の法律を確認しましょう。
相続放棄後の管理義務について定めているのは、民法940条です。
(相続の放棄をした者による管理)
第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
上記の条文には、複数の疑問点があります。
2-1.相続放棄後の管理義務は誰が負うのか?
1つ目の疑問点は、相続放棄後の管理義務は誰が負うのかです。
条文上では、相続放棄をした人は管理義務を負うと記載されています。
ですが、以下の場合にどうなるのか不明です。
- 相続放棄のタイミングが違う
- 相続放棄した人が不動産の存在を知らない
相続放棄のタイミングが違う
同順位の相続人が複数人存在する場合、相続放棄のタイミングが違うこともあります。
では、先に相続放棄をした人は管理義務を負うのでしょうか?
同順位の相続人が全員相続放棄しなければ、後順位相続人に相続は移りません。
条文からは相続放棄の先後で管理義務を負うのか不明です。
相続放棄した人が不動産の存在を知らない
亡くなった人と疎遠であれば、相続放棄した人が相続財産を知らないことは珍しくありません。
では、相続放棄した人が不動産の存在を知らない場合、誰が管理義務を負うのでしょうか?
民法の条文では「財産の管理を継続」と記載されていますが、そもそも管理していません。現在の法律では判断しようがありません。
2-2.相続放棄後の管理義務はいつまで続くのか?
2つ目の疑問点は、相続放棄後の管理義務はいつまで続くのかです。
条文上では、「相続放棄によって相続人となった人が管理を始めることができるまで」となっています。
相続放棄によって相続人となった人とは、後順位相続人のことなので問題ないです。
では、「管理を始めることができるまで」とはいつなのでしょうか?
後順位相続人が管理を引き継がない場合はどうなるか不明です。
例えば、私が後順位相続人なら、先順位相続人が連絡してきても無視します。連絡を無視している間に相続放棄します。
現在の法律では、いつまで管理義務が続くのか曖昧です。
2-3.相続放棄後の管理義務は誰に対して負うのか?
3つ目の疑問点は、相続放棄後の管理義務は誰に対して負うのかです。
相続放棄をした人が一番気になる部分となります。
- 後順位相続人に対する管理義務
- 第3者に対する管理義務も含む
後順位相続人に対して管理責任を負うのは分かります。
ですが、第3者に対して管理責任を負うのかは、現在の法律では判断できないです。
通常、法律の条文で判断できない場合、過去の判例を参考にします。
3.相続放棄後の管理義務について判例が存在しない
法律の条文に記載していなければ、通常は過去の判例を参考にします。
ですが、相続放棄後の管理義務については、過去の判例も存在しません。
「近隣住民から損害賠償請求される恐れがあります」
専門家が言っているのは、あくまでも可能性の話になります。
実際、近隣住民から損害賠償請求の訴訟をされたという話を聞いたことがないです。
もしかしたら、損害賠償請求をされて揉めることなく全額払った人はいるかもしれません。
4.民法改正後は相続放棄の管理義務で悩む人が減る
令和5年(2023年)4月1日以降に関しては、相続放棄後の管理義務で悩む人は少なくなります。
なぜなら、民法改正により、相続放棄後の管理義務が明確になるからです。
以下は、令和5年4月1日施行の改正民法です。
(相続の放棄をした者による管理)
第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
民法改正で重要な点は2つあります。
- 義務を負うのは現に占有している人
- 管理義務ではなく保存義務
相続放棄後の義務を負うのは、相続放棄時に相続財産を占有していた人です。
ですので、亡くなった人の財産が不動産であれば、離れて暮らしていた相続人に相続放棄後の義務はありません。
また、管理義務ではなく保存義務に変更されています。
相続放棄に関する現行の民法は、下記の記事で説明しています。
関連記事を読む『【相続放棄に関する民法の条文】重要な定めを読んでおこう』
5.管理義務を解消するなら相続財産管理人の選任
相続放棄後の管理義務が明確になるのは法改正後です。
ですので、すでに相続が発生している場合は、第3者から損害賠償請求される可能性が無いとは言えません。
相続放棄後の管理義務に関する不安を解消するなら、相続財産管理人の選任申立てをするしかありません。
どうしても不安を解消したい場合は、相続財産管理人の選任申立てをしましょう。
関連記事を読む『相続財産管理人の選任申立てをするなら手順を確認しよう』
6.さいごに
亡くなった人が不動産を所有していた場合、相続放棄した人の管理義務が問題になります。
なぜなら、現在の法律では、誰が管理義務を負うのか曖昧だからです。
相続財産管理人を選任できれば良いのですが、予納金の問題もあり難しくなっています。
ですが、令和5年4月1日施行の民法により、管理義務を負う人が明確になります。
将来的に相続放棄を検討しているなら、法改正後の民法を知っておいてください。