遺産分割協議書に債務を記載しても債権者には対抗できない!

遺産分割協議書に債務を記載
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「遺産分割協議で債務の負担者を決めれば、借金の支払いは特定の相続人だけで済む」と考えて、遺産分割協議書への記載を検討している人は少なくありません。

結論から言うと、遺産分割協議書に債務を記載しても、債権者には原則として対抗できません。債権者は法定相続分の割合で各相続人に請求できます。

一方、相続人同士の関係では有効なので、記載すること自体が無意味なわけではありません。

この記事では、以下の3点を説明していきます。

  • 遺産分割協議書に記載しても債権者には対抗できない
  • 相続人同士の関係では有効な契約になる
  • 債務を負担しない相続人が取るべき対策

「どのようなリスクがあるのか」「どう判断すれば安全なのか」、しっかり確認できるよう、ぜひ最後までお読みください。

目次

1.遺産分割協議で債務負担者を決めても債権者には対抗できない

遺産分割協議書に債務(借金)を記載しても、原則として債権者には対抗できません。

なぜなら、亡くなった人の債務は、相続開始と同時に各相続人へ承継されるからです。

1-1.相続債務は法定相続分で当然に分割される

債務者が亡くなった場合、相続債務(金銭債務等)は法定相続分で自動的に分割され、各相続人が法定相続分に応じて承継します。

以下は、最高裁の判例です。

債務者が死亡し、相続人が数人ある場合に、被相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解すべきである

出典:裁判所ウェブサイト(昭和34年6月19日最高裁判所第二小法廷判決の全文から抜粋)

金銭債務は相続開始と同時に自動的に分割されるので、遺産分割協議をする前に各相続人が承継しています。


▼家族構成

被相続人|父親
相続人 |長男・二男・三男

▼相続財産

不動産|2,000万円
預貯金|1,000万円
借金 |1,500万円

▼法定相続分

長男|3分の1
二男|3分の1
三男|3分の1

相続開始と同時に、法定相続分の割合で各相続人が借金を承継します。

1,500万円×法定相続分(各3分の1)=500万円


亡くなった人の債務に関しては、遺産分割協議をする前に各相続人が法定相続分で承継しています。

1-2.債権者は遺産分割協議に関係なく請求できる

遺産分割協議に関係なく債権者は法定相続分の割合で請求

遺産分割協議書に法定相続分とは違う割合の債務負担を記載しても、債権者は法定相続分の割合で請求できます。

なぜなら、各相続人が債務者であることに変わりはないからです。相続人同士で債務の負担割合を変更しても、債権者との関係に変わりはありません。

債権者は遺産分割協議書の記載に関わらず、法定相続分の割合(各相続人が承継した債務額)で各相続人に請求します。

1-3.債務者の変更には債権者の承諾が必要

債務を負担する相続人を変更するなら、債権者の承諾を得る必要があります。債権者が負担割合の変更に承諾すれば、債務を負担しない相続人は免除されます。

ただし、債権者が負担割合の変更を認める保障はありません。

例えば、100万円を3人にそれぞれ請求できる場合と、300万円を1人に請求できる場合です。

債務者が1人の方が貸し倒れのリスクが高い

100万円を3人にそれぞれ請求だと、1人が支払えなくなっても、200万円は回収できます。

一方、300万円を1人に請求だと、1人が支払えなくなると、全額回収できなくなります。

相続債務を相続人の1人が負担すると、回収不能になる可能性が高くなるので、債権者側に認めるメリットが少ないです。

2.遺産分割協議で債務の負担者を決めることは可能

亡くなった人の債務は、原則として各相続人が法定相続分に応じて承継しています。

ただし、遺産分割協議の中で、誰がその債務を支払うかを決めることは可能です。

2-1.債権者の承諾がなくても相続人同士では有効

遺産分割協議の中で債務の負担者を決めた場合、債権者の承諾がなくても相続人同士では有効になります。

なぜなら、債務者を変更するわけではなく、特定の相続人が支払いを引き受ける「債務の履行引受」に該当するからです。

債務者の変更(債務引受)には債権者の承諾が必要ですが、債務の履行引受は相続人同士の契約なので、債権者の承諾は必要ありません。


▼家族構成

被相続人|父親
相続人 |長男・二男・三男

▼相続財産

不動産|1,000万円
債務 |300万円

▼法定相続分

長男|3分の1
二男|3分の1
三男|3分の1

▼遺産分割協議

長男|不動産
※二男・三男の債務も支払う

長男は不動産を取得する条件として、二男・三男が承継している債務(各100万円)を代わりに支払うと約束した。

債務者は長男・二男・三男で変わりませんが、長男は二男・三男の債務を代わりに支払う義務を負います。


相続人同士で債務の履行引受をしているだけなので、債権者の承諾がなくても有効に成立します。

2-2.債務の負担者以外が支払うと求償権が発生する

相続人同士で「特定の相続人が債務を負担する」と合意した場合、その内容は相続人同士では有効です。

そのため、債務負担者が債務の返済を怠り、他の相続人が債務を支払った場合、債務負担者に対して求償権が発生します。

求償権

他の人が支払うべきお金を自分が代わりに支払った場合に、その「立て替えた分を返してほしい」と相手に請求できる権利のこと


遺産分割協議で定めた債務負担も相続人同士では有効

▼家族構成

被相続人|父親
相続人 |A、B、C

▼相続財産

不動産  |1,000万円
住宅ローン|300万円

▼遺産分割協議

A|不動産
※B、Cの債務も支払う

遺産分割協議でAが住宅ローンを全額負担すると決めたのに、Aは債権者への返済を怠った。

その後、債権者からBに請求があり、Bが自分の債務(法定相続分の割合)を支払った場合、BはAに対して求償権を行使できます。


遺産分割協議で債務の負担者を決めた場合、債務負担者には他の相続人に代わって債務を返済する義務が発生するので、他の相続人が債務を支払うと求償権が発生します。

2-3.口約束でのトラブルを防ぐため遺産分割協議書に残す

遺産分割協議の中で債務の負担者を変更した場合、口約束でも効力は発生します。

しかし、後日のトラブルを防ぐため、遺産分割協議書に記載した方が良いです。


▼家族構成

被相続人|父親
相続人 |A、B、C

▼相続財産

不動産|1,000万円
債務 |300万円

▼遺産分割協議

A|不動産
※B、Cの債務も支払う

遺産分割協議書

第〇条 下記記載の被相続人の債務は、全額Aの責任において弁済し、B、Cにその負担をさせない。

貸付年月日:平成○年○月○日
貸付金額:300万円
債権者:○○銀行
返済期限:令和○年○月○日
利息:年○%


遺産分割協議書に債務を記載する場合は、どの債務を誰が負担するのか分かるように記載してください。曖昧な記載にすると、後でトラブルになる可能性があります。

3.債務を遺産分割協議書に記載する際の注意点

相続人同士の取り決めとして、遺産分割協議書に債務を記載するなら、次の注意点を確認しておいてください。

  • 求償権を行使しても支払われるとは限らない
  • 遺産分割協議後に判明した債務の負担者
  • 債務負担者が約束を守らなくても解除できない

意外と知らない人も多い注意点なので、それぞれ説明していきます。

3-1.求償権を行使しても支払われるとは限らない

遺産分割協議で債務の負担者を決めた場合、他の相続人が債務を支払うと、負担者に対して求償権を行使できます。

しかし、求償権を行使しても、実際に支払われるかは別問題です。

そもそも、遺産分割協議で決めたとおりに支払いができていない時点で、債務負担者には支払いをするだけの財産や収入を持っていない可能性が高いでしょう。

もし債務負担者に十分な資産があれば、遺産分割協議で決めたとおりに支払っているはずです。

したがって、他の相続人が債務を支払ったとしても、

  • 現金・預貯金がない
  • 不動産など換価できる財産がない
  • 収入が少なく差し押さえができない

といった理由から、求償権を行使しても回収できないケースは少なくありません。

求償権を取得しても、支払いが確保されるわけではないので、債務負担者を決める場合は注意してください。

3-2.遺産分割協議後に判明した債務の負担者

遺産分割協議の時点で、すべての債務を正確に把握できているとは限りません。

そのため、遺産分割協議後に債務が発覚するケースもあります。

  • 個人間の借金
  • 連帯保証債務

上記の債務は、契約書が見つからない限り、遺産分割協議の時点では存在に気付けない可能性が高いでしょう。

把握していなかった債務があった場合、2つの問題が発生します。

  • 協議から漏れていた債務は履行引受の対象にならない
  • 協議に含めていても債務が高額だとトラブルになりやすい

協議から漏れていた債務は履行引受の対象にならない

遺産分割協議で債務の負担者を決めていても、合意の効力が及ぶのは協議の対象になっていた債務に限られます。


▼相続財産

不動産:2,000万円
借金 :1,000万円

▼遺産分割協議

不動産:長男
※二男の債務も長男が支払う

▼後から判明した債務

借金 :500万円

上記の遺産分割協議で合意しているのは、遺産分割協議時点で判明している借金(1,000万円)についてです。

遺産分割協議後に判明した債務(500万円)については、債務の履行引受の対象にはなっていません。


遺産分割協議で債務の負担者を決める場合、判明していない債務についても決めておいた方が良いです。

協議に含めていても債務が高額だとトラブルになりやすい

遺産分割協議の時点で、知らない債務も含めて債務負担すると決めていても、後からトラブルになるケースはあります。

例えば、後から見つかった債務が高額だった場合です。


▼相続財産

不動産:500万円
借金 :300万円

▼遺産分割協議

不動産:長男
※二男の債務も長男が支払う
※後から見つかった債務も長男が支払う

▼後から判明した債務

借金 :500万円

遺産分割協議で、後から見つかった債務も長男が支払うと決めていました。

ですが、後から見つかった債務が高額だったので、長男は債務の支払いを拒否して、二男にも一部支払うよう要求してきてトラブルになった。


後から見つかった債務が高額だと、債務負担者が支払えない可能性もあります。

そして、債務負担者が支払わないと、債権者から各相続人に法定相続分の割合で請求がきます。債務を支払えば求償権を取得しますが、回収できるかは別問題です。

遺産分割協議時に把握していなかった債務が見つかると、債務負担者とトラブルになりやすくなります。

3-3.債務負担者が約束を守らなくても解除できない

遺産分割協議で債務の負担者を決めても、実際に債務を支払うとは限りません。

ですが、「約束を守らなかったから、遺産分割協議を解除したい」と主張しても、原則として遺産分割協議は解除できません。

共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人が右協議において負担した債務を履行しないときであつても、その債権を有する相続人は、民法五四一条によつて右協議を解除することができない。
出典:裁判所ウェブサイト(平成元年2月9日最高裁判所第一小法廷判決)

遺産分割協議自体は有効に成立しているので、後は当事者同士(債務者同士)の問題となります。

債務負担者が約束を守らなくても、原則として遺産分割協議は解除できないので注意してください。

4.遺産分割協議で債務の負担者を決める場合の対策

実務上、債務を特定の相続人が負担するケースは、それほど多くありません。

  • 不動産を取得する相続人が、住宅ローンもあわせて負担する場合
  • 法定相続分どおりに分割できないので、債務負担で調整する場合
  • 全ての財産を取得する相続人が、債務もまとめて負担する場合

あなたの立場によって、取るべき対策も変わります。

もし財産を取得しないのに、債務のリスクを負う立場にあるなら、慎重な判断が必要です。

  • 相続債務を返済してから遺産分割する
  • 債権者の承諾を得てから遺産分割する
  • 財産を取得しないなら相続放棄で抜ける

それぞれ説明していきますので、あなたに合った対策を探してください。

4-1.相続債務を返済してから遺産分割する

1つ目の対策は、相続債務を返済してから遺産分割するです。

相続財産の中に預貯金などがあり、かつ、債務額を上回っているなら、遺産分割前に相続財産から債務を返済するのが最も安全といえます。

なぜなら、債務を返済してから遺産分割をすれば、そもそも「誰が債務を負担するか」という問題自体が起こらないからです。


相続債務を返済してから遺産分割

▼家族構成

被相続人|父親
相続人 |A・B・C

▼相続財産

預貯金:500万円
債務 :400万円

債務よりも預貯金の方が多いので、債務を返済してから遺産分割すれば、債務負担者が支払わないリスクも発生しません。


債務を返済してから遺産分割すれば、債務負担の問題で悩む必要はありません。

預貯金などが債務を上回っているなら、返済したうえで残った財産を分割してください。

4-2.債権者の承諾を得てから遺産分割する

債権者の承諾を得てから遺産分割協議の図

2つ目の対策は、債権者の承諾を得てから遺産分割するです。

遺産分割協議で債務の負担者を変更する予定なら、先に債権者の承諾(確認)を得てから遺産分割協議した方が良いでしょう。

債権者の承諾が得れるのであれば、

  • 債務者の変更(免責的債務引受)が成立する
  • 債権者は指定された相続人にのみ請求できる
  • 他の相続人が突然請求を受けるリスクがなくなる

という状態になるからです。

特に次のような場合は、債権者と事前の協議が必須と言えます。

  • 不動産の取得者が住宅ローンも引き継ぐ場合
  • 全財産の取得者が債務も全部引き継ぐ場合

相続人同士だけで債務の負担者を決めても、債権者には対抗できないので注意してください。

注意債権者の承諾を得れる保障はないので、遺産分割協議前に確認した方が良いです。

4-3.プラスの財産を相続しないなら相続放棄

3つ目の対策は、プラスの財産を取得しないなら相続放棄です。

相続でプラスの財産を一切取得しないなら、遺産分割協議で債務の調整をするよりも、相続放棄した方が根本的な解決になります。

なぜなら、相続放棄した人は、初めから相続人ではなかったみなされるからです。

(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
出典:e-Govウェブサイト(民法939条)

相続放棄すれば、次のような心配も不要になります。

  • 債務負担者が本当に支払うかどうか
  • 債権者からの請求が来たらどうしよう
  • 求償権の行使により回収できるのか

私は、相続人がプラスの財産を取得しないなら、遺産分割協議で債務の調整をすること自体がリスクになるので、相続放棄した方が良いと考えています。

もちろん、すでに相続開始から3ヶ月経過しているなど、相続放棄できない人もいます。その場合は、その他の対策を検討してみてください。

5.遺産分割協議書と債務に関するQ&A

遺産分割協議書と債務について、よくある質問と回答を説明します。

亡くなった人に借金がある場合、遺産分割協議で話し合う必要がありますか?

原則として話し合う必要はありません。

相続債務は法定相続分の割合で当然に承継されるからです。

遺産分割協議書に「特定の相続人が債務を負担する」と書けば、他の相続人に請求は来ませんか?

来る可能性はあります。

債務負担者が支払いを怠れば、債権者は各相続人に請求してくるからです。

相続登記をした後でも、債務について請求されることはありますか?

あります。

相続登記は不動産の名義を変更する手続きであり、債務の承継とは関係ないからです。

相続放棄せずに、後から債務だけ拒否することはできますか?

できません。

相続人は亡くなった人の債務を自動的に承継するので、相続放棄していない人は拒否できないです。

結論|遺産分割協議書に債務を記載しても債権者対応は別に必要

今回の記事では「遺産分割協議書と債務」について説明しました。

相続債務は法定相続分で当然に分割されるので、遺産分割協議書の記載に関わらず、債権者は各相続人に請求できます。

一方、相続人同士が遺産分割協議で債務の負担者を決めること自体は可能なので、相続人同士の関係では法的効果があります。

ただし、以下のような注意点があります。

  • 債務の負担者が支払うとは限らない
  • 求償権は行使できるが回収できる保障はない
  • 約束が守られなくても遺産分割協議は解除できない

遺産分割協議で債務の負担者を決めるなら、慎重な判断が必要になります。

もしプラスの財産を取得しないなら、相続放棄で相続から抜けた方が安全でしょう。

目次