相続放棄は喪主として葬儀費用を支払っても認められる

相続放棄と葬儀代
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相続人が喪主として葬儀費用を支払っても、相続放棄は認められています。

ただし、相続財産から葬儀費用を支払う場合は、できる限り低い金額にしてください。高額な葬儀費用を相続財産から支払うと、単純承認とみなされる可能性があるからです。

自分の財産から支払う場合は、金額に関わらず問題なく相続放棄できます。

香典や葬祭費・埋葬料は喪主が受け取る財産なので、相続財産には含まれません。受け取っても単純承認とはみなされないので安心してください。

今回の記事では、相続放棄と葬儀費用について説明しているので、手続きを進める際の参考にしてください。

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目次

1.喪主になっても相続放棄できる

喪主の相続放棄も認められる

相続人が喪主になっても、相続放棄は認められるので安心してください。

  • 葬儀をしても単純承認ではない
  • 相続人以外も喪主になれる

1-1.葬儀をしても単純承認ではない

相続人が葬儀をしても単純承認とはみなされない

相続人が喪主として葬儀をしても、単純承認とはみなされません。

単純承認

相続人が亡くなった人の権利や義務を全て承継すること

なぜなら、相続財産の処分(消費)に該当しないからです。

以下は、民法の条文です。

第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
出典:e-Govウェブサイト(民法)

相続人が喪主として葬儀をしても、相続財産の処分ではないので、相続放棄は問題なく認められます。

1-2.相続人以外も喪主になれる

相続放棄した人も喪主になれる

誰が喪主になるのか法律上の決まりはないので、相続人以外も喪主になれます。

相続放棄した人は相続人ではありませんが、喪主になることは可能です。

【事例】

被相続人|父親
相続人 |長男・二男
相続財産|借金3,000万円
喪主  |長男

父親に高額な借金があるので相続放棄する場合でも、長男は喪主になれます。

相続人以外(相続放棄した人)も喪主になれるので、葬儀は問題なく行えます。

2.相続放棄と葬儀費用の支払い

相続放棄をする予定なら、葬儀費用の支払いに注意してください。

  • 葬儀費用の支払いに関する裁判例
  • 自分の財産から支払うのは問題ない
  • 葬儀会社と契約した人には支払義務

2-1.葬儀費用の支払いに関する裁判例

相続財産から葬儀費用を支払った場合、過去の裁判例が参考になります。

なぜなら、法律の条文には規定がないからです。法律で決まってない以上、裁判例を参考にするしかありません。

以下は、葬儀費用に関する裁判例です。

葬儀は、人生最後の儀式として執り行われるものであり、社会的儀式として必要性が高いものである。そして、その時期を予想することは困難であり、葬儀を執り行うためには、必ず相当額の支出を伴うものである。これらの点からすれば、被相続人に相続財産があるときは、それをもって被相続人の葬儀費用に充当しても社会的見地から不当なものとはいえない。また、相続財産があるにもかかわらず、これを使用することが許されず、相続人らに資力がないため被相続人の葬儀を執り行うことができないとすれば、むしろ非常識な結果といわざるを得ないものである。
したがって、相続財産から葬儀費用を支出する行為は、法定単純承認たる「相続財産の処分」(民法921条1号)には当たらないというべきである。

判例:大阪高裁平成14年7月3日決定 家庭裁判月報55巻1号82頁

上記の裁判では、相続財産から葬儀費用を支払っても、相続財産の処分(単純承認)には該当しないという結論でした。

ただし、すべてのケースで同じように認められるとは限りません。亡くなった人の財産や葬儀費用の金額等も関係すると考えられます。

相続財産から支払うならできる限り低い金額

相続財産から葬儀費用を支払う場合、できる限り低い金額にした方が良いでしょう。

なぜなら、高額な葬儀費用を相続財産から支払うと、認められない可能性(無効になる可能性)があるからです。

例えば、相続財産から1,000万円を葬儀費用に使った場合、本当に認められるのか疑問があります。

葬儀費用を高額にしてリスクを背負うより、できる限り低い金額にした方が良いでしょう。

相続財産から積極的に支払うのはお勧めしない

実務上は相続財産から葬儀費用を支払っても、相続放棄の申述は認められています。

ですが、相続財産から積極的に支払うのはお勧めしません。

なぜなら、専門家(私も含めて)は、過去の裁判例や経験則で判断しているからです。新しい裁判例ができれば、専門家の意見も変わります。絶対に大丈夫という保証はありません。

葬儀費用を支払えない場合は別ですが、自分の財産から支払えるなら、わざわざリスクを冒す必要はないでしょう。

2-2.自分の財産から支払うのは問題ない

喪主や親族が自分の財産から葬儀費用を支払う場合、相続放棄には何の問題もありません。

なぜなら、相続財産を消費(処分)していないからです。

単純承認で問題になるのは相続財産の消費なので、自分の財産を使った場合は単純承認になりません。

喪主が自分の財産から葬儀費用を支払うなら、葬儀代を気にする必要もないです。たとえ数百万円であっても相続放棄には何の影響もありません。

2-3.葬儀会社と契約した人には支払い義務

相続放棄しても葬儀会社と契約した人には、葬儀費用の支払い義務が残ります。

【事例】

被相続人|父親
相続人 |長男・二男・三男
契約者 |長男

相続放棄すると父親の財産は何も引き継ぎません。

ただし、長男は契約者として、葬儀費用を支払う義務があります。葬儀費用は父親から引き継ぐ財産ではないからです。

相続放棄により免れるのは、亡くなった人の負債です。相続人が契約した負債は関係ないので、勘違いしないよう注意してください。

3.香典を受け取っても相続放棄できる

香典は喪主への贈与なので相続放棄には影響しない

相続人が香典を受け取っても、相続放棄はできるので安心してください。

  • 香典は相続財産に含まれない
  • 香典返しは自分の財産から支払う
  • 葬祭費や埋葬料も相続財産に含まれない

3-1.香典は相続財産に含まれない

香典は喪主に対する贈与なので相続財産に含まれない

葬式の参列者からいただく香典は、喪主に対する贈与であり、相続財産には含まれません。

以下は、過去の裁判例です。

香典とは、葬式費用に充てることを目的として、葬式の主宰者である喪主に対して贈与されるものと解するのが相当

出典:判例タイムズ623号148項

【事例】

被相続人|父親
相続放棄|長男・二男
喪主  |長男

長男が喪主として香典を受け取っても、問題なく相続放棄は認められます。

香典は喪主に対する贈与と考えられるので、受け取っても単純承認とはみなされません。

3-2.香典返しは自分の財産から支払う

香典返しを相続財産から支払うと単純承認

喪主が香典返しをする場合、喪主の財産から支払ってください。

香典返し

香典に対するお礼として送る品物

香典は喪主への贈与なので、香典返しも喪主の財産から支払う必要があります。

万が一、相続財産から香典返しをすると、「相続財産の処分」により単純承認したとみなされます。

香典が相続財産に含まれない以上、香典返しは喪主の財産から支払ってください。

3-3.葬祭費や埋葬料も相続財産に含まれない

葬祭費・埋葬料は喪主への給付金なので相続財産に含まない

喪主に支給される葬祭費や埋葬料も、相続財産には含まれないので、受け取っても相続放棄には影響しないです。

葬祭費

国民健康保険、後期高齢者医療保険制度の加入者が亡くなったときに、喪主に対して支払われる給付金

埋葬料

社会保険の加入者が亡くなったときに、喪主に対して支払われる給付金

いずれの給付金も喪主に支払われる金銭であり、受け取っても単純承認とはみなされません。

相続放棄をしても受け取れる財産は複数ありますので、下記の記事も参考にしてください。

4.相続放棄申述書に葬儀費用を記載

相続財産から葬儀費用を支払った場合、相続放棄申述書に書いておきましょう。

  • 相続財産の概略欄に支払った旨を記入
  • 葬儀費用の領収書は求められたら提出
  • 申述書に書かないと後で困る可能性あり

4-1.相続財産の概略欄に支払った旨を記入

相続放棄の申述書に葬儀費用を記載する欄はないので、相続財産の概略を記載する欄に記入しておきます。

下記は相続放棄申述書の2枚目です。右下が相続財産を記入する場所です。

相続放棄申述書に葬儀費用記載

例えば、亡くなった人の預貯金が50万円で、葬儀費用に30万円支払った場合です。

現金預貯金に50(万円)と記載して、下の空いている場所に「預貯金より葬儀費用を支払いました」などと記載します。

4-2.葬儀費用の領収書は求められたら提出

葬儀費用の領収書は、家庭裁判所求められたら提出するで大丈夫です。
※求められない場合も多い。

実際、私が依頼を受けているケースでも、申述書を提出する段階では領収書を添付していません。

もちろん、申述書を提出する段階で領収書を添付しても、何の問題もありません。

相続財産から葬儀費用を支払った場合は、領収書をしっかりと保管しておいてください。

4-3.申述書に書かないと後で困る可能性あり

葬儀費用の支払いを申述書に記載する明確なルールはありません。

ただし、申述書に記載しておかないと、後で困る可能性があります。

例えば、相続人が全員相続放棄した後で、相続財産清算人が選任された場合です。相続財産清算人は相続財産をチェックするので、死亡時の口座残高と申述書に記載された金額が違うと、相続財産の消費を疑います。

相続財産清算人から疑われないためにも、申述書には葬儀費用を書いた方が良いです。

5.相続放棄の照会書(回答書)への葬儀費用の書き方

相続放棄の申述書を家庭裁判所に提出すると、照会書(回答書)が届くこともあります。

相続放棄の照会書とは、家庭裁判所からの質問状のようなものです。

質問の内容は難しくありませんが、「相続財産の支払い」に関する質問には注意が必要です。

以下は、相続放棄の照会書の例です。

照会事項

(省略)

あなたは、被相続人の遺産を処分したり、消費したり、隠したことがありますか?

□ない。

□ある。(          )

相続財産から葬儀費用を支払っている場合は、「葬儀費用に〇〇万円支払った」と記入し領収書のコピーを添付して返送してください。

もし回答書に葬儀費用の支払いを記入しないと、家庭裁判所に対して虚偽の申述をしたと判断される恐れがあります。

6.相続放棄と葬式の有無に関係はない

相続放棄と葬式の有無に関する説明図

勘違いしやすいのですが、相続放棄するかどうかと、葬式の有無に関係はありません。

  • 相続人や親族に葬式をする義務はない
  • 火葬だけで済ませるケースもある

6-1.相続人や親族に葬式をする義務はない

法律上、相続人や親族に葬式をする義務はありません。葬式は主に社会的な慣習に基づいて行われているだけです。

したがって、相続放棄しなかったとしても、葬式を強制されるわけではありません。

経済的な事情や生前の人間関係などから、相続人であっても葬式をしないケースはあります。

相続人や親族に葬式をする義務はないので、相続放棄に関わらず自由に決めて問題ないです。

6-2.直葬や密葬では火葬だけで済ませている

直葬ちょくそう密葬みっそうと呼ばれる形式では、通夜や告別式を行わず、火葬のみで済ませています。

火葬のみで済ませる場合、一般的な葬儀にくらべて費用は低いので、相続財産から支払う場合でも金額を抑えられます。

相続放棄を検討しているなら、葬儀費用を少なくする(相続財産から支払う場合)のが重要です。高額な葬儀費用を避け、火葬のみで済ませるのも選択肢の一つと覚えておきましょう。

7.相続放棄と遺骨の引き取りは無関係

相続放棄と遺骨の引き取りには何の関係もありません。

なぜなら、遺骨は相続財産ではなく、祭祀財産さいしざいさんとして扱われるからです。

祭祀財産

先祖を祀るための財産。墓地・墓石・仏壇・仏具・位牌など。

祭祀財産を承継するのは祭祀承継者であり、相続人以外(相続放棄した人)もなれます。

財産承継人
相続財産相続人
祭祀財産祭祀承継者

遺骨の引き取りは「相続財産の処分」に該当しないので、相続放棄には何の影響もありません。

相続放棄と遺骨の引き取りに関しては、下記の記事で詳しく説明しています。

8.葬儀費用以外で注意すべき点

相続放棄を検討しているなら、葬儀費用以外にも注意すべき点が2つあります。

  1. 葬儀費用以外に相続財産を使用しない
  2. 熟慮期間内(3ヶ月以内)に申述書提出

8-1.葬儀費用以外に相続財産を使用しない

相続放棄を検討しているなら、葬儀費用以外に相続財産を使用しないでください。

あくまでも葬儀費用は例外なので、相続財産を使用すると単純承認したとみなされます。

相続財産の処分としては、以下のような行為があります。

  • 預貯金から自分の生活費や借金を支払う
  • 不動産を売買・贈与する
  • 株式を売買・贈与する
  • 遺産分割協議に参加して成立させる

勘違いして葬儀費用以外に相続財産を使用すると、相続放棄できなくなるので注意してください。

8-2.熟慮期間内(3ヶ月以内)に申述書を提出

相続財産から葬儀費用を支払った場合でも、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に申述書を提出してください。

なぜなら、申述書を提出せずに3ヶ月経過すると、単純承認したとみなされるからです。

例えば、相続財産から10万円だけ葬儀費用に使用した場合でも、3ヶ月以内に申述書を提出しなければ、相続放棄は認められません。

3ヶ月を1日でも過ぎると相続放棄できないので、絶対に過ぎないよう注意してください。

8.相続放棄と葬儀費用は専門家に相談

相続放棄と葬儀費用で不明な点があるなら、専門家(司法書士・弁護士)に相談してください。

よく分からないまま手続きを進めると、相続放棄できなくなる危険性があるからです。

  • 相続財産から支払っても良いのか
  • 葬儀費用は抑えた方が良いのか
  • 火葬だけで済ませても良いのか
  • 葬祭費・埋葬料を受け取っても良いのか

上記以外であっても、不明な点を分からないまま進めず、専門家に聞いてみてください。

相続放棄の経験が豊富な専門家であれば、過去に同じ質問を受けています。分からないまま進めるより何倍も安全です。

9.まとめ

今回の記事では、相続放棄と「葬儀」について説明しました。

相続人が喪主として葬儀を行っても、相続放棄は認められます。

ただし、葬儀費用をどこから支払うかには注意が必要です。

どこから支払う相続放棄
相続財産実務上認められる
自分の財産法律上問題ない

相続財産から葬儀費用を支払っても、相続放棄は認められています。

ですが、すべてのケースで認められる保障はないので、相続財産から支払う場合は、できる限り低い金額にした方が良いです。

葬儀費用の領収書は保存しておき、申述書や回答書にも葬儀費用を記載します。

香典は喪主への贈与なので受け取っても問題ありません。香典返しは自分の財産から支払ってください。

相続放棄と葬儀に関するQ&A

喪主になっても相続放棄できますか?

喪主になっても単純承認ではないので相続放棄できます。

相続財産から葬儀費用を支払っても相続放棄できますか?

葬儀費用が常識の範囲内であれば認められています。
ただし、いくらまでなら認められるという基準はないので注意してください。

相続放棄しますが香典は受け取っても大丈夫ですか?

香典は喪主に対する贈与なので大丈夫です。

49日法要の費用も相続財産から支払えますか?

相続財産から支払うと単純承認したとみなされます。

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