相続放棄の照会書(回答書)については、ネット上でも詳しい情報がありません。
ご自身で相続放棄をされると、回答書の書き方が分からず不安に思われる人もいます。
ですので、相続放棄を年間約150件担当している司法書士が、経験に基づいて照会書(回答書)について説明します。
※相談を含めれば250件以上になります。
回答書の記載ポイントは3つです。
- 死亡日から3ヶ月経過している場合
- 相続財産を消費している場合
- 相続放棄申述書と同じ印鑑を使用する
今回の記事では、回答書の記入と注意点について説明しているので、回答される際の参考にしてください。
目次
1.相続放棄の照会書はいつ届くのか
相続放棄の申述書を家庭裁判所に提出してから、照会書が届くまでの期間は特に決まっていません。
家庭裁判所にもよりますが、私の経験では1週間から1ヶ月ぐらいの間に届くことが多いです。もちろん、遠方の家庭裁判所に提出している場合は、郵送に時間がかかります。
ちなみに、送られてくる書類を「照会書」、返送する書類を「回答書」と分けて説明しています。
回答書には返送期限も記載されているので、届いたら後回しにせず回答しましょう。
注意相続放棄の申述書を普通郵便で提出している場合、届いていない危険があるので到着確認は必要です。
2.相続放棄の照会書は家庭裁判所により内容が違う
家庭裁判所より送られてくる照会書(回答書)の内容は、家庭裁判所ごとに内容が違います。
ただし、基本的な内容は同じです。
- 相続放棄の申述書が提出されていますが、本人の意思で間違いないですか?
- 相続放棄の手続きをしたのは誰ですか?
- 相続放棄をすると全財産を放棄することになりますが、ご存知でしょうか?
- 被相続人(亡くなった人)の死亡を知った日はいつですか?
- 被相続人(亡くなった人)の財産を使いましたか?
- 相続放棄される理由は何ですか?
質問の答えが用意されていてチェックを入れるタイプや、自分で記入するタイプなどがあります。
ほとんどの質問は迷うことなく答えられるはずです。相続放棄申述書に記入した内容と同じように答えてください。
回答に気を付ける項目は以下の2つです。
- 被相続人(亡くなった人)の死亡を知ったのはいつですか?
- 被相続人(亡くなった人)の財産を使いましたか?
それぞれの項目を説明していきます。
司法書士から一言私の経験で一番少なかった質問数は1問です。「はい」に丸を1つ書いたら終了でした。
3.死亡日から3ヶ月経過後に知ったなら回答書に事情を書く
被相続人の死亡日から3ヶ月を経過している場合、経過している理由を聞かれます。
相続放棄ができる期間は、相続人であることを知った日から3ヶ月以内です。
ですので、家庭裁判所は知った日を確認するため、「いつ」「どのような経緯」で知ったのかを聞いてきます。
関連記事を読む『相続放棄の期間は3ヶ月|いつまでなのか確認しておこう』
3-1.証明できる書類があれば回答書に添付して返送
死亡を知った日を書面で証明できるときは、書面のコピーを家庭裁判所に返送します。
例えば、亡くなった人と疎遠であり、借金の督促状で死亡を知った場合です。
一般的に、借金の督促状には作成日が記載されています。作成日から1~3日後には自宅に届いているはずです。
死亡を知った日と作成日に矛盾が無ければ、督促状が死亡を知った日を証明する書類となります。家庭裁判所に督促状のコピーを返送します。
専門家に相続放棄を依頼している場合は、相続放棄の申述書を提出する際に一緒に提出していることが多いです。
3-2.電話連絡で死亡を知った場合は回答書に記入
電話で死亡を知った場合は、回答書に〇月〇日に電話で死亡を知ったと書いてください。
例えば、警察から電話連絡があった場合などです。亡くなった人が1人暮らしをしていると、発見が遅れることもあります。発見されて連絡があった時には、死亡日から3ヶ月を経過していることも珍しくありません。
司法書士から一言回答書に相続の開始を電話で知ったと書いても、相続放棄が不受理になったことはありません。
4.相続財産を消費しているなら回答書に嘘は書かない
相続財産を消費している場合は、回答書には正直に記載した方が良いです。
なぜなら、回答書は家庭裁判所に保管されるので、嘘を書くと記録として残ってしまいます。
万が一、債権者から相続放棄取消しの裁判を起こされると、相続財産の消費を黙っていたことが不利になる可能性があります。
4-1.相続財産から葬儀費用を支払ったなら回答書に記載
相続財産から葬儀費用を支払っている場合は、正直に葬儀費用に使いましたと書いてください。
以下は、回答書の記入例です。
葬儀費用の領収書を回答書と一緒に返送します。
関連記事を読む『相続放棄は葬儀代を支払っても認められるのか?』
5.相続放棄の回答書には申述書と同じ印鑑で押印
相続放棄の回答書には申述人が署名捺印をします。
回答書に使用する印鑑は、申述書に使用した印鑑と同じものです。同じ印鑑が使用されているかも、本人確認としてチェックされます。
相続放棄申述書に使用した印鑑が認印なら回答書にも認印、実印なら回答書にも実印で押印してください。
関連記事を読む『相続放棄するのに印鑑証明書は不要【認印で大丈夫!】』
5-1.相続放棄の申述書に使用した印鑑が分からない
相続放棄申述書に使用した印鑑が分からない場合もあります。認印を複数所有していると起こりやすいです。
印鑑が分からない場合は、家庭裁判所に電話で対応を確認します。家庭裁判所により対応は違いますが、印鑑の形などを教えてくれることがあります。
例えば、丸形や細長い形、大きいや小さいなどで、使用した印鑑が分かるかもしれません。
私の経験上ですが、印鑑が分からないことを正直に伝えたケースで、相続放棄が不受理になったことはありません。
6.相続放棄の照会書は省略されることもある
家庭裁判所が本人確認を兼ねて送ってくる照会書は、省略されることもあります。
家庭裁判所の取り扱いなので理由は分かりませんが、私の経験では以下のように分かれています。
- 死亡日から3ヶ月以内なら省略する
- 専門家に依頼しているなら省略する
- 事情に関係なく必ず郵送する
照会書が省略される場合は、相続放棄申述受理通知書が届いたら終了となります。
相続放棄申述受理通知書が届いたら、相続法申述受理証明書を取得することもできます。あるいは、債権者に受理通知書のコピーを郵送することで、相続放棄を知らせることも可能です。
関連記事を読む『相続放棄受理通知書が届けば相続放棄は完了です』
6-1.照会書の代わりに電話で確認する場合もある
家庭裁判所によっては、照会書ではなく電話で確認する場合もあります。
申述人(本人)に電話で確認できれば照会書は省略です。電話で確認できなければ、原則どおり照会書を送付してきます。
もし家庭裁判所から着信があれば、照会書の省略かもしれないので、折り返しの電話をしてみましょう。
関連記事を読む『相続放棄するのに家庭裁判所から電話はかかってくるのか?』
7.照会書の内容が自分の相続放棄とかみ合わない
家庭裁判所から送付された照会書の内容が、自分の相続放棄とかみ合わなくて困っている人もいます。
実は、照会書の内容は各家庭裁判所のひな形により作成していることが多いので、相続放棄の内容とかみ合わないことは珍しくありません。
例えば、以下のようなケースです。
【相続放棄の内容】
被相続人と会ったことがなく、相続財産の内容も知らない。関わる気がないので相続放棄の申述書を提出した。
【照会書の内容】
被相続人の負債を知った日はいつですか?誰から負債の存在を知りましたか?
※知らないという選択肢が用意されていない。
上記のような照会書は珍しくありません。私なら空いている箇所に負債は知らないと記載します。
照会書の内容によっては、強引に回答欄を埋めることも必要です。申述書に記載した内容と違わなければ、問題無いと考えています。
8.回答書を返送しなければ最終的に相続放棄は却下
相続放棄の回答書を返送しない場合、相続放棄は最終的に却下されます。
私が依頼を受けたケースで却下されたケースはありません。ですが、一度だけ却下されたという相談を電話で受けたことがあります。
申述人は専門家に依頼せず自分で相続放棄申述書を提出したのですが、照会書(回答書)の存在を知らなかったので、家庭裁判所から届いた書類を読まずに放置していました。相続放棄は終了したと勘違いしていたそうです。
家庭裁判所は回答書が返送されない限り、相続放棄を受理できません。照会事項に答えていない状態では、手続上の問題で受理できないからです。
相続放棄の照会書(回答書)を返送しなければ、最終的に相続放棄は却下されます。
9.さいごに
相続放棄の申述書を家庭裁判所に提出すると、照会書(回答書)が郵送されてきます。
照会書は本人確認を兼ねて送られてきます。また、相続放棄の意味を理解しているか確認する目的もあります。
回答書の記載については、ネット上でもあまり詳しく書かれていません。
ですので、ご自身で相続放棄された場合は、今回の記事を参考にして回答してください。
司法書士などの専門家に依頼されている場合は、回答書の記入サポートも料金に含まれているはずなので、依頼した専門家にお尋ねください。