他の相続人から相続分放棄書が届いたら、安易に署名捺印するのは危険です。
「相続放棄」と「相続分の放棄」は名称は似ていますが、内容はまったくの別ものです。亡くなった人の相続を放棄したい場合は、相続放棄を選ぶ必要があります。
相続分の放棄を選んでも相続人のままなので、借金等があれば相続することになります。
今回の記事では、相続放棄と相続分の放棄について詳しく説明しているので、書面が届いているなら参考にしてください。
目次
1.他の相続人から書面が届いたら相続分の放棄
他の相続人から相続に関する書面が届いたときは、安易に署名捺印せず確認をしてください。
なぜかというと、相続放棄するつもりの人が、間違えて相続分の放棄をしているケースが多いからです。
以下に該当する人は注意してください。
- 相続手続きに関わりたくない
- 相続放棄を検討している
間違えやすい理由を説明していきます。
1-1.相続分放棄書という名称が紛らわしい
他の相続人から送られてくる書面の文面が非常に紛らわしいです。
例えば、以下のような文面があります。
相続するつもりがなければ、相続分放棄書に署名捺印(実印)のうえ、印鑑証明書を添付してご返送ください。
書面を読んだときに「分」という文字を見逃せば、相続放棄の書面かと勘違いします。
相続手続きに関わりたくない人や、相続放棄を検討している人からすると、相続放棄ができる書面だと思うかもしれません。
ですが、相続放棄は家庭裁判所の手続きが必要なので、相続分放棄書に署名捺印しても相続放棄にはなりません。
関連記事を読む『相続放棄の手続きは家庭裁判所への申述が必要』
1-2.相続分放棄書に署名捺印すると相続放棄できない
相続分放棄書に署名捺印すると相続放棄できなくなります。
なぜなら、相続人として自分の相続分を処分しているので、単純承認したとみなされるからです。
※遺産分割協議書に署名捺印するのと同じ。
単純承認したとみなされると、相続の開始を知った日から3か月経過していなくても相続放棄できません。
相続放棄するつもりなら、相続分放棄書に署名捺印してはいけません。
関連記事を読む『相続放棄が認められない|単純承認とみなされる3つの行為』
2.相続放棄と相続分の放棄は根本的に違う
相続放棄と相続分の放棄は別の手続きなので、根本的に違います。
特に、以下の4つは重要なので注意してください。
- 相続権の有無
- 手続きの期間や方法
- 他の相続人に与える影響
- 借金等の相続
2-1.相続権の有無に違いがある
相続放棄と相続分の放棄では、相続権の有無に違いがあります。
相続放棄をすると初めから相続人でない
相続放棄をすると初めから相続人ではなかったとみなされます。
「相続人ではない」という点が重要になるので、覚えておいてください。
相続分の放棄をしても相続人である
相続分の放棄をしても相続人であることに変わりはありません。
簡単に説明するなら、遺産分割協議で自分の相続分を無しにしているのと同じです。
あくまでも、相続人として相続手続きをしています。
2-2.相続放棄の手続きや期間は決まっている
相続放棄と相続分の放棄では、手続きや期間制限にも違いがあります。
相続放棄は3か月以内に家庭裁判所で手続き
相続放棄は相続の開始を知ったときから3ヶ月以内です。
3か月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出してください。
相続分の放棄は意思表示でも効力が発生する
相続分の放棄は相続の開始を知った日から3か月経過していても可能です。
方法についても決まりがないので、他の相続人に口頭で意思表示するだけでも効力は発生します。
ただし、口頭では第3者に証明できないので、相続分放棄書に署名捺印して印鑑証明書を添付しています。
2-3.他の相続人へ与える影響が違う
他の相続人へ与える影響も違います。
相続放棄をすると相続人の数が変更する
相続放棄をすると始めから相続人ではないので、他の相続人だけで相続分を計算します。
(例) 配偶者と子ども2人が相続人で、子ども1人が相続放棄をした場合
【相続放棄前】
配偶者は2分の1、子ども4分の1、子ども4分の1
【相続放棄後】
配偶者は2分の1、子ども2分の1
相続人の数も2人に変更となります。
相続分の放棄をしても相続人の数に変更はない
相続分の放棄では、他の相続人の元の相続分の割合に従って帰属します。
(例) 配偶者と子ども2人が相続人で、子ども1人が相続分の放棄をした場合
【相続分の放棄前】
配偶者は2分の1、子ども4分の1、子ども4分の1
【相続分の放棄後】
配偶者は3分の2、子ども3分の1、子ども無し
相続分の放棄では相続人の数に変更がないです。
2-4.相続分の放棄をしても借金等は相続
相続放棄をすると初めから相続人ではないので、借金等を含めてすべての財産を相続しません。
一方、相続分の放棄では相続人であることに変わりがないので、借金等は相続することになります。
なぜなら、相続分の放棄をしても、債権者には対抗できないからです。
相続人の間で借金の負担者を決めることはできますが、債権者に対抗することはできません。
※遺産分割と相続分の放棄は同じ。
ですので、債権者から借金を請求されると、支払いを拒むことはできないです。
3.さいごに
相続放棄と相続分の放棄はまったくの別ものです。
相続放棄 | 相続分の放棄 | |
---|---|---|
相続権 | 無し | 有り |
期間制限 | 3ヶ月以内 | 無し |
手続き方法 | 家庭裁判所 | 意思表示 |
借金の相続 | しない | する |
あなたが相続放棄をするつもりで、間違えて相続分の放棄をしてしまうと、相続人であることが確定します。
相続するつもりが無いのであれば、しっかりと相続放棄を選ぶべきです。専門家報酬も昔に比べると下がっているので、依頼しやすくなっています。
他の相続人から書面が届いたときは、今回の記事を参考にしてください。