「相続放棄」と「相続分の放棄」は違う‼間違えている人が多い

相続放棄と相続分の放棄
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他の相続人から相続分放棄書が届いたら、安易に署名捺印するのは危険です。

「相続放棄」と「相続分の放棄」は名称は似ていますが、内容はまったくの別ものです。亡くなった人の相続を放棄したい場合は、相続放棄を選ぶ必要があります。

相続分の放棄を選んでも相続人のままなので、借金等があれば相続します。

今回の記事では、相続放棄と相続分の放棄について詳しく説明しているので、書面が届いているなら参考にしてください。

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目次

1.相続放棄と相続分の放棄は別の法律行為

相続放棄と相続分放棄は効力が違う

「相続放棄」と「相続分の放棄」は、名称は似ていますが別の法律行為になります。

相続放棄すると相続から抜けれますが、相続分の放棄では遺産分割から抜けるだけです。

相続放棄により相続から抜ける

亡くなった人の相続人が相続放棄すると、相続から抜けれます。

相続から抜けるので、亡くなった人の権利義務は一切引き継ぎません。

例えば、相続人が3人(A・B・C)だったとします。

Cが相続放棄すると、Cは相続から抜けるので、相続人は2人(A・B)となります。

一般的に、相続を放棄するとは、相続放棄を指しています。

相続分の放棄により遺産分割から抜ける

亡くなった人の相続人が相続分の放棄をすると、遺産分割から抜けれます。

遺産分割から抜けるので、亡くなった人の財産は引き継ぎません。

例えば、相続人が3人(A・B・C)だったとします。

AとBはお互いに権利を主張、Cは財産を取得するつもりがない。

Cが相続分の放棄をすると、Cは遺産分割から抜けるので、AとBで話し合いをするだけです。

財産を取得するつもりがなく、かつ、遺産分割から抜けたい人が使う手段といえます。

2.「相続放棄」と「相続分の放棄」の違い

相続放棄と相続分放棄の違う点を4つ説明

相続放棄と相続分の放棄は、別の法律行為なので効力にも違いがあります。

特に、以下の4つは重要なので、必ず確認してください。

  • 相続権の有無
  • 手続きの期間や方法
  • 相続分の計算
  • 債務の承継

それぞれ説明していきます。

2-1.相続権の有無に違いがある

相続放棄と相続分の放棄では、相続権の有無に違いがあります。

相続放棄すると初めから相続人でない

相続放棄すると相続人の人数が変わる

相続放棄すると、初めから相続人ではなかったとみなされます。

以下は、民法の条文です。

(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

出典:e-Govウェブサイト(民法939条)

相続人ではない」という点が重要になるので、覚えておいてください。

相続分の放棄をしても相続人である

相続分の放棄をしても相続人

相続分の放棄をしても、相続人であることに変わりはありません。

簡単に説明するなら、遺産分割協議で自分の取得分を無しにしているのと同じです。

相続人である」という点が重要になるので、覚えておいてください。

2-2.手続きの期間や方法に違い

相続放棄と相続分の放棄では、手続きの期間や方法に違いがあります。

相続放棄は3か月以内に家庭裁判所で手続き

相続放棄は家庭裁判所の手続きです。その他の方法では成立しません。

手続き期間も決まっており、相続の開始を知った日から3ヶ月以内です。

期間を経過すると相続放棄できないので、忘れずに家庭裁判所へ申述書を提出してください。

相続分の放棄は意思表示でも効力が発生する

相続分の放棄は、意思表示だけでも効力が発生します。

一般的には、相続分放棄書に署名捺印(実印)して、印鑑証明書を添付して渡しています。

期間の制限もないので、相続の開始を知ってから3ヶ月以上経過しても可能です。

2-3.他の相続人の相続分に違いがある

相続放棄と相続分の放棄では、他の相続人の相続分に違いがあります。

相続放棄すると初めから計算をやり直す

相続放棄すると始めから相続人ではないので、相続分の計算をやり直します。

例えば、相続人が配偶者と子ども2人で、1人の子どもが相続放棄した場合、以下のように相続分は変わります。

配偶者の相続分は変わりませんが、子どもの相続分は変わります。

相続分の放棄をすると他の相続人に帰属

相続分の放棄をすると、他の相続人に相続分の割合にしたがって帰属します。

例えば、相続人が配偶者と子ども2人で、1人の子どもが相続分の放棄した場合、以下のように相続分は変わります。

相続分の放棄をすると相続分の割合にしたがって帰属

なぜ上記のような割合になるかは、下記の説明でご確認ください。

A:B=2分の1:4分の1=2:1

したがって、Cの4分の1は2:1の割合で、AとBに帰属します。

A=4分の1×3分の2=12分の2
B=4分の1×3分の1=12分の1

A=2分の1+12分の2=3分の2
B=4分の1+12分の1=3分の1

相続人に配偶者がいると、相続分の計算が複雑になるので注意してください。

2-4.亡くなった人の債務に違い

相続放棄と相続分の放棄では、債務の承継に違いがあります。

相続放棄すると債務も承継しない

相続放棄すると亡くなった人の債務も承継しません。

なぜなら、相続人ではないからです。債務がいくらあっても関係ありません。

一般的には、借金が多ければ、相続放棄している人がほとんどでしょう。

相続分の放棄をしても債務は承継する

相続分の放棄では債権者に対抗できない

相続分の放棄をしても、債権者は法定相続分にしたがって請求できます。

なぜなら、相続分の放棄は債権者に対抗できないからです。

相続分の放棄をしても、債務は承継するので注意してください。

3.他の相続人から放棄の書面が届いたら注意

他の相続人から放棄の書面が届いたら、安易に署名捺印せず内容を確認してください。

なぜなら、相続放棄するつもりの人が、間違えて署名捺印しているケースもあるからです。

3-1.相続分放棄書という名称が紛らわしい

他の相続人から送られてくる書類の文面が、非常に紛らわしいです。

例えば、以下のような文面があります。

相続するつもりがなければ、相続分放棄書に署名捺印(実印)のうえ、印鑑証明書を添付してご返送ください。

書面を読んだときに「分」という文字を見逃せば、相続放棄の書面かと勘違いします。

相続手続きに関わりたくない人からすると、相続放棄できる書面だと思うかもしれません。

ですが、相続放棄には家庭裁判所の手続きが必要なので、相続分放棄書に署名捺印しても効力は発生しません。

3-2.相続分放棄書に署名捺印すると単純承認

相続人が書面に署名捺印すると単純承認

相続分放棄書に署名捺印すると、相続放棄できなくなります。

なぜなら、相続人として自分の相続分を処分しているので、単純承認したとみなされるからです。
※遺産分割協議書に署名捺印するのと同じ。

単純承認したとみなされると、3か月経過していなくても相続放棄できません。

書面が届いても、安易に署名捺印するのではなく、しっかりと内容を確認してください。

3-3.相続放棄するのに印鑑証明書は不要

相続放棄は認印で問題ない

他の相続人から送られた書面に、印鑑証明書の記載があれば、内容をしっかりと確認してください。

なぜなら、相続放棄するのに印鑑証明書は不要だからです。

印鑑証明書の記載があるなら、相続分放棄の可能性が高いでしょう。

相続放棄に使用する印鑑については、下記の記事で詳しく説明しています。

4.相続放棄ではなく相続分の放棄を選ぶケース

相続放棄ではなく、相続分の放棄を選ぶケースは特にありません。

私の経験上、以下のどちらかに該当する人が選んでいるだけです。

  • 期間経過により相続放棄できない
  • 相続放棄と勘違いしている

3ヶ月経過しているので相続放棄できないが、遺産分割には関わりたくない。

あるいは、本人は相続放棄だと勘違いして、書面に署名捺印している。

わざわざ相続分の放棄をするメリットは特にないので、相続放棄した方が良いでしょう。

5.相続分の譲渡と放棄は何が違う

相続分の放棄と似た法律行為に、相続分の譲渡があります。

大きな違いとしては、相続分の移転先です。

相続分の放棄は、他の相続人に持分が移ります。

一方、相続分の譲渡は、相手を自由に選べます。相続人だけでなく、第三者(相続人以外)への譲渡も可能です。

ただし、相続分を譲渡しても、債権者に対抗できない点は、相続分の放棄と同じなので注意してください。

6.まとめ

相続放棄相続分の放棄
相続権無し有り
期間制限3ヶ月以内無し
手続き方法家庭裁判所意思表示
債務の承継しないする
相続放棄と相続分の放棄の比較

今回の記事では「相続放棄と相続分の放棄」について説明しました。

相続放棄と相続分の放棄は別の法律行為であり、効力も違います。

  • 相続権
  • 期間制限
  • 手続き方法
  • 債務の承継

一番重要な点は、債務の承継です。

相続放棄すると債務も承継しません。

一方、相続分の放棄をしても、債務は承継します。

相続するつもりがないなら、相続放棄の手続きをしてください。

他の相続人から書面が届いたときは、今回の記事を参考にしてください。

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