遺留分とは相続人に保障された財産取得の権利です。
相続人が権利を侵害された場合、侵害額を金銭で請求できます。
遺留分を計算する際の財産には、相続開始時の財産だけでなく生前贈与も含めます。
今回の記事では、遺留分について説明しています。細かい部分に関しては、別記事へ内部リンクを用意しているので、詳しく知りたい場合は確認してみてください。
1.遺留分とは相続人に保障された権利
まず初めに、遺留分について説明します。
原則として、自分の財産を誰に残すかは、本人が自由に決めれます。遺言書の制度があるのも、本人の意思を尊重するためです。
ですが、相続人は相続財産(亡くなった人の財産)を、一定の割合で取得する権利を持っています。
たとえ亡くなった人が遺言書を作成していても、相続人の権利が優先されます。
遺留分に関しては批判も多いですが、現在の法律では本人の意思よりも遺留分が優先です。
関連記事を読む『遺留分に関する民法の条文【1042条から1049条】』
2.遺留分を持っている相続人は限られる
遺留分は相続人の有する権利の1つですが、権利を持っていない相続人もいます。
以下は、民法の条文です。
遺留分があるのは、兄弟姉妹以外の相続人です。
2-1.配偶者・子ども・直系尊属は遺留分がある
相続人である配偶者・子ども・直系尊属には、遺留分があります。
法律上の配偶者に限られる
亡くなった人の配偶者は常に相続人となり、遺留分も存在します。
ただし、法律上の配偶者でなければ、相続人ではありません。事実上の配偶者等は相続人ではないので、遺留分も存在しません。
関連記事を読む『【配偶者には遺留分がある】財産を請求する権利があるので安心』
実子・養子を問わず権利者
亡くなった人の子どもは第1順位の相続人であり、遺留分も存在します。
※配偶者とは共同相続人。
実子・養子を問わず相続人なので、養子にも遺留分があります。
子どもの人数に制限は無いので、遺留分権利者の人数にも制限がありません。
関連記事を読む『子供には遺留分が認められる|割合は子の人数によって違う』
直系尊属は第2順位の相続人
亡くなった人の直系尊属は第2順位の相続人であり、遺留分も存在します。
ただし、第1順位の相続人(子ども)がいると、直系尊属は相続人ではありません。相続人でなければ遺留分は無いので、間違えないように注意してください。
関連記事を読む『【遺留分は直系尊属にもある】父母や祖父母が健在なら注意!』
2-2.兄弟姉妹は相続人でも遺留分が無い
兄弟姉妹には遺留分がありません。たとえ他に相続人がいなくても、結論は同じです。
したがって、遺言書を作成しておけば、本人(遺言者)の希望通りに財産を残せます。
関連記事を読む『兄弟姉妹に遺留分は認められない!他に相続人がいなくても同じ』
2-3.代襲相続人の遺留分
代襲相続人の遺留分は、本来の相続人によって違います。
孫が代襲相続人(本来の相続人は子ども)
孫が代襲相続人なら、遺留分があります。
他の子どもが健在でも孫に遺留分が発生するので、相続対策する際は注意してください。
関連記事を読む『孫に遺留分が発生するケースは2つ【図を用いて説明】 』
甥姪が代襲相続人(本来の相続人は兄弟姉妹)
甥姪が代襲相続人なら、遺留分はないです。
兄弟姉妹には遺留分がないので、代襲相続人である甥姪にもありません。
関連記事を読む『甥姪には遺留分が無い!相続人であっても請求できない 』
3.遺留分の割合は相続人の組合せで決まる
遺留分の割合は、相続人の組合わせで決まります。
以下は、民法の条文です。
相続人が直系尊属のみの場合と、相続人が配偶者や子の場合で遺留分(総体的遺留分)が違います。
- 配偶者や子が相続人 |2分の1
- 直系尊属のみが相続人|3分の1
相続人が複数人いる場合は、上記の割合を法定相続分の割合で分割します。
関連記事を読む『遺留分の割合|9つの組み合わせを覚えておこう 』
3-1.配偶者や子が相続人なら2分の1
配偶者や子が相続人なら、遺留分(総体的遺留分)は2分の1です。
相続人が複数人いる場合は、2分の1を法定相続分で分割して遺留分(個別的遺留分)を求めます。
【事例】
相続人が配偶者と子ども(2人)の場合。
遺留分2分の1を法定相続分で分割します。
- 配偶者|2分の1×2分の1=4分の1
- 子ども|2分の1×4分の1=8分の1
- 子ども|2分の1×4分の1=8分の1
子どもの人数が増えると、子どもの遺留分は減っていきます。
相続人の組合せによって遺留分は変わるので、計算する際は間違えないように注意してください。
3-2.直系尊属のみが相続人なら3分の1
相続人が直系尊属のみなら、遺留分(総体的遺留分)は3分の1です。
直系尊属のみが相続人の場合なので、配偶者と直系尊属が相続人の場合は除きます。
相続人である直系尊属が複数人いるなら、3分の1を人数で分割してください。
4.遺留分計算の対象となる財産
遺留分計算の基礎となる財産額は、①と②を足して③を引いた金額です。
単純に残っている財産だけではないので、遺留分を正確に計算するなら、専門家に依頼した方が良いです。
※遺留分侵害額請求に慣れた人。
関連記事を読む『【遺留分の計算】基礎財産や遺留分額の計算を図や事例で説明 』
4-1.遺贈や死因贈与も計算に含める
遺留分計算の基礎となる財産には、遺贈や死因贈与の対象となっている財産も含みます。
【事例】
相続財産|預貯金500万円
遺贈 |預貯金1,500万円
死因贈与|預貯金500万円
500万円+1,500万円+500万円=2,500万円
相続開始時の積極財産は2,500万円となります。
遺贈や死因贈与も遺留分に関係するので、計算する際は注意してください。
関連記事を読む『【遺贈と遺留分】受遺者は侵害額を請求される可能性がある 』
4-2.生前贈与は相手により違いがある
遺留分計算の基礎となる財産には、生前贈与の額も含みます。
ただし、贈与の相手により違いがあります。
- 相続人|10年以内
- 第3者|1年以内
相続人に対する10年以内の生前贈与は計算に含めます。
一方、第3者に対する生前贈与は1年以内となります。
誰に対する贈与かで、遺留分が変わるので気を付けてください。
関連記事を読む『生前贈与も遺留分の計算に含めるが時期により違いがある 』
5.遺留分侵害額請求権は金銭を請求する権利
遺留分侵害額請求権とは、自分の遺留分を侵害された場合に、侵害額を金銭で請求する権利です。
以下は、よくある間違い。
- 遺留分を侵害した遺言書は無効
- 生前贈与された不動産を取り戻せる
- 侵害額を相手が自主的に支払ってくれる
あくまでも金銭を請求できるだけなので、遺言書は有効ですし、不動産も取り戻せません。
関連記事を読む『遺留分侵害額請求権とは金銭を請求する権利 』
5-1.権利を主張できるのは相続開始後
相続人が遺留分を主張できるのは、相続が開始した後です。
したがって、相続が開始する前(生前)に、遺留分の主張はできません。
【父親が生前贈与】
対象|友人
財産|預貯金(1,000万円)
家族|長男・二男・長女
父親が友人に1,000万円を贈与しても、家族は遺留分を主張できません。
父親が自分の財産をどう使うかは自由です。
相続発生後に自分の遺留分を侵害されていれば、受贈者に遺留分侵害額請求ができます。
5-2.遺留分侵害額請求権を行使する必要がある
自分の遺留分が侵害されていても、請求権を行使するかは本人の自由です。
つまり、請求権を行使しない限り、金銭(侵害額)の取得はできません。金銭を取得するのであれば、相手方に請求権の行使を伝えてください。
遺留分侵害の事実を知ってから1年経過すると、請求権は時効により消滅します。
6.遺留分放棄の方法は時期により違う
遺留分は相続人の権利なので、請求権の放棄も可能です。
ただし、時期により放棄の方法が違います。
- 相続開始前|家庭裁判所の許可
- 相続開始後|本人の自由
相続開始の前後により、放棄の方法が違うので注意してください。
6-1.相続開始前は家庭裁判所の許可が必要
相続開始前に遺留分を放棄するには、家庭裁判所の許可が必要になります。
許可が必要な理由としては、遺留分放棄の強制を防ぐためです。
許可の判断基準は3つあります。
- 本人の希望であること
- 合理的な理由があること
- 対価が支払われていること
本人の希望であることは当然なのですが、合理的な理由や対価の支払いも必要になります。
遺留分放棄が許可されると、原則として撤回できません。
関連記事を読む『遺留分放棄の手続き|家庭裁判所に許可申立書を提出する』
6-2.相続開始後は本人が自由に放棄
相続開始後の遺留分放棄に関しては、特に決まりがありません。
したがって、遺留分を侵害されていても、何もしなければ遺留分放棄です。あるいは、遺留分放棄の書面を作成し、署名捺印するケースもあります。
遺留分を侵害されていることを知った日から1年経過、または、相続開始から10年経過で遺留分侵害額請求権は消滅します。
関連記事を読む『遺留分にも時効があるので請求期限は確認しておこう 』
7.遺留分を放棄しても相続人
相続発生の前後を問わず、遺留分を放棄しても相続人のままです。
すでに説明したとおり、遺留分の放棄とは「請求権の放棄」なので、相続人であることに変わりはありません。
7-1.負債があれば相続人として承継
遺留分を放棄しても、亡くなった人の負債(借金など)は相続します。
なぜなら、遺言書で財産の承継先を指定しても、負債については債権者に対抗できないからです。
【父親が遺言書作成】
遺言書|全財産を長男に相続させる
財産 |預貯金(1,000万円)・借金(300万円)
相続人|長男・二男
二男が遺留分を放棄しても、債権者は150万円(法定相続分2分の1)を二男に請求できます。
亡くなった人に借金等があるなら、相続放棄が必要になります。
関連記事を読む『遺留分放棄しても相続人!気付かずに相続している人も多い 』
7-2.他の相続人の遺留分は変わらない
遺留分を放棄しても、他の相続人の遺留分は変わりません。
以下は、民法の条文です。
遺留分を放棄しても、他の相続人の遺留分は増えません。
相続人|配偶者・子ども・子ども
遺留分|4分の1・8分の1・8分の1
子どもが遺留分を放棄しても、自分の請求権を放棄しただけなので、他の相続人の遺留分は増えません。
それに対して、相続放棄した場合は、他の相続人の遺留分が増えます。
相続放棄前|配偶者・子ども・子ども
相続放棄前|4分の1・8分の1・8分の1
相続放棄後|配偶者・子ども
相続放棄後|4分の1・4分の1
相続放棄すると初めから相続人ではないので、遺留分の計算自体が変更になります。
遺留分放棄と相続放棄では、他の相続人に与える影響が違うので注意してください。
関連記事を読む『遺留分は相続放棄により変化する|他の相続人の動向を確認しておこう』
8.まとめ
今回の記事では「遺留分」について説明しました。
遺留分は相続人に保障された財産取得の権利であり、本人の意思よりも優先されます。
ただし、すべての相続人が権利者ではなく、配偶者・子ども・直系尊属に限られています。兄弟姉妹には遺留分がありません。
遺留分の割合は相続人の組み合わせにより決まっており、簡単にいうと法定相続分の2分の1です。
※直系尊属のみが相続人なら3分の1。
遺留分の元となる財産には、相続開始時の財産(遺贈・死因贈与含む)だけでなく、生前贈与の額も含めます。
遺留分侵害額請求権は金銭を請求する権利なので、請求しなければ時効により消滅します。
遺留分の請求権を生前に放棄するなら、家庭裁判所の許可が必要になります。意思表示だけでは効力が発生しません。
遺留分を放棄しても相続人であることに変わりはないので、相続人として権利・義務を承継します。相続放棄と間違えないように注意してください。
相続を考えるなら遺留分は避けて通れないので、しっかりと勉強しておいてください。