亡くなった人が生前贈与をしているなら、遺留分の計算に生前贈与の価格を含めます。
ただし、すべての生前贈与ではなく、特定の条件を満たしている生前贈与のみです。
- 第3者に対する1年以内の生前贈与
- 相続人に対する10年以内の生前贈与
- 遺留分権利者を害すると知っていた生前贈与
遺留分の計算をする際には、生前贈与が含まれるのか判断する必要があります。
今回の記事では、遺留分と生前贈与について説明しているので、遺留分を計算する際の参考にしてください。
1.遺留分の計算には生前贈与も含まれる
遺留分を計算するには、元になる金額を知っておく必要があります。
遺留分を計算するための財産には、相続財産だけでなく生前贈与も含まれます。
上記をまとめると、以下のようになります。
相続開始時の積極財産に生前贈与を加えて相続債務を引くと、遺留分の元となる金額になります。
例えば、預貯金が500万円、生前贈与が300万円、借金が200万円だとします。
500万円+300万円-200万円=600万円
遺留分の元になる金額は600万です。
ただし、すべての生前贈与を遺留分の計算に含めるのではなく、特定の条件に該当する生前贈与のみ加えます。
関連記事を読む『遺留分算定の基礎財産|元になる金額を把握しておこう』
2.遺留分の計算に含める生前贈与は3つ
すべての生前贈与が遺留分の計算に含まれるわけではありません。
以下の3つが、遺留分の計算に含まれる生前贈与です。
2-1.第3者に対する1年以内の生前贈与は遺留分に含む
遺留分に含める生前贈与の1つ目は、第3者に対する1年以内の生前贈与です。
第3者(相続人以外)に対して、亡くなる前1年以内に生前贈与していれば遺留分の計算に含みます。
相続人以外に対する生前贈与は1年以内と短いので、相続開始日と贈与日の確認は重要です。
2-2.相続人に対する10年以内の生前贈与は遺留分に含む
遺留分に含める生前贈与の2つ目は、相続人に対する10年以内の生前贈与です。
第3者に対する生前贈与とは違い、相続人に対する生前贈与は10年以内となります。
ただし、特別受益に該当する生前贈与のみです。
上記の条文を民法1044条1項に当てはめると、以下のようになります。
相続人に対する贈与は、相続開始前の十年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)を算入する。
相続人に対する生前贈与は期間が10年間になっているので、遺留分を計算する際は注意してください。
2-3.遺留分権利者を害すると知っていた生前贈与はすべて含む
遺留分に含める生前贈与の3つ目は、遺留分権利者を害すると知っていた生前贈与です。
当事者双方(贈与者と受贈者)が遺留分権利者を害すると知っていたときは、生前贈与の時期に関わらず遺留分の計算に含めます。
例えば、亡くなる2年前に全財産を第3者に贈与していれば、遺留分の計算に含めます。
相続人に対する10年以上前の生前贈与も、遺留分権利者を害すると知っていたときは計算に含みます。
3.生前贈与に対する遺留分侵害額請求には順番がある
遺留分が侵害されている場合、遺留分侵害額請求をすることができます。
ただし、亡くなった人が遺贈や生前贈与を複数行っている場合は、請求できる順番が決まっているので注意が必要です。
以下は、遺留分の負担順番を定めた条文です。
- 生前贈与よりも先に遺贈に対して請求
- 古い生前贈与よりも先に新しい生前贈与に請求
- 生前贈与の時期が同じなら価格割合で負担
それぞれ説明していきます。
3-1.生前贈与よりも先に遺贈に対して請求
遺留分を侵害している遺贈と生前贈与がある場合、受遺者に対して先に遺留分侵害額請求をします。
受遺者(遺贈を受けた人)と受贈者(生前贈与を受けた人)を自由に選べるわけではありません。
遺留分侵害額が遺贈の価格を超えていれば、受贈者に対して遺留分侵害額請求ができます。
3-2.古い生前贈与よりも先に新しい生前贈与に請求
遺留分を侵害している生前贈与が複数ある場合、新しい生前贈与から先に遺留分侵害額請求をします。
受贈者(生前贈与を受けた人)が複数人いても、自由に選べるわけではありません。
遺留分侵害額が新しい生前贈与の価格を超えていれば、古い生前贈与に対して遺留分侵害額請求ができます。
3-3.生前贈与の時期が同じなら価格割合で負担
同じタイミングで生前贈与が複数行われている場合、生前贈与の価格割合で遺留分侵害額を負担します。
例えば、遺留分侵害額が300万円で、Aに生前贈与(1,000万円)、Bに生前贈与(500万円)だとします。
Aの負担割合は1500分の1000(3分の2)で、Bの負担割合は1500分の500(3分の1)です。
遺留分侵害額の負担額は、Aが200万円、Bが100万円となります。
遺言者は別段の意思表示もできる
同じタイミングで生前贈与が複数行われている場合、遺言者は遺言で別段の意思表示ができます。
例えば、遺言書に「遺留分侵害額はAさんの贈与から先に請求する」と記載していた場合です。
遺留分侵害額請求は生前贈与の価格割合ではなく、Aさんの生前贈与から先に遺留分侵害額請求をします。
遺言書が残されているなら、別段の意思表示を確認してください。
関連記事を読む『遺言事項は法律で決まっている|14の項目について説明』
4.遺留分と生前贈与に関する注意点
遺留分と生前贈与に関しては、間違えやすい注意点があります。
- 生前贈与の価格はいつを基準にする
- 孫が相続人かどうかで変わる
- 持ち戻し免除の意思表示は有効か?
- 相続人が相続放棄した場合
該当する事例があれば参考にしてください。
4-1.生前贈与の価格は相続開始時を基準にする
生前贈与を遺留分の計算に含む場合、生前贈与の価格は相続開始時を基準にします。
ですので、生前贈与の対象が不動産や株券であれば、価格が変動している可能性があります。
例えば、相続人の1人に不動産(評価額1,000万円)を生前贈与したとします。
相続開始時に不動産の評価額が500万円であれば、500万円の生前贈与として計算に含みます。
不動産や株券を生前贈与している場合、評価額は相続開始時を基準にしてください。
4-2.孫が相続人かどうかで生前贈与を含む期間が変わる
孫に生前贈与している場合、孫が相続人かどうかで計算に含める期間が変わります。
- 相続人以外:亡くなる前1年以内の生前贈与
- 相続人 :亡くなる前10年以内の生前贈与
孫が相続人でなければ、1年以内の生前贈与に限り遺留分の計算に含みます。
一方、孫が代襲相続人になっているケースや、孫を養子にしているケースでは、孫への生前贈与は10年以内に変わります。
孫に生前贈与しているなら、遺留分の計算に注意してください。
4-3.遺留分に持ち戻し免除の意思表示は有効か?
相続分を計算する際の特別受益に関しては、被相続人は持ち戻し免除の意思表示ができます。
では、遺留分を計算する際の特別受益はどうなるのでしょうか。
以下は、最高裁の判例です。
遺留分は相続人に保障された最低限度の相続分なので、持ち戻し免除の意思表示があっても計算に含みます。
4-4.生前贈与を受けた相続人が相続放棄した場合
相続放棄をすると初めから相続人ではなかったとみなされます。
では、生前贈与を受けた相続人が、相続放棄をすると遺留分の計算はどうなるのでしょうか。
裁判で争った例は無いのですが、条文どおりなら相続人以外として1年以内なら含まれます。
ただし、生前贈与と相続放棄を利用して遺留分を侵害しているので、「遺留分権利者を害すると知っていた生前贈与」に該当する可能性があります。
また、新しく判例が生まれる可能性もあるので、相続放棄を利用して生前贈与をするのは止めておきましょう。
5.さいごに
遺留分の計算をする際には、生前贈与の価格も計算に含みます。
ただし、すべての生前贈与を含めるのではなく、特定の生前贈与のみ含めて計算します。
- 第3者に対する1年以内の生前贈与
- 相続人に対する10年以内の生前贈与
- 遺留分権利者を害すると知っていた生前贈与
同じ生前贈与であっても、第3者と相続人では期間が違うので注意してください。
また、当事者双方が遺留分権利者を害すると知っていた場合は、期間に関係なく遺留分の計算に含めます。
遺留分侵害額請求には順番があります。
- 生前贈与よりも先に遺贈に請求
- 古い生前贈与よりも先に新しい生前贈与に請求
- 生前贈与の時期が同じなら価格割合で分担
生前贈与を受けていたからといって、遺留分侵害額請求を受けるとは限りません。
生前贈与をしている場合は、遺留分の計算が複雑になるので気をつけてください。