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遺留分に関する民法の条文【1042条から1049条】

遺留分に関する民法
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遺留分に関することも民法の条文で定められています。

具体的には、民法1042条から民法1049条までが該当条文です。

  • 遺留分の割合
  • 遺留分算定の財産額
  • 遺留分侵害額の計算
  • 遺留分侵害額請求権
  • 遺留分の放棄

上記についても、すべて民法の条文に記載されています。

遺贈や生前贈与をするなら、遺留分についても知っておく必要があります。

今回の記事では、遺留分に関する民法の条文について説明しているので、遺留分を調べる際の参考にしてください。

目次

  1. 遺留分の割合(民法1042条)
  2. 遺留分を算定するための財産価格(民法1043条)
    1. 遺留分の価格に算入する贈与(民法1044条)
    2. 遺留分の価格に算入する負担付贈与(民法1045条)
  3. 遺留分侵害額の請求(民法1046条)
    1. 遺留分侵害額請求は金銭請求権(民法1046条1項)
    2. 遺留分侵害額の計算式(民法1046条2項)
  4. 受遺者および受贈者の負担額(民法1047条)
    1. 遺留分侵害額を負担する順番(民法1047条1項)
    2. 遺贈・贈与に関する規定の準用(民法1047条2項)
    3. 遺留分権利者承継債務の消滅行為(民法1047条3項)
    4. 受遺者等の無資力による損失(民法1047条4項)
    5. 遺留分侵害額の支払いに期限の許与(民法1047条5項)
  5. 遺留分侵害額請求権の期間制限(民法1048条)
  6. 遺留分の放棄(民法1049条)
    1. 相続開始前の遺留分放棄(民法1049条1項)
    2. 遺留分放棄は他の相続人に影響しない(民法1049条2項)
  7. さいごに

遺留分の割合(民法1042条)

民法1042条では、遺留分の割合を定めています。

(遺留分の帰属及びその割合)
第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。

出典:e-Govウェブサイト(民法1042条)

兄弟姉妹以外の相続人は遺留分を有しています。

ただし、相続人の組み合わせによって遺留分の割合が違います。

  • 直系尊属のみが相続人:3分の1
  • 上記以外の場合:2分の1

相続人が複数人存在する場合は、遺留分の割合を法定相続分で分割します。

例えば、配偶者と子ども2人が相続人なら、遺留分の割合は以下のようになります。

遺留分の割合

  • 配偶者:2分の1×2分の1=4分の1
  • 子ども:2分の1×4分の1=8分の1
  • 子ども:2分の1×4分の1=8分の1

遺留分の割合2分の1を法定相続分で分割しています。

 

遺留分を算定するための財産価格(民法1043条)

民法1043条から1045条では、遺留分を算定するための財産価格について定めています。

(遺留分を算定するための財産の価額)
第千四十三条 遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。

出典:e-Govウェブサイト(民法1043条)

民法1043条で、遺留分を算定する財産価格の求め方が定められています。

遺留分算定の財産価格

遺留分を計算する際は、元となる財産額が重要になります。

遺留分の価格に算入する贈与(民法1044条)

民法1044条では、遺留分の価格に算入する贈与について定めています。

第千四十四条 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
2 第九百四条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。
3 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。

出典:e-Govウェブサイト(民法1044条)

相続開始前1年以内の生前贈与は計算に含める

相続開始前1年以内の生前贈与は、遺留分を計算する財産価格に加えられます。

ただし、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは、1年以上前であっても財産価格に加えます。

受贈者の行為により滅失している場合

民法1044条2項では、民法904条を準用しています。

第九百四条 前条に規定する贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。

出典:e-Govウェブサイト(民法904条)

受贈者の行為によって生前贈与の目的物が滅失していても、相続開始時に存在するものとして遺留分の計算に含めます。

例えば、贈与物である建物を取り壊していても、相続開始時に存在するものとして建物の価格を加えます。

ただし、自然災害等により建物が滅失しているときは、受贈者の行為ではないので建物の価格は加えません。

相続人に対する生前贈与は10年以内

相続人に対する生前贈与は、相続開始前10年以内まで遡って遺留分の計算に含めます。

ただし、遺留分の計算に含めるのは、以下の贈与です。

  • 婚姻・養子縁組のための贈与
  • 生計の資本としての贈与

上記の贈与については、相続開始前10年以内に遡り遺留分の計算に含めます。

遺留分の価格に算入する負担付贈与(民法1045条)

民法1045条では、遺留分の価格に算入する負担付贈与について定めています。

第千四十五条 負担付贈与がされた場合における第千四十三条第一項に規定する贈与した財産の価額は、その目的の価額から負担の価額を控除した額とする。
2 不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなす。

出典:e-Govウェブサイト(民法1045条)

生前贈与が負担付贈与だった場合、目的物から負担の価格を控除した額を遺留分の価格に加えます。

遺留分算定に加える負担付贈与の価格

例えば、不動産を生前贈与した場合、住宅ローンを負担として引き継いでいれば、住宅ローンを控除した額が遺留分に加える財産額になります。

負担の価格が分かりやすければ問題ないですが、負担の価格が分かりにくいと遺留分の計算も難しくなります。

 

遺留分侵害額の請求(民法1046条)

民法1046条では、遺留分侵害額の請求について定めています。

(遺留分侵害額の請求)
第千四十六条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
2 遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。
一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額
二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額

出典:e-Govウェブサイト(民法1046条)

遺留分侵害額請求は金銭請求権(民法1046条1項)

遺留分権利者は受遺者等に対して、遺留分の侵害額に相当する金銭を請求できます。

ですので、不動産を生前贈与されていても、請求できるのは金銭になります。

かつては遺留分減殺請求でしたが、法改正により遺留分侵害額請求に変わっています。

ちなみに、遺留分を侵害されていても、請求するかどうかは遺留分権利者の自由です。

遺留分侵害額の計算式(民法1046条2項)

民法1046条2項では、遺留分侵害額の計算について定めています。

条文を分かりやすくすると、以下の図のようになります。

遺留分侵害額の計算

遺留分の額
遺留分算定の財産額×遺留分の割合
遺贈+生前贈与
遺留分権利者が受けた遺贈と生前贈与の額

いわゆる特別受益の価格になります。

注意民法1044条3項とは違い、期間に制限は設けられていません。

取得すべき遺産額
遺産分割の結果に関係なく取得すべき遺産額

例えば、相続財産が1,000万円で相続人が子ども2人であれば、500万円が取得すべき遺産額になります。

遺産分割協議の後に遺留分侵害額の計算をすることもあるので、「取得すべき遺産の価格」という記載になっています。

承継した債務額
被相続人の債務×法定相続分

被相続人の債務は、法定相続分の割合で遺留分権利者も承継しています。

【例題】
遺留分算定の財産額は5,000万円
※遺贈5,000万円+生前贈与1,000万円-負債1,000万円

遺留分の割合は4分の1
生前贈与で1,000万円貰っている
被相続人の負債は1,000万円
遺留分権利者の相続分は2分の1

1,250万円-1,000万円+500万円=750万円
遺留分額-生前贈与の額+承継債務額=遺留分侵害額

遺留分侵害額の計算は複雑なので、相続を専門にしている弁護士に相談した方が良いです。

 

受遺者および受贈者の負担額(民法1047条)

民法1047条では、受遺者および受贈者の負担額について定めています。

(受遺者又は受贈者の負担額)
第千四十七条 受遺者又は受贈者は、次の各号の定めるところに従い、遺贈(特定財産承継遺言による財産の承継又は相続分の指定による遺産の取得を含む。以下この章において同じ。)又は贈与(遺留分を算定するための財産の価額に算入されるものに限る。以下この章において同じ。)の目的の価額(受遺者又は受贈者が相続人である場合にあっては、当該価額から第千四十二条の規定による遺留分として当該相続人が受けるべき額を控除した額)を限度として、遺留分侵害額を負担する。
一 受遺者と受贈者とがあるときは、受遺者が先に負担する。
二 受遺者が複数あるとき、又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは、受遺者又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
三 受贈者が複数あるとき(前号に規定する場合を除く。)は、後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。
2 第九百四条、第千四十三条第二項及び第千四十五条の規定は、前項に規定する遺贈又は贈与の目的の価額について準用する。
3 前条第一項の請求を受けた受遺者又は受贈者は、遺留分権利者承継債務について弁済その他の債務を消滅させる行為をしたときは、消滅した債務の額の限度において、遺留分権利者に対する意思表示によって第一項の規定により負担する債務を消滅させることができる。この場合において、当該行為によって遺留分権利者に対して取得した求償権は、消滅した当該債務の額の限度において消滅する。
4 受遺者又は受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する。
5 裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、第一項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。

出典:e-Govウェブサイト(民法1047条)

遺留分侵害額を負担する順番(民法1047条1項)

遺留分侵害額を負担する順番は決まっています。

  1. 受遺者と受贈者なら受遺者が先
  2. 受遺者が複数人存在するなら遺贈の割合
  3. 贈与者が複数人存在するなら後の贈与が先

ただし、受遺者が複数人存在する場合、遺言書に別段の意思表示が記載されていれば、遺言者の意思に従います。
※贈与日が同じ場合を含む。

例えば、AとBの2人に遺贈している場合、遺言書に「遺留分侵害額はAから請求する」と記載されていれば、Aに対して遺留分侵害額を請求します。

遺贈の相手方に優先順位があるなら、遺言書に意思表示を記載しておきましょう。

遺贈・贈与に関する規定の準用(民法1047条2項)

遺留分侵害額の負担額を計算する際は、以下の条文を準用しています。

  • 民法904条(受贈者の行為による滅失)
    ※民法1044条2項で準用
  • 民法1043条2項(条件付きの権利)
  • 民法1045条(負担付贈与の価格)

それぞれの条文については、該当箇所をご確認ください。

遺留分権利者承継債務の消滅行為(民法1047条3項)

受遺者等が遺留分権利者の承継した債務を消滅させた場合、意思表示により遺留分侵害額請求権(債務の額)も消滅させることができる。

遺留分権利者承継債務の消滅行為

遺留分侵害額には債務の額が含まれているので、受遺者等が債務を消滅させた場合、遺留分権利者に対する意思表示で遺留分侵害額請求権(債務の額)も消滅します。

受遺者等の無資力による損失(民法1047条4項)

受遺者や受贈者の無資力による損失は、遺留分権利者の負担になります。

分かりやすく説明するなら、遺留分侵害額を負担する人が無資力であっても、他の人に遺留分侵害額請求はできません。


例えば、受遺者(遺贈500万円)と受贈者(贈与500万円)が存在して、遺留分侵害額が500万円だとします。

受遺者に対して遺留分侵害額請求をするのですが、請求された受遺者が無資力であっても、受贈者に遺留分侵害額請求をすることはできません。

遺留分侵害額の支払いに期限の許与(民法1047条5項)

遺贈や贈与の対象物が不動産等であれば、支払う金銭が手元に無い場合もあります。

遺留分侵害額の請求を受けた受遺者や受贈者は、家庭裁判所に支払い期限の許与を求めることができます。

 

遺留分侵害額請求権の期間制限(民法1048条)

民法1048条では、遺留分侵害額請求権の期間制限について定めています。

(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

出典:e-Govウェブサイト(民法1048条)

下記のどちらかに該当すると、遺留分侵害額請求権は時効により消滅します。

  • 遺留分の侵害を知った時から1年
  • 相続開始の時から10年

遺留分の侵害を知らなくても、相続開始から10年経過すると時効により消滅するので注意してください。

 

遺留分の放棄(民法1049条)

民法1049条では、遺留分の放棄について定めています。

(遺留分の放棄)
第千四十九条 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
2 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。

出典:e-Govウェブサイト(民法1049条)

相続開始前の遺留分放棄(民法1049条1項)

相続開始前の遺留分放棄は、家庭裁判所の許可を得なければ効力は発生しません。

ですので、当事者が書面で意思表示していても、家庭裁判所の許可を得ていなければ遺留分放棄にはなりません。

相続開始後の遺留分放棄については、特に決まりがないので意思表示でも効力は発生します。

遺留分放棄は他の相続人に影響しない(民法1049条2項)

遺留分放棄をしても他の相続人の遺留分に影響しません。

例えば、相続人が配偶者と子ども2人で、子ども1人が遺留分放棄しても、他の相続人の遺留分は変わりません。

遺留分を放棄しても遺留分に影響なし

あくまでも遺留分請求権を放棄しているだけなので、他の相続人の遺留分には関係ありません。

 

さいごに

遺留分に関する民法の条文は重要な部分も多いので、遺留分を計算する際には読み込んでおく必要があります。

  • 遺留分の割合
  • 遺留分算定の財産額
  • 遺留分侵害額の計算
  • 遺留分侵害額請求権
  • 遺留分の放棄

遺贈や生前贈与をする場合、遺留分について知っておくことが重要です。

遺留分を知るなら、まずは民法の条文から始めましょう。