相続財産に農地が含まれていても、相続放棄は自由にできます。農業委員会の許可等も不要です。
ただし、農地だけ選んで放棄できないので、他の財産も取得できなくなります。
相続人全員が相続放棄しても、相続財産清算人を選任しなければ、国庫には帰属しません。
今回の記事では、農地の相続放棄について詳しく説明しているので、ぜひ最後までお読みください。
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1.相続財産に農地が含まれても相続放棄できる

相続財産に農地が含まれていても、相続放棄はできます。
なぜなら、相続放棄が認められるかどうかに、農地の有無は関係ないからです。
1-1.農地の有無は条件に含まれない
被相続人が農地を所有していても、条件を満たせば相続放棄は認められます。
次の2つが、相続放棄の条件です。
- 相続財産を処分(消費)していない
- 相続の開始を知った日から3ヶ月以内に申述書を提出
上記の条件を満たしていれば、相続財産に農地が含まれていても、相続放棄は問題なく認められます。
▼被相続人
父親|5月18日死亡
▼相続財産
田畑※現況は山林
▼相続放棄
長男|6月21日
父親の相続財産は放置されている田畑しかなかったので、長男は3ヶ月以内に相続放棄の手続きをした。
相続財産に田畑が含まれていても、条件さえ満たせば相続放棄は問題なくできるので安心してください。
1-2.農地が不要という理由でも問題ない

相続放棄する理由は自由なので、「農地がいらない」でも問題ありません。
実際、私が受けている依頼でも、申述書に不動産(農地)が不要だと書いています。
▼家族構成
被相続人|父親
相続人 |子ども
▼相続財産
預貯金|30万円
田畑 |5筆
▼相続放棄
理由|農地が不要
亡くなった父親に借金は無かったが、農地を相続したくないので、子どもは相続放棄した。
勘違いしやすいのですが、借金の有無は相続放棄の結果に影響しません。借金がなくても農地が不要であれば、相続放棄を選んで問題ないです。
以下の記事では、理由について詳しく説明しているので参考にしてください。
関連記事を読む『相続放棄の理由は自由|借金・安全・疎遠・不動産以外でも可能』
1-3.遺言書で農地を押し付けられても問題ない
亡くなった人が遺言書で、農地を相続人に押し付けようとしても、相続放棄すれば引き継ぎません。
なぜなら、相続放棄すれば相続人ではないので、遺言書に「農地を相続させる」と書いてあっても、相続しないからです。
遺言書は亡くなった人の意思表示ですが、相続を強制できるわけではなく、相続するかは相続人が自由に決めれます。
他の相続人や遺言執行者から連絡があっても、相続放棄する旨を伝えたうえで、手続きを進めてください。
2.相続放棄に農業委員会の許可や同意は不要

相続放棄の手続きをするのに、農業委員会の許可や同意は不要です。
通常、農地を処分するには、農業委員会の許可を得る必要があります。
第三条 農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。
ですが、相続放棄は農地を処分する行為ではないので、農業委員会の許可を得る必要はありません。
| 行為 | 許可 |
|---|---|
| 売買 | 必要 |
| 贈与 | 必要 |
| 賃貸 | 必要 |
| 相続放棄 | 不要 |
農業委員会の許可だけでなく、同意や届出等も不要となります。
相続放棄に農業委員会は関係しないと覚えておけば大丈夫です。
関連記事を読む『【相続放棄の手続きは家庭裁判所】その他の方法では成立しない』
3.農地を相続放棄する場合の注意点

農地を相続放棄する場合の注意点について説明します。
- 農地だけ選んで相続放棄はできない
- 農地に価値があっても撤回できない
- 後順位の相続人に農地が移ってしまう
- 農地の登記名義人によっては解決できない
3-1.農地だけ選んで相続放棄はできない
相続放棄すると相続人ではなくなるので、農地以外の財産も取得できません。
したがって、農地以外に欲しい財産があるなら、相続放棄は選べないです。
▼家族構成
被相続人|父親
相続人 |長男・長女
▼相続財産
定期預金|500万円
不動産 |建物・宅地・田畑
長男と長女は離れた場所で生活しているので、田畑を相続しても使う予定がない。
ただし、相続放棄すると、宅地や定期預金も相続できません。
農地だけ選んで放棄できる制度ではないので、間違えないように注意してください。
関連記事を読む『財産の一部だけ相続放棄はできない!取捨選択は認められない』
3-2.農地に価値があっても撤回できない
相続放棄は法律により撤回が禁止されています。
そのため、農地に価値があると分かっても、相続放棄の撤回はできません。
(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し) 第九百十九条 相続の承認及び放棄は、第九百十五条第一項の期間内でも、撤回することができない。
▼家族構成
被相続人|伯父
相続人 |甥
▼相続財産
預貯金|150万円
不動産|田畑
伯父の相続財産には預貯金もあったが、田畑を相続しても処分できないと思い、甥は相続放棄を選んだ。
ところが、後になって近隣の農家から田畑を譲ってくれないかと連絡がきた。
相続放棄した後で農地が処分できると分かっても、相続放棄は撤回できません。
農地に価値がない(処分できない)のか、前もって確認しておいた方が良いです。
関連記事を読む『相続放棄の撤回はできるか?原則として不可能だが例外も存在する』
3-3.後順位の相続人に農地が移ってしまう

先順位相続人が全員相続放棄すると、後順位相続人に相続(農地)が移ります。
※配偶者は順位変更と無関係です。
▼家族構成
被相続人|父親
第1順位|長男・長女
第2順位|亡くなっている
第3順位|父親の弟
▼相続財産
建物・宅地・田畑
長男と長女は田畑が不要なので相続放棄した。
その結果、第3順位(父親の弟)に相続権が移るので、田畑が不要であれば第3順位も相続放棄が必要になります。
後順位相続人と交流があるなら、相続放棄を伝えてあげた方が良いでしょう。
関連記事を読む『相続放棄をすると次順位の相続人に負債等が移ってしまう』
3-4.農地の登記名義人によっては解決できない
相続放棄すると相続人ではないので、被相続人から農地は相続しません。
しかし、農地の登記名義人によっては、相続放棄しても解決できない可能性があります。
- 別の人からも農地を相続している
- 相続人も農地の共有者になっている
別の人からも農地を相続している
別の人からも農地を相続している場合、被相続人だけを相続放棄しても解決しません。
例えば、農地を管理していた人は被相続人(伯父)だが、所有者は伯父と伯母だった場合です。
※伯父・伯母に子はいない。
伯母は数年前に亡くなっており、伯母からも農地を相続していれば、伯父だけ相続放棄しても解決できません。
誰から農地を相続しているのか、しっかりと確認しておく必要があります。
相続人も農地の共有者になっている
被相続人と相続人が農地の共有者になっている場合、相続放棄しても根本的な解決にはなりません。
なぜなら、被相続人の持分は相続しませんが、相続人自身が持っている持分は残るからです。
相続放棄で解決できるのは、被相続人が所有している持分だけなので、自分の持分は別に処分する必要があります。
4.相続放棄しても農地の保存義務が残る場合もある
相続放棄すると相続人ではありませんが、一部の人には農地の保存義務が残ります。
かつては管理義務でしたが、法改正(令和5年4月1日)により保存義務に変わっています。
(相続の放棄をした者による管理) 第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
| 義務 | 法改正 |
|---|---|
| 内容 | 保存義務 |
| 誰が | 相続放棄した時に 現に占有していた人 |
| いつまで | 相続人等に 引き渡すまで |
4-1.農地を現に占有していた人は保存義務がある
亡くなった人の農地を現に占有していた人は、相続放棄しても保存義務が発生します。
それに対して、亡くなった人の農地を占有していなかった人には、保存義務が発生しません。
▼家族構成
被相続人|父親
相続人 |長男・二男
▼相続財産
農地|長男が使っていた
長男は農地を使っていた(現に占有していた)ので、相続放棄しても保存義務が発生します。
一方、二男は農地を占有していなかったので、相続放棄すると農地とは無関係です。
通常、相続放棄する人が農地を占有しているケースは少ないですが、占有していた場合は保存義務が発生すると覚えておいてください。
相続放棄後の保存義務については、下記の記事で詳しく説明しています。
関連記事を読む『【相続放棄後の管理義務】法改正後の940条で責任者が明確になる』
4-2.相続人または相続財産清算人に引き継ぐまで続く
相続放棄した人が農地を現に占有していた場合、相続人(相続放棄しなかった人)または相続財産清算人に引き継ぐまで保存義務が続きます。
| 相続人 | 引き継ぐ相手 |
|---|---|
| 存在する | 相続人 |
| 存在しない | 相続財産清算人 |
相続人が存在しないケースには、相続人が全員相続放棄した場合も含まれます。
あなたが農地を現に占有していて、かつ、相続人が存在しない場合は、相続財産清算人に引き継ぐまで保存義務が発生するので注意してください。
5.全員が相続放棄すると農地はどうなるのか
相続人が全員相続放棄すると、農地は最終的に国庫へ帰属します。
ただし、自動的に国庫へ帰属するわけではなく、相続財産清算人の選任が必要となります。
5-1.自動的に国庫へ帰属するわけではない
相続人全員が相続放棄しても、自動的に国庫へ帰属するわけではありません。
なぜなら、相続人の不存在が確定していないからです。
戸籍上の相続人が全員相続放棄しても、相続人が存在する可能性はあります。
相続人の不存在を確定させるには、相続財産清算人を選任する必要があります。
5-2.相続財産清算人が農地の処分を検討

相続財産清算人が選任されると、相続人の捜索等を経て、相続人の不存在が確定します。
その後、相続財産清算人は農地の処分を検討し、処分できなかった農地は国庫に帰属します。
以下は、民法の条文です。
(残余財産の国庫への帰属) 第九百五十九条 前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。この場合においては、第九百五十六条第二項の規定を準用する。
相続人が全員相続放棄すると、自動的に農地が国庫に帰属すると思っている人は多いですが、相続財産清算人を選任しないと国庫には帰属しません。
そのため、自分が相続放棄した後の農地が心配なので、相続財産清算人を選任するという人もいます。
しかし、相続財産清算人の選任には予納金というデメリットがあるので、以下の記事を確認しておいてください。
関連記事を読む『【相続財産清算人と予納金】金額は流動資産の額により違う』
6.相続放棄以外に農地を手放す方法
亡くなった人の農地が不要であっても、次のような事情があるので、相続放棄が選べない人もいます。
- 農地以外に相続したい財産がある
- 後順位相続人に農地を移したくない
- すでに3ヶ月経過により単純承認している
事情があって相続放棄できないなら、農地を相続したうえで手放す方法を探す必要があります。
6-1.農地が欲しい人を探して処分する
まずは、農地が欲しい人を探してください。近隣の農家などに聞くのが一番早いです。
ただし、農地を処分(売買・贈与)するには、農業委員会の許可(3条許可)が必要なので注意してください。
一般の人(農家以外)が農地を欲しがっても、農業委員会の許可が得られないでしょう。
ちなみに、売買よりも贈与の方が、欲しい人は見つかりやすいと思います。
6-2.相続土地国庫帰属制度を利用する
農地を誰も欲しがらないなら、相続土地国庫帰属制度を検討してください。
※許可等が得られない場合を含む。
簡単に説明すると、国にお金を払って土地を引き取ってもらう制度です。農地も引取対象に含まれています。
ただし、一筆につき最低20万円は必要なので、農地が複数あるなら注意してください。
条件等については、下記の記事を参考にしてください。
関連記事を読む『相続した土地を国庫に帰属させる条件は3つ』
7.農地の相続放棄に関するQ&A
農地の相続放棄に関して、よくある質問と回答をまとめました。
農地の地積が分からなくても相続放棄できますか?
できます。申述書に地積は不明と書いて問題ありません。
農地が共有名義でも相続放棄できますか?
できます。ただし、相続人が共有者だと、共有者の持分は残るので注意してください。
相続放棄の家庭裁判所は農地が存在する場所でしょうか?
違います。被相続人の最後の住民票上の住所が存在する場所です。
農地に価値があっても相続放棄できますか?
できます。農地の価値は相続放棄に影響ありません。
知らなかった農地があった場合、相続になりますか?
なりません。相続放棄すると相続人ではないので、知らなかった農地があっても相続しません。
上記以外にも、相続放棄のQ&Aは100以上あるので参考にしてください。

8.まとめ
今回の記事では「農地の相続放棄」について説明しました。
農地が相続財産に含まれていても、相続放棄は自由にできます。農業委員会や自治体の許可等も不要です。
ただし、農地を相続放棄するなら、以下の点に注意してください。
- 農地だけ選んで相続放棄はできない
- 農地に価値があっても撤回できない
- 後順位の相続人に農地が移ってしまう
- 農地の登記名義人によっては解決できない
相続人が全員相続放棄すると、最終的に農地は国庫に帰属しますが、相続財産清算人の選任が必要になります。
農地を原因に相続放棄するなら、今回の記事を参考にしておいてください。



