相続放棄は家庭裁判所の手続きであり、その他の方法では成立しません。
相続人同士で書面の作成、債権者へ放棄の意思表示等では不成立です。
相続放棄の手続きは、相続の開始を知った日から3ヶ月以内の期間制限があり、期間を1日でも経過すると単純承認とみなされます。書類の準備にも時間がかかるので、後回しにするのは危険です。
今回の記事では、相続放棄の手続きについて説明しているので、しっかりと確認しておいてください。
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1.相続放棄は家庭裁判所の手続き
相続放棄するには、家庭裁判所の手続きが必要になります。
以下は、民法の条文です。
相続放棄する人は、家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出してください。
家庭裁判所の手続き以外で、相続放棄はできません。
1-1.その他の方法では相続放棄できない
その他の方法(家庭裁判所の手続き以外)で、相続放棄は成立しません。
以下は間違えやすい方法です。
- 相続人同士の話し合い
- 書面を作成して署名捺印
- 債権者に相続放棄の意思表示
家庭裁判所の手続き以外で、相続放棄する方法はないと覚えておきましょう。
相続人同士の話し合いでは成立しない
相続人同士の話し合いで、相続放棄の意思表示をしても、相続放棄は成立しません。
相続人同士で遺産分割協議しているのと同じです。
書面を作成して署名捺印しても成立しない
相続人同士で書面を作成して、署名捺印(実印)をしても、相続放棄は成立しません。
相続人の間では有効ですが、あくまでも別の法律行為です。
債権者に相続放棄の意思表示
債権者に意思表示をしても、相続放棄は成立しません。
意思表示後に正式な手続きをしなければ、借金の相続が確定します。
1-2.手続きをする管轄家庭裁判所は決まっている
相続放棄の申述書を提出する先は、亡くなった人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
最後の住所地は実際に住んでいた場所ではなく、住民票の住所で判断します。あくまでも、裁判所の管轄を決めているだけです。
【事例1】
被相続人が大阪市の病院で亡くなった場合。
大阪市の病院に長期間入院していても、住民票の住所が堺市であれば、堺市を管轄する家庭裁判所に相続放棄申述書を提出します。
どこで死亡したかではなく、どこに住民票があったかで判断します。
【事例2】
被相続人が単身赴任先で亡くなった場合。
単身赴任先の横浜市で亡くなっても、住民票が大阪市であれば、大阪市を管轄する家庭裁判所に相続放棄申述書を提出します。
単身赴任の期間に関わらず、住民票の住所で管轄家庭裁判所を判断します。
亡くなった人の住民票は、手続きの必要書類となるので、忘れずに取得してください。
関連記事を読む『相続放棄の管轄は亡くなった人の最後の住所地で決まる 』
1-3.相続放棄の手続費用は限られる
相続放棄の手続費用は限られており、裁判所手数料は800円です。
ただし、裁判所手数料は現金で支払うのではなく、収入印紙で800円を納めます。
収入印紙は郵便局でも購入でき、400円を2枚購入するのが分かりやすいです。
※800円という額面はない。
裁判所手数料以外では、家庭裁判所に予納郵券を納める必要があります。
予納郵券の額は約470円です。管轄家庭裁判所により金額が違うので、事前に確認しておきましょう。
関連記事を読む『相続放棄の収入印紙と予納郵券を図を用いて説明』
1-4.相続放棄の手続きは郵送でも可能
管轄家庭裁判所が遠方の場合や、平日の昼間に家庭裁判所へ行けない場合、郵送でも手続きは可能です。
例えば、大阪に住んでいる相続人が、東京の家庭裁判所に直接提出するのは非現実的なので、郵送で申述書を提出して問題ありません。
窓口または郵送どちらの提出方法であっても、相続放棄の効力に違いはないです。
関連記事を読む『相続放棄は郵送での提出も可能なので遠方でも大丈夫 』
2.相続放棄の手続期間は決まっている
相続放棄の手続期間は、法律により3ヶ月以内と決まっています。
以下は民法の条文です。
上記の条文は重要なので、しっかりと確認しておいてください。
2-1.相続の開始を知った日から3ヶ月以内
相続放棄の手続期間は、相続の開始を知った日から3ヶ月以内です。
知った日からなので、相続の開始を知らなければ3ヶ月はスタートしません。
例えば、亡くなった人と疎遠で死亡を知らなかった場合。
亡くなった人と疎遠であれば、死亡を知らなくても不思議はありません。
死亡日から何年経過していても、知った日から3ヶ月以内であれば、相続放棄できます。
相続の開始を知らないなら、手続期間は過ぎていないので、勘違いしないように注意してください。
関連記事を読む『相続放棄の期間は3ヶ月以内【期間の開始日が重要】 』
2-2.期限を1日でも過ぎると手続きはできない
相続の開始を知った日から3ヶ月以内に相続放棄しなければ、単純承認したとみなされます。
たとえ1日でも期限を過ぎると、相続放棄はできません。絶対に期限を経過しないように注意してください。
関連記事を読む『相続放棄が認められない|単純承認とみなされる3つの行為 』
2-3.手続期間は申立てにより延長もできる
相続放棄の手続期間は3ヶ月以内ですが、申立てにより延長もできます。
ただし、期間延長の申立ても、相続の開始を知った日から3ヶ月以内が期限です。
また、期間延長の申立てをしても、認めるかどうかは家庭裁判所の判断になります。期間延長の理由によっては、却下される可能性もあります。
関連記事を読む『相続放棄の期間延長|財産を調査する時間は延ばせる 』
3.相続放棄の手続きに必要な書類
相続放棄の手続きには、必要書類が2つあります。
- 相続放棄の申述書
- 戸籍等一式
上記を用意して、家庭裁判所に提出します。
3-1.必要書類1つ目は申述書
相続放棄をするには、家庭裁判所に申述書を提出する必要があります。家庭裁判所の窓口で意思表示をしても、相続放棄にはなりません。
相続放棄の申述書は、家庭裁判所の窓口やホームページで取得できます。
相続放棄の申述書に必要事項を記載し、収入印紙800円分を貼り付けて提出してください。
3-2.必要書類2つ目は戸籍等一式
相続放棄の申述書を提出する際には、戸籍等を添付書類として一緒に提出します。
なぜなら、相続放棄できるのは相続人だけなので、戸籍等で相続関係を証明する必要があるからです。
相続放棄に必要な戸籍等は、相続人ごとに違います。
【事例1】
子どもが相続放棄する場合は、以下の戸籍等を提出します。
- 親の戸籍 |死亡を証明
- 親の住民票 |管轄を証明
- 子どもの戸籍|相続を証明
親の戸籍と子どもの戸籍が同じであれば、子どもの戸籍は省略できます。
【事例2】
弟が相続放棄する場合は、以下の戸籍等を提出します。
- 兄の戸籍 |死亡と先順位を証明
※出生から死亡まで全部 - 兄の住民票|管轄を証明
- 親の戸籍 |死亡を証明
- 弟の戸籍 |相続を証明
兄の出生から死亡までの戸籍で、先順位相続人(兄の子)の有無を証明します。
戸籍は本籍地の役所でしか取得できないので、本籍地が遠方の場合は気を付けてください。
*郵送でも取得できます。
相続放棄に必要な戸籍等については、下記の記事を参考にしてください。
関連記事を読む『相続放棄には戸籍謄本が必要!誰がするかで枚数が違う 』
4.相続財産の内容に関わらず手続きは同じ
相続財産の内容は亡くなった人により違います。不動産(建物・土地)を残す人もいれば、負債(借金)を多く残す人もいます。
ですが、相続放棄の手続きは、相続財産の内容に関わらず同じです。
4-1.相続財産が不動産(建物・土地)でも変わらない
亡くなった人の相続財産が建物や土地であっても、相続放棄の手続きに変わりはありません。
不動産の種類(戸建・マンション・宅地・田畑等)や評価額による違いもないです。
ちなみに、相続財産に不動産が含まれていても、不動産登記事項証明書は不要なので、法務局で取得する必要はありません。
4-2.負債(借金)の額は手続きに影響しない
相続放棄の理由として借金は一番分かりやすいですが、金額はまったく関係ありません。
負債が100万円でも10万円でも、家庭裁判所は手続きを認めてくれます。
たとえ負債が0円であっても、相続放棄はできるので安心してください。
関連記事を読む『相続放棄の理由は自由|借金・安全・疎遠・不動産以外でも可能』
5.相続放棄の手続きを流れで確認
相続放棄の流れは5つに分かれます。
相続の開始を知った日から、3ヶ月の期間はスタートします。
死亡日から何ヶ月経過していても、相続の開始を知らなければ、3ヶ月はスタートしていません。
家庭裁判所に相続人であることを証明するため、戸籍等一式を収集します。
相続人によって必要な戸籍等は違うので、収集にかかる時間も違います。後回しにせず収集を開始しましょう。
必要書類である申述書と戸籍等を収集したら、管轄家庭裁判所に提出します。
相続の開始を知った日から3ヶ月以内に提出できれば問題ありません。
提出方法は窓口または郵送どらでも大丈夫です。
家庭裁判所に申述書を提出すると、照会書が届きます。
※省略されるケースあり。
照会書には質問が記載されているので、回答して返送してください。
問題なく手続きが終了すれば、家庭裁判所から受理通知書が送付されます。
受理通知書が届けば、相続放棄の手続きは終了です。
より詳細な流れについては、下記の記事を参考にしてください。
関連記事を読む『相続放棄の流れを知っておけばミスも防ぎやすい 』
6.相続放棄の手続きは専門家に依頼できる
相続放棄の手続きは、専門家に依頼することも可能です。
相続放棄の準備をする時間が取れない人や、集める戸籍が多く面倒な人は、専門家への依頼を検討してください。
6-1.司法書士に相続放棄を依頼する費用
司法書士に相続放棄の手続きを依頼した場合、専門家報酬が発生します。
専門家報酬は自由設定なので、金額に決まりはありません。高く設定している人もいますし、低く設定している人もいます。
あえて相場を記載するなら、約3万円から5万円です。ただし、事例によっても金額は変わるので、依頼する際に確認してください。
関連記事を読む『相続放棄の相談はどこでするのか?誰にするかの方が重要! 』
6-2.弁護士に相続放棄を依頼するケース
私は司法書士ですが、弁護士に相続放棄の依頼をした方が良いケースも説明しておきます。
- 亡くなった人の債権者と揉めている
- 賃貸物件の連帯保証人に法外な請求がある
上記に該当するなら、初めから弁護士に依頼した方が良いでしょう。
亡くなった人の債権者と揉めている
原則として、相続放棄している相続人に対して、取り立てをする債権者はいません。
※私が依頼を受けたケースでは1人もいない。
ですが、亡くなった人が悪質な債権者から借金をしていた場合、相続放棄しても家族に請求する可能性はあります。
あるいは、個人間の貸し借りで、貸主が相続放棄に納得せず、家族に対してしつこく請求するケースも考えられます。
債権者が法律を無視するような人であれば、弁護士に依頼した方が問題を解決しやすいです。
賃貸物件の連帯保証人に法外な請求がある
亡くなった人の相続人が賃貸物件の連帯保証人になっていた場合、相続放棄しても連帯保証人として請求されます。
そして、亡くなった人が孤独死などをしていると、賃貸物件の退去費用が高額になります。不動産会社によっては、法外な金額を請求してきます。
賃貸物件の退去費用で不動産会社と交渉する必要があるので、初めから弁護士に相談した方がよいでしょう。
関連記事を読む『相続放棄と連帯保証人の関係は間違えやすい 』
7.相続放棄の手続きで気を付ける点
相続放棄の手続きで気を付ける点も説明しておきます。
- 相続放棄の手続きは生前にできない
- 戸籍の収集は時間との勝負
- 相続人が複数なら相続放棄はそれぞれ必要
- 個人で手続きするなら勉強も忘れずに
7-1.相続放棄の手続きは生前にできない
相続放棄できるのは相続人だけなので、生前(相続発生前)に手続きはできません。
家庭裁判所に申述書を提出しても、相続発生前を理由に却下されます。
相続放棄の手続きは、相続の開始を知った日から3ヶ月以内です。
関連記事を読む『相続放棄が生前に認められることは無く例外も存在しない 』
7-2.戸籍(書類)の収集は時間との勝負
戸籍(書類)の収集は時間との勝負になります。
なぜかというと、3ヶ月の期間を1日でも経過すると、家庭裁判所は相続放棄の申述を却下するからです。
亡くなった人の兄弟姉妹や甥姪が相続放棄する場合、必要な戸籍等も多く時間がかかるので、後回しにせず収集を開始してください。
7-3.相続人が複数なら個々に必要
相続放棄するかは各相続人が決めます。
したがって、相続放棄の手続きも各相続人が行ないます。申述書も各相続人がそれぞれ作成します。
他の相続人が相続放棄しても、あなたの相続放棄は別に必要です。
相続の開始を知った日も相続人ごとに判断するので、間違えて3ヶ月経過しないように注意してください。
7-4.個人で手続きをするなら勉強も忘れずに
個人で相続放棄の手続きをするなら、相続放棄の勉強も忘れずにしてください。
なぜなら、相続放棄の効力を間違えている人が多いからです。
相続放棄は借金を放棄する手続きではなく、相続を放棄する手続きになります。
相続放棄の手順だけ確認しても、内容は理解できません。個人で相続放棄するなら、勉強もしておきましょう。
関連記事を読む『【相続放棄の注意点】間違えている人が多い部分を司法書士が説明 』
8.まとめ
今回の記事では「相続放棄の手続き」について説明しました。
相続放棄は家庭裁判所の手続きであり、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に申述書を提出して行います。その他の方法では相続放棄できません。
相続人であることを証明するために、戸籍等も一緒に提出します。必要な戸籍は相続人によって違うので、相続人によっては収集に時間がかかります。
相続放棄の手続きは専門家に依頼できるので、時間が確保できない人は依頼も検討してください。
相続放棄の手続きを自分でするなら、相続放棄の勉強も忘れずにしておきましょう。
相続放棄の手続きに関するQ&A
- 相続放棄の手続きはどこに相談すれば良いですか?
-
当事務所に相談して問題ありません。
- 兄弟姉妹の相続放棄は手間がかかりますか?
-
本籍の移転歴で手間は変わります。地元ですべて取得できれば手間はかからないです。