急な借金のお知らせに驚かれる人もいます。会ったこともない親戚の借金を実際に支払った人もいます。
相続放棄をすると、あなたは相続人ではなくなります。したがって、借金をあなたが払う必要はないのです。
ただし、相続放棄は3ヶ月以内という厳しい時間制限があります。限られた時間の中で手続きをしなければいけません。迷っている間にも時間は過ぎていきます。
目次
1.相続放棄の手続き
手続きをする際の注意点は2つです。
- 期限に気を付けること
- 必要な書類を漏れなく集めること
1‐1.手続きの期限
相続放棄は相続が開始したことを、知ってから3ヶ月以内です。
相続が開始したことを知ってからなので、疎遠になっていて亡くなったことを知らなければ、3ヶ月は経過していません。
1‐2.申述先
亡くなった人の最後の住所地を、管轄する家庭裁判所です。
(裁判所のホームページ)で管轄を確認できます。
直接提出することも、郵送することも可能です。
1‐3.手続きに必要な書類
【共通書類】
申述書
亡くなった人の住民票除票または戸籍附票
申述人の戸籍謄本
【申述人が配偶者】
亡くなった人の死亡の記載がある戸籍謄本
【申述人が子または孫】
亡くなった人の死亡の記載がある戸籍謄本
代襲相続人(孫)の場合は、本来の相続人(子ども)の死亡の記載がある戸籍謄本。
【申述人が親】
亡くなった人の出生時から死亡時までの戸籍謄本
亡くなった人に子どもがいて、すでに亡くなっている場合は死亡の記載がある戸籍謄本。
【申述人が兄弟姉妹または甥・姪】
亡くなった人の出生時から死亡時までの戸籍謄本
亡くなった人に子どもがいて、すでに亡くなっている場合は死亡の記載がある戸籍謄本。
親の死亡の記載がある戸籍謄本。
代襲相続(甥・姪)の場合は、本来の相続人(兄弟姉妹)の死亡の記載がある戸籍謄本。
1‐4.手続きに必要な費用
収入印紙800円分(申述人1人につき)
郵便局で買えます。
切手600円ぐらい。(裁判所によって異なります)
戸籍謄本等を集めるのに費用がかかります。
申述する人によっては、出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本を、集める必要があります。
戸籍謄本は本籍地のある役所で、除籍謄本は除籍となった本籍地の役所で取得できます。
- 戸籍謄本450円
- 除籍謄本750円
- 改製原戸籍謄本750円
- 住民票の除票(戸籍の附票)300円から400円
郵送で取得することもできます。
1‐5.申述書が却下される場合
基本的に受理が却下されることはありません。
家庭裁判所は要件を欠いていることが、明白な場合以外は受理します。
1‐6.相続放棄照会書
申述書が受理されると、裁判所から照会書と回答書が送られてきます。
回答書に記載することは、裁判所によって違います。
主に次のようなことを記載します。
- 相続放棄で間違いない(意思確認)
- 亡くなったこと知った日(期間制限)
- 亡くなった人の財産(知っている範囲)
- 相続放棄の理由
回答書に記入して、署名捺印して裁判所に送り返してください。
特に問題が無ければ、相続放棄申述受理通知書が届きます。
届いたら相続放棄の手続き完了です。
2.相続放棄をした後
通知書と証明書の違いについてです。
2‐1.相続放棄申述受理通知書
相続放棄をした後に借金の返済を迫られたときは、通知書のコピーを提出すれば相続放棄をしたことは伝わります。
再発行してくれないので、コピーを取っておきましょう。
2‐2.相続放棄申述受理証明書
紛らわしいですが、通知書ではなく証明書です。
通知書を紛失した場合に、代わりに使うこともできます。
相続手続をする場合に、相続放棄申述受理証明書が必要なときがあります。
詳しくは『相続放棄申述受理証明書が必要になる場面は少ない』でご確認ください。
2‐3.相続放棄の申述照会
遺産分割協議をする場合には、相続人全員が参加しないと無効になります。
そのため、相続放棄をしているか、確認する必要があります。
相続人は利害関係人として、家庭裁判所に相続放棄の有無を確認することができます。
照会手数料は無料です。
3.相続放棄に関する注意点
相続放棄に関しては勘違いも多いので『相続放棄の勘違い』でまとめています。
3‐1.相続放棄と相続分の放棄
遺産分割協議において、自分の相続分を放棄することができます。
しかし、相続分の放棄をしても、相続人の地位は失わないので、借金は払う必要があります。
相続放棄は、家庭裁判所への申述が必要です。
相続分の放棄と間違えると、相続放棄の期限を過ぎてしまうので注意してください。
勘違いすると取り返しがつかないので『相続放棄と相続分の放棄は違う』で確認しておいてください。
3‐2.3ヶ月の期間を過ぎそうな場合
財産調査に時間がかかりそうな場合は、期間延長の申し立てもできます。
ただし、必ず認められるわけではないです。
『相続放棄の期間延長』を読んで確認してください。
3‐3.未成年の場合
未成年者は自分では相続放棄をすることができません。
親が代わりに相続放棄をすることになります。
ただし、親と子どもが相続人の場合は、利益相反に該当する場合があります。
①親と子どもが同時に、相続放棄をする場合
同時にする場合は、該当しません。
②子どもだけが、相続放棄をする場合
利益相反になるので、特別代理人を選任する必要があります。
特別代理人の選任を、家庭裁判所に申し立ててください。
3‐4.法定単純承認
一定の行為をすると単純承認をしたとみなされて、放棄することができなくなります。
単純承認とは、プラスもマイナスも全部相続することです。
単純承認とみなされる場合
①3ヶ月以内に限定承認・相続放棄をしなかった場合
何もせずに期間が経過すると単純承認とみなされます。
②相続財産を処分した場合
預貯金を引き出して自分のために使うや、不動産を処分してしまうと単純承認とみなされます。
③相続財産を隠した場合
相続財産を隠して、相続放棄の手続きをすると単純承認とみなされます。
隠すことは自分の物だと認める行為です。
④遺産分割協議に合意した場合
遺産分割協議に合意してしまうと、単純承認とみなされます。
合意することは、相続を前提とした行為です。
単純承認とみなされない場合
①葬儀費用を払った場合
相続財産から葬儀費用を払っても、一般常識の範囲内であれば基本的にはみなされないです。
ただし、判断するのは家庭裁判所なので、絶対ではないことに注意してください。
②借金を自分の財産で支払った場合
亡くなった人の借金を、自分のお金で払っても単純承認とはみなされません。
ただし、相続財産から払うと、単純承認とみなされる恐れがあります。
3‐5.その他
①生前にすることはできない
相続開始前に借金があることが判明していても、相続開始前には相続放棄はできません。
自分は相続しないと意思表示していても、相続放棄の効果はありませんので注意してください。
②全員が放棄することもできる
すべての相続人が、相続放棄をすることはできます。
最後の1人が責任を、押し付けられるわけではないです。
すべての相続人が相続放棄した場合は、最終的には国に帰属します。
③撤回することはできない
相続放棄をすると、たとえ3ヶ月以内であっても撤回することはできません。
財産があったので気が変わった等も、認められません。
④生命保険金
相続放棄をしても、自分が受取人の生命保険金は受け取れます。
自分が受取人になっている生命保険は、相続財産ではないので受け取ることができます。
受取人を亡くなった人にしていた場合は、生命保険金は相続財産になります。
そのため、相続放棄をすると受け取ることができません。
⑤代襲相続
相続放棄をした場合は、代襲相続は起こりません。
親が相続放棄をしても、子どもに相続が回ってくるわけではないです。
ただし、誰かが相続放棄をした結果、自分の親が相続人になる場合は注意が必要です。
なぜなら、すでに親が亡くなっていると、代襲相続が起るからです。
相続放棄と代襲相続の関係については『相続放棄をしても代襲相続は起こらないが無関係ではない』で解説しています。
⑥自己破産との関係
亡くなった人の借金を相続してしまい、自己破産を考える人もいると思います。
注意点は相続する前に自分の借金で、すでに自己破産している場合です。
原則として、7年間は自己破産できません。
自己破産されている人は、相続放棄を忘れると大変ですので必ず確認してください。
4.さいごに
亡くなった人の借金を相続したい人は、あまりいないと思います。
あるいは、相続に関わりたくない人もいます。
相続放棄は相続財産に手を付けずに、3ヶ月以内に申述すれば認められます。
手続きの準備には時間がかりますし、時間が経過すると単純承認のリスクもあります。
借金を相続する気が無い人は、1日でも早く手続きをしてください。