相続財産の中に一部不要な財産があっても、相続放棄では解決できません。
なぜなら、財産を選んで放棄する手続きではないからです。
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一部の財産だけ相続放棄はできないので、全財産を相続するか、全財産を放棄するかです。
ただし、実質的に財産の一部を放棄する方法は存在します。
今回の記事では、一部財産の相続放棄について説明しているので、悩みを解決する参考にしてください。
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1.一部放棄という相続は存在しない
相続財産の一部だけ放棄するという相続は存在しません。
したがって、以下のような希望は、相続放棄では実現できないです。
- 実家だけ放棄したい
- 土地の一部だけ放棄したい
- 借金(マイナス)だけ放棄したい
1-1.実家だけ放棄はできない
亡くなった人が住んでいた建物(実家)は不要だが、預貯金は相続したいと希望する人もいます。
ですが、実家だけ放棄はできないので、預貯金も諦めるか、実家も含めて相続するかです。
【事例1】
被相続人|父親
相続人 |長男
相続財産|実家・宅地・預貯金
宅地の売却に目途が立っているので、実家を含めて相続を選んだ。
【事例2】
被相続人|父親
相続人 |長男
相続財産|実家・宅地・預貯金
宅地の売却額も低く、自宅の取り壊し費用も高いので、預貯金を諦めて相続放棄した。
相続財産の一部である実家が不要の場合、取り壊し費用も考慮したうえで、相続または相続放棄の判断をしてください。
1-2.土地の一部だけ放棄はできない
亡くなった人が土地を複数所有していた場合、不要な土地(田畑や山林)だけ放棄したいと希望する人もいます。
ですが、土地の一部だけ放棄はできないので、田畑や山林も含めて相続するか、その他の土地も含めて放棄するかです。
【事例1】
被相続人|父親
相続人 |配偶者・子ども
相続財産|家・宅地・田畑
配偶者や子どもが生活するのに家と宅地が必要なので、田畑は不要だったが相続した。
【事例2】
被相続人|父親
相続人 |長男・長女
相続財産|家・宅地・田畑
相続放棄|長女
長男は家と宅地が必要だったので相続したが、長女は持家があり不動産が不要だったので相続放棄した。
土地の一部が不要な場合は、必要な土地と比較して、相続放棄するか決めてください。
1-3.借金(マイナス)だけ放棄はできない
亡くなった人にプラスとマイナスの財産がある場合、マイナスだけ放棄はできません。
例えば、定期預金(700万円)と借金(500万円)だった場合です。
相続すれば借金の返済義務を引き継ぎますし、相続放棄すれば定期預金も相続できません。
相続財産の一部である借金だけ放棄はできないので、プラスとマイナスを比較して判断してください。
関連記事を読む『相続放棄すれば借金の返済義務も引き継がない』
2.相続放棄とは相続を放棄する手続き
勘違いしやすいのですが、相続放棄とは財産を放棄する手続きではなく、相続を放棄する手続きです。
したがって、相続放棄した人は、相続財産の一部ではなく全部を取得できません。
- すべての相続財産を相続できない
- 知らなかった財産も相続できない
- 申述書に書かなかった財産も相続できない
2-1.すべての相続財産を相続できない
相続放棄した人は相続人ではないので、結果として何も相続できません。
以下は、民法の条文です。
第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。 第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
相続財産を相続するのは相続人なので、相続放棄した人は含まれないです。
相続財産の一部が不要でも、その他の財産が必要であれば、相続を選んだ方が良いでしょう。
2-2.知らなかった財産も相続できない
相続財産の一部を知らなかったとしても、家庭裁判所に申述書が受理されると、相続放棄は有効に成立します。
なぜなら、相続財産を知っているかどうかは、条件に含まれていないからです。
- 相続財産を消費していない
- 3ヶ月以内に申述書を提出する
たとえ知らなかった財産があっても、上記の条件を満たしていれば、相続放棄により相続人ではなくなります。
相続財産を調べる義務はありませんが、後悔する人は調査しておいてください。
関連記事を読む『相続放棄は財産が不明でも可能なので無理に探す必要はない』
2-3.申述書に書かなかった財産も相続できない
相続放棄を検討している人から、以下のような質問を受けたことがあります。

不要な財産だけ申述書に書いたらどうなりますか?
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書かなかった財産も放棄になります
勘違いしやすいのですが、申述書には知っている財産を書くのであって、放棄する財産を書くわけではありません。
相続放棄すると相続人ではないので、申述書に書いていない財産も相続できないです。
申述書に不要な財産だけしか書いていなくも、相続放棄は有効に成立するので気を付けてください。
3.財産の一部が不要な場合の注意点
相続財産の一部が不要な場合、注意点が3つあります。
- 一部でも処分すると単純承認
- 3ヶ月経過すると相続放棄できない
- 事情に関わらず撤回は禁止
3-1.一部でも処分すると単純承認
相続財産が複数ある場合、早まって処分しないよう注意してください。
なぜなら、一部でも財産を処分すると、単純承認したとみなされるからです。
以下は、民法の条文です。
第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。 一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
【事例】
被相続人|父親
相続人 |長男
相続財産|不動産(宅地と田畑)
長男は不動産を処分しようとしたが、宅地しか処分できなかった。
田畑が処分できないので、相続放棄を検討したが、宅地を処分しているので認められなかった。
一部でも相続財産を処分すると、相続放棄できなくなります。
相続財産が複数ある場合、相続または相続放棄の判断をするまでは、財産の処分をしないでください。
3-2.3ヶ月経過すると相続放棄できない
相続財産の一部が不要な場合でも、結論は3ヶ月以内に出す必要があります。
なぜなら、相続の開始を知った日から3ヶ月経過すると、相続放棄できなくなるからです。
以下は、民法の条文です。
第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。 (省略) 二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。 第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。(省略)
相続する場合は別ですが、相続放棄したいと思っても、3ヶ月経過していると認められません。
相続放棄が選べる期間は決まっているので、後回しにせず判断してください。
関連記事を読む『相続放棄の期間は3ヶ月以内|絶対に経過しないよう早めに行動』
3-3.事情に関わらず撤回は認められない
一部放棄できると勘違いして相続放棄した場合でも、撤回は認められません。
以下は、民法の条文です。
(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し) 第九百十九条 相続の承認及び放棄は、第九百十五条第一項の期間内でも、撤回することができない。
【事例】
被相続人|A
相続財産|預貯金(500万円)、田畑
相続放棄|B
Bは田畑が不要だったので相続放棄しました。
ですが、預貯金も相続できないと知り、撤回しようとしたが認められなかった。
一部の財産が不要だったとしても、相続放棄が認められた後は撤回できません。
たとえ預貯金等が高額であっても、撤回できないので注意してください。
関連記事を読む『相続放棄の撤回は認められない!事情に関わらず禁止されている』
4.一部の相続人だけ相続放棄できる


相続は各相続人が個別に判断するので、一部の相続人だけ相続放棄するのは問題ありません。
- 他の相続人の同意は不要
- 法定相続分の計算をやり直す
- 相続人の順位変更に注意
4-1.他の相続人の同意は不要
一部の相続人が相続放棄する場合でも、他の相続人の同意は不要です。
相続放棄は個別の手続きなので、他の相続人が反対していても、手続き上は何の問題もありません。
【事例】
被相続人|父親
相続人 |長男・二男・三男
相続放棄|二男・三男
相続財産|預貯金・田畑
長男は全員で田畑の処分を考えたかったので、二男と三男の相続放棄には反対していた。
ですが、二男と三男は田畑を相続したくないので、預貯金を諦めて相続放棄した。
他の相続人が相続放棄に反対していても、相続放棄するかどうかは本人の自由です。
相続財産の中に不要な物がある場合、他の相続人がどうするかも気にした方が良いでしょう。
関連記事を読む『相続放棄は単独でもできる!1人だけ放棄することも可能』
4-2.法定相続分の計算をやり直す
一部の相続人だけ相続放棄した場合、法定相続分の計算もやり直します。
なぜなら、相続放棄により相続人の人数も変更になるからです。
【事例1】
相続人が子ども3人(A・B・C)で、Cだけ相続放棄した場合。
A | B | C |
---|---|---|
3分の1 | 3分の1 | 3分の1 |
2分の1 | 2分の1 | 相続放棄 |
相続人が3人から2人に変わるので、法定相続分も3分の1から2分の1に変わります。
【事例2】
相続人が配偶者と子ども2人(A・B)で、Bだけ相続放棄した場合。
配偶者 | A | B |
---|---|---|
2分の1 | 4分の1 | 4分の1 |
2分の1 | 2分の1 | 相続放棄 |
相続人が3人から2人に変わりますが、配偶者の法定相続分は変わりません。
一部の相続人だけ相続放棄した場合は、法定相続人の人数に変更が発生するので、計算をやり直してください。
関連記事を読む『相続放棄により法定相続分が変更【計算をやり直す】』
4-3.相続人の順位変更に注意


一部の相続人だけ相続放棄する場合、相続人の順位変更に注意してください。
配偶者以外が全員相続放棄すると、先順位から後順位に相続人が変更するからです。
- 第1順位|子ども
- 第2順位|直系尊属
- 第3順位|兄弟姉妹
【事例】
相続人 |配偶者・子ども
相続放棄|子ども
家族関係|被相続人には兄がいる
子どもが相続放棄すると、亡くなった人の兄に相続が移ります。
したがって、配偶者と兄が相続人になります。
相続人の一部だけが相続放棄した結果、意図せずに順位変更が起きているケースもあります。
相続人の順位変更を知らない人も多いので、相続放棄する前に確認しておいてください。
関連記事を読む『相続放棄すると次順位の相続人に負債等が移ってしまう』
5.実質的に財産の一部を放棄する方法
相続財産の一部だけ「相続放棄」はできません。
ただし、その他の方法で、実質的に財産の一部を放棄する方法はあります。
- 遺産分割協議で取得者を決める
- 限定承認で負債の負担額に制限
- 生前に不要な財産を処分しておく
- 相続土地国庫帰制度を利用する
どの方法にもメリット・デメリットがあるので、しっかりと確認しておいてください。
5-1.遺産分割協議で取得者を決める
相続人が複数人いる場合、遺産分割協議で財産の取得者を決めます。
したがって、財産の一部が不要でも、他の相続人が取得してくれるなら問題ありません。
被相続人 |父
相続人 |長男・二男・長女
相続財産 |預貯金(500万円)・田畑
法定相続分|各3分の1
長男と長女は田畑が不要だったので、二男に預貯金の2分の1(250万円)を取得させる代わりに、田畑を二男に相続してもらった。
相続人同士の話し合いで解決できるなら、相続放棄を選ぶ必要はありません。
もちろん、不要な財産を誰も欲しがらなければ、遺産分割協議では解決できないです。
5-2.限定承認で負債の負担額に制限


相続(単純承認)すると、亡くなった人の借金を全額返済する義務も承継します。
一方、限定承認であれば、プラスの財産を限度として、マイナス(借金等)の財産を負担します。
マイナスの財産が多いケース


プラスの財産が預貯金(500万円)で、マイナスの財産が借金(1,000万円)の場合、相続人が負担するのは借金の一部である500万円です。
マイナスの財産が多い場合は、限定承認によりマイナスの財産を一部放棄したようになります。
プラスの財産が多いケース


プラスの財産が預貯金(1,000万円)で、マイナスの財産が借金(500万円)の場合、相続人が負担するのは借金の全部である500万円です。
プラスの財産が多い場合は、限定承認してもマイナスの財産を全額負担します。
単純承認と相続放棄どちらも選べない場合は、限定承認も候補に挙がります。
以下の記事では、相続放棄と限定承認の違いを説明しているので参考にしてください。
関連記事を読む『【相続放棄と限定承認の違い】9つの項目で比較』
5-3.生前に不要な財産を処分しておく
生前に不要な財産を処分しておけば、相続発生後の短い期間で悩む必要もありません。
相続が発生すると3ヶ月以内に決める必要があります。一方、生前であれば期間制限はないので、被相続人と協力して処分の方法を考えれます。
たとえ生前に処分はできなくても、費用や引取り先の目安がついていれば、相続発生後に慌てる必要もないです。
あらかじめ不要な財産が分かっているなら、生前に処分しておきましょう。
5-4.相続土地国庫帰属制度を利用する
不要な相続財産が土地であれば、相続土地国庫帰属制度も一部放棄の方法となり得ます。
- 相続土地国庫帰属制度
-
相続した土地を負担金の支払いを条件に国へ帰属させる制度
例えば、相続財産の中に処分できない田畑があっても、負担金を支払えば国に引き取ってもらえます。
※その他の要件も満たす必要はある。
注意点としては、相続した土地が対象であり、実家等の建物は対象外な点です。また、土地によっては要件を満たせないケースもあるので、すべての土地が対象になるわけではありません。
相続財産の一部に不要な土地がある場合は、相続土地国庫帰属制度も検討してみてください。
6.不要な財産があるなら専門家に相談
亡くなった人の財産に不要なものがあるなら、専門家に相談してみてください。同じような悩みを解決した事例を持っているかもしれません。
以下は、私が実際に相談を受けた事例です。
※家族構成等は変更しています。
- 相続財産の範囲を間違えていた
- 相続人が連帯保証人になっていた
みかち司法書士事務所では、相続放棄の依頼・相談を1,000件以上受けていますので、悩みがあればお気軽にお問い合わせください。
事例1|相続財産の範囲を間違えていた
1つ目は、相続財産の範囲を間違えていた事例です。
被相続人|兄
相続人 |弟・妹
相続財産|建物(実家)・宅地
生命保険|妹が受取人
妹は不動産が不要だったので相続放棄したかったが、生命保険金が受け取れなくなると勘違いしていました。生命保険金は契約により受け取る財産であり、原則として相続財産に含まれません。
相続放棄しても生命保険金は受け取れる旨を説明したところ、相続放棄を選んで悩みは解決できました。
相続財産の範囲を間違えている人は珍しくありません。相続放棄しても受け取れる財産はあるので、以下の記事を確認しておいてください。
関連記事を読む『【相続放棄をしても受け取れるもの】固有の権利で取得する財産7選』
事例2|相続人が連帯保証人になっていた
2つ目は、連帯保証人としての責任は残ると知らなかった事例です。
被相続人|父
相続人 |長男・二男
相続財産|預貯金(30万円)・退去費用(50万円)
連帯保証|長男が賃貸の連帯保証人
亡くなった父親には預貯金もあったが、賃貸マンションの退去費用が50万円だったので、相続放棄を検討していました。
ただし、長男は連帯保証人になっているので、相続放棄しても退去費用を請求されます。
※連帯保証人としての責任。
相続放棄では退去費用の問題が解決できない旨を説明したところ、その他の負債はなかったので、相続したうえで退去費用を支払って解決しました。
退去費用等を原因に相続放棄を検討している場合は、連帯保証人になっている人がいないか確認してください。相続放棄するより相続した方が良いケースもあります。
関連記事を読む『相続人が連帯保証人なら相続放棄しても責任は残るので注意』
7.まとめ
今回の記事では「財産の一部を相続放棄」について説明しました。
相続財産の一部放棄という相続はありません。全財産を相続するか、全財産を放棄するかです。
知らなかった財産や申述書に記載しなかった財産も、相続放棄すると相続できません。後から知らなかった財産が見つかっても、撤回はできないので注意してください。
一方、一部の相続人だけ相続放棄はできます。相続の判断は各相続人が自由にできるからです。
実質的に財産の一部を放棄する方法は、複数あるので確認しておいてください。
- 遺産分割協議で取得者を決める
- 限定承認で負債の負担額に制限
- 生前に不要な財産を処分しておく
- 相続土地国庫帰制度を利用する
相続財産の一部に不要な物がある場合は、専門家に相談してみましょう。