特定の財産だけ相続放棄したいと思うかもしれません。
ですが、財産を選んでの相続放棄は認められません。一部放棄はできないので、全部放棄するか全部相続するかです。
財産の一部を知らなかったとしても、相続放棄は有効に成立します。財産が見つかっても撤回はできません。
相続人が複数人存在しても、一部の相続人だけ相続放棄するのは問題ありません。
今回の記事では、一部の相続放棄について説明しているので、相続放棄の参考にしてください。
目次
1.相続放棄は一部ではなく全部の放棄
相続放棄すると一部ではなく、全部の財産を放棄します。
財産を選んで放棄する手続きではないので、相続放棄を検討しているなら注意してください。
1-1.不動産の一部だけ相続放棄はできない
亡くなった人が不動産を複数所有していた場合、特定の不動産だけ相続したいと思う人もいます。
ですが、不動産の一部だけ相続放棄はできません。全部の不動産を相続するか、または全部の不動産を放棄するかです。
【事例】
不動産Aの価値は1,000万円、不動産Bは倒壊寸前で取り壊しに200万円必要。
不動産の一部だけ相続放棄はできないので、不動産Aが欲しいのであれば、不動産Bも相続するしかありません。
【事例】
土地は100万の価値だが、建物を取り壊すのに200万円必要。
実質的に100万円のマイナスになるので、相続または相続放棄を慎重に検討してください。
必要な不動産と不要な不動産を比較して、相続するか判断してください。
1-2.借金の一部だけ相続放棄はできない
亡くなった人に複数の負債(借金等)が存在する場合、一部の負債だけ相続放棄はできません。
例えば、A会社から10万円の借入、B会社から1,000万円の借入がある場合です。
「A会社の負債は安いから相続して、B会社の負債は高いから相続放棄したい」
亡くなった人の負債も相続財産なので、一部だけ相続放棄はできません。
ただし、相続放棄ではなく、限定承認だと借金の一部だけ負担するケースがあります。【4.借金の一部だけを負担するケース】で説明しています。
関連記事を読む『相続放棄すれば借金の返済義務も引き継がない』
2.財産の一部を知らなくても相続放棄は成立
相続財産の一部を知らなかったとしても、家庭裁判所に申述書が受理されると、相続放棄は有効に成立します。
相続放棄の条件に財産の把握は含まれていません。
2-1.財産の一部を知らなくても相続放棄は撤回できない
相続放棄をした後に、知らなかった財産が見つかる可能性はあります。
ですが、知らなかったを理由に相続放棄は撤回できません。
※理由に関わらず相続放棄の撤回は認められない。
相続放棄の撤回は認められないので、財産の一部を知らなくても関係ありません。
財産の一部を知らなくても相続放棄は可能ですが、撤回はできないので注意してください。
関連記事を読む『相続放棄の撤回はできない【法律で禁止されている】』
2-2.相続放棄の申述書に財産の一部を書き忘れた
相続放棄の手続きを自分でした人から、以下のような質問を受けたことがあります。
「相続放棄の申述書に財産の一部を書き忘れました。相続になるのでしょうか?」
相続放棄の申述書に田畑を書き忘れたので、相続放棄できないかと不安になったそうです。
すでに説明しているとおり、相続放棄するとすべての財産を放棄します。相続放棄の申述書に書いたかどうかは関係ありません。
相続放棄の申述書に一部の財産を書いていなくても、相続放棄は有効に成立します。
関連記事を読む『相続放棄は財産が不明でも可能なので無理に探す必要はない』
3.一部の相続人だけ相続放棄するのは問題無い
相続放棄するかは各相続人の判断なので、一部の相続人だけ相続放棄するのは問題ありません。
3-1.相続放棄するのに他の相続人の同意は不要
相続人が複数人存在する場合でも、相続放棄するのに他の相続人の同意は不要です。
相続放棄は各相続人の手続きなので、他の相続人は関係ありません。仮に全員が相続放棄する場合でも、それぞれが手続きをする必要があります。
他の相続人が相続放棄に反対していても、相続放棄するかどうかは本人の自由です。
3-2.一部の相続人が相続放棄すると相続分変更
一部の相続人だけ相続放棄すると、法定相続分が変更になります。
なぜなら、相続放棄すると相続人ではないので、相続人の人数が変更になるからです。
【事例1】
相続人が子ども3人で、1人だけ相続放棄した場合。
子ども:3分の1→2分の1
子ども:3分の1→2分の1
子ども:3分の1→相続放棄
相続人の人数が3人から2人に変わるので、法定相続分も変わります。
【事例2】
相続人が配偶者と子ども2人で、子どもが1人だけ相続放棄した場合。
配偶者:2分の1→2分の1
子ども:4分の1→2分の1
子ども:4分の1→相続放棄
相続人の人数が3人から2人に変わりますが、配偶者の法定相続分は変わりません。
一部の相続人が相続放棄すると法定相続分に変更があるので、相続する人は間違えないように気を付けてください。
関連記事を読む『相続放棄により法定相続分が変更【計算をやり直す】』
4.借金の一部だけを負担するケース
相続放棄と違い限定承認では、借金(負債)の一部だけを負担するケースがあります。
どういうケースかというと、プラスの財産よりもマイナスの財産が多い場合です。
限定承認ではプラスの財産を限度として、マイナスの財産を負担します。
【事例1】マイナスの財産が多い場合
プラスの財産が500万円で、マイナスの財産が1,000万円の場合。
限定承認をした相続人が負担するのは、負債の一部である500万円です。
【事例2】プラスの財産が多い場合
プラスの財産が1,000万円で、マイナスの財産が500万円の場合。
限定承認をした相続人が負担するのは、負債の全部である500万円です。
どうしても相続放棄できない場合は、限定承認も検討してみましょう。
関連記事を読む『【相続放棄と限定承認の違い】9つの項目で比較』
5.まとめ
今回の記事では「一部の相続放棄」について説明しました。
一部の財産だけ相続放棄はできません。全部相続するか、または全部放棄するかです。
相続財産の一部を知らなかったとしても、相続放棄は有効に成立します。相続財産が後から見つかっても、相続放棄は撤回できません。
一部の相続人だけ相続放棄するのは問題ありません。相続放棄するかは各相続人が判断します。
相続放棄を検討しているなら、相続放棄の効力について確認しておきましょう。