父親が死亡した後に認知の訴えを提起するなら、死後認知について知っておく必要があります。
- 父親の死亡後3年経過すると提起できない
- 死後認知が認められたら戸籍の記載を自分で変更
- 遺産分割協議の終了後は価格請求のみ可能
上記以外にも、死後認知について知っておくべき情報は多いです。
今回の記事では、死後認知について説明しているので、ご存知ない部分があれば確認しておいてください。
1.死後認知の訴えを提起する
死後認知の訴えを提起する前に確認しておくことが4つあります。
- 父親の死亡日から3年以内
- 訴えを提起する裁判所
- 訴えの相手方
- 訴えにかかる費用
各項目を説明していきます。
1-1.死後認知には3年の時効(期間制限)がある
父親が生きている間の認知には時効がありません。出生から数十年経過していても、認知の訴えを提起することは可能です。
ですが、死後認知には3年という時効(期間制限)があります。
父親(母親)が死亡してから3年経過すると、死後認知の訴えを提起することはできません。
たとえ父親の死亡を知らなくても、死亡の日から3年経過すると死後認知の訴えはできなくなります。
まずは、父親の死亡日を確認してください。
1-2.認知の訴えを提起する裁判所は選べる
死後認知の訴えを提起する裁判所は、下記の2つから選べます。
- 父親の最後の住所地を管轄する裁判所
- 子どもの住所地を管轄する裁判所
父親の最後の住所地が遠いのであれば、自分の住所地を管轄する裁判所に訴えを提起しましょう。
1-3.訴える相手は父親ではなく検察官
父親はすでに死亡しているので、訴訟の相手方にはなりません。
では、誰が訴訟の相手方になるかというと、検察官が死後認知の訴訟相手になります。
弁護士に依頼している場合は別ですが、自分で訴状を作成する際は間違わないように注意しましょう。
1-4.死後認知の訴えを提起する費用
死後認知の訴えを提起するには、訴訟費用が発生します。
- 収入印紙代
- 予納郵券
- 鑑定費用
申立手数料は収入印紙で納める
死後認知の訴えは財産権上の請求ではないので、訴額は160万円とみなされます。
訴額が160万円の場合、申立手数料は1万3,000円となります。
したがって、収入印紙を1万3,000円分用意してください。
裁判所との連絡用切手を予納する
死後認知の訴えを提起する際には、裁判所との連絡用切手を予納します。
ただし、連絡用切手は家庭裁判所ごとに違い、内訳(種類や枚数)も指定されるので、必ず確認してから購入してください。
DNA鑑定を実施するなら鑑定費用
死亡している父親の親族がDNA鑑定に協力してくれるなら、鑑定費用も必要になります。
鑑定費用は約10万円となります。
2.死後認知が認められたら戸籍の記載を変更
死後認知の訴えが認められても、裁判所から市役所等に連絡はいきません。
ですので、死後認知の訴えが認められたら、判決確定日より10日以内に認知届を提出しなければなりません。
認知届を提出しなければ、戸籍の父親欄は空欄のままです。
認知届の提出先は、以下の役所から選べます。
- 父親の本籍地
- 子どもの本籍地
- 届出人の住所地
提出する役所により戸籍謄本の有無が変わります。
2-1.認知届には確定日の日付を記載
死後認知で提出する認知届書は市役所等で取得できます。ちなみに、認知届書は認知の種類に関わらず同じです。
以下は、大阪市の認知届出書です。
赤枠で囲んだ部分に判決確定日を記載する箇所があるので、忘れずに記載しておきましょう。
2-2.認知届と一緒に提出する書類
認知届と一緒に提出する書類には、以下があります。
- 判決書謄本および確定証明書
- 父親の戸籍謄本(提出先が父親の本籍地なら不要)
- 子どもの戸籍謄本(提出先が子どもの本籍地なら不要)
それぞれの本籍地で提出する場合は、戸籍謄本が省略できるメリットがあります。
父親の本籍地が遠方であれば、あらかじめ郵送で戸籍謄本を取得しておきましょう。
3.死後認知と遺産分割協議の関係
死後認知の訴えが認められると、死亡した父親との間に親子関係が発生するので、父親の相続人になります。
ただし、遺産分割協議との関係では注意が必要です。
3-1.遺産分割前なら遺産分割協議に参加できる
死後認知が認められた時点で遺産分割協議が終わっていなければ、相続人として遺産分割協議に参加できます。
遺産分割協議は相続人全員が合意しなければ無効なので、非嫡出子だからといって除外することはできません。
嫡出子と非嫡出子の法定相続分は同じなので、遺産分割協議で法定相続分を主張して大丈夫です。
認知により法定相続分が変更になるので、計算する際は注意してください。
関連記事を読む『認知により相続権が発生するので法定相続分の計算に注意』
3-2.遺産分割後なら価格請求のみ認められる
死後認知が認められた時点で遺産分割協議が終了している場合は、法定相続分に応じた価格請求(金銭請求)のみ認められます。
有効に成立した遺産分割協議を後からやり直すと、他の相続人に大きな負担がかかるので、代わりに金銭請求権を認めています。
価格請求はプラスの財産だけを計算
価格請求の基礎となる遺産の価格は、父親の相続財産のうち積極財産(プラスの財産)だけを対象にします。
例えば、父親の財産が預貯金3,000万円と借金1,000万円で、嫡出子2人が遺産分割協議を終了させている場合です。
非嫡出子が死後認知されることにより、法定相続人は子ども3人になります。
法定相続分は各3分の1なので、父親の積極財産(プラスの財産)3,000万円の3分の1を請求できます。
つまり、価格請求できる金額は1,000万円です。
3,000万円(預貯金)-1,000万円(借金)=2,000万円の3分の1ではありません。
そもそも、遺産分割協議の対象は積極財産だけなので、価格請求の対象も積極財産だけとなります。
注意マイナス財産は法定相続分に従って相続します。
相続財産の価格算定は請求時で判断
相続発生時より期間が経過していると、不動産や株券等の価格が変動していることもあります。
どの時点の価格で計算するかというと、価格請求をする時点での価格になります。
ですので、相続財産に不動産や株券がある場合は、請求時点の価格で計算します。
例えば、父親の財産が不動産(3,000万円)と預貯金3,000万円で、嫡出子2人が遺産分割協議を終了させている場合です。
非嫡出子が死後認知されることにより、法定相続人は子ども3人になります。
価格請求をする時点で不動産は2,000万円に値下がりしていました。
法定相続分は各3分の1なので、2,000万円(不動産)+3000万円(預貯金)=5,000万円の3分の1が請求できます。
つまり、価格請求できる金額は約1,666万円です。
3,000万円(不動産)+3,000万円(預貯金)=6,000万円の3分の1ではありません。
土地や株券の価格は変動しやすいので、請求する前に確認しておいてください。
4.さいごに
父親が死亡した後でも、認知の訴えを提起することはできます。
ただし、父親の死亡後3年経過すると、死後認知の訴えは提起できません。たとえ死亡を知らなくても提起できなくなります。
死後認知の訴えが認められたら、市役所等に認知届を提出します。裁判所からの連絡で戸籍が変更するわけではありません。
死後認知が認められた時点で遺産分割が終わってなければ、相続人として遺産分割協議に参加します。
一方、遺産分割が終わっていれば、法定相続分に応じた価格請求だけ認められます。
死後認知と相続は密接に関係しているので、相続手続きをする際は十分に注意してください。