死後認知とは父親が亡くなった後に認知を請求する手段

死後認知
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父親が死亡した後に認知の訴えを提起するなら、死後認知について知っておく必要があります。

  • 父親の死亡後3年経過すると提起できない
  • 死後認知が認められたら戸籍の記載を自分で変更
  • 遺産分割協議の終了後は価格請求のみ可能

上記以外にも、死後認知について知っておくべき情報は多いです。

今回の記事では、死後認知について説明しているので、ご存知ない部分があれば確認しておいてください。

目次

1.死後認知の訴えを提起する

死後認知の訴えを提起する前に確認しておくことが4つあります。

  • 父親の死亡日から3年以内
  • 訴えを提起する裁判所
  • 訴えの相手方
  • 訴えにかかる費用

各項目を説明していきます。

1-1.死後認知には3年の時効(期間制限)がある

父親が生きている間の認知には時効がありません。出生から数十年経過していても、認知の訴えを提起することは可能です。

ですが、死後認知には3年という時効(期間制限)があります。

(認知の訴え)
第七百八十七条 子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、認知の訴えを提起することができる。ただし、父又は母の死亡の日から三年を経過したときは、この限りでない。

出典:e-Govウェブサイト(民法787条)

父親(母親)が死亡してから3年経過すると、死後認知の訴えを提起することはできません。

たとえ父親の死亡を知らなくても、死亡の日から3年経過すると死後認知の訴えはできなくなります。

まずは、父親の死亡日を確認してください。

1-2.認知の訴えを提起する裁判所は選べる

死後認知の訴えを提起する裁判所は、下記の2つから選べます。

  • 父親の最後の住所地を管轄する裁判所
  • 子どもの住所地を管轄する裁判所

父親の最後の住所地が遠いのであれば、自分の住所地を管轄する裁判所に訴えを提起しましょう。

1-3.訴える相手は父親ではなく検察官

父親はすでに死亡しているので、訴訟の相手方にはなりません。

では、誰が訴訟の相手方になるかというと、検察官が死後認知の訴訟相手になります。

(被告適格)
第十二条 (省略)
3 前二項の規定により当該訴えの被告とすべき者が死亡し、被告とすべき者がないときは、検察官を被告とする。

出典:e-Govウェブサイト(人事訴訟法12条3項)

弁護士に依頼している場合は別ですが、自分で訴状を作成する際は間違わないように注意しましょう。

1-4.死後認知の訴えを提起する費用

死後認知の訴えを提起するには、訴訟費用が発生します。

  • 収入印紙代
  • 予納郵券
  • 鑑定費用

申立手数料は収入印紙で納める

死後認知の訴えは財産権上の請求ではないので、訴額は160万円とみなされます。

(訴訟の目的の価額等)
第四条 (省略)
2 財産権上の請求でない請求に係る訴えについては、訴訟の目的の価額は、百六十万円とみなす。

出典:e-Govウェブサイト(民事訴訟費用等に関する法律4条2項)

訴額が160万円の場合、申立手数料は1万3,000円となります。

したがって、収入印紙を1万3,000円分用意してください。

裁判所との連絡用切手を予納する

死後認知の訴えを提起する際には、裁判所との連絡用切手を予納します。

ただし、連絡用切手は家庭裁判所ごとに違い、内訳(種類や枚数)も指定されるので、必ず確認してから購入してください。

DNA鑑定を実施するなら鑑定費用

死亡している父親の親族がDNA鑑定に協力してくれるなら、鑑定費用も必要になります。

鑑定費用は約10万円となります。

2.死後認知が認められたら戸籍の記載を変更

死後認知の訴えが認められても、裁判所から市役所等に連絡はいきません。

ですので、死後認知の訴えが認められたら、判決確定日より10日以内に認知届を提出しなければなりません。

第六十三条 認知の裁判が確定したときは、訴を提起した者は、裁判が確定した日から十日以内に、裁判の謄本を添附して、その旨を届け出なければならない。その届書には、裁判が確定した日を記載しなければならない。

出典:e-Govウェブサイト(戸籍法63条)

認知届を提出しなければ、戸籍の父親欄は空欄のままです。

認知届の提出先は、以下の役所から選べます。

  • 父親の本籍地
  • 子どもの本籍地
  • 届出人の住所地

提出する役所により戸籍謄本の有無が変わります。

2-1.認知届には確定日の日付を記載

死後認知で提出する認知届書は市役所等で取得できます。ちなみに、認知届書は認知の種類に関わらず同じです。

以下は、大阪市の認知届出書です。

認知届(大阪市)

赤枠で囲んだ部分に判決確定日を記載する箇所があるので、忘れずに記載しておきましょう。

2-2.認知届と一緒に提出する書類

認知届と一緒に提出する書類には、以下があります。

  • 判決書謄本および確定証明書
  • 父親の戸籍謄本(提出先が父親の本籍地なら不要)
  • 子どもの戸籍謄本(提出先が子どもの本籍地なら不要)

それぞれの本籍地で提出する場合は、戸籍謄本が省略できるメリットがあります。

父親の本籍地が遠方であれば、あらかじめ郵送で戸籍謄本を取得しておきましょう。

3.死後認知と遺産分割協議の関係

死後認知と遺産分割協議の関係

死後認知の訴えが認められると、死亡した父親との間に親子関係が発生するので、父親の相続人になります。

ただし、遺産分割協議との関係では注意が必要です。

3-1.遺産分割前なら遺産分割協議に参加できる

死後認知が認められた時点で遺産分割協議が終わっていなければ、相続人として遺産分割協議に参加できます。

遺産分割協議は相続人全員が合意しなければ無効なので、非嫡出子だからといって除外することはできません。

嫡出子と非嫡出子の法定相続分は同じなので、遺産分割協議で法定相続分を主張して大丈夫です。

認知により法定相続分が変更になるので、計算する際は注意してください。

3-2.遺産分割後なら価格請求のみ認められる

死後認知が認められた時点で遺産分割協議が終了している場合は、法定相続分に応じた価格請求(金銭請求)のみ認められます。

(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)
第九百十条 相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。

出典:e-Govウェブサイト(民法910条)

有効に成立した遺産分割協議を後からやり直すと、他の相続人に大きな負担がかかるので、代わりに金銭請求権を認めています。

価格請求はプラスの財産だけを計算

相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において,他の共同相続人が既に当該遺産の分割をしていたときは,民法910条に基づき支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額は,当該分割の対象とされた積極財産の価額である。

出典:最高裁判所判例集(令和元年8月27日最高裁判所第三小法廷)

価格請求の基礎となる遺産の価格は、父親の相続財産のうち積極財産(プラスの財産)だけを対象にします。

例えば、父親の財産が預貯金3,000万円と借金1,000万円で、嫡出子2人が遺産分割協議を終了させている場合です。

非嫡出子が死後認知されることにより、法定相続人は子ども3人になります。

法定相続分は各3分の1なので、父親の積極財産(プラスの財産)3,000万円の3分の1を請求できます。

つまり、価格請求できる金額は1,000万円です。

3,000万円(預貯金)-1,000万円(借金)=2,000万円の3分の1ではありません。

そもそも、遺産分割協議の対象は積極財産だけなので、価格請求の対象も積極財産だけとなります。

注意マイナス財産は法定相続分に従って相続します。

相続財産の価格算定は請求時で判断

相続発生時より期間が経過していると、不動産や株券等の価格が変動していることもあります。

どの時点の価格で計算するかというと、価格請求をする時点での価格になります。

民法910条に基づき価額の支払を請求する場合における遺産の価額算定の基準時は、価額の支払を請求した時であると解するのが相当である。

出典:平成28年2月26日最高裁判決

ですので、相続財産に不動産や株券がある場合は、請求時点の価格で計算します。

例えば、父親の財産が不動産(3,000万円)と預貯金3,000万円で、嫡出子2人が遺産分割協議を終了させている場合です。

非嫡出子が死後認知されることにより、法定相続人は子ども3人になります。

価格請求をする時点で不動産は2,000万円に値下がりしていました。

法定相続分は各3分の1なので、2,000万円(不動産)+3000万円(預貯金)=5,000万円の3分の1が請求できます。

つまり、価格請求できる金額は約1,666万円です。

3,000万円(不動産)+3,000万円(預貯金)=6,000万円の3分の1ではありません。

土地や株券の価格は変動しやすいので、請求する前に確認しておいてください。

4.さいごに

父親が死亡した後でも、認知の訴えを提起することはできます。

ただし、父親の死亡後3年経過すると、死後認知の訴えは提起できません。たとえ死亡を知らなくても提起できなくなります。

死後認知の訴えが認められたら、市役所等に認知届を提出します。裁判所からの連絡で戸籍が変更するわけではありません。

死後認知が認められた時点で遺産分割が終わってなければ、相続人として遺産分割協議に参加します。

一方、遺産分割が終わっていれば、法定相続分に応じた価格請求だけ認められます。

死後認知と相続は密接に関係しているので、相続手続きをする際は十分に注意してください。

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