相続放棄に関することも民法の条文で定められています。
- 相続放棄の期間は3か月以内(民法915条)
- 相続放棄の撤回はできない(民法919条1項)
- 相続放棄には家庭裁判所の申述が必要(民法938条)
上記以外の相続放棄に関する決まりも、民法の条文に記載されています。
今回の記事では、相続放棄に関する民法について説明しているので、相続放棄をする際の参考にしてください。
目次
相続放棄の期間に関する条文
相続放棄の期間に関する条文は、民法915条から917条までの3つです。
相続放棄において期間は重要なので、条文を確認しておいてください。
相続放棄は3か月以内(民法915条)
民法915条では、相続放棄の期間が3か月以内であることを定めています。
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。
相続放棄の期間は、相続の開始を知った日から3ヶ月以内です。
相続放棄の手続きをせずに3ヶ月経過してしまうと、相続放棄をすることはできなくなります。
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相続放棄の期間延長(民法915条1項但し書き)
相続放棄の期間は3か月以内なのですが、家庭裁判所に期間延長の申立てができます。
ただし、期間延長の申立ても3か月以内なので、早めに行動する必要があります。
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相続放棄の前に財産調査できる(民法915条2項)
相続人は相続放棄をする前に、相続財産を調査することができます。
例えば、亡くなった人の預貯金口座を探すために、銀行に照会をすることも調査になります。
相続財産の調査をしても、相続放棄はできるので安心してください。
相続放棄をする前に亡くなった(民法916条)
民法916条では、相続人が相続放棄する前に亡くなった場合について定めています。
第九百十六条 相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第一項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。
相続人が相続放棄をする前に亡くなった場合、亡くなった相続人の相続人は相続の開始を知った日から3か月以内であれば、相続放棄をすることができます。
未成年や成年被後見人の相続放棄(民法917条)
民法917条では、相続人が未成年や成年被後見人だった場合の期間について定めています。
第九百十七条 相続人が未成年者又は成年被後見人であるときは、第九百十五条第一項の期間は、その法定代理人が未成年者又は成年被後見人のために相続の開始があったことを知った時から起算する。
相続人が未成年(18歳未満)や成年被後見人の場合、自分で相続放棄をすることができません。
そのため、相続放棄の期間も本人ではなく、親権者や後見人が相続の開始を知った日から3か月以内となります。
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相続放棄の撤回・取消し(民法919条)
民法919条では、相続放棄の撤回と取消しについて定めています。
(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)
第九百十九条 相続の承認及び放棄は、第九百十五条第一項の期間内でも、撤回することができない。
2 前項の規定は、第一編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない。
3 前項の取消権は、追認をすることができる時から六箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から十年を経過したときも、同様とする。
4 第二項の規定により限定承認又は相続の放棄の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
相続放棄は撤回できない(民法919条1項)
相続の開始を知った日から3か月以内であっても、家庭裁判所に相続放棄が受理されると撤回は認められません。
- 相続放棄後に気が変わった
- 相続放棄後に財産が見つかった
後から財産が見つかっても相続放棄の撤回はできないので、相続財産の調査はしておきましょう。
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他の規定による相続放棄の取消し(民法919条2項)
相続放棄に取消事由があれば、相続放棄を取消すことができます。
以下が、主な取消事由です。
- 詐欺または脅迫により相続放棄
- 成年被後見人が相続放棄した
- 保佐人の同意を得ずに相続放棄
相続放棄の行為に取消事由があるので、相続放棄を取消すことが可能です。
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相続放棄の取消しにも時効がある(民法919条3項)
相続放棄に取消事由があっても、一定期間経過すると時効により取消権は消滅します。
- 取り消せることを知った日から6カ月経過
- 相続放棄の日から10年経過
上記のどちらかに該当すると、取消事由があっても相続放棄は取り消せません。
相続放棄の取消しも家庭裁判所に申述(民法919条4項)
民法919条2項の規定により、相続放棄を取消す場合も家庭裁判所に申述が必要です。
何もしなければ、一定期間経過することにより取消権が消滅します。
相続放棄の手続き(民法938条)
民法938条では、相続放棄の手続きについて定めています。
(相続の放棄の方式)
第九百三十八条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
相続人が相続放棄をするには、相続放棄申述書を家庭裁判所に提出しなければなりません。
相続人同士の話し合いや書面の作成では、相続放棄は成立していないです。
間違えやすいのですが、「相続分の放棄」は別の法律行為なので注意してください。
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相続放棄の効力(民法939条)
民法939条では、相続放棄の効力について定めています。
(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
相続放棄をすると、初めから相続人にならなかったとみなされます。
その結果、先順位相続人が全員相続放棄すると、次順位相続人に相続が移ります。
例えば、亡くなった人に子どもがいても、全員相続放棄すると直系尊属や兄弟姉妹が相続人です。
次順位相続人と交流があるなら、相続放棄を連絡しておくことも検討しましょう。
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相続放棄した人の管理(民法940条)
民法940条では、相続放棄した人の管理について定めています。
(相続の放棄をした者による管理)
第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
2 第六百四十五条、第六百四十六条並びに第六百五十条第一項及び第二項の規定は、前項の場合について準用する。
令和5年4月1日の法改正により、大きく変わった条文となります。
相続放棄した人は相続財産を現に占有していた場合、相続財産を引き継ぐまで財産を保存する必要があります。
つまり、相続財産を占有していなかった人には、財産の保存義務もありません。
ただし、法改正前の相続放棄に関しては、依然として曖昧なままです。
関連記事を読む『【相続放棄後の管理義務】法改正後は責任者が明確になる』
さいごに
相続放棄に関することも民法に定められています。
- 相続放棄の期間(民法915条・916条・917条)
- 相続放棄の撤回・取消し(民法919条)
- 相続放棄の手続き(民法938条)
- 相続放棄の効力(民法939条)
- 相続放棄後の管理義務(民法940条)
相続放棄について分からないことがあれば、まずは民法の条文を確認しましょう。
そして、条文を読んでも分からない部分があれば、お気軽にお問い合わせください。