相続放棄の取消しはできるケースがあります。
相続放棄の撤回は認められないのですが、取消事項に該当している場合は別です。
ただし、相続放棄の取消しができる期間も決まっているので、後回しにせず手続きを済ませましょう。
今回の記事では、相続放棄の取消しについて説明しているので、あなたの相続放棄が該当しているか確認してください。
目次
1.相続放棄の申述に取消事由がある
相続放棄の申述に取消事由があれば、相続放棄を取消すことができます。
民法919条で相続放棄の撤回はできないと定めていますが、第2項で取消しができる場合について定めています。
(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)
第九百十九条 相続の承認及び放棄は、第九百十五条第一項の期間内でも、撤回することができない。
2 前項の規定は、第一編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない。
以下が、主な取消事由です。
- 詐欺または脅迫があった
- 成年被後見人が相続放棄した
- 保佐人の同意を得ていない
それぞれ民法の条文で取消しが認められています。
1-1.詐欺または脅迫により相続放棄
第3者の詐欺または脅迫により相続放棄しているなら、相続放棄は取り消すことができます。
(詐欺又は強迫)
第九十六条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
例えば、財産を独り占めにしたい他の相続人に脅されて相続放棄をした場合等です。
強迫による相続放棄なので、相続放棄は取り消すことができます。
1-2.成年被後見人が相続放棄をした
後見人は成年被後見人がした行為(日常生活に関する行為を除く)を取消すことができます。
(成年被後見人の法律行為)
第九条 成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。
成年被後見人が相続放棄をしているなら、後見人は相続放棄(法律行為)を取消すことができます。
1-3.保佐人の同意を得ずに相続放棄
被保佐人が保佐人の同意を得ずに相続放棄しているなら、保佐人は相続放棄を取消すことができます。
(保佐人の同意を要する行為等)
第十三条 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。(中略)
六 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
(中略)
4 保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。
相続放棄は保佐人の同意を要する行為に該当するので、保佐人は相続放棄を取消すことができます。
関連記事を読む『民法13条1項(保佐人の同意が必要な重要な法律行為)』
2.相続放棄の取消し期間は決まっている
相続放棄の申述に取消事由があっても、取消しができる期間は決まっています。
相続放棄の取消期間を過ぎると、取消権は時効により消滅します。
(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)
第九百十九条 (省略)
3 前項の取消権は、追認をすることができる時から六箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から十年を経過したときも、同様とする。
- 追認できるときから6ヶ月経過
- 相続放棄のときから10年経過
上記のどちらかに該当すると、相続放棄は取り消すことができません。
2-1.追認できる時から6ヶ月経過で取消権は消滅
追認できる時から6ヶ月経過すると、相続放棄の取消権は時効により消滅します。
- 追認
- 不完全な法律行為を後から完全に有効にする意思表示のこと
例えば、第3者の詐欺により相続放棄したのであれば、詐欺に気付いてから6ヶ月経過すると取消権は消滅します。
取消権者が相続放棄を放置している以上、相続放棄を認めたと判断されます。
2-2.相続放棄から10年経過で取消権は消滅
相続放棄から10年経過すると、相続放棄は取り消すことができません。
例えば、第3者の詐欺により相続放棄した場合であっても、相続放棄から10年経過すると詐欺に気付いてなくても取消権は消滅します。
相続放棄の取消しが長期間可能になると、他の相続人や債権者に与える影響が大きいからです。
3.相続放棄の取消しも家庭裁判所の手続き
相続放棄の申述が取消事由に該当していても、取り消さなければ相続放棄は有効です。
そして、相続放棄を取り消すには、家庭裁判所に取消しを申述する必要があります。
(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)
第九百十九条 (省略)
4 第二項の規定により限定承認又は相続の放棄の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
相続放棄の取消しの申述とは、家庭裁判所に相続放棄取消申述書を提出することです。
家庭裁判所に相続放棄取消申述書を提出すると、家庭裁判所より照会書が届くので、指定期間内に返送してください。
※省略されることもあります。
家庭裁判所に取消事由が認められれば、相続放棄取消申述受理通知書が届きます。
4.相続放棄は詐害行為取消権で取り消せない
相続人(債務者)が相続放棄した場合に、債権者が相続放棄を詐害行為取消権で取消すことはできません。
例えば、亡くなった人に財産があるのに、相続人(債務者)が相続放棄した場合です。
たとえ債務者に返済する財産が無くても、相続放棄の取消しは認められません。
以下は、最高裁判所の判例です。
相続の放棄は、民法四二四条の詐害行為取消権行使の対象とならない。
相続放棄するかどうかは相続人が決めることであり、債権者が相続を強制することはできません。
関連記事を読む『相続放棄は詐害行為に該当しない【周辺知識も徹底解説】』
5.さいごに
相続放棄の申述が取消事由に該当している場合は、相続放棄を取消すことが可能です。
ただし、相続放棄の取消しができる期間は限られます。
- 取り消しができる時から6ヶ月
- 相続放棄から10年
どちらかの期間を経過すると、相続放棄の取消しをすることはできません。
相続放棄の取消しをしたい場合は、期間経過前に家庭裁判所で手続きをしてください。