亡くなった人の相続人が未成年だった場合、相続放棄の手続きに注意してください。
なぜなら、未成年者ではなく法定代理人(親権者等)が、代わりに手続きをするからです。
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親権者等も相続人の場合、利益相反に該当すると親権者等は代理できません。特別代理人を選任する必要があります。
今回の記事では、未成年者の相続放棄について詳細に説明しているので、しっかりと確認しておいてください。
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1.未成年でも相続財産を引き継ぐ
亡くなった人の相続人が未成年であっても、相続財産を引き継ぎます。
ただし、相続財産には借金等も含まれるので注意が必要です。
- 借金等の支払い義務も負う
- 相続放棄すると相続人ではない
1-1.借金等の支払い義務も負う
亡くなった人に借金等があれば、相続人が未成年でも支払い義務を負います。
なぜなら、相続人は権利義務をすべて引き継ぐからです。
以下は、民法の条文です。
第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
【事例】
被相続人|父親
相続人 |長男(未成年)
相続財産|借金(1,000万円)
相続人は長男だけなので、未成年でも借金1,000万円の支払い義務を負います。
未成年であっても借金を相続するので、相続財産の内容はしっかりと確認する必要があります。
亡くなった人の借金を相続したくないなら、相続放棄を検討してください。
1-2.相続放棄すると相続人ではない
相続放棄の手続きをした未成年者は、相続財産を引き継ぎません。
なぜなら、相続人ではないからです。
以下は、民法の条文です。
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
相続放棄した人は、初めから相続人ではないので、亡くなった人に借金等があっても関係ありません。
借金等が多いなら相続ではなく、相続放棄を選んだ方が良いでしょう。
2.未成年者は相続放棄の手続きができない
亡くなった人に借金があっても、未成年者は相続放棄の手続きができません。
なぜなら、相続放棄の手続きをするには、「手続行為能力」が必要だからです。
- 未成年者は手続行為能力を欠いている
- 法定代理人が代わりに手続きする
2-1.手続行為能力を欠いている
未成年者は手続行為能力を欠いているので、自分では手続きができません。
以下は、家事事件手続法の条文です。
(当事者能力及び手続行為能力の原則等)
第十七条 当事者能力、家事事件の手続における手続上の行為(以下「手続行為」という。)をすることができる能力(以下この項において「手続行為能力」という。)、手続行為能力を欠く者の法定代理及び手続行為をするのに必要な授権については、民事訴訟法第二十八条、第二十九条、第三十一条、第三十三条並びに第三十四条第一項及び第二項の規定を準用する。
家事事件手続法17条で民事訴訟法31条を準用しています。
以下は、民事訴訟法の条文です。
(未成年者及び成年被後見人の訴訟能力)
第三十一条 未成年者及び成年被後見人は、法定代理人によらなければ、訴訟行為をすることができない。ただし、未成年者が独立して法律行為をすることができる場合は、この限りでない。
上記2つの条文をまとめると、以下のようになります。
未成年者は、法定代理人によらなければ、家事事件(相続放棄)の手続きができない。
未成年者は判断能力が未熟なこともあり、単独での法律行為を認めると不利益が発生します。相続放棄も法律行為なので、未成年者ではなく法定代理人が代わりに行います。
2-2.法定代理人が代わりに手続きする
未成年者の法定代理人とは、親権者または未成年後見人です。
- 親権者
-
親権を行使する人で一般的には子の父母が親権者になっている
- 未成年後見人
-
子の親権者がいない場合に家庭裁判所が選任する後見人のこと
つまり、相続人が未成年の場合、親権者または未成年後見人が相続放棄の手続きをします。
次章からは、相続放棄の手続きについて説明していきます。
3.親権者等がする相続放棄の手続き

親権者(未成年後見人)がする相続放棄の手続きについて説明します。
- 家庭裁判所に申述書を提出する
- 申述書には親権者等も記載する
- 親権者等が知った日から3ヶ月以内
- 申立手数料は収入印紙で800円分
- 相続や親権者等も戸籍で証明する
3-1.家庭裁判所に申述書を提出する
相続放棄は家庭裁判所に申述書を提出しない限り、絶対に認められません。
- 相続人同士の話し合い
- 債権者への意思表示
相続人同士の話し合いで、未成年者は相続放棄すると決めても、申述書を提出しなければ相続人のままです。
また、親権者等が債権者に対して意思表示をしても、何の効力も発生しません。
家庭裁判所に申述書を提出する以外の方法では、相続放棄は成立しないので注意してください。
関連記事を読む『【相続放棄の手続きは家庭裁判所】その他の方法では成立しない』
3-2.申述書には親権者等も記載する
未成年者が相続放棄する場合、申述書の記載には気を付けてください。
未成年者や亡くなった人だけでなく、親権者等も申述書に記載する必要があるからです。
以下は、相続放棄申述書の一部です。
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間違えやすいのですが、申述人欄に記載するのは未成年者の情報です。
一方、親権者等の情報は法定代理人等の欄に記載します。
- 申述人 |未成年者
- 法定代理人等|親権者等
- 被相続人 |亡くなった人
あくまでも、相続放棄するのは未成年者で、代わりに手続きしているのが親権者等です。
3-3.親権者等が知った日から3ヶ月以内
相続放棄の申述書は、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に提出する必要があります。
ただし、未成年者の相続放棄に関しては、未成年者ではなく親権者等が相続の開始を知った日から3ヶ月以内となります。
以下は、民法の条文です。
第九百十七条 相続人が未成年者又は成年被後見人であるときは、第九百十五条第一項の期間は、その法定代理人が未成年者又は成年被後見人のために相続の開始があったことを知った時から起算する。
「被相続人の死亡」や「先順位相続人の相続放棄」を、親権者等が知ってから3ヶ月以内です。
未成年者ではなく親権者等で判断するので、提出期間を判断する際は注意してください。
関連記事を読む『相続放棄の期間は3ヶ月以内|絶対に経過しないよう早めに行動』
3-4.申立手数料は収入印紙で800円分
相続放棄に必要な申立手数料は、未成年者1人につき800円です。相続財産の内容等は関係ありません。
ただし、申立手数料は現金ではなく、収入印紙(800円分)で納めます。
申立てには予納郵券(約550円)も必要になるので、郵便局で一緒に購入するのが楽です。
収入印紙と予納郵券については、下記の記事で詳しく説明しています。
関連記事を読む『相続放棄の収入印紙と予納郵券を図を用いて説明』
3-5.相続や親権者等も戸籍で証明する
相続放棄で必要になる戸籍等は、亡くなった人により違います。
以下は、基本となる親が亡くなった場合の戸籍です。
- 被相続人の戸籍(死亡記載)
- 被相続人の住民票
- 未成年者の戸籍(相続放棄する人)
- 親権者等の戸籍
親権者や未成年後見人の戸籍も添付書類となります。
ただし、同じ戸籍は1枚で大丈夫なので、未成年者と親権者が同じ戸籍なら、2枚提出する必要はありません。
亡くなった人が祖父母やおじ・おばの場合は、必要な戸籍も増えるので、以下の記事を参考にしてください。
関連記事を読む『相続放棄には戸籍謄本が必要!誰がするかで枚数が違う』
4.親権者も未成年後見人も存在しない
相続人である未成年者に親権者が存在せず、かつ、未成年後見人も選任されていない場合について説明します。親権者や未成年後見人が存在する場合は、次の章に飛ばしてください。
どのようなケースかというと、亡くなった人が親権者だった場合です。
以下は、民法の条文です。
第八百三十八条 後見は、次に掲げる場合に開始する。 一 未成年者に対して親権を行う者がないとき、又は親権を行う者が管理権を有しないとき。 二 後見開始の審判があったとき。
子の親権者が亡くなると、親権を行う者がいなくなるので、後見が開始します。
4-1.未成年後見人を選任してから相続放棄
親権者が亡くなった場合、相続が発生した時点では未成年後見人が選任されていません。
まずは、未成年後見人の選任申立てをする必要があります。
- 家庭裁判所|未成年者の住所地
- 申立人 |未成年者や親族
- 添付書類 |未成年者の戸籍等
- 申立手数料|収入印紙で800円分
未成年後見人が選任されたら、3ヶ月以内に相続放棄の申述書を提出してください。
4-2.未成年者の年齢によっては成人を待つ
未成年者の年齢によっては、未成年後見人を選任せずに、成人するのを待つという考えもあります。
例えば、未成年者が後数ヶ月で成人するのであれば、成人するのを待って自分で相続放棄した方が良いでしょう。
未成年者に法定代理人(親権者・未成年後見人)が存在しない間は、3ヶ月の期間もスタートしません。成人してから3ヶ月以内に相続放棄すれば大丈夫です。
未成年者の年齢によっては、選択肢の一つとして知っておいてください。
5.利益相反だと親権者等は手続きできない
未成年者の相続放棄は、親権者等が手続きすると説明しました。
ただし、未成年者と親権者等が利益相反に該当すると、親権者等は相続放棄の手続きができません。
以下は、民法の条文です。
第八百二十六条 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
家庭裁判所に選任された特別代理人が、親権者等に代わって手続きをします。
5-1.利益相反に該当するケース
未成年者と親権者が、相続放棄で利益相反に該当するケースは2つあります。
- 未成年者だけが相続放棄
- 特定の未成年者だけが相続放棄
未成年者だけが相続放棄する

未成年者と親権者が共同相続人で、未成年者だけが相続放棄する行為は利益相反に該当します。
なぜなら、未成年者は相続財産が取得できないのに、親権者は取得できるからです。
たとえ相続放棄の理由が借金であっても、外形で利益相反と判断されるので、親権者は手続きできません。
特定の未成年者だけが相続放棄する

未成年者が複数人存在する場合で、特定の未成年者だけが相続放棄する場合です。
相続放棄しない未成年者の相続分が増えるので、利益相反と判断されます。
ちなみに、未成年者のうち1人は親権者が代理できるので、その他の未成年者を特別代理人が代理して手続きします。
5-2.利益相反に該当しないケース
未成年者と親権者が共同相続人であっても、以下のケースでは利益相反に該当しません。
- 親権者も一緒に相続放棄する
- 親権者だけが相続放棄する
親権者と未成年者が一緒に相続放棄する
親権者と未成年者が一緒に相続放棄するなら、利益相反には該当しません。
※親権者が先で未成年者が後でも同じ。
なぜなら、未成年者だけでなく、親権者も相続財産を取得しないからです。
【事例】
被相続人|父親
相続人 |配偶者(親権者)、子(未成年)
相続財産|借金(3,000万円)
相続人である配偶者(親権者)と子が相続放棄する場合、利益相反には該当しません。
一般的に、亡くなった人に借金がある場合、親権者も一緒に相続放棄するケースが多いです。
関連記事を読む『特別代理人を相続放棄のために選任する機会は少ない』
親権者だけが相続放棄する
滅多にないケースですが、親権者だけ相続放棄する場合も、利益相反には該当しないです。
あくまでも外形で判断するので、親権者だけが放棄する理由は関係ありません。
6.特別代理人が未成年者の相続放棄

未成年者と親権者が利益相反に該当する場合、特別代理人が未成年者を代理して相続放棄します。
- 特別代理人の選任は親権者が申立人
- 選任されてから3ヶ月以内に手続き
- 申述書には特別代理人も記載
- 戸籍だけでなく選任審判書も添付
6-1.特別代理人の選任は親権者が申立人
特別代理人の選任申立ては、親権者が申立人になれます。
- 家庭裁判所|未成年者の住所地
- 添付書類 |親権者や未成年者の戸籍
- 申立手数料|収入印紙で800円分
特別代理人が選任されないと、未成年者は相続放棄できないので、速やかに申立てをしてください。
特別代理人の選任申立てについては、下記の記事で詳しく説明しています。
関連記事を読む『特別代理人の選任申立ての方法を知っておこう』
6-2.選任されてから3ヶ月以内に手続き
特別代理人が相続放棄できる期間は、選任されてから3ヶ月以内になります。
なぜなら、特別代理人は選任時から相続の開始を知っているからです。
【事例】
被相続人|父親
相続人 |配偶者(親権者)、子(未成年)
死亡日 |令和7年1月12日
選任日 |令和7年4月6日
特別代理人は選任された日から3ヶ月以内に、相続放棄の申述書を家庭裁判所に提出してください。
親族等を特別代理人にする場合は、期間(3ヶ月)を前もって説明しておいてください。
6-3.申述書には特別代理人も記載
特別代理人が相続放棄の手続きをする場合、申述書の法定代理人等には特別代理人を記載してください。
以下は、相続放棄申述書の一部です。
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上記のひな形であれば、3に〇をして右側に特別代理人と記入します。
- 申述人 |未成年者
- 法定代理人等|特別代理人
- 被相続人 |亡くなった人
申述人(相続放棄する人)は未成年者なので、間違わないように注意してください。
6-4.戸籍だけでなく選任審判書も添付
特別代理人が相続放棄の手続きをする場合、戸籍だけでなく選任審判書も添付書類となります。
なぜなら、特別代理人は戸籍に記載されないからです。特別代理人は選任審判書で証明します。
- 被相続人の戸籍(死亡記載)
- 被相続人の住民票
- 未成年者の戸籍(相続放棄する人)
- 選任審判書
選任審判書以外の戸籍については、原則どおり必要になるので注意してください。
7.相続放棄の依頼も親権者等がする
未成年者の相続放棄も専門家(司法書士・弁護士)に依頼できます。
専門家への依頼も親権者等が法定代理人として可能です。
専門家に依頼した場合は、戸籍等の取得や申述書の作成・提出も代わりに行ってくれます。
みかち司法書士事務所では、未成年者が複数人の場合、親権者の負担を軽減するため、2人目以降の料金を大幅に下げています。
未成年者が複数人いるなら、必ず料金を確認してください。
8.未成年者の相続放棄に関する注意点
未成年者の相続放棄に関する注意点も説明しておきます。
- 申述書は未成年者の人数分必要
- 未成年者の相続放棄で順位変更
- 知らなかった財産も取得できない
8-1.申述書は未成年者の人数分必要
相続放棄する未成年者が複数の場合、申述書も人数分作成する必要があります。
例えば、相続人が未成年者AとBであれば、Aの申述書とBの申述書を作成してください。
申立手数料である収入印紙800円も、それぞれの申述書に貼り付けます。まとめて貼らないよう注意してください。
ちなみに、未成年者が複数であっても、同じ戸籍は1枚で大丈夫です。
8-2.未成年者の相続放棄で順位変更

亡くなった人に借金等がある場合、未成年者(第1順位)が相続放棄すると、直系尊属(第2順位)や兄弟姉妹(第3順位)に借金等が移ります。
※成人している子が相続する場合は除く。
なぜなら、未成年者は初めから相続人ではないからです。
【事例】
被相続人|父親
第1順位|子(未成年者)
第2順位|父親の両親は先に亡くなる
第3順位|父親の弟
未成年者が相続放棄すると、父親の弟が相続人になります。
亡くなった人の直系尊属や兄弟姉妹と交流があるなら、相続放棄する旨を教えてあげた方が良いでしょう。
関連記事を読む『相続放棄すると次順位の相続人に負債等が移ってしまう』
8-3.知らなかった財産も取得できない

相続放棄した未成年者は相続人ではないので、知らなかった財産(預貯金や不動産)があっても取得できません。
相続放棄とは財産を選んで放棄するのではなく、相続自体を放棄する手続きだからです。
したがって、親権者等は手続きをする前に、しっかりと相続財産を確認しておいてください。
9.まとめ
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今回の記事では「未成年者の相続放棄」について説明しました。
亡くなった人に借金等があれば、相続人が未成年であっても支払い義務を引き継ぎます。相続財産を引き継ぎたくないら、相続放棄の手続きをしてください。
- 未成年者は手続きができない
- 親権者が代わりに手続きする
- 親権者がいないなら未成年後見人
- 利益相反なら特別代理人が手続きする
未成年者は相続放棄の手続きができないので、親権者等が代わりに手続きします。
親権者が亡くなった場合は、未成年後見人を選任してから、手続きをしてください。
未成年者と親権者等が利益相反に該当する場合は、特別代理人を選任して手続きをします。
未成年者が相続放棄する場合は、誰が代わりに手続きするのか確認してください。
未成年者の相続放棄に関するQ&A
- 未成年後見人が2人いる場合はどうなりますか?
-
共同代理になるので、2人とも申述書に記載してください。
- 親権者が相続放棄せずに3ヶ月経過するとどうなりますか?
-
未成年者も単純承認したとみなされます。
- 子どもが胎児でも相続放棄できますか?
-
相続放棄が必要であれば、出生後に手続きをしてください。
- 甥姪が未成年者の場合はどうなりますか?
-
子の場合と同じく親権者等が法定代理人として相続放棄できます。