限定承認はデメリットが多いので、ほとんどの専門家は説明すら省略します。限定承認を知らない人が多い理由の一つです。
ただし、どんな制度にもメリットとデメリットがあります。限定承認も例外ではありません。
限定承認のメリットが、あなたの希望と一致するかもしれません。あるいは、限定承認のデメリットが、あなたには該当しないかもしれません。
今回の記事では、限定承認のメリットとデメリットを4つずつ説明しているので、相続する際の参考にしてください。
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1.限定承認のデメリット4選
まずは、限定承認のデメリットから説明します。
限定承認の利用件数が少ないのは、デメリットも大きく関係しています。
主なデメリットは、以下の4つです。
- 相続人全員の同意が必要
- 清算手続きは手間がかかる
- 限定承認の費用が高額になる
- 依頼を受ける事務所が少ない
それぞれ説明していきます。
1-1.限定承認は相続人全員の同意が必要
限定承認のデメリット1つ目は、相続人全員の同意が必要です。
限定承認は相続放棄と違い、相続人単独ではできません。相続人全員の同意が必要となります。
以下は、民法の条文です。
相続人全員の同意がデメリットになるのは、以下のようなケースが考えられます。
- 相続人同士が疎遠である
- 一部の相続人が単純承認をした
相続人同士が疎遠だと連絡が取りにくい
亡くなった人の相続人全員と連絡が取れるのであれば問題無いですが、連絡が取れないと限定承認が難しくなります。
なぜなら、たとえ消息不明の相続人がいたとしても、限定承認には相続人全員の同意が必要だからです。
限定承認をするために相続人全員と連絡を取り、説明して理解してもらうのは困難だと思います。連絡が取れない相続人がいるなら、期間延長の申立ても検討しましょう。
関連記事を読む『限定承認は全員で行う必要がある|連絡を忘れずにしておこう』
一部の相続人が単純承認とみなされた
限定承認は相続人全員の同意が必要なので、1人でも単純承認したとみなされると利用できません。
あなたも単純承認するか、単独で相続放棄の手続きを取るかの2択となります。
1人でも単純承認とみなされると、限定承認は利用できないので注意してください。
関連記事を読む『相続放棄が認められない|単純承認とみなされる3つの行為』
1-2.限定承認の清算手続きに手間がかかる
限定承認のデメリット2つ目は、限定承認の清算手続きに手間がかかるです。
限定承認を利用した場合は、債務の清算手続きをしなければなりません。
ですが、債務の清算手続きは非常に面倒なので、負債の内容によってはデメリットになります。
詳しい説明は別記事でしますが、以下のような作業があります。
- 限定承認の官報公告
- 知れてる債権者へ個別の催告
- 相続財産の換価手続き
- 債権者への弁済
間違えやすいのですが、家庭裁判所は清算手続きをしてくれません。相続人が自分で進めていきます。
相続人が自分で調べて清算手続きをするのは難しいので、専門家に依頼せざるを得ないです。
関連記事を読む『限定承認の流れは5つの項目に分けることができる』
1-3.限定承認の費用は高額になりやすい
限定承認のデメリット3つ目は、費用が高額になりやすいです。
限定承認の費用は、単純承認や相続放棄に比べて高額です。
プラスの財産が明らかにマイナス財産より多くなければ、結果的に収支はマイナスになります。
限定承認の主な費用には、以下があります。
- 専門家報酬
- 官報公告掲載料
- その他の手続き費用
専門家報酬は高額
限定承認の手続きを自分でする人は少ないです。ほとんどのケースで弁護士・司法書士に委任して進めています。
専門家に委任すると報酬が発生しますが、はっきり言って高額です。着手金で約30万円ぐらいですし、成功報酬も必要となります。
相続放棄を専門家に依頼しても数万円なので、比較にならないぐらい差があります。
官報公告掲載料
家庭裁判所に限定承認の申述が認められた後は、債権者に対する請求申出を官報で行います。
費用自体は相続財産から支払えるのですが、掲載料が約5万円発生します。
関連記事を読む『限定承認には官報公告が必要なので手順を確認しておこう』
その他の手続き費用
限定承認に関する、その他の費用としては以下があります。
- 相続財産の調査費用
- 相続財産の管理費用
- 知れている債権者への連絡費用
相続財産が多ければ、それだけ費用は増えます。
関連記事を読む『限定承認の費用を4つに分類|財産の内容により金額が違う』
1-4.限定承認を依頼できる事務所が少ない
限定承認のデメリット4つ目は、限定承認を依頼できる事務所が少ないです。
限定承認の専門家報酬が高額なことにも関係するのですが、限定承認を依頼できる事務所は少ないでしょう。
なぜかというと、限定承認自体の件数が少ないので、一部の事務所のみが依頼を受けている状態だからです。ほとんどの事務所は限定承認を扱ったことがありません。
そのため、価格競争が起こらないので、限定承認の報酬額を高額に設定しやすいです。
※手間がかかるので高額になるのも事実です。
限定承認に興味があっても、高額な報酬を理由に諦めている人は存在します。
限定承認の年間件数
限定承認の年間件数は少ないですが、相続放棄と比べてどれぐらい差があるのかご存知でしょうか。
以下の表は2016年から2020年までの件数比較です。
年 | 限定承認 | 相続放棄 |
---|---|---|
2016 | 753 | 197,766 |
2017 | 722 | 205,909 |
2018 | 709 | 215,320 |
2019 | 657 | 225,415 |
2020 | 675 | 234,732 |
<参考資料:司法統計>
限定承認の件数は約700件で推移しています。日本全体で約700件なので、一部の事務所しか依頼を受けていないのも納得です。
※限定承認を自分で申請した分も含む。
自分でするのが難しい
限定承認を事務所に依頼するのではなく、自分でしようと考える人もいます。
ですが、ほとんどの人は諦めています。
なぜかというと、限定承認の配当(弁済)手続きなどは、民法にも記載されていないからです。専門家は破産法なども参考にしながら、配当手続きを進めています。
一般の人が破産法まで調べて限定承認をするのは難しいので、限定承認を諦めています。
関連記事を読む『限定承認に関する民法の条文【922条から937条】』
2.限定承認のメリット4選
次は、限定承認のメリットについて説明します。
ほとんどの相続人は、限定承認のメリットを知らないまま単純承認(相続放棄)を選びます。
ただし、限定承認のメリットを知っていたら、限定承認を選んでいた相続人もいるはずです。
主なメリットは以下の4つです。
- 借金の負担額に限度がある
- 先買権の行使により優先的に財産を取得
- 後から見つかった財産も相続できる
- 相続人の順位は変更しない
それぞれ説明していきます。
2-1.負債(借金等)の負担額に限度がある
限定承認のメリット1つ目は、負債の負担額に限度があるです。
限定承認では亡くなった人のプラスの財産を限度として、亡くなった人のマイナス財産(借金等)を負担します。
例えば、プラスの財産が500万円でマイナス財産が1,000万円だとします。
限定承認をした相続人は500万円を限度としてマイナス財産を負担します。500万円を超える部分に関しては負担しません。
プラスの財産が多ければ相続できる
限定承認をした結果、プラスの財産の方が多いこともあります。
プラスの財産に関しては、マイナス財産を超える部分についても相続できます。
例えば、知らない借金のリスクがあるので限定承認をしたが、結果として借金が無くても問題ありません。
プラスの財産が多くても限定承認を選べます。
単純承認と相続放棄の負担額
限定承認・単純承認・相続放棄の3つについて、借金の負担額を比較してみました。
例として、プラスの財産は500万円、マイナスの財産は1000万円のケースです。
相続方法 | プラス(500万円) | マイナス(1,000万円) |
---|---|---|
単純承認 | 500万円 | 1000万円 |
相続放棄 | 0円 | 0円 |
限定承認 | 500万円 | 500万円 |
単純承認なら全額負担で、相続放棄なら0円となります。限定承認はプラスの財産(500万円)を限度として負担します。
2-2.先買権を行使して優先的に財産を取得できる
限定承認のメリット2つ目は、先買権を行使して優先的に財産を取得できるです。
限定承認をすると、プラスの財産でマイナスの財産を清算する手続きに進みます。金銭だけで負債を返済できない場合には、不動産等を競売にかけて換価したうえで返済します。
ただし、限定承認した相続人は、鑑定人が鑑定した評価額を支払うことで、不動産等を優先して取得できます。
居住用不動産を確保できる
借金の方が明らかに多くても、住んでいる不動産を手放したくない相続人もいます。相続放棄をすると不動産も手放すことになります。
限定承認をすれば、優先的に不動産を購入する権利を取得するので、不動産を確保することが可能となります。
ただし、不動産を購入する資金は自分の財産から用意する必要があります。
形見の動産(宝石・絵画等)を確保できる
先買権は不動産だけではなく、動産に対しても行使できます。
先祖代々受け継いでいる宝石等も、先買権を行使することで確保できます。
2-3.後から発見された財産も相続できる
限定承認のメリット3つ目は、後から発見された財産も相続できるです。
限定承認をした後で、プラスの財産が見つかるかもしれません。限定承認しておけば、後から見つかった財産も相続できます。
なぜなら、限定承認はマイナス財産の負担額に条件を付けているだけで、相続であることに変わりはないからです。
例えば、プラスの財産もマイナスの財産も見つかる可能性があれば、限定承認をしておくメリットがあります。
相続放棄では後から財産が見つかっても相続できませんが、限定承認なら相続できます。
関連記事を読む『限定承認なら相続のリスクを抑えることが可能 』
2-4.限定承認なら相続人の順位は変更しない
限定承認のメリット4つ目は、相続人の順位は変更しないです。
本当は相続放棄したいが、相続人の順位が変更することで悩んでいる人もいます。親戚に迷惑をかけたくないや、親戚が高齢なので手続きが難しいなどです。
限定承認であれば、相続人の順位は変更しません。したがって、親戚に迷惑をかけることもありません。
単純承認も相続放棄も選べない場合は、限定承認を選ぶメリットがあります。
関連記事を読む『相続放棄したいが親戚に迷惑をかけたくないなら方法は3つ』
3.さいごに
今回の記事では「限定承認のメリットとデメリット」について説明しました。
どんな制度にもメリットとデメリットがあります。限定承認も例外ではありません。
限定承認のデメリットとしては、以下の4つがあります。
- 相続人全員の同意が必要
- 清算手続きは手間がかかる
- 限定承認の費用が高額になる
- 依頼を受ける事務所が少ない
限定承認のメリットとしては、以下の4つがあります。
- 借金の負担額に限度がある
- 優先的に財産を確保できる
- 後から見つかった財産も相続できる
- 相続人の順位は変更しない
限定承認のメリットとデメリットを知ったうえで、専門家に相談してみましょう。