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限定承認に関する民法の条文【922条から937条】

限定承認と民法
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限定承認に関することも民法の条文で定められています。

  • 限定承認の方式(民法924条)
  • 限定承認者の財産管理(民法926条)
  • 相続債権者等に対する公告(民法927条)

上記以外に関することも、民法の条文に記載されています。

今回の記事では、限定承認に関する民法について説明しているので、限定承認をする際の参考にしてください。

目次

  1. 限定承認とは(民法922条)
  2. 限定承認は相続人全員(民法923条)
  3. 限定承認の方式(民法924条)
  4. 被相続人に対する権利義務(民法925条)
  5. 限定承認者による相続財産の管理(民法926条)
  6. 相続債権者等に対する公告・催告(民法927条)
  7.  相続債権者等に対する弁済
    1. 公告期間満了前の弁済は拒絶(民法928条)
    2. 公告期間満了後に弁済(民法929条)
    3. 期限前の債務等も弁済(民法930条)
    4. 受遺者に対する弁済(民法931条)
  8. 限定承認の換価手続き
    1. 弁済のための相続財産の換価(民法932条)
    2. 相続債権者等の換価手続きへの参加(民法933条)
  9. 不当な弁済による限定承認者の責任(民法934条)
  10. 公告期間内に申し出なかった相続債権者等(民法935条)
  11. 相続人が複数人いる場合は相続財産清算人(民法936条)
  12. 限定承認者に法定単純承認の事由(民法937条)
  13. さいごに

限定承認とは(民法922条)

民法922条では、限定承認について定めています。

(限定承認)
第九百二十二条 相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。

出典:e-Govウェブサイト(民法922条)

限定承認の特徴である、相続によって得た財産を限度にして、債務の弁済をすると定められています。

相続したプラスの財産を限度に負債を負担

たとえ負債が1億円であっても、相続で得た財産が100万円であれば、100万までしか負債を弁済する義務を負いません。

限定承認は条件(負債の負担額)付きの相続といえます。

 

限定承認は相続人全員(民法923条)

民法923条では、相続人が複数人存在する場合について定めています。

(共同相続人の限定承認)
第九百二十三条 相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。

出典:e-Govウェブサイト(民法923条)

相続人が複数人いる場合、限定承認は全員で行う必要があります。他の相続人を無視して限定承認はできません。

1人でも反対すると限定承認は選べない

そのため、仲の悪い共同相続人がいると、限定承認を選ぶのは難しいでしょう。

 

限定承認の方式(民法924条)

民法924条では、限定承認の方式について定めています。

(限定承認の方式)
第九百二十四条 相続人は、限定承認をしようとするときは、第九百十五条第一項の期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。

出典:e-Govウェブサイト(民法924条)

限定承認をするには、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に、家庭裁判所に申述書を提出する必要があります。

限定承認の申述書を提出する前に3ヶ月経過すると、単純承認したとみなされます。限定承認するなら、絶対に期限を間違えないようにしてください。

 

被相続人に対する権利義務(民法925条)

民法925条では、被相続人に対して有した権利義務について定めています。

(限定承認をしたときの権利義務)
第九百二十五条 相続人が限定承認をしたときは、その被相続人に対して有した権利義務は、消滅しなかったものとみなす。

出典:e-Govウェブサイト(民法925条)

相続人が限定承認しても、被相続人に対して有していた権利義務は消滅しません。

例えば、被相続人に対して債権を有しているなら、限定承認をしても弁済は受けれます。
※債権の証明は必要です。

一方、被相続人に対して有していた義務も残る点には注意してください。

 

限定承認者による相続財産の管理(民法926条)

民法926条では、相続財産の管理について定めています。

(限定承認者による管理)
第九百二十六条 限定承認者は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理を継続しなければならない。
2 第六百四十五条、第六百四十六条、第六百五十条第一項及び第二項並びに第九百十八条第二項及び第三項の規定は、前項の場合について準用する。

出典:e-Govウェブサイト(民法926条)

限定承認者は清算手続きが終了するまで、相続財産の管理を継続する必要があります。

また、限定承認者の財産管理については、委任の規定が準用されています。

  • 報告義務
  • 引渡し義務
  • 費用の償還請求

上記以外にも準用されている規定があるので、限定承認する場合は気を付けてください。

 

相続債権者等に対する公告・催告(民法927条)

民法927条では、相続債権者等に対する公告・催告について定めています。

(相続債権者及び受遺者に対する公告及び催告)
第九百二十七条 限定承認者は、限定承認をした後五日以内に、すべての相続債権者(相続財産に属する債務の債権者をいう。以下同じ。)及び受遺者に対し、限定承認をしたこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、二箇月を下ることができない。
2 前項の規定による公告には、相続債権者及び受遺者がその期間内に申出をしないときは弁済から除斥されるべき旨を付記しなければならない。ただし、限定承認者は、知れている相続債権者及び受遺者を除斥することができない。
3 限定承認者は、知れている相続債権者及び受遺者には、各別にその申出の催告をしなければならない。
4 第一項の規定による公告は、官報に掲載してする。

出典:e-Govウェブサイト(民法927条)

限定承認者は家庭裁判所に限定承認の申述が受理されたら、官報により限定承認の公告をする必要があります。官報公告の期間は2ヶ月以上です。

ただし、知れている(判明している)債権者には、個別に申し出の催告をしてください。

 

相続債権者等に対する弁済

民法928条~931条では、相続債権者等に対する弁済について定めています。

  • 民法928条:広告期間満了前の弁済
  • 民法929条:広告期間満了後の弁済
  • 民法930条:期限前の債務も弁済
  • 民法931条:受遺者に対する弁済

それぞれ説明していきます。

公告期間満了前の弁済は拒絶(民法928条)

民法928条では、公告期間満了前の弁済拒絶について定めています。

(公告期間満了前の弁済の拒絶)
第九百二十八条 限定承認者は、前条第一項の期間の満了前には、相続債権者及び受遺者に対して弁済を拒むことができる。

出典:e-Govウェブサイト(民法928条)

限定承認者は官報公告の期間が満了する前は、相続債権者等に対して弁済を拒めます。

公告期間が満了する前に弁済しても有効ですが、相続債権者等に損害が発生すると限定承認者は責任を負います。

公告期間満了後に弁済(民法929条)

民法929条では、広告期間満了後の弁済について定めています。

(公告期間満了後の弁済)
第九百二十九条 第九百二十七条第一項の期間が満了した後は、限定承認者は、相続財産をもって、その期間内に同項の申出をした相続債権者その他知れている相続債権者に、それぞれその債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。ただし、優先権を有する債権者の権利を害することはできない。

出典:e-Govウェブサイト(民法929条)

限定承認者は広告期間満了後に、債権額の割合に応じて相続債権者に弁済します。

相続財産よりも相続債権の方が多い場合は、弁済する際に按分計算が必要なので注意してください。

期限前の債務等も弁済(民法930条)

民法930条では、期限前の債務等について定めています。

(期限前の債務等の弁済)
第九百三十条 限定承認者は、弁済期に至らない債権であっても、前条の規定に従って弁済をしなければならない。
2 条件付きの債権又は存続期間の不確定な債権は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って弁済をしなければならない。

出典:e-Govウェブサイト(民法930条)

限定承認の清算手続きにより弁済する債権には、弁済期に至らない債権も含まれます。

また、条件付きの債権や存続期間の不確定な債権は、家庭裁判所の選任した鑑定人の評価にしたがって弁済します。

上記の債権を間違えて清算手続きから除外すると、限定承認者は責任を負います。

受遺者に対する弁済(民法931条)

民法931条では、受遺者に対する弁済について定めています。

(受遺者に対する弁済)
第九百三十一条 限定承認者は、前二条の規定に従って各相続債権者に弁済をした後でなければ、受遺者に弁済をすることができない。

出典:e-Govウェブサイト(民法931条)

相続債権者と受遺者が存在する場合、相続債権者に対して弁済をした後でなければ、受遺者に弁済できません。

ですので、相続財産よりも負債の方が多ければ、受遺者は財産(遺贈の対象物)を取得できないです。

 

限定承認の換価手続き

民法932条と933条では、相続財産の換価手続きについて定めています。

弁済のための相続財産の換価(民法932条)

民法932条では、弁済するための換価手続きについて定めています。

(弁済のための相続財産の換価)
第九百三十二条 前三条の規定に従って弁済をするにつき相続財産を売却する必要があるときは、限定承認者は、これを競売に付さなければならない。ただし、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い相続財産の全部又は一部の価額を弁済して、その競売を止めることができる。

出典:e-Govウェブサイト(民法932条)

現金や預貯金等では債務を支払えない場合、相続財産(不動産や動産)を競売にかける必要があります。

ただし、鑑定人の評価額を支払うことで、競売を止めることができます。民法932条ただし書きで定めているのが、限定承認の先買権です。

相続債権者等の換価手続きへの参加(民法933条)

民法933条では、相続債権者等の換価手続きへの参加について定めています。

(相続債権者及び受遺者の換価手続への参加)
第九百三十三条 相続債権者及び受遺者は、自己の費用で、相続財産の競売又は鑑定に参加することができる。この場合においては、第二百六十条第二項の規定を準用する。

出典:e-Govウェブサイト(民法933条)

相続債権者等は、自己費用で相続財産の競売・鑑定に参加できます。

 

不当な弁済による限定承認者の責任(民法934条)

民法934条では、不当な弁済による限定承認者の責任について定めています。

(不当な弁済をした限定承認者の責任等)
第九百三十四条 限定承認者は、第九百二十七条の公告若しくは催告をすることを怠り、又は同条第一項の期間内に相続債権者若しくは受遺者に弁済をしたことによって他の相続債権者若しくは受遺者に弁済をすることができなくなったときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。第九百二十九条から第九百三十一条までの規定に違反して弁済をしたときも、同様とする。
2 前項の規定は、情を知って不当に弁済を受けた相続債権者又は受遺者に対する他の相続債権者又は受遺者の求償を妨げない。
3 第七百二十四条の規定は、前二項の場合について準用する。

出典:e-Govウェブサイト(民法934条)

清算手続きのルールを守らずに弁済をした結果、相続債権者等に損害が発生すれば、限定承認者は責任を負います。

  • 官報公告や催告を怠った
  • 期間経過前に弁済した
  • 按分計算を間違えた
  • 支払いの順番を間違えた

限定承認するなら、清算手続き(弁済)には十分に注意してください。

 

公告期間内に申し出なかった相続債権者等(民法935条)

民法935条では、公告期間内に申し出をしなかった債権者等について定めています。

(公告期間内に申出をしなかった相続債権者及び受遺者)
第九百三十五条 第九百二十七条第一項の期間内に同項の申出をしなかった相続債権者及び受遺者で限定承認者に知れなかったものは、残余財産についてのみその権利を行使することができる。ただし、相続財産について特別担保を有する者は、この限りでない。

出典:e-Govウェブサイト(民法935条)

民法927条1項の期間内(2ヶ月以上)に申し出をせず、かつ、限定承認者に知れなかった債権者等は、残余財産についてのみ権利を行使できます。

したがって、清算手続きにより相続財産が残らなければ、債権者等は権利を行使できません。

 

相続人が複数人いる場合は相続財産清算人(民法936条)

民法936条では、相続人が複数人いる場合の、相続財産清算人について定めています。

(相続人が数人ある場合の相続財産の清算人)
第九百三十六条 相続人が数人ある場合には、家庭裁判所は、相続人の中から、相続財産の清算人を選任しなければならない。
2 前項の相続財産の清算人は、相続人のために、これに代わって、相続財産の管理及び債務の弁済に必要な一切の行為をする。
3 第九百二十六条から前条までの規定は、第一項の相続財産の清算人について準用する。この場合において、第九百二十七条第一項中「限定承認をした後五日以内」とあるのは、「その相続財産の清算人の選任があった後十日以内」と読み替えるものとする。

出典:e-Govウェブサイト(民法936条)

限定承認した相続人が複数人存在する場合、家庭裁判所は相続人の中から相続財産清算人を選任します。候補者がいるなら、申述書に記載しておきましょう。

そして、選任された相続財産清算人が、限定承認の清算手続き(管理・弁済)を行います。

限定承認者(単独の場合)と相続財産清算人(複数の場合)では、限定承認の清算手続きに違いがあるので注意してください。

 

限定承認者に法定単純承認の事由(民法937条)

民法937条では、限定承認者の中に法定単純承認に該当する人がいる場合について定めています。

(法定単純承認の事由がある場合の相続債権者)
第九百三十七条 限定承認をした共同相続人の一人又は数人について第九百二十一条第一号又は第三号に掲げる事由があるときは、相続債権者は、相続財産をもって弁済を受けることができなかった債権額について、当該共同相続人に対し、その相続分に応じて権利を行使することができる。

出典:e-Govウェブサイト(民法937条)
  • 民法921条1号:限定承認前に相続財産の処分
  • 民法921条3号:限定承認後に相続財産の隠匿等

限定承認の申述をしていても、法定単純承認に該当する相続人は、相続分に応じて債権者に責任を負います。

例えば、相続人A・B・C(各持分3分の1)が限定承認して、Cが法定単純承認に該当する場合。

清算手続きをしても負債が300万円残っているなら、債権者はCに対して100万円を請求できます。

残額300万円×3分の1(Cの法定相続分)=100万円

限定承認が無効になるわけではなく、Cの部分だけ単純承認になるイメージです。

 

さいごに

今回の記事では「限定承認と民法」について説明しました。

限定承認に関することも民法で定められています。

  • 限定承認の方式
  • 限定承認の公告・催告
  • 相続材権者に対する弁済

限定承認の条文は複雑ですが、限定承認するなら読み込んでおきましょう。