限定承認に関することも民法の条文で定められています。
- 限定承認の方式(民法924条)
- 限定承認者の財産管理(民法926条)
- 相続債権者等に対する公告(民法927条)
上記以外に関することも、民法の条文に記載されています。
今回の記事では、限定承認に関する民法について説明しているので、限定承認をする際の参考にしてください。
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限定承認とは(民法922条)
民法922条では、限定承認について定めています。
限定承認の特徴である、相続によって得た財産を限度にして、債務の弁済をすると定められています。
たとえ負債が1億円であっても、相続で得た財産が100万円であれば、100万までしか負債を弁済する義務を負いません。
限定承認は条件(負債の負担額)付きの相続といえます。
関連記事を読む『限定承認をわかりやすく簡単に図解や表を用いて説明』
限定承認は相続人全員(民法923条)
民法923条では、相続人が複数人存在する場合について定めています。
相続人が複数人いる場合、限定承認は全員で行う必要があります。他の相続人を無視して限定承認はできません。
そのため、仲の悪い共同相続人がいると、限定承認を選ぶのは難しいでしょう。
関連記事を読む『限定承認は全員で行う必要がある|連絡を忘れずにしておこう』
限定承認の方式(民法924条)
民法924条では、限定承認の方式について定めています。
限定承認をするには、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に、家庭裁判所に申述書を提出する必要があります。
限定承認の申述書を提出する前に3ヶ月経過すると、単純承認したとみなされます。限定承認するなら、絶対に期限を間違えないようにしてください。
関連記事を読む『限定承認の期限は3ヶ月なので期間伸長も検討しよう』
被相続人に対する権利義務(民法925条)
民法925条では、被相続人に対して有した権利義務について定めています。
相続人が限定承認しても、被相続人に対して有していた権利義務は消滅しません。
例えば、被相続人に対して債権を有しているなら、限定承認をしても弁済は受けれます。
※債権の証明は必要です。
一方、被相続人に対して有していた義務も残る点には注意してください。
限定承認者による相続財産の管理(民法926条)
民法926条では、相続財産の管理について定めています。
限定承認者は清算手続きが終了するまで、相続財産の管理を継続する必要があります。
また、限定承認者の財産管理については、委任の規定が準用されています。
- 民法645条|報告義務
- 民法646条|引渡し義務
- 民法650条|費用の償還請求
上記以外にも準用されている規定があるので、限定承認する場合は気を付けてください。
相続債権者等に対する公告・催告(民法927条)
民法927条では、相続債権者等に対する公告・催告について定めています。
限定承認者は家庭裁判所に限定承認の申述が受理されたら、官報により限定承認の公告をする必要があります。官報公告の期間は2ヶ月以上です。
ただし、知れている(判明している)債権者には、個別に申し出の催告をしてください。
関連記事を読む『限定承認には官報公告が必要なので手順を確認しておこう』
相続債権者等に対する弁済
民法928条~931条では、相続債権者等に対する弁済について定めています。
- 民法928条:広告期間満了前の弁済
- 民法929条:広告期間満了後の弁済
- 民法930条:期限前の債務も弁済
- 民法931条:受遺者に対する弁済
それぞれ説明していきます。
公告期間満了前の弁済は拒絶(民法928条)
民法928条では、公告期間満了前の弁済拒絶について定めています。
限定承認者は官報公告の期間が満了する前は、相続債権者等に対して弁済を拒めます。
公告期間が満了する前に弁済しても有効ですが、相続債権者等に損害が発生すると限定承認者は責任を負います。
公告期間満了後に弁済(民法929条)
民法929条では、広告期間満了後の弁済について定めています。
限定承認者は広告期間満了後に、債権額の割合に応じて相続債権者に弁済します。
相続財産よりも相続債権の方が多い場合は、弁済する際に按分計算が必要なので注意してください。
期限前の債務等も弁済(民法930条)
民法930条では、期限前の債務等について定めています。
限定承認の清算手続きにより弁済する債権には、弁済期に至らない債権も含まれます。
また、条件付きの債権や存続期間の不確定な債権は、家庭裁判所の選任した鑑定人の評価にしたがって弁済します。
上記の債権を間違えて清算手続きから除外すると、限定承認者は責任を負います。
受遺者に対する弁済(民法931条)
民法931条では、受遺者に対する弁済について定めています。
相続債権者と受遺者が存在する場合、相続債権者に対して弁済をした後でなければ、受遺者に弁済できません。
ですので、相続財産よりも負債の方が多ければ、受遺者は財産(遺贈の対象物)を取得できないです。
限定承認の換価手続き
民法932条と933条では、相続財産の換価手続きについて定めています。
弁済のための相続財産の換価(民法932条)
民法932条では、弁済するための換価手続きについて定めています。
現金や預貯金等では債務を支払えない場合、相続財産(不動産や動産)を競売にかける必要があります。
ただし、鑑定人の評価額を支払うことで、競売を止めることができます。民法932条ただし書きで定めているのが、限定承認の先買権です。
相続債権者等の換価手続きへの参加(民法933条)
民法933条では、相続債権者等の換価手続きへの参加について定めています。
相続債権者等は、自己費用で相続財産の競売・鑑定に参加できます。
不当な弁済による限定承認者の責任(民法934条)
民法934条では、不当な弁済による限定承認者の責任について定めています。
清算手続きのルールを守らずに弁済をした結果、相続債権者等に損害が発生すれば、限定承認者は責任を負います。
- 官報公告や催告を怠った
- 期間経過前に弁済した
- 按分計算を間違えた
- 支払いの順番を間違えた
限定承認するなら、清算手続き(弁済)には十分に注意してください。
公告期間内に申し出なかった相続債権者等(民法935条)
民法935条では、公告期間内に申し出をしなかった債権者等について定めています。
民法927条1項の期間内(2ヶ月以上)に申し出をせず、かつ、限定承認者に知れなかった債権者等は、残余財産についてのみ権利を行使できます。
したがって、清算手続きにより相続財産が残らなければ、債権者等は権利を行使できません。
関連記事を読む『限定承認した後に債務を請求された場合は残余財産の有無を確認』
相続人が複数人いる場合は相続財産清算人(民法936条)
民法936条では、相続人が複数人いる場合の、相続財産清算人について定めています。
限定承認した相続人が複数人存在する場合、家庭裁判所は相続人の中から相続財産清算人を選任します。候補者がいるなら、申述書に記載しておきましょう。
そして、選任された相続財産清算人が、限定承認の清算手続き(管理・弁済)を行います。
限定承認者(単独の場合)と相続財産清算人(複数の場合)では、限定承認の清算手続きに違いがあるので注意してください。
関連記事を読む『【限定承認の相続財産管理人】相続人が複数人だと選任する』
限定承認者に法定単純承認の事由(民法937条)
民法937条では、限定承認者の中に法定単純承認に該当する人がいる場合について定めています。
- 民法921条1号:限定承認前に相続財産の処分
- 民法921条3号:限定承認後に相続財産の隠匿等
限定承認の申述をしていても、法定単純承認に該当する相続人は、相続分に応じて債権者に責任を負います。
例えば、相続人A・B・C(各持分3分の1)が限定承認して、Cが法定単純承認に該当する場合。
清算手続きをしても負債が300万円残っているなら、債権者はCに対して100万円を請求できます。
残額300万円×3分の1(Cの法定相続分)=100万円
限定承認が無効になるわけではなく、Cの部分だけ単純承認になるイメージです。
家事事件手続法にも限定承認の条文
家事事件手続法にも限定承認に関する条文があります。
重要な条文について、それぞれ説明していきます。
限定承認を管轄する家庭裁判所(201条1項)
限定承認を管轄する家庭裁判所は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
ただし、最後の住所地は住民票で判断します。
例えば、新宿区で亡くなっても、住民票が大阪市にあれば、大阪家庭裁判所が管轄となります。
あくまでも、管轄を決めるだけなので、実際に亡くなった場所を関係ありません。
申述の方法は申述書の提出(201条5項)
限定承認の申述は、家庭裁判所に申述書を提出して行います。
家庭裁判所の窓口で意思表示しても、限定承認は認められません。
ちなみに、申述書の提出は、郵送でも大丈夫なので安心してください。
さいごに
今回の記事では「限定承認と民法」について説明しました。
限定承認に関することも民法で定められています。
- 限定承認の方式
- 限定承認の公告・催告
- 相続材権者に対する弁済
限定承認の条文は複雑ですが、限定承認するなら読み込んでおきましょう。