限定承認による相続を選ぶと、負債のリスクを抑えれます。
なぜなら、プラスの財産を限度として、マイナスの財産を負担するからです。
限定承認を選んでおくと、後から見つかった負債が多くても、負担する範囲は決まっています。
もちろん、メリットだけではなく、手間や費用が増えるというデメリットもあるので、相続を判断する際は確認しておいてください。
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1.限定承認とは負債の負担に制限のある相続
限定承認とは、負債の負担範囲に制限のある相続のこと。
勘違いしやすいのですが、限定承認しても相続人です。
1-1.相続人であることに変わりはない
通常の相続(単純承認)と限定承認どちらであっても、相続するという点は同じです。
限定承認しても相続人なので、順位変更の問題も発生しません。
※相続放棄では順位変更が起きる。
限定承認をしても、相続人であることに変わりはないです。
1-2.プラスの範囲でしか負債を負担しない
限定承認の特徴は、プラスの範囲でしか負債を負担しない点です。
マイナス財産(借金等)が高額であっても、プラスの範囲でしか負担しません。
マイナス | プラス | 負担額 |
---|---|---|
1,000万円 | 100万円 | 100万円 |
200万円 | 200万円 | |
500万円 | 500万円 | |
800万円 | 800万円 |
一方、通常の相続(単純承認)では、マイナスを全額負担します。
限定承認は制限付き(負債の負担範囲)の相続といえます。
2.限定承認による相続を選ぶには条件がある
限定承認による相続を選ぶには、複数の条件があります。
- 家庭裁判所に申立てが必要
- 相続人全員が限定承認を選ぶ
- 相続の開始を知った日から3ヶ月以内
どれか一つでも満たせないと、限定承認は選べません。
2-1.家庭裁判所に申立てが必要
1つ目の条件は、家庭裁判所への申立てです。
限定承認による相続を選ぶには、家庭裁判所に申立てが必要になります。
債権者に対する意思表示等では、限定承認の効力は発生しないです。
2-2.相続人全員が限定承認を選ぶ
2つ目の条件は、相続全員が限定承認を選ぶです。
相続人が複数人(2人以上)いる場合、全員が限定承認による相続を選ぶ必要があります。
誰か1人でも単純承認を選ぶと、他の相続人も限定承認を選べません。
また、共同相続人の行方が分からなければ、申立書に記名押印できないので、結果的に選べないです。
関連記事を読む『限定承認は全員で行う必要がある|連絡を忘れずにしておこう』
2-3.相続の開始を知った日から3ヶ月以内
3つ目の条件は、相続の開始を知った日から3ヶ月以内です。
限定承認による相続を選ぶには、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に、申立書を提出する必要があります。
何もせずに3ヶ月経過すると、単純承認したとみなされます。
連絡の取れない共同相続人がいるなら、期間伸長の申立てもしておいてください。
関連記事を読む『限定承認の期限は3ヶ月なので期間伸長も検討しよう』
3.限定承認では相続後に清算手続き
限定承認を選んだ場合、相続後に清算手続きが必要です。
- 清算手続き
-
プラスの財産でマイナスの財産(借金等)を支払う
清算手続きを大きく分けると、以下の4つになります。
- 官報公告
- 債権者への催告
- 不動産等の換価
- 債権者への支払い
それぞれ簡単に説明していきます。
3-1.負債の有無に関わらず官報公告
家庭裁判所に限定承認の申立てが受理された場合、負債の有無に関わらず官報公告が必要です。
- 官報
-
国が発行している新聞のようなもの
- 公告
-
ある事項を文書により広く知らせること
官報に限定承認した旨を記載して、債権者に知らせるのが目的となります。
官報公告は法律で決まっているので、忘れずに手続きをしてください。
ちなみに、負債が無い場合は、官報公告するだけで清算手続きは終了です。
関連記事を読む『限定承認には官報公告が必要なので手順を確認しておこう』
3-2.判明している債権者には個別の催告
官報公告とは別に、判明している債権者には個別の催告が必要です。
簡単にいえば、限定承認した旨のお知らせになります。
知らせずに清算手続きを終わらせると、損害賠償責任も発生するので、債権者への連絡は必須です。
3-3.預貯金等で支払えないなら不動産等の換価
相続財産(現金や預貯金等)でマイナスの財産(借金等)を支払えない場合、相続財産(不動産等)の換価手続きが必要です。
不動産等を現金に換えて、債権者への支払いに充てます。
【支払えない事例】
プラスの財産 |預貯金(200万円)・不動産
マイナスの財産|借金(400万円)
預貯金だけでは借金が支払えないので、不動産を換価して支払いに充てます。
【支払える事例】
プラスの財産 |預貯金(400万円)・不動産
マイナスの財産|借金(200万円)
預貯金だけで借金が支払えるので、不動産の換価手続きは不要です。
不動産等の換価手続きは、家庭裁判所に鑑定依頼も必要になるので、手続きに費用と手間がかかります。
3-4.申出期間経過後に債権者へ支払い
官報に記載した申出期間を経過したら、債権者に対する支払いをします。
プラスの財産がマイナスの財産よりも多ければ、債権者に支払うだけです。
一方、プラスの財産よりもマイナスの財産が多ければ、債権額で按分して支払います。
※債権者が複数の場合。
マイナスの財産が多くて、かつ、債権者も多いと、支払いが複雑になるので注意してください。
4.相続で限定承認を選んでいるケース
相続で限定承認を選んでいるケースは、大きく分けると2つあります。
- 負債の不安を解消するため
- 相続放棄が選べないため
4-1.負債の不安を解消するため
負債の不安を解消するため、限定承認を選んでいるケース。
現在の仕組みでは、亡くなった人の負債(借金や連帯保証等)を、すべて見つけることは難しいです。
- 税金の滞納
- 個人間の消費貸借
- 知人の連帯保証人
通常の相続(単純承認)では、後から見つかった負債も全額負担なので、結果的に相続がマイナスになる可能性もあります。
一方、限定承認による相続なら、後から負債が見つかっても、プラスの範囲でしか負担しません。
【事例】
相続財産|預貯金(200万円)・負債(30万円)
後で発見|負債(300万円)
単純承認 | 限定承認 | |
---|---|---|
負債の負担額 | 330万円 | 200万円 |
隠れた負債に不安があるなら、限定承認を選択するのも方法の一つです。
4-2.相続放棄が選べないため
事情により相続放棄が選べないので、限定承認を選んでいるケース。
- 次順位に相続を移したくない
- 取得したい相続財産がある
次順位に相続を移したくない
先順位相続人が全員相続放棄すると、次順位相続人に相続が移ります。
ですが、次順位相続人が高齢だと、相続放棄の手続きが難しく、相続が複雑になる可能性もあります。
親族に迷惑をかけないため、限定承認を選んで相続を確定させています。
関連記事を読む『相続放棄をすると次順位の相続人に負債等が移ってしまう』
取得したい相続財産がある
相続放棄すると相続人ではないので、相続財産は何も取得できないです。
したがって、相続財産の中に取得したい財産があるなら、相続放棄は選べません。
一方、限定承認を選ぶと、清算手続中に相続人は先買権を行使できるので、取得したい財産を優先的に購入できます。
どうしても欲しい財産があるなら、限定承認を検討してみましょう。
5.通常の相続と限定承認の違い
最後に、通常の相続(単純承認)と限定承認の違いについて、簡単にまとめていきます。
単純承認 | 限定承認 | |
---|---|---|
負債 | 無限責任 | 有限責任 |
手続き | 不要 | 必要 |
期限 | ない | 3ヶ月以内 |
同意 | 不要 | 必要 |
清算手続 | 不要 | 必要 |
単純承認すると負債は無限責任ですが、限定承認なら有限責任(プラスの範囲)。
単純承認に手続きは不要ですが、限定承認は家庭裁判所に申立てが必要。
単純承認に期限はありませんが、限定承認は相続の開始を知った日から3ヶ月以内。
単純承認に共同相続人の同意は不要ですが、限定承認には全員の同意が必要。
関連記事を読む『限定承認と単純承認は何が違うのか?【相続する点は同じ】』
6.まとめ
今回の記事では「限定承認による相続」について説明しました。
限定承認とは「負債の負担範囲に制限のある相続」です。亡くなった人のプラスの財産を限度として、マイナスの財産を負担します。
限定承認による相続を選ぶには条件があります。
- 家庭裁判所に申立てをする
- 相続人全員で限定承認を選ぶ
- 3ヶ月以内に手続きをする
清算手続きをする必要があり、相続財産の内容によって、手間と費用に違いがあります。
通常の相続(単純承認)や相続放棄を選べない場合は、限定承認を検討してみてください。