「同性パートナーは相続人ではありません」
なぜなら、現時点の日本の法制度では、同性カップルは婚姻届けを出すことができないからです。
したがって、法律上の配偶者になることができません。
相続対策をしないまま亡くなってしまうと、人生を共に歩んできたパートナーであっても、財産を相続することができません。残念なことに相続のルールは愛情とは無関係に適用されます。
ですが、だからといって諦める必要はありません。現在の法律でも上手く使うことで、同性パートナーに財産を残すことはできます。
相続対策は複数ありますので、2人に合った対策は必ずあります。
目次
1.相続対策の基本である遺言書を書く
相続対策の基本といえば遺言書となります。
そして、同性カップルであっても遺言書を作成することは重要です。
なぜなら、正しい遺言書を残せば、同性パートナーに財産を渡せるからです。
1-1.遺言書はあなたの意思表示
遺言書はあなたの意思表示です。
遺言書が残されていなければ、あなたの意思が分からないので、法定相続人が相続することになります。
ですので、同性パートナーに財産を残したいという意思表示が必要です。
遺言書の記載は法定相続人よりも優先されます。同性パートナーに遺贈しておけば、相続人が存在しても問題ありません。
ただし、遺留分制度については知っておく必要があります。
1-2.遺留分を過度に恐れる必要はない
遺留分とは相続人に保障されている最低限の相続分です。
遺留分は配偶者、子ども、直系尊属(親)に認められていますが、兄弟姉妹には認められていません。
亡くなった人に子どもや直系尊属(両親)がいない場合は、遺留分を気にする必要はないです。
遺留分で問題になるのは、現実的には親の遺留分になります。直系尊属(親)の遺留分は財産の3分の1です。
関連記事を読む『同性婚と遺留分|パートナーにとって迷惑な制度』
2.カップルで養子縁組をする
同性婚の相続対策には、カップルで養子縁組をするという方法もあります。
養子縁組により親子関係を作り、同性パートナーを法定相続人にします。
養子も法定相続人なので、確実に財産を相続することができます。養子も実子と同じく第1順位の相続人です。
パートナー同士で同じ氏を名乗り、同じ戸籍に2人で入ります。税務上は扶養親族として扶養控除も適用できます。
ただし、養子縁組にはリスクもあります。
養子縁組をすることにより、財産を相続することができなくなった後順位の親族が、養子縁組無効の訴えを起こす可能性はあります。
上記の図のように、養子縁組が無ければ相続人になれた人が、同性パートナーとトラブルになることもあります。
*相続において養子縁組はトラブルになりやすいです。
また、現在の法律では一度親子の養子縁組をすると、養子縁組を解消しても結婚することができません。
将来、法改正により同性婚が可能になっても、結婚できない可能性はあります。
関連記事を読む『同性カップルと養子縁組|相続対策にはリスクもある』
3.亡くなる前に生前贈与する
同性カップルの相続対策として、亡くなる前に生前贈与する方法もあります。
生前贈与なので相手(受贈者)が相続人であるかは関係ないです。
生前贈与で気を付ける点は、贈与税が発生することです。贈与税は受贈者が支払います。
ただし、贈与税には基礎控除額が年間110万円ありますので、110万円以下なら贈与税はかかりません。
毎年贈与することにより、費用をかけることなく財産を移すことができます。
*亡くなる前3年以内の贈与は相続税の対象となります。
関連記事を読む『同性婚と生前贈与|確実に渡せるが注意点もある』
4.パートナーを生命保険の受取人にする
昔は同性パートナーを生命保険金の受取人に、指定することができませんでした。生命保険会社の規定で、受取人を配偶者や2親等以内等と決めていたからです。そのため、同性婚の相続対策として生命保険は対象外でした。
しかし、2015年11月からは、生命保険金の受取人を同性パートナーにできる保険会社もあります。同性婚の相続対策として、生命保険を利用できるようになりました。
保険会社によって確認資料が違いますので、一度ご確認ください。パートナーシップ証明書があると、手続きが簡略化される保険会社もあります。
亡くなったときに支払われる生命保険金は、相続財産には含まれません。
したがって、生命保険金の受取人を同性パートナーとすることで、確実に生命保険金を残すことができます。
注意点は同性婚では生命保険金の非課税枠が使えないので、相続税が発生する可能性が高くなります。生命保険金は相続財産ではないのですが、みなし相続財産として相続税の計算では含みます。
関連記事を読む『同性婚と生命保険|パートナーを受取人にできる』
5.信託財産をパートナーに残す
同性婚の相続対策には、信託契約を使うこともできます。
財産を信託財産とすることで、相続財産とは切り離すことができます。
自分が亡くなったときを信託契約の終了とします。信託財産の契約終了時の帰属先を同性パートナーに指定しておけば、相続とは関係なく承継できます。
色々な可能性を秘めた信託契約ですが、一番の問題は契約が複雑なので、必ず専門家のアドバイスを貰ってください。費用はかかりますが失敗したら意味がありません。
関連記事を読む『同性婚と信託契約|可能性を秘めた新しい対策』
6.パートナーと任意後見契約を結ぶ
相続対策とは違いますが、同性婚において認知症等に対する備えは必要です。
例えば、銀行等の窓口で認知症を疑われると、口座が凍結される可能性があります。成年後見人がいなければ、家族でもお金を引き出すことは難しくなります。
成年後見人とは、認知症等により判断能力が衰えた人を保護し支援する人です。
成年後見人には、法定後見と任意後見の2種類あります。
法定後見は同性カップルには、お勧めできないです。同性パートナーを後見人にするのが難しいからです。
同性カップルが選ぶなら任意後見です。任意後見契約を結ぶことで、同性パートナーを後見人にできるからです。
任意後見契約とは、あらかじめ後見人を自分で決めておき、必要なときが来たら後見人になってもらう契約です。
関連記事を読む『同性婚と任意後見契約|パートナーに老後を任せる方法』
7.パートナーに死後事務を委任する
同性婚において、死後事務委任契約は重要です。
人が亡くなると、葬儀や各種届出など様々な事務手続きが必要になります。死後事務委任契約とは、死後事務を生前にお願いしておく契約のことです。
役所等への各種届出や、葬儀・埋葬等はパートナーが当然にできるわけではないです。親族が主張してくることで、トラブルになることもあります。
死後のトラブルを防ぐためにも、パートナーと死後事務委任契約を結んでおいてください。
8.相続税の対策も必要
同性婚の相続対策には相続税の対策も含みます。LGBT・同性婚に対する相続税のルールは非常に厳しいです。
相続税は配偶者に対しては、優遇措置が取られています。
そのため、法律上の婚姻関係を結ぶことができない同性婚では、相続税でも不利になってしまいます。
同性婚で不利になる控除や特例です。
- 相続税の基礎控除額が増えない
- 配偶者の特別控除が使えない
- 小規模宅地等の特例が使えない
- 生命保険金の非課税枠が使えない
- 相続税の2割加算の対象になる
相続税は現金一括納付になるので、相続税への対策も必要です。
関連記事を読む『同性カップルと相続税|パートナーには厳しい税金のルール』
9.最後の手段は特別縁故者
相続対策ではなく、同性パートナーが財産を取得する最後の手段です。
亡くなった人に相続人がいない場合、特別縁故者は申し立てにより、一定の財産を取得することができる制度です。同性パートナーも条件を満たせば財産を取得することができます。
特別縁故者の注意点は2つあります。
①亡くなった人に相続人が存在すると、同性パートナーは一切取得することができない。
②同性パートナーは申し立てをして、特別縁故者として認めてもらう必要がある。
詳細は『同性婚と特別縁故者|パートナーが最後に頼る手段』をご覧ください。
10.さいごに
同性婚は相続対策をしなければ、パートナーに何も残すことができません。
相続のルールは個人の感情とは無関係です。何十年会っていなくても相続人なら相続できます。死ぬまで一緒に暮らしても、同性婚では相続できません。
共に人生を歩んできたパートナーに、財産を残すためには絶対に相続対策が必要です。
相続対策をしておけば、一定の財産は確実に残すことができます。相続対策を始めるのに早すぎることはないです。