同性カップルが生活していくうえで、公正証書という言葉を耳にすることがあると思います。
たとえば、遺言書について相談に行くと「報酬プラス公正証書の費用が発生します」と、説明を受けることが多いのではないでしょうか。
あるいは、任意後見契約の説明を聞きにいくと、「公正証書で作成する必要があります」と説明を受けるはずです。
今回の記事では、同性カップルに関係する公正証書の費用について説明していきます。
1.公正証書とは何なのか
公正証書とは、公証人が作成する公文書のことです。
- 公証人
- 法務大臣に任命された公務員
- 公文書
- 国や地方公共団体または公務員が職務上作成した文書
公証人が勤務している公証役場は全国各地にあります。管轄は決まってないので、作成する場合は自宅や勤務地から近い所で大丈夫です。
1-1.なぜ公正証書にするのか
同性カップルが公正証書で作成するメリットは主に2つです。
①安全性
公証人が作成した公正証書の原本は、公証役場にて保管されます。
したがって、遺言書や契約書を失くす心配はありませんし、内容を改ざんされる恐れもありません。
謄本(コピー)を失くしてしまっても、公証役場で再発行することができます。
②信頼性
公証人が2人の意思や身元を確認して作成するので、同性パートナーと相続人との間に争いが起きても証拠として役立ちます。
1-2.公正証書での作成が必要なケース
同性カップルが関係する書面の中には、公正証書での作成が必要になる場合があります。
①任意後見契約
任意後見契約は公正証書での作成が成立要件です。自分で作成しても契約は成立していません。
関連記事を読む『任意後見契約は公正証書で作成しなければ成立しない』
②合意契約に係る公正証書
合意契約とは同性カップルが生活していくうえで、、協力し支えあって生きていく等を誓って契約にしたものです。同性カップルで住宅ローンを組む際に、銀行によっては「合意契約に係る公正証書」を提出書類としています。
関連記事を読む『同性婚と住宅ローン|高い買い物をする前にパートナーと勉強』
2.作成手数料の計算
公正証書を作成する際の手数料は、政令により定められています。
ちなみに、公証役場の手数料は非課税なので、消費税を気にする必要はありません。
目的の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5,000円 |
100万円超 200万円以下 |
7,000円 |
200万円超 500万円以下 |
1万1,000円 |
500万円超 1000万円以下 |
1万7,000円 |
1,000万円超 3,000万円以下 |
2万3,000円 |
3,000万円超 5,000万円以下 |
2万9,000円 |
5,000万円超 1億円以下 |
4万3,000円 |
1億円超 3億円以下 |
4万3,000円に1億円を超える額 5,000万円までごとに1万3,000円加算 |
3億円超 10億円以下 |
9万5,000円に3億円を超える額 5,000万円までごとに1万1,000円加算 |
10億円超 | 24万9,000円に10億円を超える額 5,000万円までごとに8,000円加算 |
2-1.公正証書遺言の計算は複雑
公正証書遺言の計算は少し複雑です。相続・遺贈させる人ごとに手数料を計算して、合計額が遺言書作成の手数料になります。
目的価額の合計が1億円以下の場合は、1万1,000円を手数料に加算します。
したがって、どんなに安くても1万6,000円は発生します。
祭祀主催者を遺言で指定する場合は、1万1,000円加算します。
実際に計算してみましょう。
財産額は3,000万円で法定相続人は母親1人。
全額同性パートナーに遺贈する場合と、母親に遺留分を相続させる場合です。
(例)3,000万円を同性パートナーに遺贈する
2万3,000円+1万1,000=3万4,000円が手数料です。
(例)2,000万円を同性パートナーに遺贈して、母親に1,000万円相続させる
2万3,000円+1万7,000円+1万1,000円=5万1,000円が手数料です。
実際に公正証書遺言を作成する場合は、証人が2人必要になります。相続人や同性パートナー(遺贈を受ける人)は、証人になれません。
証人を用意してもらう場合は、事務所により違いますが1人1万円ぐらいです。手数料に証人2人分の手配料を足した金額が、自筆証書遺言との差です。
専門家に遺言書の文案作成を依頼した場合、どちらの遺言書でも報酬額にそこまで差はないはずです。
遺言書の作成を検討されている場合は、以下のボタンより料金と流れについて確認することができます。
公証人に出張してもらう場合
病気等で公証役場に行けない場合は、公証人に出張してもらうことも可能です。
遺言書の目的価額による手数料額の1.5倍が基本手数料になります。
目的価額が1億円以下の場合は、基本手数料に1万1,000円追加します。
交通費(実費)、日当(1日2万円、4時間まで1万円)も必要になります。
実際に計算してみましょう。
(例)3,000万円を同性パートナーに遺贈
2万3,000円×1.5倍=3万4,500円
3万4,500円+1万1,000円=4万5,500円が手数料です。
手数料+交通費+日当+証人手配料が必要です。
遺言書は元気なうちに作成する方が、費用の面でも得になります。
関連記事を読む『公正証書遺言は出張により作成することも可能』
2-2.贈与契約は表に当てはめるだけ
贈与契約を公正証書にする場合は、目的価額を表に当てはめて計算するだけです。
生前贈与で相続対策をするのであれば、110万円以下で贈与することが多いでしょう。
110万円なら7,000円、100万円以下なら5,000円です。
同性パートナーに110万円以上を贈与する場合は、贈与税の計算も忘れずにしてください。
関連記事を読む『同性婚と生前贈与|確実に渡せるが注意点もある』
2-3.任意後見契約は決まっている
任意後見契約は目的価額が算定できません。
したがって、原則として目的価額は500万円とみなされるので、手数料は1万1,000円になります。
実際に任意後見契約を作成する場合は、作成手数料に登記嘱託手数料や印紙代等が追加されます。合計額は約2万円になります。
任意後見契約と財産管理委任契約は、一緒に結ぶことが多いです。
財産管理委任契約の手数料も1万1,000円になるので、手数料は約3万1,000円です。
同性カップルはお互いに契約を結ぶことなると思います。2人分必要になるのでご注意ください。
任意後見契約をご検討されている場合は、下記ボタンより料金と流れについて確認できます。
関連記事を読む『同性婚と任意後見契約|パートナーに老後を任せる方法』
2-4.信託契約は信託財産により違う
信託契約は公正証書で結ばなくても、有効に成立します。
ただし、信託用の口座(信託口口座)を開設する際に、銀行によっては公正証書での作成を求められます。
- 信託口口座
- 信託契約により委託者から受託した財産を、受託者が管理運用するための口座
信託契約書を公正証書で作成する場合の費用は、信託する財産額によって増減します。
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2-5.その他の書面も公正証書にできる
死後事務委任契約の書面も、基本的には1万1,000円です。
準婚姻契約書等に関しても、取り決めだけなら1万1,000円です。
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3.まとめ
同性カップルが相続対策等をする際には、必ず耳にする公正証書の費用についてでした。
遺言書を作成する場合に、自筆証書遺言と公正証書遺言どちらにするのかで悩まれることもあるはずです。
公正証書にする方が安全面では上回りますが、費用面も上回ってしまいます。法定相続人やカミングアウトの有無等で、判断されるのが良いと思います。
同性婚を続けていくと、同性パートナーとの間に契約を結ぶこともあります。何事も口約束よりは書面にした方が、結果として同性パートナーを守れます。
同じ書面でも公正証書の方がより安全です。ただし、公正証書の作成費用は安くないので、2人にとっての優先順位等を考えながら作成してください。