同性カップルが生活をしていく中で、任意後見契約という言葉を耳にすることがあると思います。
なぜなら、新宿区のパートナーシップ証明書や住宅ローンの申し込み等で、必要書類として記載されているからです。
また、同性パートナーが認知症等になったときの備えとして、任意後見契約を検討しているカップルもいます。
今回の記事では、同性カップルと任意後見契約について説明しているので、相続対策とは別に確認しておいてください。
1.任意後見とは契約である
任意後見契約とは、あらかじめ後見人をあなたが決めておき、認知症等により判断能力が低下したら後見人に就任してもらう契約のことです。
同性パートナーを任意後見人とする任意後見契約を結ぶことにより、判断能力が低下した後は同性パートナーが後見人になります。
同性カップルが任意後見契約を結ぶときは、お互いを後見人にすることが多いです。どちらが認知症等になるかは誰にも分からないです。
同性パートナーと任意後見契約を結ぶには、公正証書で作成する必要があります。
任意後見契約の方式)
第三条 任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならない。
公正証書は公証役場で、公証人に作成してもらいます。
公正証書作成 | 1万1,000円 |
登記嘱託手数料 | 1,400円 |
印紙代 | 2,600円 |
郵便切手 | 約600円 |
原本超過枚数加算 | 1枚250円 |
正本謄本の作成料 | 1枚250円 |
正本は本人と受任者に各1通、謄本は法務局に提出するのに1通が必要です。
ですので、1枚×3通×250円が発生します。
たとえば、契約書の枚数が4枚なら4×3で12枚必要です。
公正証書を作成するのに約2万円が必要になります。お互いを後見人にするには契約が2つ必要です。
任意後見契約の文案作成を専門家に依頼する場合は、報酬が発生します。
任意後見契約作成時に必要な書類
- 本人:戸籍謄本、住民票、印鑑証明書
- 同性パートナー:住民票、印鑑証明書
公正証書の作成費用については、下記の記事でも説明しています。
関連記事を読む『同性婚と公正証書|カップルには気になる作成費用』
2.契約で代理権の範囲を決める
任意後見契約では、同性パートナーに委任する代理権の範囲を決めます。範囲については、2人で自由に決めることができます。
気を付ける点としては、代理権の範囲は具体的に決める必要があります。なぜなら、あいまいだと代理行為をする際に、余計な手間が発生することもあるからです。誰が読んでも代理権の範囲が同じになるように決めます。
代理権の内容は、財産管理と身上監護の2つです。
関連記事を読む『任意後見契約では代理権目録の記載が重要になります』
2-1.財産管理(不動産や預貯金に関すること)
財産管理の主なものです。
- 不動産等の保存・管理・処分に関する事項
- 銀行等との取引に関する事項
- 年金や配当金の管理に関する事項
- 税金の支払い等に関する事項
分かりやすく説明するなら、不動産や預貯金についての代理権です。
2-2.身上監護(病院や介護に関すること)
身上監護の主なものです。
- 保険契約に関する事項
- 入院の手続きや費用に関する事項
- 医療や介護等の契約に関する事項
- 要介護認定の手続きに関する事項
分かりやすく説明するなら、本人の入院や介護についての代理権です。
3.効力発生時期を確認しておこう
任意後見契約の効力は判断能力低下後に、家庭裁判所に任意後見監督人の選任申立てをして、任意後見監督人が選任されることにより発生します。
したがって、任意後見契約の効力を発生させるには、任意後見監督人が必要になります。
3-1.任意後見監督人の選任申立てが必要
同性パートナーの判断能力が低下したら、家庭裁判所に任意後見監督人の選任申立てをします。
選任された任意後見監督人は、家庭裁判所に代わり任意後見人の監督をします。
申立ては同性パートナー(任意後見受任者)も可能です。
申立て手続き等に関しては、下記の記事で詳しく説明しています。
関連記事を読む『任意後見監督人の選任申立て|契約の効力発生に必要な手続き』
3-2.任意後見監督人の報酬が発生
任意後見監督人とは、任意後見人の仕事を監督する人です。家庭裁判所は任意後見監督人を通じて、間接的に関与します。
任意後見監督人の報酬額は、家庭裁判所が決めます。報酬は本人の財産から支払われます。
管理財産額 | 報酬額(月額) |
5000万円以下 | 1万円~2万円 |
5000万円超 | 2万5,000円~3万円 |
年額で12万円~24万円が、効力発生後の維持費です。
注意任意後見人を同性パートナーにする場合は、任意後見人の報酬を0円にすることは可能です。
ただし、任意後見監督人の報酬は発生します。
4.任意後見契約の注意点
任意後見契約には注意点もあります。勘違いしやすいので確認しておいてください。
4-1.委任できないこともある
任意後見契約書では、同性パートナーに委任できないこともあります。
①介護や看護等の事実行為
あなたの介護や看護を、契約で委任することはできないです。
ただし、同性パートナーが個人的に介護や看護をするのは、任意後見契約とは別なので大丈夫です。
②遺言書の作成
遺言書の作成を、同性パートナーに委任することはできないです。任意後見と遺言書は役割が違いますので、元気なうちに必ず作成してください。
遺言書については、下記の記事で詳しく説明しています。
関連記事を読む『LGBT・同性婚と遺言書|同性カップルは7つのポイントに気を付けましょう』
③婚姻や養子縁組
婚姻や養子縁組は身分行為なので、委任することはできないです。
④医療行為に関する同意権は無い
手術等に対して同意する権利はないです。
ただし、親族がいない場合には、病院は後見人(同性パートナー)に同意を求めてくるケースもあります。
*トラブルを回避する手段としての意味もあります。
元気なうちに本人の希望を聞いておくことも大切です。
4-2.身体能力の低下には対応できない
任意後見契約の効力が発生するのは、認知症等により判断能力が低下してからです。
ですので、身体能力が低下しても判断能力が低下していなければ、任意後見契約の効力は発生しません。
同性パートナーと財産管理委任契約を結ぶことで、身体能力等の低下に対応することは可能です。任意後見契約と同時に財産管理委任契約を結びます。
関連記事を読む『任意後見契約の移行型とは|判断能力が低下する前を補う方法』
4-3.同意権・取消権は認められない
法定後見人に認められている同意権や取消権はありません。
任意後見人に認められているのは、代理権目録に記載された代理行為のみです。
5.まとめ
認知症等は誰でも発症する可能性があります。
ですので、同性カップルも対策をしておく必要があるのです。
同性カップルが選ぶなら任意後見契約です。任意後見人でなければ、2人の生活スタイルを維持することは困難です。
任意後見契約は判断能力が低下しなければ効力は発生しません。例えるなら、保険のようなものです。いざという時のために任意後見契約を結んでおきます。