特別縁故者に関することも、民法の条文で定められています。
特別縁故者と直接記載されているのは民法958条の3だけですが、それ以外の条文も関係しています。
- 民法951条(相続財産法人の成立)
- 民法952条(相続財産管理人の選任)
- 民法957条(相続債権者等への弁済)
- 民法958条(相続人捜索の公告)
- 民法958条の2(相続人の不存在)
- 民法958条の3(特別縁故者の財産分与)
- 民法959条(残余財産の国庫帰属)
特別縁故者にとっては、相続人の不存在が確定するまでの流れも重要です。
今回の記事では、特別縁故者に関する民法の条文について説明しているので、特別縁故者の財産分与を検討しているなら参考にしてください。
目次
相続財産法人の成立(民法951条)
民法951条では、相続財産法人の成立について定めています。
(相続財産法人の成立)
第九百五十一条 相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
亡くなった人の相続人が明らかでないときは、相続財産は法人となります。
相続人が明らかでないとは、戸籍上の相続人が存在しないという意味です。
- 初めから相続人が存在しない
- 相続人が全員相続放棄した
初めから相続人が存在しない場合だけでなく、相続人が全員相続放棄した場合も、相続人が明らかでないときに該当します。
一方、以下の場合は、相続人が明らかでないときに該当しません。
- 相続人が行方不明
- 一部の相続人だけ相続放棄
相続人が行方不明であっても、相続人が存在することは明らかです。また、一部の相続人だけ相続放棄しても、他の相続人が存在します。
特別縁故者の申立てを検討する場合、まずは相続人が明らかでないときに該当するのか確認しましょう。
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相続財産管理人の選任(952条)
民法952条では、相続財産管理人の選任について定めています。
(相続財産の管理人の選任)
第九百五十二条 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。
2 前項の規定により相続財産の管理人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なくこれを公告しなければならない。
相続財産法人が成立しても、相続財産管理人が自動的に選任されるわけではありません。相続財産管理人を選任するには、利害関係人または検察官が家庭裁判所に請求(申し立て)する必要があります。
誰も請求をしなければ、いつまで経っても相続財産管理人は選任されません。したがって、特別縁故者に財産分与もできません。
特別縁故者は利害関係人に該当するので、誰も申し立てをしないのであれば、自分で相続財産管理人の選任申し立てをしましょう。
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相続債権者等に対する弁済(民法957条)
民法957条では、相続債権者等に対する弁済について定めています。
(相続債権者及び受遺者に対する弁済)
第九百五十七条 第九百五十二条第二項の公告があった後二箇月以内に相続人のあることが明らかにならなかったときは、相続財産の管理人は、遅滞なく、すべての相続債権者及び受遺者に対し、一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、二箇月を下ることができない。
相続財産管理人が選任されても、すぐに特別縁故者に財産分与されるわけではありません。
まずは、相続債権者および受遺者に対して、申し出をするように公告します。公告の期間は2カ月以上です。
相続債権者や受遺者が判明すれば、相続財産から支払います。相続債権者等への支払いで相続財産が無くなれば、特別縁故者に対する財産分与はありません。
特別縁故者の申し立てを検討するなら、相続財産(プラス)だけでなく、相続財産(マイナス)も重要になります。
相続人捜索の公告(民法958条)
民法958条では、相続人捜索の公告について定めています。
(相続人の捜索の公告)
第九百五十八条 前条第一項の期間の満了後、なお相続人のあることが明らかでないときは、家庭裁判所は、相続財産の管理人又は検察官の請求によって、相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、六箇月を下ることができない。
相続債権者等に弁済をしても相続財産が残った場合、相続人管理人は家庭裁判所に相続人捜索の公告を請求します。
相続人捜索の公告は6カ月以上です。相続人が明らかになれば、相続人に財産を引き継いで終了となります。
特別縁故者が財産分与により財産を取得するには、とにかく時間がかかります。
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権利を主張する者がいない場合(民法958条の2)
民法958条の2では、権利を主張する者がいない場合について定めています。
(権利を主張する者がない場合)
第九百五十八条の二 前条の期間内に相続人としての権利を主張する者がないときは、相続人並びに相続財産の管理人に知れなかった相続債権者及び受遺者は、その権利を行使することができない。
民法958条の期間内に相続人として権利を主張する者がいない場合、相続人、相続財産管理人に知れなかった(請求の申し出をしなかった)相続債権者および受遺者は権利を行使することができません。
誰も権利を行使できない状態(相続人の不存在確定)になれば、特別縁故者の財産分与の申立てに移ります。
特別縁故者に相続財産の分与(民法958条の3)
民法958条の3では、特別縁故者に対する相続財産の分与について定めています。
(特別縁故者に対する相続財産の分与)
第九百五十八条の三 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2 前項の請求は、第九百五十八条の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。
相続人の不存在が確定すれば、特別縁故者の財産分与の申し立てができます。
ただし、特別縁故者として認められても、取得できる相続財産の額は家庭裁判所が決めます。亡くなった人と特別縁故者の関係性によって、取得できる財産額に違いがあります。
財産分与の申し立ては、相続人の不存在確定から3カ月以内です。申立期間が限られているので、絶対に忘れないように注意してください。
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残余財産の国庫帰属(民法959条)
民法959条では、残余財産の国庫帰属について定めています。
(残余財産の国庫への帰属)
第九百五十九条 前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。この場合においては、第九百五十六条第二項の規定を準用する。
特別縁故者が財産分与の申し立てをしなかった場合や、財産分与しても財産が残った場合、相続財産は国庫に帰属して終了です。
ただし、残された相続財産に共有持分が含まれる場合、共有持分は共有者に移転します。
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さいごに
今回の記事では「特別縁故者に関する民法」について説明しました。
特別縁故者と直接記載されている条文は民法958条の3だけです。
しかし、特別縁故者に財産分与するには、相続人の不存在が前提となります。
- 民法951条(相続財産法人の成立)
- 民法952条(相続財産管理人の選任)
- 民法957条(相続債権者等への弁済)
- 民法958条(相続人捜索の公告)
- 民法958条の2(相続人の不存在)
上記の条文も特別縁故者に関係します。特別縁故者について調べているなら、忘れずに確認しておきましょう。