法定後見人と任意後見人は同じ後見人ですが、違う部分も多いのはご存知でしょうか。
例えば、法定後見人を選ぶのは家庭裁判所ですが、任意後見人を選ぶのは本人です。
ただし、どちらの後見にもメリット・デメリットがあり、人によって合う合わないがあります。どちらの後見が優れているという問題ではありません。
今回の記事では、法定後見と任意後見の違いを6つの項目で説明しているので、後見を利用する際の参考にしてください。
目次
1.法定後見人と任意後見人は誰が選ぶ
法定後見と任意後見の違い1つ目は、後見人を誰が選ぶかです。
- 法定後見人は家庭裁判所が選ぶ
- 任意後見人は本人が契約で選ぶ
法定後見と任意後見では、誰が後見人を選ぶかに違いがあります。
1-1.法定後見人は家庭裁判所が選ぶ
法定後見人を選ぶのは、申立人(家族等)ではなく家庭裁判所です。
後見人の選任申立てをする際に、後見人の候補者を推薦できますが、最終的には家庭裁判所が決めます。
例えば、家族を候補者として申立てをしても、専門家(弁護士・司法書士等)が選ばれることも少なくありません。
候補者(家族等)が選ばれなかったとしても、申立ての取り下げはできません。一度選任された後見人は、原則として終了するまで後見業務を行います。
1-2.任意後見人は本人が契約で選ぶ
任意後見人を選ぶのは、被後見人である本人自身です。
ただし、自由に選べるのではなく、任意後見受任者と任意後見契約を結んでおく必要があります。任意後見契約は公正証書で作成しなければ、有効に成立しません。
任意後見契約を結んだ後に、本人の判断能力が低下すると、任意後見受任者が任意後見人に就任します。
関連記事を読む『任意後見契約は公正証書で作成しなければ成立しない』
2.法定後見人と任意後見人の報酬
法定後見と任意後見の違い2つ目は、後見人の報酬です。
- 法定後見人の報酬は家庭裁判所が決める
- 任意後見人の報酬は契約で決める
法定後見と任意後見では、後見人の報酬が違います。
2-1.法定後見人の報酬額は家庭裁判所が決める
法定後見人の報酬額は、家庭裁判所が決めます。
具体的には、法定後見人が報酬付与の申立てをして、家庭裁判所が報酬額を決定します。
以下は、報酬額の目安です。
管理財産額 | 報酬額(月額) |
---|---|
1,000万円以下 | 2万円 |
1,000万円超 5,000万円以下 | 3万~4万円 |
5,000万円超 | 5万~6万円 |
法定後見人の報酬は請求しなければ付与されません。家族が後見人に就任しているなら、報酬を請求しないことも可能です。
ただし、専門家が後見人に就任している場合は、仕事なので報酬を請求します。
2-2.任意後見人の報酬額は契約で決める
任意後見人の報酬額は、任意後見契約で自由に決めれます。
したがって、家族を任意後見人にしている場合は、報酬額を0円にしている人もいます。
一方、家族以外(専門家等)を任意後見人にしている場合は、法定後見人の報酬額を目安にして決めているようです。
関連記事を読む『任意後見人の報酬額も当事者が決める【報酬の相場】』
3.法定後見人と任意後見人の就任時期
法定後見と任意後見の違い3つ目は、後見人の就任時期です。
- 法定後見人は後見開始の審判確定時
- 任意後見人は任意後見監督人の選任時
法定後見と任意後見では、後見人の就任時期も違います。
3-1.法定後見人は後見開始の審判確定時
法定後見人の就任時期は、後見開始の審判が確定したときです。
本人の判断能力が低下していても、後見開始の申立てをしていなければ、法定後見人は就任しません。何もしなければ後見は開始しません。
法定後見人が必要になったら、後見開始の申立てをしましょう。
関連記事を読む『成年後見の申立て手続き|書類が多いので効率よく集める』
3-2.任意後見人は任意後見監督人の選任時
任意後見人の就任時期は、任意後見監督人が選任したときです。
任意後見契約の効力を発生させるには、本人の判断能力が低下した後に、任意後見監督人の選任申立てをする必要があります。
そして、任意後見監督人が選任されると、任意後見人も就任します。
関連記事を読む『任意後見監督人の選任申立て手続きでは書類の準備が大変』
4.法定後見人と任意後見人の監督人
法定後見と任意後見の違い4つ目は、後見監督人の存在です。
- 法定後見人の監督人は家庭裁判所が任意に選任する
- 任意後見人の監督人は必ず選任される
法定後見と任意後見では、後見監督人の存在に違いがあります。
4-1.成年後見監督人は家庭裁判所が任意に選任
成年後見監督人を選任するかどうかは、家庭裁判所が事情を考慮して判断します。
- 家族が後見人に就任する場合
- 管理する財産が高額な場合
家庭裁判所が職権で選任するだけでなく、家族等の申立てにより選任することもあります。
成年後見監督人の業務などについては、下記の記事で詳しく説明しています。
関連記事を読む『成年後見監督人を選任するかどうかは家庭裁判所が判断する』
4-2.任意後見監督人は法律により必ず選任
任意後見監督人が選任されなければ、任意後見契約の効力は発生しません。
したがって、任意後見人には必ず任意後見監督人が存在します。
管理財産額 | 報酬額(月額) |
---|---|
5,000万円以下 | 1万~2万円 |
5,000万円超 | 2万5,000~3万円 |
任意後見人の報酬は契約で0円にできますが、任意後見監督人の報酬は発生します。
関連記事を読む『任意後見監督人は必ず存在する|報酬は1万円から2万円ぐらい』
5.法定後見人と任意後見人の代理権
法定後見と任意後見の違い5つ目は、代理権の範囲です。
- 法定後見人の代理権は法律で定められた範囲
- 任意後見人の代理権は契約で定めた範囲
法定後見人と任意後見人では、代理権の範囲が違うので注意してください。
5-1.法定後見人の代理権は法律で定めている
法定後見人の代理権は法律により定められています。
法定後見人の代理権は、本人の財産に関するすべての法律行為が対象です。
※婚姻や離婚などの身分行為は除く。
一般的な贈与や売買だけでなく、遺産分割や相続放棄も法定後見人が代理で行います。相続手続をする際は、法定後見人の有無が非常に重要です。
5-2.任意後見人の代理権は契約で定める
任意後見人の代理権は、任意後見契約で定めた範囲になります。
具体的には、任意後見契約書に添付する、代理権目録に記載された法律行為です。
代理権目録に記載されていなければ、どんなに重要な行為であっても代理できません。任意後見契約の内容を考える際は、代理権の漏れがないように注意してください。
関連記事を読む『任意後見契約では代理権目録の記載が重要になります』
6.法定後見人と任意後見人の取消権
法定後見と任意後見の違い6つ目は、後見人の取消権です。
- 法定後見人は取消権が認められる
- 任意後見人は取消権が認められない
法定後見人と任意後見人では、本人が行った法律行為の取消権にも違いがあります。
6-1.法定後見人は取消権が認められる
法定後見人は本人が行った法律行為について、日常生活に関する行為以外であれば、取り消すことができます。
例えば、本人が高額な商品を買った場合でも、法定後見人は取り消すことが可能です。
法定後見人が選任されていれば、本人を不利な法律行為から守ることができます。
6-2.任意後見人は取消権が認められない
任意後見人は法定後見人と違い、本人の法律行為を取り消すことができません。
例えば、本人が高額な商品を買った場合、任意後見人は取り消すことができないです。
任意後見人には取消権が認められないので、その他の対策で備えておく必要があります。
7.さいごに
今回の記事では「法定後見人と任意後見人の違い」について説明しました。
法定後見人と任意後見人は同じ後見人ですが、違う部分も多いです。
法定後見人 | 任意後見人 | |
---|---|---|
誰が選ぶ | 家庭裁判所 | 本人 |
報酬額 | 家庭裁判所 が決める | 契約で決める |
就任時期 | 後見開始の 審判確定時 | 任意後見監督人 の選任時 |
後見監督人 | 家庭裁判所が 任意で選任 | 法律により 必ず選任 |
代理権の範囲 | 法律で決まる | 契約で決める |
取消権 | 有り | 無し |
法定後見人と任意後見人のどちらにも、メリット・デメリットは存在します。
どちらが優れているではなく、あなたに合う方を選んでください。
ただし、任意後見契約は元気なうちしか結べないので、検討するなら早い方が良いでしょう。