あなたの判断能力が低下して後見人等が選任されると、家庭裁判所が成年後見監督人を選任することがあります。成年後見監督人の主な仕事は後見人等の仕事を監督することです。
後見の申立てを検討している人の中には、監督人の存在を不安に思われる方もいます。選任するかどうかは家庭裁判所の判断になるのですが、選ばれやすいケースはあります。
成年後見監督人が何をするのか、どのようなケースで選任されやすいのかを確認しておいてください。
1.監督人がなぜ必要なのか
家庭裁判所への申立てにより後見人が選任されると、選任後見監督人も選任されることがあります。基本的には親族後見人が選ばれると選任されやすいです。
成年後見監督人は後見人が後見事務を適切にしているかどうかを監督して、家庭裁判所に報告するのが主な仕事になります。後見人の仕事を家庭裁判所が直接監督するのは現実的ではないので、成年後見監督人を通じて間接的に監督するためです。
親族後見人は後見事務に慣れているわけではないです。そのため、成年後見監督人が問題がないかをチェックしています。
成年後見監督人の存在は、後見人の不正を防止する役割もあります。なぜかというと、後見人の問題として財産の不正利用が挙げられるからです。監督人を選任しておくだけで抑止力にもなります。
任意後見は法定後見と違い後見監督人の選任が必須となっています。
任意後見契約の効力発生には、任意後見監督人の選任が必要です。したがって、任意後見人には必ず監督者が存在します。任意後見を検討されている人にとって、任意後見監督人の存在は気になるところです。 誰がなるのか […]
2.選ばれやすいケース
親族を後見人に選任する場合でも、成年後見監督人を選任するかどうかは家庭裁判所が判断します。具体的には以下に該当すると選任の可能性が高いようです。
- 親族間で揉めている
- 本人の財産(現金・預貯金)が高額である
- 申立ての動機が重大な法律行為である
- 本人と後見人との間で利益相反になる
- 本人と後見人候補者の間に貸し借りや立替金がある
- 本人と後見人候補者が疎遠である
- 本人に不動産収入等がある
- 本人と後見人候補者の生活費等が分離されていない
- 申立て時に提出された資料等の記載が不十分
- 後見人候補者が後見事務に自信がない
- 本人の財産を利用する予定がある
- 本人の財産を運用するために申立てしている
基本的には親族後見人だけだと不安がある場合に、成年後見監督人をセットで選任しているように思います。
本人の財産(現金・預貯金)が高額であるについては、支援信託や支援預貯金を利用することで監督人が選任されないこともあります。
後見制度支援信託という制度があります。ただし、詳しく知っている人は少ないはずです。本人(後見される人)の財産を2つに分けることで、親族が後見人に選任されやすくなります。なぜかというと、親族が後見人に選ばれない理由の1つに、高額な[…]
後見制度支援預貯金とは、親族を後見人にする場合等に利用される方法です。すでに親族が後見人に就任している場合にも、家庭裁判所から利用を進められることがあります。似た名称の後見制度支援信託と、何が違うのか分からない人も多いのではないでし[…]
3.成年後見監督人の仕事
主な仕事は後見人の後見事務を監督することですが、それ以外にも仕事があります。
- 本人の財産調査
- 後見人に事務報告を求める
- 本人と後見人が利益相反に該当する場合に本人を代表
- 急を要する事態への対応
- 新しい後見人の選任請求
- 後見人の解任請求
- 後見人の行為に対する同意(下記参照)
後見人が後見事務を行えなくなった場合に選任請求をしたり、不適当だと判断すれば解任請求をするのも監督人の仕事になります。
3‐1.急を要する事態への対応
後見人が一時的に病気等になり後見事務が行えない場合には、後見監督人が本人の為に必要な行為をすることができます。
3‐2.利益相反行為に該当する場合
本人と後見人が利益相反に該当する場合は後見監督人が本人を代理します。
例えば、本人と後見人の間で不動産を売買する等です。後見人が単独で行えると、不適当な金額で売買をする可能性があるからです。
後見監督人が選任されていない場合は、特別代理人の選任申立てをすることになります。
3‐3.後見人の行為に対する同意
成年後見監督人が選任されている場合は、特定の行為に関しては同意を得る必要があります。
(後見監督人の同意を要する行為)
第八百六十四条 後見人が、被後見人に代わって営業若しくは第十三条第一項各号に掲げる行為をし、又は未成年被後見人がこれをすることに同意するには、後見監督人があるときは、その同意を得なければならない。ただし、同項第一号に掲げる元本の領収については、この限りでない。出典:e-Govウェブサイト
民法第13条第1項の行為とは以下です。
(保佐人の同意を要する行為等)
第十三条 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
一 元本を領収し、又は利用すること。
二 借財又は保証をすること。
三 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
四 訴訟行為をすること。
五 贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法(平成十五年法律第百三十八号)第二条第一項に規定する仲裁合意をいう。)をすること。
六 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
七 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
八 新築、改築、増築又は大修繕をすること。
九 第六百二条に定める期間を超える賃貸借をすること。
十 前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第十七条第一項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。出典:e-Govウェブサイト
*元本を領収することは除外されています。
重要な法律行為になるので後見監督人が選任されている場合は、同意を得る決まりになっています。
保佐人は当然に重要な法律行為に関して、本人に対して同意権と取消権を有しています。重要な法律行為とは民法第13条第1項各号に定められている行為です。けれども、実際にどのような行為が該当するかを、知っている人は少ないのではないでしょうか[…]
4.後見開始後に選任されることもある
成年後見監督人が選任されるのは、後見開始の申立て時だけではないです。すでに、後見が開始されていても、監督人が選任されることはあります。
以下の2つです。
- 成年後見監督人の選任申立て
- 家庭裁判所が職権で選任
4‐1.成年後見監督人の選任申立て
選任後見監督人の選任申立てをすることもできます。申立ては後見人・本人・本人の親族ができます。
後見人の仕事に不安がある親族等が申立てをしているようです。
4‐2.家庭裁判所が職権で選任
家庭裁判所が職権で選任することもあります。後見人だけでは後見事務を適切にこなすことが困難だと判断した場合です。
後見制度支援預貯金や後見制度支援信託の利用を断った場合等は、成年後見監督人が選任されることが多いです。
5.誰が選ばれるのか
成年後見監督人に誰を選ぶのかは家庭裁判所が判断します。諸事情を考慮して適当な人を選ぶとされています。
基本的には、親族後見人の監督人は弁護士や司法書士等の専門職が選ばれやすいです。なぜなら、後見人を監督するとともに、サポートする役割もあるからです。
5‐1.監督人になれない人
成年後見監督人の選任申立て時に候補者を立てることはできますが、法律で禁止されている人もいます。
- 未成年者
- 家庭裁判所に解任された法定代理人等
- 破産者
- 本人に対して訴訟をしている
- 行方不明の人
上記の人は監督人として不適切なので除外されています。
身内が監督するのも良くないので下記の人も除かれます。
- 後見人の配偶者
- 後見人の直系血族
- 後見人の兄弟姉妹
親族が後見人になっていると、親族が監督人になるのは難しいでしょう。
6.監督人の報酬
成年後見監督人の報酬は本人の財産から支払われます。報酬額は固定ではなく家庭裁判所が決定します。
6‐1.報酬額の目安
報酬額の目安も家庭裁判所が公表しています。
報酬額の目安 | |
---|---|
管理財産額 | 報酬額(月額) |
5,000万円以下 | 1万円~2万円 |
5,000万円超 | 2万5,000円~3万円 |
上記の金額が基本報酬となります。
基本報酬とは別に付加報酬が発生する場合もあります。本人の為に困難な後見事務を行った場合、基本報酬額の50%を超えない範囲で追加されます。
6‐2.報酬付与の申立てが必要
報酬は自動的に振り込まれるわけではなく、家庭裁判所に報酬付与の審判を申立てる必要があります。
申立てをしなければ報酬は発生しませんが、現実的には専門職(弁護士・司法書士)が選任されることが多いので請求されます。
7.さいごに
成年後見監督人の選任は家庭裁判所の判断となりますが、親族が後見人になるケースでは選ばれやすいようです。
後見制度の初期は親族が後見人に選ばれるケースが多かったです。ただし、後見人による財産の不正利用等もあり、専門職が多く後見人に選ばれるようになっていました。
最近の流れとしては、後見監督人を選任したり支援信託や支援預貯金を利用することで、できる限り親族を後見人に選ぼうとしているように思えます。
親族を後見人に選びたい場合には、後見監督人についても知っておいてください。