任意後見受任者とは、任意後見契約の相手方であり、契約の効力が発生したら任意後見人になる人のことです。
任意後見受任者(効力発生前)の段階では、代理権は行使できず、できる行為にも限りがあります。
任意後見人と任意後見受任者とは何が違うのか、今回の記事を読んで確認しておいてください。
1.任意後見受任者とは後見人に就任予定の人

任意後見受任者とは、契約により任意後見人に就任する予定の人です。
現時点では、任意後見人ではないので、「任意後見受任者」と呼ばれます。
- 本人 |委任者
- 相手方|受任者
任意後見契約に関する法律でも、任意後見受任者の定義について定めています。
以下は、任意後見契約に関する法律の条文です。
(定義) 第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号の定めるところによる。 (省略) 三 任意後見受任者 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任される前における任意後見契約の受任者をいう。
任意後見監督人が選任される前は、任意後見人ではなく任意後見受任者です。
1-1.任意後見受任者になれる人
任意後見受任者になるために、特別な資格や条件はありません。
一般的には、親族と任意後見契約を結ぶ人が多いです。もちろん、親族以外と結んでも問題ありません。
ただし、以下の人は任意後見人になれないので、契約を結ぶ際は注意してください。
- 未成年者
- 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人・保佐人・補助人
- 破産者
- 行方の知れない人
- 本人に対して訴訟をし、又はした者及びその配偶者並びに直系血族
- 不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者
未成年者以外の人に関しては、任意後見契約を結んで受任者になっても、任意後見人になれないので意味がないです。
※未成年者は成人していればなれる。
任意後見受任者は誰でもなれますが、任意後見人になれる人を選んでください。
1-2.任意後見受任者も登記事項証明書に記載
任意後見契約を結ぶと後見登記簿に記録されます。
そして、任意後見受任者も後見登記簿の記載事項となります。
以下は、登記事項証明書の見本です。
登記事項証明書
任意後見契約
(省略)
任意後見契約の本人
(省略)
任意後見受任者
【氏名】〇〇 〇〇
【住所】大阪府大阪市北区〇〇町〇〇
【代理権の範囲】別紙目録記載のとおり
任意後見契約の効力発生前は、後見登記簿にも任意後見受任者と記載されています。
関連記事を読む『任意後見契約の登記|登記事項証明書で代理権を証明する』
2.任意後見受任者は代理権を行使できない

任意後見契約を結んでも、任意後見受任者では代理権を行使できません。
なぜなら、任意後見人ではないからです。
2-1.代理権の行使は任意後見人になってから
任意後見契約により代理権が行使できるのは、契約の効力が発生した後です。
任意後見受任者(契約の効力発生前)の段階では、任意後見人ではないので代理権も行使できません。
本人の身体能力が低下しても、任意後見受任者では代理できません。
任意後見受任者に代理権を付与したい場合は、別の委任契約が必要になります。
関連記事を読む『任意後見契約の移行型|身体能力の低下に対応する方法』
2-2.任意後見監督人が選任されると任意後見人

任意後見契約の効力は、任意後見監督人の選任により発生します。
そして、契約の効力が発生すると、任意後見受任者から任意後見人に変わります。
任意後見人に変わると代理権を行使可能です。
本人の判断能力が低下したら、任意後見監督人の選任申立てをしてください。
関連記事を読む『任意後見契約の効力を発生させるには2つの条件を満たす必要がある』
3.任意後見受任者にできる行為は3つ

任意後見受任者にできる行為は限られています。
- 任意後見監督人の選任申立て
- 本人(委任者)の死亡届の届出人
- 任意後見契約の解除
それぞれ説明していきます。
3-1.任意後見監督人の選任申立てができる
任意後見受任者は任意後見監督人の選任申立てができます。
以下は、任意後見契約に関する法律の条文です。
(任意後見監督人の選任) 第四条 任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任する。(後略)
申立てにより任意後見監督人が選任されると、任意後見契約の効力が発生します。
本人(委任者)の判断能力が低下したら、家庭裁判所に申立てをしましょう。
関連記事を読む『任意後見監督人の選任申立て手続きでは書類の準備が大変』
3-2.本人(委任者)の死亡届も届出できる
任意後見契約を結んでいても、効力発生前に本人が亡くなるケースはあります。
かつては、任意後見人(効力発生後)でなければ、死亡届の届出人になれませんでした。
ですが、法改正により、任意後見受任者(効力発生前)も届出人になれます。
以下は、戸籍法の条文です。
第八十七条 次の者は、その順序に従つて、死亡の届出をしなければならない。ただし、順序にかかわらず届出をすることができる。 第一同居の親族 第二その他の同居者 第三家主、地主又は家屋若しくは土地の管理人 ②死亡の届出は、同居の親族以外の親族、後見人、保佐人、補助人、任意後見人及び任意後見受任者も、これをすることができる。
任意後見受任者が親族以外であっても、届出人になれるので安心してください。
関連記事を読む『任意後見受任者も死亡届の届出人になれる』
3-3.任意後見契約はいつでも解除できる
任意後見受任者は、いつでも任意後見契約を解除できます。
以下は、任意後見契約に関する法律の条文です。
(任意後見契約の解除) 第九条 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任される前においては、本人又は任意後見受任者は、いつでも、公証人の認証を受けた書面によって、任意後見契約を解除することができる。
任意後見監督人が選任される前(契約の効力発生前)なら、公証人の認証を受けた書面によって契約を解除できます。
ちなみに、本人(委任者)の同意が得られなくても、契約の解除は可能です。
関連記事を読む『任意後見契約は解除できる|時期により方法が違うので注意』
4.任意後見受任者の事情でも契約は終了

任意後見契約も委任契約なので、任意後見受任者が委任の終了事由に該当すると、契約は終了となります。
終了事由は3つあるので、しっかりと確認しておいてください。
4-1.任意後見契約の終了事由は3つ
任意後見契約の終了事由は、民法の委任に記載されています。
以下は、民法の条文です。
(委任の終了事由) 第六百五十三条 委任は、次に掲げる事由によって終了する。 一 委任者又は受任者の死亡 二 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。 三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。
上記の条文を任意後見受任者に当てはめると、以下のようになります。
- 任意後見受任者の死亡
- 任意後見受任者が破産
- 任意後見受任者が後見開始
任意後見受任者の死亡だけでなく、破産手続開始の決定や後見開始の審判でも終了です。
そして、契約が終了したら、後見登記が必要になります。
4-2.契約が終了したら後見登記の申請が必要
任意後見受任者が契約の終了事由に該当しても、後見登記は残ったままです。
したがって、任意後見委任者(本人)または任意後見受任者は、後見終了の登記を申請する義務があります。
以下は、後見登記等に関する法律の条文です。
(終了の登記) 第八条 (省略) 2 任意後見契約に係る登記記録に記録されている前条第一項第四号に掲げる者は、任意後見契約の本人の死亡その他の事由により任意後見契約が終了したことを知ったときは、嘱託による登記がされる場合を除き、終了の登記を申請しなければならない。
※任意後見受任者は前条第一項第四号に掲げる者に該当。
任意後見受任者が本人の死亡を知った場合も、申請義務があるので注意してください。
5.任意後見受任者と任意後見人の違い
任意後見受任者と任意後見人の違いについて、下記の表で簡単に比較しています。
任意後見 受任者 | 任意後見人 | |
---|---|---|
契約の効力 | 発生前 | 発生後 |
代理権 | × | ○ |
契約の解除 | ○ | △ |
死亡届 | ○ | ○ |
※任意後見人は家庭裁判所の許可を得て解除できる。
任意後見契約の効力が発生すると、受任者が任意後見人に就任します。任意後見人に就任しないと、代理権は行使できません。
契約の効力発生前(任意後見受任者)なら、自由に解除できます。効力発生後(任意後見人)は家庭裁判所の許可が必要です。
任意後見受任者にできる行為は限られますが、本人(委任者)の死亡届は届出できます。
6.まとめ
今回の記事では「任意後見受任者」について説明しました。
任意後見受任者とは任意後見契約の相手方(受任者)のことです。
任意後見契約の効力が発生すると、任意後見受任者が任意後見人になります。
任意後見受任者の段階では、代理権を行使できません。
ただし、任意後見監督人の選任申立てや本人の死亡届は、任意後見受任者でも可能です。
任意後見受任者と任意後見人を勘違いしている人もいるので、しっかりと確認しておいてください。