遺言書に何を記載するかは、本人(遺言者)が自由に決めます。
ただし、遺言書に記載して法的効力があるかは別問題です。
遺言書に記載して法的効力があるものを、遺言事項(法定遺言事項)といいます。
遺言事項は4つに分けることができます。
- 相続財産に関すること
- 相続に関すること
- 身分に関すること
- 相続以外に関すること
それぞれ、民法や民法以外の法律で決められています。
今回の記事では遺言事項について説明しているので、これから遺言書を作成するなら参考にしてください。
目次
1.相続財産に関すること
遺言書には、相続財産に関することを記載できます。
- 遺産の分割
- 相続分の指定
- 遺贈
上記の3項目は、遺言書に記載することが多いです。
1-1.遺産の分割に関すること
遺言事項の第1項目は、遺産の分割に関することです。
遺言書で遺産の分割に関することを定めることができます。
被相続人(遺言者)は、遺言書で以下を定めることができます。
- 遺産の分割方法
- 遺産の分割禁止
遺産の分割方法を定める
遺言書で相続財産の分割方法を決めることができます。
相続財産の分割方法を決めておけば、相続人同士で遺産分割協議をする必要がありません。
*一部しか決めていなければ、残りは遺産分割協議が必要です。
第3者に分割方法の決め方を委託することもできます。
遺産の分割を禁止できる
遺言書で相続財産の分割を、一定期間禁止することができます。
禁止期間は最長で相続の開始日(死亡日)から5年間です。
例えば、相続人の中に未成年者がいるので、成年になるまで遺産分割を禁止するが考えられます。遺産分割を禁止していない場合は、未成年者の親権者が遺産分割協議に参加します。
1-2.相続人の相続分を指定できる
遺言事項の第2項目は、相続分の指定についてです。
遺言書で相続人の相続分を決めることができます。
被相続人(遺言者)は、遺言書で相続人の相続分(相続割合)を決めることができます。相続分の指定を第3者に委託することも可能です。
法定相続分と違う割合で決めれますが、遺産分割協議は必要になります。
1-3.包括遺贈および特定遺贈
遺言事項の第3項目は、遺贈です。
遺言者は遺言書に記載することで、財産を遺贈することができます。
相続人以外の第3者に相続財産を残したい場合は、遺贈により相続財産を残します。
遺贈は2種類あります。
- 包括遺贈
- 特定遺贈
包括遺贈は割合を指定して遺贈することで、特定遺贈は財産を特定して遺贈することです。
遺贈に関する記事は、以下の記事一覧からご確認ください。
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2.相続に関すること
遺言書には、相続に関することを記載できます。
- 遺言執行者の指定
- 特別受益の持ち戻し免除
- 遺留分侵害額の負担割合
- 相続財産の担保責任
上記の中では、遺言執行者の指定を記載することが多いです。
2-1.遺言執行者を指定できる
遺言事項の第4項目は、遺言執行者の指定です。
遺言者は遺言書で遺言執行者を指定することができます。
- 遺言執行者
- 遺言書の内容を実行する人のこと
遺言執行者を指定しておくと、相続手続きをスムーズに進めることができます。
遺言執行者を指定していない場合は、家庭裁判所に選任を申し立てることも可能です。
関連記事を読む『遺言執行者を指定するメリットはあるのか?』
2-2.特別受益の持ち戻し免除
遺言事項の第5項目は、特別受益の持ち戻し免除です。
被相続人(遺言者)は、特別受益の持ち戻しを免除することができます。
- 特別受益
- 相続人が被相続人から生前に受けた特別な利益のこと
相続の計算をする際には、相続人同士で不公平にならないよう、特別受益を相続財産に持ち戻して計算します。
ただし、被相続人(遺言者)が法律の規定と異なった意思表示をしたときは、その意思に従います。
持ち戻し免除の意思表示の方法は決まっていないので、遺言書で意思表示をすることもできます。
2-3.遺留分侵害額の負担割合を決める
遺言事項の第6項目は、遺留分侵害額の負担割合です。
遺言者は遺留分侵害額の負担割合を決めることができます。
遺贈等により相続人の遺留分を侵害している場合は、遺留分侵害額請求をすることができます。
遺留分侵害額の負担割合は民法で決められていますが、遺言者は遺言書で負担割合を決めることができます。
例えば、AさんとBさんに遺贈しているとします。原則は、遺贈の価格割合に応じて負担します。
遺言書に「遺留分侵害額の負担はAさんの遺贈から対象として、その後でBさんに対する遺贈を対象とする」と記載すれば、価格割合ではなくAさんの遺贈から対象になります。
2-4.相続財産の担保責任
遺言事項の第7項目は、相続財産の担保責任です。
被相続人(遺言者)は、遺言書で相続財産の担保責任について決めることができます。
各共同相続人は、他の相続人に対して相続分に応じて担保責任を負います。
例えば、遺産分割協議により建物を取得したが、現地に行って確認すると建物が壊れていた場合です。
建物を取得した相続人は損をしたことになるので、他の相続人は相続分に応じて負担することになります。
ただし、被相続人(遺言者)は、遺言書で担保責任について決めることができます。
3.身分に関すること
遺言書では、身分(親子関係や未成年後見等)に関することも記載できます。
- 遺言書による認知
- 相続人の廃除請求
- 未成年後見人の指定
3-1.遺言書で認知をする
遺言事項の第8項目は、遺言書で認知をするです。
被相続人(遺言者)は、非嫡出子の子どもを遺言書で認知することもできます。
子どもを認知する遺言書が見つかった場合は、遺言執行者は就任から10日以内に認知の届け出をする必要があります。
認知する子どもが成人している場合は、本人の承諾が必要です。
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3-2.相続人の廃除を請求できる
遺言事項の第9項目は、相続人の廃除です。
被相続人(遺言者)は、遺言書で推定相続人の廃除を請求できます。
- 相続人の廃除
- 家庭裁判所の審判により相続権を剥奪すること
遺言書に相続人の廃除を記載することで、亡くなった後で家庭裁判所に請求することができます。
ただし、兄弟姉妹は相続人の廃除から除外されています。
なぜなら、兄弟姉妹は遺留分を持っていないので、遺言書で財産を別の人に渡せばいいからです。
3-3.未成年後見人を指定できる
遺言事項の第10項目は、未成年後見人の指定です。
親権者は遺言書で、未成年後見人および未成年後見監督人を指定することができます。
未成年者に対して最後に親権を行う人は、遺言書で未成年後見人および未成年後見監督人を指定できます。
遺言書で未成年後見人を指定していない場合は、家庭裁判所に未成年後見人の選任申立てをします。
4.相続以外に関すること
遺言書には、相続以外に関することも記載できます。
- 信託の設定
- 保険金の受取人変更
- 一般社団法人の設立
- 祭祀主宰者の指定
上記の中では、祭祀主宰者の指定は記載することがあります。
4-1.信託の設定も遺言で可能
遺言事項の第11項目は、遺言による信託の設定です。
信託の設定は遺言書ですることもできます。
非常に間違えやすいのですが、銀行の遺言信託とは別ものになります。
あくまでも、遺言書による信託の設定です。自分が亡くなった後で、財産を信託財産にする方法になります。
4-2.保険金の受取人変更もできる
遺言事項の第12項目は、保険金の受取人変更です。
保険金の受取人変更は、遺言書でもできます。
遺言書による保険金の受取人変更は、保険法により認められています。
ただし、遺言書で保険金の受取人変更をすることには、リスクもあるので気を付けてください。
関連記事を読む『遺言書で生命保険金の受取人を変更する書き方や危険性について』
4-3.一般財団法人を設立する意思表示
遺言事項の第13項目は、一般社団法人を設立する意思表示です。
遺言書に一般社団法人を設立する意思表示を記載することもできます。
一般社団法人を設立する意思表示をして、定款に記載する内容を遺言書に記載しておきます。
一般社団法人を設立するには、遺言執行者が必要になるので、忘れずに指定しておきましょう。
4-4.祭祀主宰者の指定
遺言事項の第14項目は、祭祀主宰者の指定です。
被相続人(遺言者)は、遺言書で祭祀主宰者を指定することができます。
- 祭祀主宰者
- お墓などの祭祀財産を承継する人のこと
祭祀主宰者の指定方法については、特に決まりがありません。ですので、遺言書で指定することもできます。
5.さいごに
遺言事項は法律により決まっています。
- 相続財産に関すること
- 相続に関すること
- 身分に関すること
- 相続以外に関すること
民法で決まっている遺言事項もありますし、民法以外の法律で決まっている遺言事項もあります。
また、法律で意思表示の方法が決まっていなければ、遺言書で意思表示することもできます。
遺言書を作成する際は、遺言事項に該当するか確認しておきましょう。
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