法定相続分による相続登記は、相続人の1人から単独申請することもできます。
なぜなら、法定相続分での相続登記は、共有財産の保存行為となるからです。
ただし、単独申請にはデメリットがあるので、できる限り相続人全員で申請してください。
今回の記事では、法定相続分での相続登記について説明しているので、相続登記の参考にしてください。
目次
1.相続登記には3パターンある
亡くなった人が不動産を所有していると、相続登記を申請することになります。
*受遺者に遺贈する場合は除きます。
相続登記には以下の3パターンがあります。
- 遺言書の指定による登記
- 遺産分割協議に従って登記
- 法定相続分の割合で登記
簡単に3つの違いについて説明します。
1-1.遺言書の指定による登記
亡くなった人が遺言書を作成していた場合、遺言書の内容に従って不動産も相続されます。
例えば、遺言書に「自宅不動産は長男に相続させる」と記載されていれば、亡くなった人から長男に相続登記をします。
遺言書が公正証書遺言または法務局保管の自筆証書遺言以外であれば、登記をする前に検認手続きが必要になります。
関連記事を読む『遺言書の検認とは相続手続をするのに必要な作業』
1-2.遺産分割協議に従って登記
遺言書が残されていなければ、相続人全員で遺産分割協議をして不動産の取得者を決めます。
例えば、相続人が長男と次男の2人で、遺産分割協議により長男が相続すると決めれば、亡くなった人から長男に相続登記をします。
遺産分割協議書には相続人全員の印鑑証明書を添付する必要があります。
関連記事を読む『相続登記と遺産分割協議書について徹底解説【2022年版】』
1-3.法定相続分の割合で登記
亡くなった人が遺言書を残してなく、かつ、遺産分割協議も不調に終われば、法定相続分で登記することも可能です。
遺産分割協議で誰が不動産を取得するか決まらない場合等は、とりあえず法定相続分で登記することがあります。
法定相続分どおりの登記となるので、割合等を確認しておいてください。
関連記事を読む『法定相続分|相続割合も法律で定められている』
2.法定相続分で登記する際の申請人
法定相続分の割合で登記する際の申請人は、以下の2パターンがあります。
- 相続人全員で共同申請
- 相続人の1人から単独申請
2-1.相続人全員で共同申請
原則どおり、相続人全員で相続登記を申請します。
例えば、亡くなった人の相続人が配偶者と長男と次男の3人であれば、3人で相続登記を共同申請します。
相続登記を司法書士に委任するのであれば、3人がそれぞれ委任状に署名捺印することになります。
2-2.相続人の1人から単独申請
法定相続分の割合で相続登記を申請する場合は、相続人の1人から単独で行うことができます。
なぜなら、法定相続分の登記が、共有財産の保存行為とされているからです。
例えば、亡くなった人の相続人が配偶者と長男と次男の3人であれば、長男は単独で相続登記を申請することができます。
法定相続分は以下のとおりです。
- 配偶者:2分の1
- 長男:4分の1
- 次男:4分の1
ただし、自分の持分だけを相続登記することはできません。
共同相続人の一人の持分のみについては、その相続登記をすることはできない。
あくまでも、共同相続人全員のために、相続登記を申請することになります。
3.単独申請にはデメリットもある
相続人の1人から単独で相続登記できるのは、他の相続人の協力も不要なので便利なのですが、デメリットもあります。
- 登記識別情報が発行されない
- 相続放棄される可能性がある
3-1.登記識別情報が発行されない
相続登記の申請人にならなかった相続人には、登記識別情報が発行されません。
(登記識別情報の通知)
第二十一条 登記官は、その登記をすることによって申請人自らが登記名義人となる場合において、当該登記を完了したときは、法務省令で定めるところにより、速やかに、当該申請人に対し、当該登記に係る登記識別情報を通知しなければならない。ただし、当該申請人があらかじめ登記識別情報の通知を希望しない旨の申出をした場合その他の法務省令で定める場合は、この限りでない。
- 登記識別情報
- 不動産の権利者であることを証する情報で、12桁の英数字が羅列されている
登記識別情報が発行されるのは、新たに名義人になる申請人のみです。後から発行することもできません。
登記識別情報が無いと、登記を申請する際に余計な手間や費用が増えるので、できる限り全員で相続登記を申請してください。
関連記事を読む『相続登記と登記識別情報の関係について知っておこう』
3-2.相続放棄される可能性がある
他の相続人に連絡が取れないので、とりあえず法定相続分で相続登記をする場合があります。
ですが、他の相続人が相続の開始を知らなければ、相続放棄をする可能性が残っています。
相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったとみなされます。つまり、相続登記に間違いがあることになるので、再度登記を申請する手間と費用が発生します。
相続の開始を知らない相続人がいる場合は、相続放棄により相続人が変更する可能性を考慮しておいてください。
関連記事を読む『相続登記を錯誤により更正する|登記の前後により方法が違う』
4.不動産の共有は避けた方が良い
遺産分割協議で不動産の取得者が決まらない等の理由により、法定相続分での登記を選ぶこともあります。
ですが、法定相続分で登記するということは、不動産を共有状態にするということです。
話し合いにより共有状態にするのは別にして、結論の先延ばしで共有状態にしてしまうと、後々不動産の処分が面倒になったりします。
なぜなら、不動産を処分する際には共有者全員の同意が必要なので、誰か1人でも反対すると売却することもできないからです。遺産分割協議の段階で不動産の処分について、しっかり話し合っておくことをお勧めします。
また、共有状態を長期間に渡り放置しておくと、新たな相続が発生してしまいます。共有者が変更になると、全員の同意を得るのがさらに難しくなります。共有状態はできる限り早めに解消した方が良いです。
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5.さいごに
亡くなった人の不動産を相続登記する場合、法定相続分の割合ですることがあります。遺言書が残されていないや、遺産分割協議が不調に終わる等です。
相続登記を法定相続分の割合で申請する場合は、相続人の1人から単独ですることができます。
ただし、単独申請にはデメリットもあります。申請人になっていない相続人には、登記が完了しても登記識別情報が発行されません。
法定相続分で登記するなら、原則どおり相続人全員で申請することをお勧めします。