相続登記は遺産分割協議が済んでいなくても、法定相続分で申請することは可能です。
法定相続分で相続登記する場合、相続人の一部から申請できます。
ただし、申請人以外の相続人には登記識別情報が発行されないので、できる限り相続人全員で申請した方が良いです。
今回の記事では、法定相続分による相続登記について説明しているので、相続登記を申請する際の参考にしてください。
目次
1.法定相続分により相続登記できる
亡くなった人が不動産を所有していると、相続人は相続登記を申請します。
*受遺者に遺贈する場合は除きます。
そして、相続登記には以下の3パターンがあります。
- 遺言書の指定による相続登記
- 遺産分割協議による相続登記
- 法定相続分の割合で相続登記
法定相続分の割合で相続登記するケースは2つあります。
1-1.遺産分割協議をせずに法定相続分で登記
法定相続分で登記するケース1つ目は、遺産分割協議をせずに相続登記する場合です。
遺産分割協議をせずに相続登記する場合には、以下の2つがあります。
- 共同相続人と連絡が取れず遺産分割協議ができない
- 話し合いがまとまらず遺産分割協議が成立しない
遺産分割協議が成立しないので、やむを得ず法定相続分の割合で相続登記しているケースが多いです。
関連記事を読む『法定相続分に関する民法の条文【900条から902条】』
1-2.遺産分割協議による法定相続分の登記
遺産分割協議で不動産の所有者を決める場合、通常は単独所有にします。
ですが、遺産分割協議の結果として、不動産を法定相続分で共有にするのは自由です。
【事例1】
相続人は子ども2人で不動産が収益物件。
どちらかの単独名義にしたかったが、話し合いがまとまらないので、法定相続分で共有にして様子を見る。
【事例2】
相続人は子ども2人で不動産が複数存在。
単独名義にする不動産もあるが、法定相続分で共有名義にする不動産もある。
遺産分割協議の結果により、法定相続分で登記するケースも存在します。
関連記事を読む『相続登記と遺産分割協議書について徹底解説【2023年版】』
2.法定相続分で相続登記する際の申請人
法定相続分の割合で登記する際の申請人は、以下の2パターンがあります。
- 相続人全員で申請
- 相続人の一部から申請
それぞれ説明していきます。
2-1.相続人全員で相続登記を申請
相続人全員で相続登記を申請する場合です。
例えば、亡くなった人の相続人が、配偶者・長男・次男の3人であれば、3人全員で相続登記を申請します。
相続登記を司法書士に依頼する場合も、相続人全員が委任状に署名捺印です。
ただし、常に相続人全員と連絡が取れるわけではないので、全員で相続登記するのが難しいケースもあります。
2-2.相続人の一部から相続登記を申請
法定相続分で相続登記する場合、相続人の一部からでも申請できます。
なぜなら、法定相続分の登記は、共有財産の保存行為だからです。
例えば、亡くなった人の相続人が配偶者と長男と次男の3人であれば、長男は単独で相続登記を申請できます。
法定相続分は以下のとおりです。
- 配偶者:2分の1
- 長男 :4分の1
- 次男 :4分の1
ただし、自分の持分だけを相続登記することはできません。
以下は、登記先例です。
あくまでも、共同相続人全員のために、法定相続分で相続登記を申請します。
3.相続人の一部から登記するとデメリットもある
一部の相続人から相続登記を申請できるのは、他の相続人の協力も不要なので便利ですが、デメリットもあります。
- 登記識別情報が発行されない
- 相続放棄される可能性がある
デメリットを知ったうえで、一部の相続人で申請するか判断してください。
3-1.申請人以外に登記識別情報が発行されない
デメリット1つ目は、申請人以外に登記識別情報が発行されないです。
相続登記の申請人以外の相続人には、登記識別情報が発行されません。
以下は、不動産登記法の条文です。
- 登記識別情報
- 不動産の権利者であることを証する情報で、12桁の英数字が羅列されている
登記識別情報が発行されるのは、新たに名義人になる申請人のみです。後から発行することもできません。
登記識別情報が無いと、登記を申請する際に余計な手間や費用が増えるので、できる限り全員で相続登記を申請してください。
関連記事を読む『相続登記と登記識別情報の関係について知っておこう』
3-2.相続登記の後で相続放棄される可能性がある
他の相続人が相続の開始を知らない間に、法定相続分で登記を申請すると、後から更正登記が必要になる可能性があります。
なぜなら、他の相続人が相続の開始を知らなければ、相続放棄できるからです。
例えば、相続人がA・B・Cの3人で、各持分3分の1だった場合。
法定相続分で登記 | Cが相続放棄 | |
相続人A | 持分3分の1 | 持分2分の1 |
相続人B | 持分3分の1 | 持分2分の1 |
相続人C | 持分3分の1 | ー |
相続人Cが相続放棄すると、法定相続分での登記は間違いになります。
相続放棄すると初めから相続人ではないので、間違いを直すために更正登記が必要になります。
相続の開始を知らない相続人がいる場合は、相続放棄により相続人が変更する可能性を考慮しておきましょう。
関連記事を読む『相続登記を錯誤により更正する|登記の前後により方法が違う』
4.法定相続分で登記した後に遺産分割協議
法定相続分で登記した後に、遺産分割協議をして所有者を決めることもできます。
上記の場合、従来の不動産登記では、以下の登記が必要でした。
- 目 的:持分移転
- 原 因:遺産分割
- 権 利 者:不動産を取得する相続人
- 義 務 者:不動産を取得しない相続人
- 登録免許税:課税価格×0.4%
ですが、不動産登記法の改正(令和5年4月1日)により、不動産登記実務にも変更があり、以下のように簡略化されます。
- 更正登記
- 不動産を取得する相続人の単独申請
- 登録免許税は不動産1個につき1,000円
不動産を取得する相続人が単独で申請でき、登録免許税も1,000円となります。
相続登記が義務化されることにより、とりあえず法定相続分で登記する人が増えると思われるので、登記実務も変更するようです。
5.胎児名義で相続登記するなら法定相続分
相続人の中に胎児がいる場合、胎児名義で相続登記を申請できます。
ただし、胎児の時点では遺産分割協議ができないので、法定相続分での相続登記です。
基本的には、胎児が出生してから相続登記すれば良いのですが、胎児名義で相続分を確保するメリットがあれば検討しましょう。
関連記事を読む『胎児名義で相続登記は可能|前もって相続分を確保できる』
6.法定相続分での登記はできる限り避ける
遺産分割協議で不動産の取得者が決まらない等の理由により、法定相続分での登記を選ぶこともあります。
ですが、法定相続分での登記は、できる限り避けるようにしましょう。
話し合いにより共有状態にする場合は別ですが、結論の先延ばしで共有状態にすると、後から不動産の処分をするのが面倒になるからです。
不動産を処分するには共有者全員の同意が必要なので、誰か1人でも反対すると処分できません。
また、不動産の共有状態が長期間になると、共有者にも相続が発生し、共有者が変更する可能性もあります。
法定相続分で登記する場合であっても、なるべく早めに共有状態は解消しましょう。
関連記事を読む『不動産(実家)を共有名義にするのはデメリットが多い』
7.まとめ
今回の記事では「法定相続分での相続登記」について説明しました。
亡くなった人の不動産を相続登記する場合、法定相続分での登記も可能です。
共同相続人に連絡が取れない場合や、遺産分割協議が不成立だった場合は、法定相続分での相続登記を選ぶしかありません。
法定相続分での相続登記は、相続人の一部から申請できます。
ただし、申請人以外の相続人には、登記識別情報が発行されないというデメリットもあります。
法定相続分で登記した場合でも、できる限り早めに共有状態は解消した方が良いです。
法定相続分による相続登記に関するQ&A
- Q.法定相続分で登記する前に他の相続人に連絡は必要ですか?
- A.義務ではありませんが、連絡した方が良いです。
- Q.他の相続人が法定相続分の登記に反対しても申請できますか?
- A.他の相続人が反対していても申請できます。
- Q.相続人の1人が亡くなっていても申請できますか?
- A.亡くなった相続人名義で登記できます。