相続登記は遺言書があっても必要!後回しにせず速やかに申請

相続登記と遺言書
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亡くなった人が遺言書に不動産の相続人を書いていても、相続登記は速やかに申請してください。

なぜなら、名義を変更しなければ、第3者には対抗できないからです。

また、相続登記は義務化されているので、遺言書があっても登記を怠れば過料の定めもあります。

相続登記を後回しにするメリットはないので、今回の記事を参考にして申請してください。

\相続登記も義務化/

目次

1.遺言書があっても相続登記は必要

まずは、遺言書と相続登記の関係について説明していきます。

意外と知らない人も多いので、しっかりと確認しておいてください。

1-1.遺言により所有権は移転している

遺言者が亡くなると、相続登記が済んでいなくても、不動産の所有権は移転します。

以下は、民法の条文です。

(遺言の効力の発生時期)
第九百八十五条 遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。

出典:e-Govウェブサイト(民法985条)

不動産の名義が亡くなった人でも、法律上は相続人に所有権が移っています。

ただし、法定相続分を上回る部分については、相続登記をしなければ第3者に対抗できません。

1-2.名義を変更しないと第3者に対抗できない

遺言書による相続でも法定相続分を超える部分は登記が対抗要件

かつては、遺言書による相続であれば、登記をしなくても第3者に対抗できました。

ですが、法改正により、登記をしなければ第3者に対抗できないです。

以下は、民法の条文です。

(共同相続における権利の承継の対抗要件)
第八百九十九条の二 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。

出典:e-Govウェブサイト(民法899条の2)

法定相続分を上回る部分については、登記が第3者対抗要件になります。

【事例】

相続人|子どもが2人(A・B)
遺言書|Aが不動産を相続する

法定相続分(2分の1)を上回る部分については、相続登記をしなければ第3者に対抗できません。

相続登記をする前に、相続人Bの債権者がBの法定相続分を差し押さえると、相続人Aは権利を主張できません。

遺言書が残されていても、相続登記を放置すると、差し押さえられる可能性はあります。

1-3.相続登記は義務化されている

遺言書により不動産を相続した人は、相続登記を申請する義務があります。

以下は、不動産登記法の条文です。

第七十六条の二 所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。
出典:e-Govウェブサイト(不動産登記法76条の2の1項)

法改正により、相続登記は義務化されているので、後回しにせず申請しましょう。

遺言書による相続であっても、放置すると過料の定めがあるので注意してください。

2.遺言書によっては相続登記前に検認

遺言書によっては相続登記の前に検認が必要

亡くなった人が作成した遺言書の種類によっては、相続登記する前に検認手続きが必要になります。

検認手続き

相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせ、偽造・変造を防止する手続きのこと。

遺言書の検認手続きは、遺言者 (亡くなった人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。

遺言書の種類検認
公正証書遺言不要
自筆証書遺言
※法務局保管
不要
自筆証書遺言必要
秘密証書遺言必要
遺言書と検認の有無

公正証書遺言と法務局保管の自筆証書遺言は、検認不要で相続登記できます。

一方、自筆証書遺言(法務局以外で保管)と秘密証書遺言は、検認手続きを済ませないと、相続登記に使用できません。

検認後に相続登記を申請する場合、検認済証明書も添付書類となります。
*検認終了後に取得できます。

遺言書の検認手続きには手間がかかるので、早めに申立てをしてください。

家庭裁判所での検認手続きについては、下記の記事で説明しています。

3.遺言書による相続登記の申請人

遺言書による相続登記を申請できるのは、以下の人です。

  • 遺言書により不動産を相続する人
  • 遺言執行者(遺言書の内容による)

それぞれ説明していきます。

3-1.不動産を相続する人(権利者)

原則として、遺言書による相続登記は、不動産を相続する人が申請人です。

相続登記は権利者の単独申請であり、他の相続人の同意等も必要ありません。

相続登記の義務化や第3者対抗要件のためにも、相続登記は後回しにせず申請してください。

3-2.遺言執行者も申請人となり得る

法改正により、遺言執行者も相続登記の申請人になり得ます。

以下は、民法の条文です。

第千十四条 (省略)
2 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。
出典:e-Govウェブサイト(民法1014条2項)

特定財産承継遺言とは、以下のような遺言書のことです。

遺言書

遺言者は、遺言者の有する下記の土地を、長男○○(生年月日)に相続させる

所在   ○○市○区○○町○丁目
地番   ○○番○
地目   宅地
地積   120.00㎡

上記のような記載があれば、遺言執行者は相続登記の申請人になれます。

もちろん、相続人が自分で相続登記を申請しても問題ありません。

4.遺言書による相続登記の必要書類

遺言書による相続登記で必要になる書類は、以下のとおりです。

  • 被相続人の死亡戸籍
  • 被相続人の住民票
  • 不動産を相続する相続人の戸籍
  • 遺言書

他の相続登記と違う点もあるので、しっかりと確認しておいてください。

4-1.他の相続登記より戸籍謄本等が少ない

遺言書による相続登記は、他の相続登記に比べて必要な戸籍が少ないです。

戸籍法定相続分・遺産分割遺言書
被相続人出生から死亡死亡
相続人相続人全員取得者
相続登記の戸籍比較

法定相続分や遺産分割による相続登記では、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本がすべて必要です。また、相続人全員の戸籍も必要となります。

それに対して、遺言書による相続登記では、被相続人の死亡戸籍と取得者(遺言書により相続する人)の戸籍だけで大丈夫です。
相続人が第2順位以下なら出生からも必要。

亡くなった人が遺言書を作成しておくと、相続登記の準備も楽になります。

4-2.遺言書の種類によって添付書類が違う

亡くなった人が作成した遺言書の種類によって、相続登記の添付書類が違います。

遺言書の種類添付書類
公正証書遺言遺言書
自筆証書遺言
※法務局保管
遺言書情報証明書
自筆証書遺言遺言書
検認済証明書
秘密証書遺言遺言書
検認済証明書
相続登記の添付書類

遺言書が公正証書遺言であれば、公正証書遺言(正本)が添付書類です。

自筆証書遺言を法務局に保管している場合は、法務局で発行される遺言書情報証明書が添付書類となります。

自筆証書遺言(法務局以外で保管)と秘密証書遺言の場合は、遺言書と検認済証明書が添付書類です。

遺言書の種類によって、添付書類が違うので注意してください。

4-3.申請書に添付した遺言書は原本還付

相続登記の申請書に添付した遺言書は、原本還付(返還)できます。

ただし、何もしなければ遺言書は戻ってきません。

遺言書を原本還付するには、遺言書のコピーも添付して提出する必要があります。

原本還付の方法に関しては、以下の記事で説明しているので、確認しておいてください。

5.相続登記した後に遺言書を発見した

亡くなった人が遺言書を残していても、相続人が気付かないまま、相続登記を済ませるケースもあります。

では、相続登記を済ませた後に、遺言書を発見した場合、どうなるのでしょうか。

以下は、民法の条文です。

(遺言の効力の発生時期)
第九百八十五条 遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。

出典:e-Govウェブサイト(民法985条)

遺言書の効力は、亡くなった時点で発生しているので、相続登記は間違いとなります。

  • 法定相続分で相続登記
  • 遺産分割協議により相続登記

5-1.法定相続分で登記している場合

法定相続分で相続登記した後に、遺言書が見つかった場合です。

【事例】

相続人 |A・B・C
相続登記|A・B・Cで共有
遺言書 |Aに相続させる

初めからA単独名義にするところ、間違ってA・B・Cの共有名義になっています。

したがって、A単独名義にする更正登記を申請可能です。

不動産登記事務の変更により、法定相続分の登記から遺言書による登記へ更正する場合、所有者が単独で申請できます。

5-2.遺産分割協議により登記している場合

遺産分割協議により相続登記した後に、遺言書が見つかった場合です。

【事例】

相続人 |A・B・C
相続登記|Bが相続
遺言書 |Aに相続させる

Bへの相続登記は間違いなので、相続登記を抹消したうえで、Aに相続登記の申請可能です。

上記の事例では、更正の登記ができません。更正の前後を通じて同一性がないからです。

したがって、相続登記を抹消して、被相続人名義に戻したうえで、改めて相続登記を申請します。

6.遺言書の書き方によっては相続登記が困難

遺言書が残されていても、書き方によっては相続登記が困難になります。

なぜなら、不動産が特定できるとは限らないからです。

6-1.法務局の登記官が判断できない

法務局の登記官が読んで困る遺言書とは、以下のような書き方です。

遺言書

遺言者は、実家を、長男○○(生年月日)に相続させる。

実家としか書いていないので、実家が建っている土地(宅地)については判断できません。
※実家という書き方にも問題はあります。

遺言書に不動産を記載する場合、法務局の登記官が読んで分かる書き方をする必要があります。

6-2.相続人全員の同意が必要になる

法務局の登記官が不動産を特定できない場合、相続人全員の同意を求めるケースもあります。

なぜかというと、相続人全員が署名捺印(印鑑証明書添付)していれば、後から問題は起きないという考えだからです。

実質的には、遺産分割協議書を作成しているのと変わりません。

万が一、他の相続人の同意が得られないと、不動産の所有権確認訴訟も必要になるので注意してください。

7.遺言書と相続登記に関する細かい疑問

遺言書と相続登記に関する細かい疑問について、3つ説明します。

  • 相続人への遺贈登記と何が違う
  • 相続放棄すると不動産はどうなる
  • 遺産分割協議で取得者を変える

知らない知識があれば、確認しておいてください。

7-1.相続人への遺贈登記とは何が違う

遺言書で相続人に不動産を遺贈することも可能です。

では、遺言書による相続登記と相続人への遺贈登記は、何が違うのでしょうか。

結論から言えば、登記申請書の文言が少し違うぐらいで、後はほとんど同じです。

令和5年4月1日以降は、相続人への遺贈登記も単独申請となったので、遺言書による相続登記と変わりません。

相続人への遺贈登記は滅多に起きませんが、一応知っておいてください。

7-2.相続放棄すると不動産はどうなる

遺言書により不動産を相続させると書かれていた人が、相続放棄した場合についてです。

相続放棄すると相続人ではないので、遺言書に書かれていても不動産は取得しません。

では、不動産がどうなるかというと、原則どおり法定相続人(相続放棄した人は除く)が相続します。相続人が複数人なら、遺産分割協議で取得者を決めます。

遺言書に「相続させる」と書かれていても、相続放棄するのは自由です。

7-3.遺言書の内容と違う遺産分割協議

遺言書で不動産を相続する人が書かれていても、遺産分割協議(相続人全員の同意)で取得者を変えることは可能です。

ただし、法務局の考えは少し違うので注意してください。

遺産分割協議書の文言によっては、遺言書どおりの相続登記を求められます。

下記の記事で詳しく説明しているので、取得者を変えたい場合は参考にしてください。

8.遺言書による相続登記も司法書士に依頼できる

遺言書による相続登記であっても、司法書士に依頼できます。

司法書士に相続登記を依頼すると、必要な戸籍等の収集や申立書の作成・提出も行います。

自分でする時間がなければ、司法書士への依頼も検討してみてください。

8.まとめ

今回の記事では「遺言書による相続登記」について説明しました。

遺言書の効力により、不動産の所有権は移転しますが、相続登記しなければ第3者に対抗できないです。

また、法改正により相続登記は義務化されており、遺言書による相続も例外ではありません。

遺言書の種類によっては、検認手続きを済ませなければ、相続登記が申請できないです。添付書類も少し違うので注意してください。

遺言書が残されていても、相続登記は必要なので、後回しにせず申請してください。

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