亡くなった人が遺言書に不動産の相続人を書いていても、相続登記は速やかに申請してください。
なぜなら、名義を変更しなければ、第3者には対抗できないからです。
また、相続登記は義務化されているので、遺言書があっても登記を怠れば過料の定めもあります。
相続登記を後回しにするメリットはないので、今回の記事を参考にして申請してください。
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1.遺言書があっても相続登記は必要
まずは、遺言書と相続登記の関係について説明していきます。
意外と知らない人も多いので、しっかりと確認しておいてください。
1-1.遺言により所有権は移転している
遺言者が亡くなると、相続登記が済んでいなくても、不動産の所有権は移転します。
以下は、民法の条文です。
不動産の名義が亡くなった人でも、法律上は相続人に所有権が移っています。
ただし、法定相続分を上回る部分については、相続登記をしなければ第3者に対抗できません。
1-2.名義を変更しないと第3者に対抗できない
かつては、遺言書による相続であれば、登記をしなくても第3者に対抗できました。
ですが、法改正により、登記をしなければ第3者に対抗できないです。
以下は、民法の条文です。
法定相続分を上回る部分については、登記が第3者対抗要件になります。
【事例】
相続人|子どもが2人(A・B)
遺言書|Aが不動産を相続する
法定相続分(2分の1)を上回る部分については、相続登記をしなければ第3者に対抗できません。
相続登記をする前に、相続人Bの債権者がBの法定相続分を差し押さえると、相続人Aは権利を主張できません。
遺言書が残されていても、相続登記を放置すると、差し押さえられる可能性はあります。
関連記事を読む『相続登記が対抗要件なので未了だと第3者に対抗できない』
1-3.相続登記は義務化されている
遺言書により不動産を相続した人は、相続登記を申請する義務があります。
以下は、不動産登記法の条文です。
法改正により、相続登記は義務化されているので、後回しにせず申請しましょう。
遺言書による相続であっても、放置すると過料の定めがあるので注意してください。
関連記事を読む『【相続登記の義務化】罰則もあるので忘れずに申請しよう』
2.遺言書によっては相続登記前に検認
亡くなった人が作成した遺言書の種類によっては、相続登記する前に検認手続きが必要になります。
- 検認手続き
-
相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせ、偽造・変造を防止する手続きのこと。
遺言書の検認手続きは、遺言者 (亡くなった人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。
遺言書の種類 | 検認 |
---|---|
公正証書遺言 | 不要 |
自筆証書遺言 ※法務局保管 | 不要 |
自筆証書遺言 | 必要 |
秘密証書遺言 | 必要 |
公正証書遺言と法務局保管の自筆証書遺言は、検認不要で相続登記できます。
一方、自筆証書遺言(法務局以外で保管)と秘密証書遺言は、検認手続きを済ませないと、相続登記に使用できません。
検認後に相続登記を申請する場合、検認済証明書も添付書類となります。
*検認終了後に取得できます。
遺言書の検認手続きには手間がかかるので、早めに申立てをしてください。
家庭裁判所での検認手続きについては、下記の記事で説明しています。
関連記事を読む『遺言書の検認申立て手続きの流れ|思っているよりも時間がかかる』
3.遺言書による相続登記の申請人
遺言書による相続登記を申請できるのは、以下の人です。
- 遺言書により不動産を相続する人
- 遺言執行者(遺言書の内容による)
それぞれ説明していきます。
3-1.不動産を相続する人(権利者)
原則として、遺言書による相続登記は、不動産を相続する人が申請人です。
相続登記は権利者の単独申請であり、他の相続人の同意等も必要ありません。
相続登記の義務化や第3者対抗要件のためにも、相続登記は後回しにせず申請してください。
3-2.遺言執行者も申請人となり得る
法改正により、遺言執行者も相続登記の申請人になり得ます。
以下は、民法の条文です。
特定財産承継遺言とは、以下のような遺言書のことです。
遺言書
遺言者は、遺言者の有する下記の土地を、長男○○(生年月日)に相続させる。
所在 ○○市○区○○町○丁目
地番 ○○番○
地目 宅地
地積 120.00㎡
上記のような記載があれば、遺言執行者は相続登記の申請人になれます。
もちろん、相続人が自分で相続登記を申請しても問題ありません。
関連記事を読む『遺言執行者は遺贈登記だけでなく相続登記も申請できる』
4.遺言書による相続登記の必要書類
遺言書による相続登記で必要になる書類は、以下のとおりです。
- 被相続人の死亡戸籍
- 被相続人の住民票
- 不動産を相続する相続人の戸籍
- 遺言書
他の相続登記と違う点もあるので、しっかりと確認しておいてください。
4-1.他の相続登記より戸籍謄本等が少ない
遺言書による相続登記は、他の相続登記に比べて必要な戸籍が少ないです。
戸籍 | 法定相続分・遺産分割 | 遺言書 | |
---|---|---|---|
被相続人 | 出生から死亡 | 死亡 | |
相続人 | 相続人全員 | 取得者 |
法定相続分や遺産分割による相続登記では、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本がすべて必要です。また、相続人全員の戸籍も必要となります。
それに対して、遺言書による相続登記では、被相続人の死亡戸籍と取得者(遺言書により相続する人)の戸籍だけで大丈夫です。
※相続人が第2順位以下なら出生からも必要。
亡くなった人が遺言書を作成しておくと、相続登記の準備も楽になります。
関連記事を読む『相続登記の戸籍謄本は相続の内容を証明するために添付する』
4-2.遺言書の種類によって添付書類が違う
亡くなった人が作成した遺言書の種類によって、相続登記の添付書類が違います。
遺言書の種類 | 添付書類 |
---|---|
公正証書遺言 | 遺言書 |
自筆証書遺言 ※法務局保管 | 遺言書情報証明書 |
自筆証書遺言 | 遺言書 検認済証明書 |
秘密証書遺言 | 遺言書 検認済証明書 |
遺言書が公正証書遺言であれば、公正証書遺言(正本)が添付書類です。
自筆証書遺言を法務局に保管している場合は、法務局で発行される遺言書情報証明書が添付書類となります。
自筆証書遺言(法務局以外で保管)と秘密証書遺言の場合は、遺言書と検認済証明書が添付書類です。
遺言書の種類によって、添付書類が違うので注意してください。
4-3.申請書に添付した遺言書は原本還付
相続登記の申請書に添付した遺言書は、原本還付(返還)できます。
ただし、何もしなければ遺言書は戻ってきません。
遺言書を原本還付するには、遺言書のコピーも添付して提出する必要があります。
原本還付の方法に関しては、以下の記事で説明しているので、確認しておいてください。
関連記事を読む『相続登記で原本還付できる書面は他の手続きでも使用する』
5.相続登記した後に遺言書を発見した
亡くなった人が遺言書を残していても、相続人が気付かないまま、相続登記を済ませるケースもあります。
では、相続登記を済ませた後に、遺言書を発見した場合、どうなるのでしょうか。
以下は、民法の条文です。
遺言書の効力は、亡くなった時点で発生しているので、相続登記は間違いとなります。
- 法定相続分で相続登記
- 遺産分割協議により相続登記
5-1.法定相続分で登記している場合
法定相続分で相続登記した後に、遺言書が見つかった場合です。
【事例】
相続人 |A・B・C
相続登記|A・B・Cで共有
遺言書 |Aに相続させる
初めからA単独名義にするところ、間違ってA・B・Cの共有名義になっています。
したがって、A単独名義にする更正登記を申請可能です。
不動産登記事務の変更により、法定相続分の登記から遺言書による登記へ更正する場合、所有者が単独で申請できます。
関連記事を読む『相続登記を錯誤により更正する|登記の前後により方法が違う』
5-2.遺産分割協議により登記している場合
遺産分割協議により相続登記した後に、遺言書が見つかった場合です。
【事例】
相続人 |A・B・C
相続登記|Bが相続
遺言書 |Aに相続させる
Bへの相続登記は間違いなので、相続登記を抹消したうえで、Aに相続登記の申請可能です。
上記の事例では、更正の登記ができません。更正の前後を通じて同一性がないからです。
したがって、相続登記を抹消して、被相続人名義に戻したうえで、改めて相続登記を申請します。
6.遺言書の書き方によっては相続登記が困難
遺言書が残されていても、書き方によっては相続登記が困難になります。
なぜなら、不動産が特定できるとは限らないからです。
6-1.法務局の登記官が判断できない
法務局の登記官が読んで困る遺言書とは、以下のような書き方です。
遺言書
遺言者は、実家を、長男○○(生年月日)に相続させる。
実家としか書いていないので、実家が建っている土地(宅地)については判断できません。
※実家という書き方にも問題はあります。
遺言書に不動産を記載する場合、法務局の登記官が読んで分かる書き方をする必要があります。
関連記事を読む『遺言書で不動産を特定する書き方|曖昧な記載だと名義変更で困る』
6-2.相続人全員の同意が必要になる
法務局の登記官が不動産を特定できない場合、相続人全員の同意を求めるケースもあります。
なぜかというと、相続人全員が署名捺印(印鑑証明書添付)していれば、後から問題は起きないという考えだからです。
実質的には、遺産分割協議書を作成しているのと変わりません。
万が一、他の相続人の同意が得られないと、不動産の所有権確認訴訟も必要になるので注意してください。
7.遺言書と相続登記に関する細かい疑問
遺言書と相続登記に関する細かい疑問について、3つ説明します。
- 相続人への遺贈登記と何が違う
- 相続放棄すると不動産はどうなる
- 遺産分割協議で取得者を変える
知らない知識があれば、確認しておいてください。
7-1.相続人への遺贈登記とは何が違う
遺言書で相続人に不動産を遺贈することも可能です。
では、遺言書による相続登記と相続人への遺贈登記は、何が違うのでしょうか。
結論から言えば、登記申請書の文言が少し違うぐらいで、後はほとんど同じです。
令和5年4月1日以降は、相続人への遺贈登記も単独申請となったので、遺言書による相続登記と変わりません。
相続人への遺贈登記は滅多に起きませんが、一応知っておいてください。
7-2.相続放棄すると不動産はどうなる
遺言書により不動産を相続させると書かれていた人が、相続放棄した場合についてです。
相続放棄すると相続人ではないので、遺言書に書かれていても不動産は取得しません。
では、不動産がどうなるかというと、原則どおり法定相続人(相続放棄した人は除く)が相続します。相続人が複数人なら、遺産分割協議で取得者を決めます。
遺言書に「相続させる」と書かれていても、相続放棄するのは自由です。
7-3.遺言書の内容と違う遺産分割協議
遺言書で不動産を相続する人が書かれていても、遺産分割協議(相続人全員の同意)で取得者を変えることは可能です。
ただし、法務局の考えは少し違うので注意してください。
遺産分割協議書の文言によっては、遺言書どおりの相続登記を求められます。
下記の記事で詳しく説明しているので、取得者を変えたい場合は参考にしてください。
関連記事を読む『遺言書の内容と違う遺産分割協議はできるのか?』
8.遺言書による相続登記も司法書士に依頼できる
遺言書による相続登記であっても、司法書士に依頼できます。
司法書士に相続登記を依頼すると、必要な戸籍等の収集や申立書の作成・提出も行います。
自分でする時間がなければ、司法書士への依頼も検討してみてください。
8.まとめ
今回の記事では「遺言書による相続登記」について説明しました。
遺言書の効力により、不動産の所有権は移転しますが、相続登記しなければ第3者に対抗できないです。
また、法改正により相続登記は義務化されており、遺言書による相続も例外ではありません。
遺言書の種類によっては、検認手続きを済ませなければ、相続登記が申請できないです。添付書類も少し違うので注意してください。
遺言書が残されていても、相続登記は必要なので、後回しにせず申請してください。