亡くなった人の相続人が胎児であっても、相続登記の名義人にできます。
なぜなら、相続に関しては、胎児を出生しているとみなすからです。
胎児を登記名義人とすることで、胎児の相続分を保存することが可能です。
ただし、胎児の出生後には、変更登記が必要となります。
今回の記事では、胎児の相続登記について説明しているので、胎児が相続人なら参考にしてください。
1.胎児名義で相続登記することも可能
原則として、胎児(出生前)は権利能力を持っていません。
しかし、相続に関しては、胎児を出生しているとみなして判断します。
関連記事を読む『【胎児も法定相続人に含む】相続では出生しているとみなす』
1-1.不動産登記では胎児名義が認められる
不動産登記では、胎児を名義人とする相続登記を可能としています。
以下は、法務局の通達です。
出生届を提出するまで胎児に氏名はないので、「○○胎児」という氏名で登記します。
※○○は母親の氏名です。
あくまでも、「相続登記を申請できる」なので、胎児が出生するまで待っても問題ありません。
司法書士から一言「亡○○妻○○胎児」から「○○胎児」に変更されています。
1-2.胎児による相続登記の申請書記載例
胎児を登記名義人とする相続登記であっても、基本的な記載は同じになります。
以下は、登記申請書の記載例です。
登記申請書
登記の目的 所有権移転
原 因 令和○年○月○日相続
相 続 人 (被相続○○)
大阪府大阪市北区○○町一丁目2番3号
○○胎児
※○○は母親の氏名
(後略)
胎児に住所は存在しませんが、母親の住所を代わりに記載します。
相続人の部分以外は、通常の相続登記と同じです。
ただし、法定相続分による相続登記となるので、申請する場合は注意してください。
2.胎児名義の相続登記は法定相続分に限られる
胎児名義で相続登記を申請する場合、遺産分割協議による相続登記は申請できません。
以下は、不動産登記の先例です。
法務局の考えでは、胎児の時点で遺産分割することを認めていません。
したがって、胎児名義で相続登記するなら、法定相続分による相続登記となります。
【例題1】
亡くなった人の相続人が、配偶者と胎児の場合。
- 配偶者|2分の1
- 胎児 |2分の1
配偶者と子ども1人なので、各2分の1となります。
【例題2】
亡くなった人の相続人が、配偶者と子ども2人(胎児含む)の場合。
- 配偶者|2分の1
- 子ども|4分の1
- 胎児 |4分の1
胎児を含めると子どもが2人なので、胎児は4分の1となります。
胎児の出生後に遺産分割協議をした場合、「遺産分割」を登記原因として、持分移転登記を申請できます。
関連記事を読む『相続登記を法定相続分で申請するなら単独でも可能』
3.胎児名義で相続登記した後に登記が必要
胎児名義で相続登記すると、その後に変更登記または更正登記が必要になります。
胎児名義で登記しているなら、忘れずに確認しておきましょう。
3-1.胎児が出生したら氏名住所の変更登記
胎児名義で相続登記をした場合、胎児の出生後に氏名住所の変更登記が必要になります。
氏名の変更は分かるが、住所は同じなので不要だと思うかもしれません。
ですが、胎児の住所は仮の住所なので、出生後の住所と同じであっても変更登記を申請します。
以下は、変更登記の目的と原因です。
- 目的:○番所有権登記名義人氏名住所変更
- 原因:令和○年○月○日 出生
氏名住所の変更登記は、母親が出生後の子どもを代理して申請できます。
胎児名義で相続登記を申請すると、出生後に変更登記が必要な点はデメリットになります。
3-2.胎児が死産になると所有権の更正登記
胎児名義で相続登記した後に、胎児が死産になると更正登記が必要になります。
なぜなら、胎児は相続人とならないので、登記が間違っているからです。
以下は、更正登記の目的と原因です。
- 目的:○番所有権更正
- 原因:錯誤
所有権の更正登記は、登記権利者(持分が増える人)と登記義務者(母親)の共同申請となります。
関連記事を読む『相続登記を錯誤により更正する|登記の前後により方法が違う』
4.前もって胎児名義で相続登記するメリット
通常、胎児名義で相続登記する必要はありません。胎児が出生してから、法定相続分または遺産分割協議により、相続登記すれば良いからです。
ですが、胎児を除外して相続登記を申請される恐れがあれば、胎児名義で相続登記するメリットがあります。
【例題1】
亡くなった人の相続人は、子どもと代襲相続人(胎児)の2人。
戸籍上は相続人が1人に見えるので、子どもが相続登記を申請して、不動産を単独名義にすることが可能です。
【例題2】
亡くなった人の相続人は、代襲相続人(胎児)だけ。戸籍上は相続人が兄弟姉妹に見えるので、兄弟姉妹が相続登記を申請して、不動産を単独名義にすることが可能です。
いずれのケースも、胎児の母親が相続人ではないので、不動産を単独名義にできます。胎児は戸籍に記載されないので、法務局は気付くことができません。
胎児を除外して相続登記を申請される恐れがあるなら、前もって胎児名義で相続登記するメリットがあります。
胎児の母親が相続人でなくても、保存行為として胎児を代理して相続登記が可能です。
5.まとめ
今回の記事では「胎児の相続登記」について説明しました。
亡くなった人の子どもが胎児であっても、胎児名義で相続登記することは可能です。
ただし、遺産分割協議による相続登記ではなく、法定相続分による相続登記となります。
胎児名義で相続登記されると、胎児の出生後に氏名住所の変更登記が必要です。
通常は、胎児名義で相続登記しませんが、胎児を無視して相続登記される恐れがあるなら、相続登記で胎児の相続分を確保しましょう。
胎児の相続登記に関するQ&A
- 胎児認知された子でも相続登記できますか?
-
できません。胎児認知の効力は出生が条件だからです。
- 胎児名義の相続登記は誰が申請できますか?
-
共同相続人や胎児の母親が単独で申請できます。
- 胎児の相続登記に医師の診断書は必要ですか?
-
不要です。