相続放棄と限定承認の違いはご存知でしょうか。
どちらも相続方法の1つですが、手続きや効力には大きな違いがあります。
どちらかの方法でなければ、達成することができない相続もあるので、選ぶ際には注意が必要です。
今回の記事では、相続放棄と限定承認について9つの項目で比較しているので、、相続方法で悩まれているなら参考にしてください。
目次
1.相続放棄と限定承認は家庭裁判所の手続き
限定承認と相続放棄どちらも家庭裁判所での手続きが必要です。
ただし、家庭裁判所での手続きは、同じ部分もあれば違う部分もあるので、間違わないように気を付けてください。
1-1.相続放棄と限定承認の申立期間は同じ
限定承認と相続放棄どちらの申立ても、相続の開始を知った日から3ヶ月以内となります。
3ヶ月以内に申立てをしない場合は、単純承認したとみなされます。
単純承認をしないのであれば、3ヶ月以内に申立てを終わらせてください。
1-2.相続放棄と限定承認では申述人に違いがある
限定承認と相続放棄では、申述人に違いがあります。
相続放棄は個別に申請する
相続放棄はそれぞれの相続人が単独で申請します。
ですので、他の相続人が単純承認しても関係ありません。
例えば、相続人が複数人いる場合でも、1人だけ相続放棄することもできますし、全員がそれぞれ相続放棄することもできます。
限定承認は相続人全員で申請する
限定承認は相続人全員で申請します。
したがって、他の相続人が単純承認すると、限定承認をすることはできません。
限定承認をする場合は、相続人全員の意見を合わせる必要があります。
関連記事を読む『限定承認は全員で行う必要がある|連絡を忘れずにしておこう』
2.相続放棄と限定承認では相続財産の扱いが違う
限定承認と相続放棄では、相続財産の扱いに違いがあります。
- プラスの財産(預貯金や不動産)
- マイナスの財産(借金など)
- 後から見つかった財産
2-1.相続放棄すると全財産を放棄する
相続放棄をすると初めから相続人ではないので、プラスの財産もマイナスの財産も相続しません。
ですので、亡くなった人に借金があっても関係ありません。
2-2.限定承認すると条件付きで負債を負担する
限定承認は相続なので、プラスの財産もマイナスの財産も相続します。
ただし、限定承認ではプラスの財産を限度として、マイナスの財産を負担します。
例えば、プラスの財産が100万円で、マイナスの財産が500万円であれば、100万円を限度してマイナスの財産を負担します。
2-3.相続放棄と限定承認では後から見つかった財産の扱いが違う
相続放棄と限定承認では、後から見つかった財産の扱いにも違いがあります。
相続放棄をすると財産はすべて相続できない
相続放棄をしている場合は、後から財産が見つかっても相続することはできません。
たとえ預貯金が見つかっても、相続人ではないので受け取ることはできないです。
限定承認をしているなら相続できる
限定承認は相続なので、後から預貯金が見つかれば相続できます。
ただし、支払えていないマイナスの財産があれば、支払いに充てることになります。
3.相続放棄と限定承認の費用比較
限定承認と相続放棄では、手続費用に大きな違いがあります。
3-1.相続放棄は申立て費用のみ
相続放棄の費用は、家庭裁判所への申述申立て費用のみです。
ただし、専門家に依頼するなら、専門家報酬も発生します。
関連記事を読む『相続放棄の費用は実費と専門家報酬の2つに分かれる』
3-2.限定承認の費用は複数ある
限定承認の費用は、家庭裁判所への申述申立て費用以外にもあります。
以下の4つが限定承認の費用として考えられます。
- 家庭裁判所への申立て費用
- 官報公告の掲載料
- 清算手続きの費用
- 専門家報酬
限定承認の費用は数十万円はかかるので、相続放棄の何倍も必要です。
関連記事を読む『限定承認の費用を4つに分類|財産の内容により金額が違う』
4.相続放棄と限定承認の細かい比較
限定承認と相続放棄に関する、その他の比較です。
- 撤回はどちらも認められない
- 次順位相続人への影響
- 年間の申立件数
4-1.相続放棄と限定承認はどちらも撤回できない
限定承認と相続放棄どちらの手続きも、撤回することは認められません。
後から気が変わっても撤回することはできないので、どちらの手続きを選ぶ場合でも気を付けてください。
関連記事を読む『相続放棄の撤回は無理だが取消し事由があれば取消しは可能』
4-2.相続放棄と限定承認では次順位相続人への影響が違う
限定承認と相続放棄では、次順位相続人への影響が違います。
全員が相続放棄すると次順位に移る
先順位相続人が全員相続放棄すると、次順位相続人に相続権が移ります。
ですので、亡くなった人に借金があった場合、次順位相続人も相続放棄の手続きが必要になります。
関連記事を読む『相続放棄をすると次順位の相続人に借金等が移ってしまう』
限定承認をすると相続は移らない
限定承認をすると相続は確定するので、次順位相続人に相続権は移りません。
次順位相続人に迷惑をかけたくないので、限定承認を選ぶ相続人もいます。
限定承認のメリットの1つが、次順位相続人に相続が移らないです。
関連記事を読む『限定承認のメリットとデメリットを4つずつ説明』
4-3.相続放棄と限定承認の年間申立件数
相続放棄と限定承認の年間申立件数は、比較にならないぐらい違いがあります。
以下の表は過去3年間の件数比較です。
年 | 限定承認 | 相続放棄 |
---|---|---|
2018 | 709 | 215,320 |
2019 | 657 | 225,415 |
2020 | 675 | 234,732 |
限定承認の申立件数は、1年間で約700件しかありません。
限定承認を知っている人が少ないのは、単純に申請件数が少ないのも理由です。
5.さいごに
今回の記事では「相続放棄と限定承認の違い」について説明しました。
相続放棄と限定承認の比較を、簡単にですが表にしております。
限定承認 | 相続放棄 | |
---|---|---|
申立期間 | 3ヶ月以内 | 3ヶ月以内 |
申述人 | 相続人全員 | 単独 |
プラスの財産 | 相続できる | 相続しない |
マイナスの財産 | プラスの財産 を限度に負担 |
相続しない |
後から見つかった財産 | 相続できる | 相続しない |
撤回の可否 | できない | できない |
手続費用 | 複数ある | 申立て費用のみ |
次順位相続人 | 影響なし | 影響あり |
年間の申立件数 | 約700件 | 約22万件 |
あなたの希望によって、相続放棄あるいは限定承認、または単純承認を選ぶことになります。
相続には3ヶ月以内という期間制限があるので、1人で悩んでいる間にも時間は過ぎていきます。
限定承認と相続放棄どちらにもメリット・デメリットがあるので、少しでも疑問があれば専門家に相談してください。