自筆証書遺言を撤回する方法は4つあります。
- 遺言書で撤回する
- 後の遺言書で抵触する
- 処分行為等で抵触する
- 自筆証書遺言を破棄する
上記に該当すると、自筆証書遺言は撤回または撤回とみなされます。
ただし、自筆証書遺言の一部だけ撤回になるケースもあるので、撤回の範囲を間違えないように注意してください。
今回の記事では、自筆証書遺言の撤回方法について説明しているので、撤回する際の参考にしてください。
目次
1.自筆証書遺言は遺言書で撤回できる
自筆証書遺言の撤回方法1つ目は、遺言書で撤回するです。
遺言者は自筆証書遺言を作成した後、いつでも遺言書により撤回できます。
以下は、民法の条文です。
関連記事を読む『【遺言書の撤回】遺言者はいつでも遺言を撤回できる』
1-1.撤回に使う遺言書の種類に制限はない
民法1022条では、「遺言の方式」に従って撤回できると規定しています。
ですが、同一方式とは規定していないので、撤回に使用する遺言書に制限はありません。
自筆証書遺言で撤回するのも可能ですし、公正証書遺言で撤回するのも可能です。
※その他の遺言書でも可能。
ただし、遺言書の方式に従ってなので、遺言書の要件を満たす必要があります。
1-2.自筆証書遺言で撤回するなら成立要件に注意
公正証書遺言で撤回する場合は別ですが、自筆証書遺言で撤回するなら成立要件に注意してください。
なぜなら、撤回を記載した自筆証書遺言が成立しなければ、撤回も成立しないからです。
上記をすべて満たさなければ、自筆証書遺言での撤回は成立しません。
紙に撤回と記載するだけでは、遺言書の撤回にならないので、気を付けてください。
関連記事を読む『自筆証書遺言の成立要件は4つ【自書・日付・氏名・押印】』
1-3.自筆証書遺言での撤回は分かるように記載
撤回を自筆証書遺言でする場合、文言に法律上の決まりはありません。
ただし、誰が読んでも分かるように記載してください。曖昧な記載はトラブルの元です。
遺言書を特定せずに全部撤回する場合
過去に作成した遺言書を、全部撤回する場合の記載例です。
遺言者は、遺言者が過去にした遺言を全部撤回する。
令和○年○月○日 ○○ ○○ ㊞
作成した遺言書が何通あっても、全部撤回になります。
遺言書を特定して全部撤回する場合
遺言書を特定して、全部撤回する場合の記載例です。
遺言者は、令和○年○月○日作成の自筆証書遺言を全部撤回する。
令和○年○月○日 ○○ ○○ ㊞
遺言書に記載された自筆証書遺言は、全部撤回になります。
2.後の遺言書で抵触する部分は撤回とみなす
自筆証書遺言の撤回方法2つ目は、後の遺言書で抵触するです。
遺言書の作成回数に制限はないので、自筆証書遺言の作成後に別の遺言書も作成できます。
ただし、遺言書の内容が抵触する場合、抵触する部分は後の遺言書で前の遺言書を撤回したとみなされます。
以下は、民法の条文です。
遺言書に撤回と記載しなくても、抵触する部分に関しては撤回とみなされます。
【例題1】
後の遺言書で前の遺言書が撤回される場合。
遺言書(前)
遺言者は、不動産Aを長男○○に相続させる。
遺言書(後)
遺言者は、不動産Aを次男○○に相続させる。
前の遺言書と後の遺言書で「不動産A」が抵触しているので、前の遺言書は撤回とみなされます。
【例題2】
後の遺言書で前の遺言書が一部撤回される場合。
遺言書(前)
遺言者は、不動産Aを長男○○に相続させる。
遺言者は、不動産Bを次男○○に相続させる。
遺言書(後)
遺言者は、不動産Aを次男○○に相続させる。
前の遺言書と後の遺言書で「不動産A」が抵触しているので、不動産Aに関する部分は撤回したとみなされます。
一方、不動産Bに関する部分は有効なので、自筆証書遺言は一部だけ撤回です。
全部撤回する場合は別ですが、意図せずに一部だけ撤回とみなされるケースもあるので、遺言書を複数枚作成する際は注意してください。
3.自筆証書遺言に抵触する行為は撤回とみなす
自筆証書遺言の撤回方法3つ目は、抵触する行為で撤回です。
遺言書作成後の処分等が遺言書の内容と抵触する場合、抵触する部分は撤回したとみなされます。
以下は、民法の条文です。
遺言書を作成しなくても、遺言者の行為により撤回とみなされます。
【例題1】
遺言者の行為により遺言書が撤回される場合。
遺言者は、不動産Aを長男○○に相続させる。
上記の遺言書を作成後に、不動産Aを売却すると、遺言書は撤回したとみなされます。
【例題2】
遺言者の行為により遺言書が一部撤回される場合。
遺言者は、不動産Aを長男○○に相続させる。
遺言者は、不動産Bを次男○○に相続させる。
上記の遺言書を作成後に、不動産Aを売却すると、不動産Aに関する部分は撤回したとみなされます。
一方、不動産Bに関する部分は有効なので、自筆証書遺言は一部だけ撤回です。
自筆証書遺言の撤回を意識して処分する場合は別ですが、気付かずに処分しているケースもあるので、自筆証書遺言作成後の行動には注意してください。
4.自筆証書遺言を破棄すると撤回とみなす
自筆証書遺言の撤回方法4つ目は、遺言書を破棄するです。
遺言者が自筆証書遺言を故意に破棄すると、遺言書は撤回したとみなされます。
以下は、民法の条文です。
遺言者が自筆証書遺言を破って捨てると、遺言書を撤回したとみなされます。自筆証書遺言の撤回方法では一番簡単です。
関連記事を読む『【遺言書の破棄】誰が破棄したかによって効果が違う』
4-1.自筆証書遺言の破棄と判断された判例
遺言者のした行為が、自筆証書遺言の破棄に該当するかを、裁判で争った事例があります。
以下は、最高裁の判例です。
赤色ボールペンで遺言書全体に斜線を引けば、遺言書の破棄だと判断されています。
ただし、自筆証書遺言を撤回するのであれば、破って捨てる方が確実です。中途半端に残しておくと、争いの種になります。
4-2.遺贈の目的物を破棄しても撤回とみなす
自筆証書遺言だけでなく、遺言書に記載された目的物を破棄した場合も、遺言は撤回したとみなされます。
【例題1】
目的物の破棄により遺言書が撤回とみなされる場合。
遺言者は、動産Aを長男○○に相続させる。
上記の遺言書を作成後に、動産Aを破棄すると、遺言書は撤回したとみなされます。
【例題2】
目的物の破棄により遺言書が一部撤回とみなされる場合。
遺言者は、動産Aを長男○○に相続させる。
遺言者は、動産Bを次男○○に相続させる。
上記の遺言書を作成後に、動産Aを破棄すると、遺言書は撤回したとみなされます。
一方、動産Bに関する部分は有効なので、自筆証書遺言は一部だけ撤回です。
遺言書に記載された目的物を遺言者が破棄すれば、相続(遺贈)させる意思がないと判断されます。
5.まとめ
今回の記事では「自筆証書遺言の撤回」について説明しました。
自筆証書遺言の撤回方法は4つあります。
- 遺言書で撤回する
- 後の遺言書で抵触する
- 処分行為等で抵触する
- 自筆証書遺言を破棄する
自筆証書遺言は遺言書で撤回できます。遺言書の種類に制限はないので、自筆証書遺言・公正証書遺言どちらでも大丈夫です。
自筆証書遺言を作成後に別の遺言書を作成すると、抵触する部分は撤回したとみなされます。
自筆証書遺言を作成後に遺言書の内容と抵触する行為をすると、抵触する部分は撤回したとみなされます。
遺言者が自筆証書遺言を故意に破棄すると、自筆証書遺言は撤回したとみなされます。
自筆証書遺言を撤回した後は、新しい遺言書を作成する等の相続対策をしておきましょう。