遺言書を作成するかは本人の自由なので、作成した遺言書を撤回するのも本人の自由です。
遺言を撤回するには、撤回用の遺言を作成すれば撤回できます。
ただし、遺言作成後の行為によっては、撤回用の遺言を作成しなくても、撤回したとみなされます。
今回の記事では、遺言の撤回について説明しているので、遺言書を作成する際の参考にしてください。
1.遺言者はいつでも遺言を撤回できる
遺言書を作成した場合でも、遺言者はいつでも遺言を撤回できます。
以下は、民法の条文です。
遺言の方式に従ってとは、遺言書のルールに従ってという意味です。
簡単にいえば、撤回用の遺言書を作成すれば、過去の遺言は撤回できます。
1-1.撤回に使用する遺言書に制限はない
撤回に使用する遺言書に制限はありません。
自筆証書遺言で公正証書遺言を撤回できますし、公正証書遺言で自筆証書遺言を撤回できます。
ただし、自筆証書遺言で撤回する場合は、成立要件に注意してください。撤回用の自筆証書遺言が成立しなければ、撤回も成立しないからです。
関連記事を読む『自筆証書遺言の成立要件は4つ【自書・日付・氏名・押印】』
1-2.誰が読んでも撤回と分かるように書く
撤回用の遺言書を公正証書で作成する場合は、公証人が文章を作成するので問題ありません。
それに対して、自筆証書遺言で撤回する場合は、誰が読んでも分かるように記載してください。曖昧な記載だとトラブルの元になります。
以下は、撤回の文言例です。
遺言者は、遺言者が過去にした遺言を全部撤回する。
令和○年○月○日 ○○ ○○ ㊞
過去に作成した遺言書が何通あっても、全部撤回になります。
自筆証書遺言で撤回するなら、日付・氏名・押印も忘れないように注意してください。
2.遺言を撤回したとみなされる行為は4つ
撤回用の遺言書を作成しなくても、遺言を撤回したとみなされる行為が4つあります。
- 後の遺言が前の遺言に抵触する
- 遺言に抵触する法律行為
- 遺言書を故意に破棄する
- 目的物を故意に破棄する
上記に該当すると、遺言は撤回したとみなされます。
意図せず撤回とみなされないように、遺言書作成後の行動には注意してください。
2-1.後の遺言が前の遺言に抵触している
遺言書の作成回数に制限はないので、遺言書作成後に別の遺言書も作成できます。
ただし、後に作成した遺言書の内容が、前に作成した遺言書の内容に抵触する場合、抵触する部分は後の遺言書で撤回したとみなされます。
以下は、民法の条文です。
抵触する部分は撤回なので、抵触していない部分は有効です。
遺言書(前)
遺言者は、不動産Aを長男○○に相続させる。
遺言書(後)
遺言者は、不動産Aを次男○○に相続させる。
前の遺言書と後の遺言書で「不動産A」が抵触しているので、前の遺言書は撤回したとみなされます。
遺言書の種類が別でも、撤回とみなされるので注意してください。
2-2.遺言書作成後の法律行為が抵触している
遺言書に記載した財産であっても、生前に処分するのは自由です。
ただし、遺言書作成後の処分行為が、遺言の内容に抵触する場合、抵触する部分は撤回したとみなされます。
以下は、民法の条文です
民法1023条1項を準用すると、以下のようになります。
遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触するときは、その抵触する部分については、生前処分その他の法律行為で遺言を撤回したものとみなす。
抵触する部分は撤回なので、抵触していない部分は有効です。
遺言書
遺言者は、不動産Aを○○に遺贈する。
上記の遺言書を作成後に、不動産Aを処分(売却や贈与)すると、遺言は撤回したとみなされます。
遺言書に記載された財産を処分する際は、撤回のみなし規定に注意してください。
2-3.作成した遺言書を破棄する
作成した遺言書を破棄すると、遺言は撤回したとみなされます。
以下は、民法の条文です。
ただし、遺言書の種類によっては、物理的に破棄できない遺言もあります。
自筆証書遺言や秘密証書遺言等は破棄できる
自筆証書遺言や秘密証書遺言等の原本を破って捨てれば、撤回したとみなされます。
ただし、自筆証書遺言を法務局に保管している場合は、原本が手元にないので破棄できません。遺言書を返還してから破棄するか、別の方法で撤回してください。
公正証書遺言は破棄できない
公正証書遺言に関しては、原本が公証役場に保管されているので、破棄による撤回はできません。
撤回用の遺言書を作成するか、その他のみなし規定を利用するかです。
関連記事を読む『公正証書遺言の原本はどこにある?遺言者も原本は持っていない』
2-4.遺言書に記載した目的物を破棄する
遺言書に記載した目的物(財産)を破棄すると、遺言は撤回したとみなされます。
以下は、民法の条文です。
破棄した目的物以外の部分は有効です。
遺言書
遺言者は、動産Aを○○に遺贈する。
上記の遺言書を作成後に、動産Aを破棄すると、遺言は撤回したとみなされます。
遺言書に記載された財産を破棄する際は、撤回のみなし規定に注意してください。
3.撤回を撤回しても遺言の効力は回復しない
撤回された遺言の効力は、撤回が撤回・取消しされても回復しません。
以下は、民法の条文です。
条文だけでは分かりにくいので、例題を参考にしてください。
【例題】
遺言書を撤回した後で、撤回を撤回した場合
遺言書
遺言者は、不動産Aを長男○○に相続させる。
令和2年3月15日 ○○ ○○ ㊞
遺言書
遺言者は、遺言者が過去にした遺言を全部撤回する。
令和5年9月8日 ○○ ○○ ㊞
遺言書
遺言者は、遺言者が令和5年9月8日にした遺言の撤回を撤回する。
令和6年7月8日 ○○ ○○ ㊞
遺言の撤回を撤回しても遺言の効力は回復しません。不動産Aを長男に相続させるなら、改めて遺言書を作成する必要があります。
遺言の撤回を撤回するなら、一緒に遺言書も作成しておいてください。
4.遺言を撤回する権利は放棄できない
遺言者は遺言を撤回する権利を放棄できません。
たとえ撤回するつもりがなくても、遺言を撤回する権利は放棄できないです。
以下は、民法の条文です。
作成した遺言書に撤回権の放棄を記載しても、法律上の効力は発生しません。
遺言書
遺言者は、不動産Aを長男○○に相続させる。
今回作成した遺言書を撤回することはありません。
令和○年○月○日 ○○ ○○ ㊞
上記のように記載しても、後で遺言を撤回するのは自由です。
遺言を作成した後で事情が変われば、遺言書に撤回権の放棄を書いていても、撤回できるので安心してください。
5.まとめ
今回の記事では「遺言書の撤回」について説明しました。
遺言者はいつでも遺言により、遺言を撤回できます。遺言書の種類に制限はありません。
撤回用の遺言書を作成する以外にも、遺言の撤回とみなされる行為が4つあります。
- 後の遺言が前の遺言に抵触する
- 遺言に抵触する法律行為
- 遺言書を故意に破棄する
- 目的物を故意に破棄する
上記に該当すると、遺言は撤回したとみなされます。
意図せずに撤回とみなされる場合もあるので、遺言書を作成した後の行動には注意してください。