遺贈に関する民法の条文【985条から1003条】

遺贈と民法
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遺言書の遺贈についても、民法の条文で定められています。985条から1003条までが該当条文です。

効力発生時期や放棄、包括受遺者の権利義務も条文に書かれています。

また、通常の遺贈では関係しないような細かい部分も、民法で定められているので、興味があれば確認しておいてください。

目次

遺贈の効力発生時期(民法985条)

民法985条では遺贈の効力発生時期を定めている

遺贈は遺言書に記載されているので、遺言書の効力が発生しなければ遺贈も発生しません。

(遺言の効力の発生時期)
第九百八十五条 遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
2 遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。

出典:e-Govウェブサイト(民法985条)

遺言書の効力は遺言者の死亡により発生するので、遺贈の効力も遺言者の死亡により発生します。

遺言者が死亡する前に、遺贈の効力は発生しません。

ただし、遺贈に発生条件を付けることで、死亡より後に効力を発生させることは可能です。

遺贈の放棄(民法986条)

民法986条から989条では遺贈の放棄を定めている

遺贈は遺言者の一方的な意思表示なので、受遺者が望む内容とは限りません。

したがって、民法では遺贈の放棄についても定めています。

遺言者の死亡後に遺贈を放棄(民法986条)

受遺者は遺言者の死亡後であれば、遺贈を放棄できます。

(遺贈の放棄)
第九百八十六条 受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。
2 遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

出典:e-Govウェブサイト(民法986条)

たとえ遺言書の内容を知っていたとしても、遺言者の死亡前に遺贈は放棄できません。

ただし、遺言者に放棄の意思表示を伝えると、遺言書を書き直す可能性はあります。

受遺者に対する承認・放棄の催告(民法987条)

受遺者は遺言者の死亡後であれば、いつでも遺贈を放棄できます。

ですが、いつまでも受遺者が意思表示しなければ、遺贈義務者が困ります。

遺贈義務者等は、受遺者に対して遺贈の承認・放棄を催告することが可能です。

(受遺者に対する遺贈の承認又は放棄の催告)
第九百八十七条 遺贈義務者(遺贈の履行をする義務を負う者をいう。以下この節において同じ。)その他の利害関係人は、受遺者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に遺贈の承認又は放棄をすべき旨の催告をすることができる。この場合において、受遺者がその期間内に遺贈義務者に対してその意思を表示しないときは、遺贈を承認したものとみなす。

出典:e-Govウェブサイト(民法987条)

遺贈義務者等が相当の期間を定めて受遺者に催告した場合、期間内に意思表示がなければ遺贈を承認したとみなします。

受遺者の相続人による遺贈の承認・放棄(民法988条)

遺贈の受遺者が意思表示をする前に死亡したときは、受遺者の相続人が遺贈の承認または放棄できます。

(受遺者の相続人による遺贈の承認又は放棄)
第九百八十八条 受遺者が遺贈の承認又は放棄をしないで死亡したときは、その相続人は、自己の相続権の範囲内で、遺贈の承認又は放棄をすることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

出典:e-Govウェブサイト(民法988条)

ただし、遺言者が遺言書で別段の意思表示を記載しているときは、遺言者の意思に従います。

遺贈の承認・放棄の撤回・取消し(民法989条)

受遺者による遺贈の承認および放棄は撤回できません。

(遺贈の承認及び放棄の撤回及び取消し)
第九百八十九条 遺贈の承認及び放棄は、撤回することができない。
2 第九百十九条第二項及び第三項の規定は、遺贈の承認及び放棄について準用する。

出典:e-Govウェブサイト(民法989条)

ただし、遺贈の承認や放棄の意思表示に、法律上の取消要因があれば取消すことはできます。

例えば、遺贈義務者に脅迫されて遺贈を放棄したなら、遺贈の放棄を取消すことは可能です。

民法919条第2項および第3項については、下記の記事で説明しています。

包括受遺者の権利義務(民法990条)

民法990条では包括受遺者の権利義務を定めている

包括遺贈の受遺者は、相続人と同一の権利義務を有します。

(包括受遺者の権利義務)
第九百九十条 包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。

出典:e-Govウェブサイト(民法990条)

包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有するので、以下の2つに注意が必要です。

  • 一部包括遺贈なら相続人と遺産分割協議
  • 包括受遺者は遺言者の債務も承継する

一部包括遺贈なら相続人と遺産分割協議をして、具体的に何を取得するのか決めます。

包括受遺者は遺言者の債務(負債)も承継するので、遺言者の財産内容によっては遺贈の放棄も検討しましょう。

遺贈の受遺者に認められる権利

民法991条と992条では受遺者の権利を定めている

遺贈の受遺者にも民法により認められている権利があります。

  • 受遺者による担保の請求
  • 受遺者による果実の取得

受遺者による担保の請求(民法991条)

受遺者は遺贈が弁済期に至らない間や条件付き遺贈の成否が未定の間は、遺贈義務者に対して相当の担保を請求できます。

(受遺者による担保の請求)
第九百九十一条 受遺者は、遺贈が弁済期に至らない間は、遺贈義務者に対して相当の担保を請求することができる。停止条件付きの遺贈についてその条件の成否が未定である間も、同様とする。

出典:e-Govウェブサイト(民法991条)

受遺者が担保を請求できる理由としては、遺贈義務者が遺贈の対象物を減少(滅失)させる恐れもあるので、受遺者に担保請求権を与えています。

ちなみに、担保請求権が発生するのは遺言者の死亡後なので、死亡前に担保の請求はできません。

受遺者による果実の取得(民法992条)

受遺者は遺贈の履行を請求できるときから果実を取得します。

果実
財産から発生する利息や賃料等のこと

(受遺者による果実の取得)
第九百九十二条 受遺者は、遺贈の履行を請求することができる時から果実を取得する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

出典:e-Govウェブサイト(民法992条)

例えば、遺贈の対象物が賃貸不動産あれば、遺贈の履行を請求できる時以降の賃料も受遺者が取得します。

ただし、遺言者が遺言書で別段の意思表示をしたときは、遺言者の意思に従います。

遺贈義務者の費用償還請求(民法993条)

民法993条では遺贈義務者の費用償還請求を定めている

遺贈義務者が遺贈の目的物について費用を支出した場合、費用の償還請求ができます。

(遺贈義務者による費用の償還請求)
第九百九十三条 第二百九十九条の規定は、遺贈義務者が遺言者の死亡後に遺贈の目的物について費用を支出した場合について準用する。
2 果実を収取するために支出した通常の必要費は、果実の価格を超えない限度で、その償還を請求することができる。

出典:e-Govウェブサイト(民法993条)

遺贈義務者が果実を収取するために支出した通常の必要費は、果実の価格を超えない限度で償還請求できます。

遺贈が失効した場合の定め

民法994条と995条では遺贈が失効した場合を定めている

遺言書に記載した遺贈が失効した場合についても、民法で定められています。

受遺者が死亡すると遺贈は失効(民法994条)

遺言者よりも先に受遺者が死亡すると、遺贈の効力は失効します。

したがって、受遺者の相続人が遺贈を受けるわけではありません。

(受遺者の死亡による遺贈の失効)
第九百九十四条 遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。
2 停止条件付きの遺贈については、受遺者がその条件の成就前に死亡したときも、前項と同様とする。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

出典:e-Govウェブサイト(民法994条)

停止条件付遺贈についても、受遺者が条件成就前に死亡すると遺贈の効力は失効します。

ただし、遺言者が遺言書で別段の意思表示をしたときは、遺言者の意思に従います。

遺贈が無効・失効した場合の財産の帰属(民法995条)

遺贈の効力が失効した場合や受遺者が遺贈を放棄した場合、遺贈の目的物は相続人に帰属します。

(遺贈の無効又は失効の場合の財産の帰属)
第九百九十五条 遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

出典:e-Govウェブサイト(民法995条)

ただし、遺言者が遺言書で別段の意思表示をしたときは、遺言者の意思に従います。

相続財産に属しない権利の遺贈

民法996条と997条では相続財産に属しない権利の遺贈を定めている

遺贈の目的物が相続財産に属しない場合についても、民法に定めがあります。

遺贈の目的物が相続財産に属しない(民法996条)

原則として、遺贈の目的物が相続財産に属しない場合、遺贈の効力は発生しません。

(相続財産に属しない権利の遺贈)
第九百九十六条 遺贈は、その目的である権利が遺言者の死亡の時において相続財産に属しなかったときは、その効力を生じない。ただし、その権利が相続財産に属するかどうかにかかわらず、これを遺贈の目的としたものと認められるときは、この限りでない。

出典:e-Govウェブサイト(民法996条)

例えば、他人の不動産を遺贈すると記載しても、遺贈の効力は発生しません。

ただし、相続財産に属するかどうかにかかわらず、遺贈の目的にしたと認められるときは除きます。

簡単に言えば、目的物を取得して遺贈すると記載してあれば、相続財産に属してなくても遺贈は有効です。

遺贈義務者は権利を取得して移転する(民法997条)

民法996条ただし書きの規定により遺贈が有効なときは、遺贈義務者は目的物を取得して受遺者に移転する義務を負います。

第九百九十七条 相続財産に属しない権利を目的とする遺贈が前条ただし書の規定により有効であるときは、遺贈義務者は、その権利を取得して受遺者に移転する義務を負う。
2 前項の場合において、同項に規定する権利を取得することができないとき、又はこれを取得するについて過分の費用を要するときは、遺贈義務者は、その価額を弁償しなければならない。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

出典:e-Govウェブサイト(民法997条)

目的物を取得するのに過分の費用を要するときは、遺贈義務者は価格を弁償しなければならない。

ただし、遺言者が遺言書で別段の意思表示をしたときは、遺言者の意思に従います。

遺贈義務者の引渡し義務(民法998条)

民法998条では遺贈義務者の引渡義務を定めている

遺贈義務者は遺贈の目的物を受遺者に引き渡す義務があります。

(遺贈義務者の引渡義務)
第九百九十八条 遺贈義務者は、遺贈の目的である物又は権利を、相続開始の時(その後に当該物又は権利について遺贈の目的として特定した場合にあっては、その特定した時)の状態で引き渡し、又は移転する義務を負う。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

出典:e-Govウェブサイト(民法998条)

遺贈義務者とは、相続人全員または遺言執行者のどちらかです。

例えば、遺贈の目的物が動産であれば、動産の状態で引き渡します。勝手に売却して金銭に換えて引き渡すのは義務違反になります。

ただし、遺言者が遺言書で別段の意思表示をしたときは、遺言者の意思に従います。

遺贈の物上代位に関する定め

民法999条と1001条では遺贈の物上代位を定めている

遺贈の目的物に関する物上代位に関しても、民法に定めがあります。

ちなみに、民法1000条は削除されているので存在しません。

遺贈の目的物が物上代位請求権に変更(民法999条)

遺言者が遺贈の目的物に関する物上代位請求権を第3者に対して有するときは、物上代位請求権を遺贈の目的にしたと推定します。

(遺贈の物上代位)
第九百九十九条 遺言者が、遺贈の目的物の滅失若しくは変造又はその占有の喪失によって第三者に対して償金を請求する権利を有するときは、その権利を遺贈の目的としたものと推定する。
2 遺贈の目的物が、他の物と付合し、又は混和した場合において、遺言者が第二百四十三条から第二百四十五条までの規定により合成物又は混和物の単独所有者又は共有者となったときは、その全部の所有権又は持分を遺贈の目的としたものと推定する。

出典:e-Govウェブサイト(民法999条)

例えば、遺贈の目的物が不動産で第3者が不動産を滅失した場合、遺言者は第3者に損害賠償請求権を有します。遺贈の目的物である不動産は滅失していますが、損害賠償請求権を遺贈の目的にしたと推定されます。

民法999条は推定規定なので、遺言者が別の意思表示をしていれば、遺贈の効力は発生しません。

債権の遺贈の物上代位(民法1001条)

遺贈の目的物が債権だった場合の物上代位についてです。

遺言者が弁済を受け、かつ、受け取った物が相続財産の中に残っていれば、受け取った物を遺贈の目的にしたと推定します。

(債権の遺贈の物上代位)
第千一条 債権を遺贈の目的とした場合において、遺言者が弁済を受け、かつ、その受け取った物がなお相続財産中に在るときは、その物を遺贈の目的としたものと推定する。
2 金銭を目的とする債権を遺贈の目的とした場合においては、相続財産中にその債権額に相当する金銭がないときであっても、その金額を遺贈の目的としたものと推定する。

出典:e-Govウェブサイト(民法1001条)

遺贈の目的物が金銭債権だった場合、相続財産の中に債権額に相当する金銭がなくても、債権額を遺贈の目的にしたと推定します。

民法1001条は推定規定なので、遺言者が別の意思表示をしていれば、遺贈の効力は発生しません。

負担付遺贈に関する定め

遺贈には負担付遺贈という種類があります。

負担付遺贈
受遺者に対して一定の義務を負担させる遺贈のこと

民法1002条と1003条では、負担付遺贈について定めています。

負担付遺贈を受けた人の履行義務(1002条)

負担付遺贈の受遺者は、遺贈の目的価格を超えない限度においてのみ履行義務を負います。

(負担付遺贈)
第千二条 負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。
2 受遺者が遺贈の放棄をしたときは、負担の利益を受けるべき者は、自ら受遺者となることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

出典:e-Govウェブサイト(民法1002条)

例えば、遺贈の目的価格が100万円であれば、100万円を限度に履行義務を負います。

受遺者が負担付遺贈を放棄した場合は、負担の利益を受ける人が受遺者になることも可能です。

ただし、遺言者が遺言書で別段の意思表示をしたときは、遺言者の意思に従います。

負担付遺贈の受遺者の免責(民法1003条)

負担付遺贈の目的価格が減少したときは、減少の割合に応じて履行義務を免れます。

(負担付遺贈の受遺者の免責)
第千三条 負担付遺贈の目的の価額が相続の限定承認又は遺留分回復の訴えによって減少したときは、受遺者は、その減少の割合に応じて、その負担した義務を免れる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

出典:e-Govウェブサイト(民法1003条)

例えば、遺贈の目的価格が100万円から50万円に減少すれば、履行義務も半分になります。

ただし、遺言者が遺言書で別段の意思表示をしたときは、遺言者の意思に従います。

まとめ

今回の記事では「遺贈と民法」について説明しました。

遺贈は民法985条から1003条に記載されています。

  • 遺贈の効力発生時期(民法985条)
  • 遺贈の放棄(民法986条~989条)
  • 包括受遺者の権利義務(民法990条)
  • 遺贈の失効(民法994条・995条)

普通に遺贈するだけなら関係ない条文も多いですが、細かいことまで条文で定められています。

遺言書を作成するなら、遺贈についての条文を確認しておきましょう。

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