内縁の妻(夫)は相続人に含まれませんが、特別縁故者として財産の取得はできます。
内縁関係(事実上の婚姻関係)があれば、生計同一者に該当するからです。
ただし、特別縁故者制度を生前から当てにするのは危険なので、できる限り相続対策をしてください。
今回の記事では、特別縁故者(内縁の妻)について説明しているので、疑問を解消する手助けにしてください。
1.内縁の妻も特別縁故者として財産取得
内縁の妻は相続人に含まれませんが、特別縁故者として財産を取得することはできます。
なぜなら、内縁の妻は特別縁故者に該当する可能性が高いからです。
1-1.内縁の妻は生計同一者に該当する
内縁(事実婚)の妻と判断されるには、夫婦共同生活の事実が必要になります。
そして、夫婦共同生活の事実があれば、原則として生計同一者に該当します。
つまり、内縁(事実婚)の妻は生計同一者です。
以下は、民法の条文です。
内縁の妻が生計同一者であれば、特別縁故者として財産分与の申立てができます。
関連記事を読む『亡くなった人と生計を同一にしていた人|特別縁故者に該当する3類型の1つ』
1-2.夫婦共同生活(生計同一)の証明は必要
内縁の妻が特別縁故者として財産分与を請求するには、夫婦共同生活(生計同一)を証明する必要があります。
- 住民票の記載
- 保険料の支払い等
住民票の記載から同居(年数等)の事実は確認できます。亡くなった人の扶養に入っていたなら、保険料の支払い等で生計同一も確認可能です。
ちなみに、住民票の続柄を「妻(未届)」「夫(未届)」にしておくと、内縁関係(事実婚)は証明しやすいでしょう。
関連記事を読む『事実婚では住民票の記載が重要|続柄は夫(未届)妻(未届)ですか』
2.特別縁故者(内縁の妻)が取得できる財産
内縁の妻が取得できるのは、清算後に残存する相続財産となります。
以下は、民法の条文です。
相続財産から相続債務等を支払って、残った財産が財産分与の対象となります。
つまり、亡くなった人の負債額が多ければ、内縁の妻が取得できる財産も少なくなります。
※残らなければ取得できない。
2-1.内縁の妻が全財産を取得できるとは限らない
特別縁故者(内縁の妻)が何を取得するかは、家庭裁判所が判断します。
そのため、特別縁故者だと認められても、全財産を取得できるとは限りません。
内縁関係(事実婚)の期間等も影響するので、一部しか取得できない可能性はあります。
2-2.内縁の妻以外に特別縁故者が存在する
特別縁故者の人数に制限はないので、内縁の妻以外の人も財産分与を請求する可能性はあります。
※認められるかは別問題。
【事例】
内縁の妻と事実上の養子が財産分与を請求したケース。
内縁関係と事実上の親子関係が両方とも認められると、2人とも特別縁故者に該当します。
したがって、2人に対して財産分与されます。
※割合は家庭裁判所が決める。
特別縁故者(内縁の妻以外)の請求が認められると、内縁の妻が取得できる財産額は減っていきます。
自分だけが特別縁故者とは限らないので、財産分与の申立てをする際は注意してください。
3.内縁の妻が特別縁故者を当てにするリスク
すでに説明したとおり、内縁の妻は特別縁故者に該当する可能性が高いです。
ただし、特別縁故者による財産分与を、生前から当てにするのは、リスクが大きいので止めておきましょう。
※特別縁故者への財産分与は最終手段。
- 知らなかった相続人が存在する
- 遺言書(第3者への遺贈)が存在する
- 申立期間を経過すると取得できない
- 財産分与が認められなかった
それぞれ簡単に説明していきます。
3-1.知らなかった相続人が存在する
本人(亡くなった人)が相続人はいないと思っていても、知らなかった(気付いていない)相続人は存在します。
なぜなら、両親の戸籍を遡って確認しない限り、異父(異母)兄弟姉妹や養子の存在は分からないからです。
実際、内縁の妻が戸籍を取得して、初めて相続人に気付いたケースもあります。
1人でも相続人が存在すると、内縁の妻は財産を取得できないので注意してください。
関連記事を読む『特別縁故者は『相続人がいる場合』に該当すると取得できない 』
3-2.遺言書(第3者への遺贈)が存在する
亡くなった人が遺言書(第3者への遺贈)を作成している可能性はあります。
万が一、遺言書が存在すると、内縁の妻よりも優先されます。
- 過去に作成した遺言書が残っている
- 特定の財産を親族に遺贈している
内縁の妻に遺言書を残さないからといって、遺言書が存在しないとは限らないです。
過去に作成した遺言書が残っている
過去に作成した遺言書であっても、撤回していなければ効力が発生します。
遺言者(亡くなった人)が撤回を忘れている場合や、撤回する前に亡くなった場合等が考えられます。
特定の財産を親族に遺贈している
特定の財産(不動産等)を親族に遺贈しているケースはあります。
例えば、親から引き継いだ不動産に関しては、従兄弟に遺贈する遺言書です。
内縁の妻が遺言書の内容を知っていれば問題ないですが、知らなければ不動産も取得できると勘違いします。
3-3.申立期間を経過すると取得できない
内縁の妻が特別縁故者に該当する場合であっても、財産分与の申立期間を経過すると取得できません。
申立期間は相続人の不存在確定後3ヶ月以内です。
まずは、家庭裁判所に相続財産清算人の選任申立て。
官報公告等により相続人や債権者等を探し、相続財産から清算手続きを行います。
一定期間内に相続人が見つからなければ、相続人の不存在が確定します。
相続人の不存在が確定してから3ヶ月以内が、財産分与の申立期間です。
財産分与の申立期間を経過してしまうと、内縁の妻は財産を取得できないので注意してください。
関連記事を読む『特別縁故者の申立期間は3ヶ月なので確認を忘れずに 』
3-4.財産分与が認められる保障はない
内縁の妻が財産分与の申立をしても、100%認められる保障はありません。
※財産が全額分与される保障もない。
あくまでも、認められる可能性が高いというだけです。
万が一、財産分与が認められなければ、内縁の妻は財産を取得できないので注意してください。
4.内縁の妻は特別縁故者よりも相続対策
内縁の妻が特別縁故者を当てにするのは危険なので、できる限り相続対策をしておきましょう。
- 婚姻届を提出して法定相続人になる
- 遺言書を作成して財産を遺贈する
それぞれ簡単に説明します。
4-1.婚姻届を提出すれば法定相続人
亡くなる前に婚姻届を提出すれば、法律上の配偶者となるので相続人です。
他に相続人がいなければ、配偶者として全財産を相続します。
一方、他に相続人がいても、配偶者として財産の一部(2分の1以上)を相続できます。
遺言書を書かないのであれば、婚姻届の提出を検討してください。
関連記事を読む『配偶者は常に相続人|法定相続人は配偶者と血族相続人の組み合わせ』
4-2.遺言書で内縁の妻に遺贈する
事情があって婚姻届を提出できないなら、遺言書は作成してください。
遺言書で内縁の妻(夫)に遺贈しておけば、相続人がいても財産を取得できるからです。
また、「特別縁故者への財産分与」と「遺言書」を比べると、遺言書の方が費用も安くなります。
内縁関係(事実婚)と遺言書はセットで考えましょう。
関連記事を読む『事実婚では遺言書の作成が重要!配偶者に財産を残すなら書くべき 』
5.まとめ
今回の記事では「特別縁故者(内縁の妻)」について説明しました。
内縁の妻は相続人に含まれませんが、特別縁故者に該当する可能性は高いでしょう。
内縁関係(事実婚)なら生計同一のはずなので、生計同一者として特別縁故者になるからです。
ただし、生前から当てにするのは危険なので、できる限り相続対策をしてください。
あくまでも、特別縁故者への財産分与は最終手段です。