相続財産管理人は相続人がいる場合、申立てをしても選任されません。
ただし、相続人全員が相続放棄をしているなら、相続人がいない場合に該当するので選任されます。
相続人がいる場合でも行方不明であれば、不在者財産管理人の選任申立てをしましょう。
今回の記事では、相続人がいる場合の相続財産管理人について説明しているので、申立てを検討しているなら参考にしてください。
司法書士から一言令和5年4月1日に相続財産管理人から相続財産清算人へ名称変更。
目次
1.相続人がいる場合は申立てができない
亡くなった人に相続人がいる場合、相続財産管理人の選任申立てをすることはできません。
なぜなら、亡くなった人に相続人がいれば、相続財産法人が成立していないからです。
(相続財産法人の成立)
第九百五十一条 相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
(相続財産の管理人の選任)
第九百五十二条 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。
相続人がいれば相続財産は法人になりません。相続財産が法人にならなければ、相続財産管理人の選任申立てをすることもできません。
相続財産管理人の選任申立てをする際には、戸籍謄本等を提出する必要があります。
家庭裁判所は提出された戸籍謄本等を確認して、亡くなった人に相続人が存在しないことを確認します。
そして、戸籍謄本等から相続人が確認された場合、選任申立ては却下されます。
関連記事を読む『相続財産管理人が選任されない場合を5つ説明』
2.相続人全員が相続放棄すると申立てできる
亡くなった人に相続人がいる場合でも、全員が相続放棄すると相続人がいないことになります。
相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったとみなされます。つまり、相続人全員が初めから相続人ではなかったことになります。
相続人が初めから存在しないことになれば、相続財産管理人の選任申立てをすることができます。
関連記事を読む『相続財産管理人の選任申立てをするなら手順を確認しよう』
2-1.相続放棄するタイミングは相続人により違う
相続放棄ができるのは、相続の開始を知った日から3ヶ月以内です。
つまり、相続の開始を知らなければ、何カ月経過していても相続放棄をすることは可能です。
死亡日から3ヶ月経過していても、相続放棄をすることがあるので気を付けてください。
2-2.相続放棄しているかの確認方法
相続財産管理人の選任申立てをしたいが、相続人が相続放棄しているか分からない場合もあります。
相続放棄の確認方法は2つです。
- 相続人に直接確認する
- 相続放棄の有無照会をする
相続人に直接確認する
相続人の連絡先が分かっているなら、直接確認するのが早いです。
相続人が相続放棄しているなら、相続放棄申述受理通知書のコピーを受け取りましょう。
相続放棄申述受理通知書のコピーを見れば、相続放棄していることは確認できます。
相続放棄の有無照会をする
相続人に連絡が取れなければ、自分で相続放棄を調べることもできます。
「相続放棄の有無照会」という申立てをすれば、相続人が相続放棄しているか確認することができます。
関連記事を読む『相続放棄の有無照会|連絡が取れなくても事件番号は調べれる』
3.相続財産管理人が選任された後で相続人が見つかる
相続財産管理人が選任された後で、相続人が見つかることもあります。
相続財産管理人の選任を検討しているなら、相続人が見つかった場合についても知っておきましょう。
3-1.相続人が見つかれば相続財産法人は成立しない
亡くなった人の相続人が見つかれば、相続財産法人は成立しなかったとみなされます。
(相続財産法人の不成立)
第九百五十五条 相続人のあることが明らかになったときは、第九百五十一条の法人は、成立しなかったものとみなす。ただし、相続財産の管理人がその権限内でした行為の効力を妨げない。
ただし、相続人が見つかる前に相続財産管理人がした行為は有効です。
相続財産管理人から相続人に相続財産を引き継ぎます。
3-2.戸籍謄本等では分からない相続人もいる
亡くなった人の戸籍謄本等では、見つけることができない相続人もいます。
相続人が見つかる可能性は高くありませんが、以下のようなケースが考えられます。
- 死後認知により子どもが相続人
- 相続放棄の取消しにより相続人
- 全部包括受遺者が存在していた
それぞれ簡単に説明しておきます。
死後認知が認められると相続人
父親が亡くなった後でも、非嫡出子の子どもは死後認知の訴えをすることができます。
死後認知が認められると、出生のときから子どもだったことになります。
相続放棄の取消しにより相続人
相続放棄を撤回することはできませんが、取消事由があれば取消すことはできます。
例えば、脅されて相続放棄をした相続人は、相続放棄の取消しをすることができます。
相続放棄の取消しが認められると相続人です。
関連記事を読む『相続放棄の撤回は無理だが取消し事由があれば取消しは可能』
全部包括受遺者が存在していた
亡くなった人が遺言書を残していた場合で、全財産を遺贈していると相続財産管理人は選任されません。
全財産を遺贈されている人を、全部包括受遺者といいます。
全部包括受遺者は亡くなった人の権利義務もすべて引き継ぐので、相続財産管理人を選任する必要がありません。
4.相続人がいる場合は不在者財産管理人を検討する
相続人がいる場合は、相続財産管理人の選任申立てをすることができません。
ですが、相続人の行方が分からず、あなたの手続きが進まないこともあります。
相続人の行方が分からない場合は、不在者財産管理人の選任を検討しましょう。
不在者財産管理人は不在者の財産を管理する人です。相続人が不在者であれば、相続財産を管理するのは不在者財産管理人になります。
例えば、相続債権者が相続財産から債権を回収するのであれば、不在者財産管理人を選任して回収することになります。
イメージとしては、以下のよう分かれます。
- 相続人が存在しなければ相続財産管理人
- 相続人が行方不明なら不在者財産管理人
相続人が存在するかどうかで、選任する財産管理人が違うので気を付けてください。
関連記事を読む『不在者財産管理人の選任申立て|手続きには時間がかかる』
5.さいごに
相続財産管理人は相続人がいる場合は選任されません。
間違えて選任申立てをしても、家庭裁判所は戸籍謄本等を確認して申立てを却下します。
ただし、相続人がいる場合でも、相続人全員が相続放棄をすると結論は変わります。
相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったとみなされます。結果として、初めから相続人がいなかったことになります。
相続人がいる場合でも行方不明であれば、不在者財産管理人の選任を検討しましょう。