相続財産管理人は常に選任されるわけではありません。
たとえ相続財産管理人が必要であっても、要件を満たしていなければ選任されることはありません。
相続財産管理人の選任を検討しているなら、どのような場合に選任されないのか知っておきましょう。
今回の記事では、相続財産管理人が選任されない場合を5つ説明しているので、参考にしてください。
司法書士から一言令和5年4月1日に相続財産管理人から相続財産清算人へ名称変更。
目次
1.相続人が存在すれば選任されない
相続財産管理人が選任されないケースの1つ目は、相続人の存在が確認された場合です。
当然ですが、亡くなった人に相続人がいれば、相続財産管理人は選任されません。
家庭裁判所が提出された戸籍謄本等を確認して、相続人の存在が判明すれば申立ては却下されます。
1-1.戸籍謄本等を見ても相続人に気付かない
相続財産管理人の選任申立てをする際には、戸籍謄本等で相続人がいないことを確認しているはずです。
ですが、家庭裁判所が戸籍謄本等を確認すると、相続人が存在していることがあります。
理由は2つ考えられます。
- 戸籍謄本等の見間違い
- 相続人の範囲を間違えている
戸籍謄本等の見間違い
相続財産管理人の選任申立てをするには、戸籍謄本等を複数枚集める必要があります。
昔の戸籍謄本等も集めるのですが、昔の戸籍謄本等は手書きになっていて非常に読みにくいです。
亡くなった人が高齢であれば、兄弟姉妹の人数も多いので見間違いやすくなります。
ですので、戸籍謄本等を見間違えて、相続財産管理人の選任申立てをすることがあります。
相続人の範囲を間違えている
相続人の範囲を間違えている申立人もいます。
戸籍謄本等には相続人が記載されていても、申立人が相続人ではないと勘違いしている場合です。
以下の人は、間違えやすいですが相続人です。
- 異母(異父)の兄弟姉妹も相続人
- 実子と養子は兄弟姉妹として相続人
- 亡くなっている兄弟姉妹に子ども(甥姪)がいれば相続人
- 両親が亡くなっていても祖父母が健在なら相続人
- 非嫡出子も実子なので相続人
誰が相続人になるのか分からなければ、間違えて相続財産管理人の選任申立てをすることもあります。
1-2.全部包括受遺者が存在すれば選任されない
亡くなった人に相続人が存在しなくても、遺言書で全財産を遺贈していれば相続財産管理人は選任されません。
なぜなら、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有するので、相続人が存在するのと同じことだからです。
以下は、最高裁判所の判例です。
遺言者に相続人は存在しないが相続財産全部の包括受遺者が存在する場合は、民法九五一条にいう「相続人のあることが明かでないとき」に当たらない。
全部包括受遺者が存在すれば、相続財産管理人の選任申立てをしても却下されます。
注意一部包括受遺者の場合は結論が分かれています。
2.相続財産が存在しなければ選任されない
相続財産管理人が選任されないケースの2つ目は、相続財産が存在しない場合です。
「相続財産」管理人という言葉のとおり、相続財産が存在していることが前提になります。
たとえ亡くなった人に相続人が存在しなくても、相続財産が存在しないのであれば、相続財産管理人は選任されません。
また、相続財産が少額の場合も、選任する意味がないと判断されて選任されない可能性はあります。
現実的には、相続財産が少額であれば手続費用の方が高くなるので、相続債権者などは申立てをしないでしょう。
注意相続財産が少額でも、相続財産管理人が必要なケースはあります。
3.申立てをしなければ選任されない
相続財産管理人が選任されないケースの3つ目は、誰も申立てをしていない場合です。
亡くなった人に相続人が存在せず、かつ、相続財産が存在する場合でも、誰も申立てをしなければ相続財産管理人は選任されません。
(相続財産の管理人の選任)
第九百五十二条 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。
相続財産管理人が選任されるには、誰かが家庭裁判所に選任の申立てをする必要があります。
例えば、亡くなった人の特別縁故者に該当する人がいたとしても、誰かが相続財産管理人の選任申立てをしなければ、何年経過しても選任されることはありません。
相続財産管理人が必要な場合は、選任申立てについて確認しておきましょう。
関連記事を読む『相続財産管理人の選任申立てをするなら手順を確認しよう』
4.申立て権限が無ければ選任されない
相続財産管理人が選任されないケースの4つ目は、申立人に申立て権限が無い場合です。
相続財産管理人の選任申立てがあっても、申立人に申立て権限が無ければ相続財産管理人は選任されません。
4-1.申立には法律上の利害関係が必要
相続財産管理人の選任申立てをするには、法律上の利害関係が必要になります。
主な法律上の利害関係人には、以下の人が挙げられます。
- 特別縁故者
- 相続債権者
- 相続財産を管理している人
- 地方自治体
- 不動産の共有者
イメージとしては、相続財産管理人が選任されなければ、法律上の目的が達成できない人です。
例えば、相続債権者は相続人財産管理人が選任されなければ、相続財産があっても債権を回収することができません。相続債権を回収するためにも、相続財産管理人の選任が必要になります。
4-2.事実上の利害関係では認められない
事実上の利害関係人が選任申立てをしても、相続財産管理人は選任されません。
例えば、亡くなった人が所有していた不動産を購入したい人は、事実上の利害関係人に該当します。
したがって、不動産を購入したい人が選任申立てをしても、相続財産管理人は選任されません。
ただし、生前に不動産売買が行われていて、所有権移転登記が済んでいない場合は、買主は法律上の利害関係人に該当します。
関連記事を読む『相続財産管理人の利害関係人には誰が該当するのか』
5.予納金が支払えなければ選任されない
相続財産管理人が選任されないケースの5つ目は、予納金が支払えない場合です。
相続財産管理人の選任申立てをすると、家庭裁判所から予納金の支払いを求められることがあります。
予納金の額は相続財産により違います。
相続財産に預貯金が多くあれば、預貯金から必要な支払いをするので、予納金は不要または少額になります。
反対に、相続財産に預貯金が少なければ、予納金から必要な支払いをするので、予納金は高額になりやすいです。
例えば、管理に必要な金額が100万円で預貯金が50万円なら、予納金は50万円になるというイメージです。
家庭裁判所から指示された予納金を支払わなければ、相続財産管理人は選任されません。
関連記事を読む『【相続財産管理人と予納金】金額は流動資産の額により違う』
6.さいごに
今回の記事では、相続財産管理人が選任されないケースを5つ説明しました。
- 相続人が存在する
- 相続財産が存在しない
- 申立をしていない
- 申立て権限がない
- 予納金を支払っていない
相続人が存在すれば相続人が相続しますし、管理する財産が無ければ選任する必要もありません。
誰も申立てをしなければ選任されませんし、申立てるには法律上の利害関係が必要です。申立てをした後に予納金を求められることもあります。
相続財産管理人を必要としているなら、選任されないケースも知っておいてください。