失踪宣告と相続税は2つのケースで関係します。
- 失踪宣告により生死不明者の相続発生
- 亡くなった人の相続人が生死不明
失踪宣告により生死不明者が死亡とみなされた場合、審判確定を知った日から10ヶ月以内が相続税の申告・納付期限です。
亡くなった人の相続人が生死不明でも、相続税の申告・納付期限は延長されません。遺産分割協議はできないので、遺産分割未了で申告・納付してください。納付後に失踪宣告が認められたら、更正の請求も可能です。
今回の記事では、失踪宣告と相続税について説明しているので、どちらに該当するのか確認して参考にしてください。
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1.失踪宣告による死亡でも相続税は発生
失踪宣告により生死不明者が死亡とみなされた場合でも、相続財産が基礎控除額を超えれば相続税が課税されます。
相続税を計算するには、基礎控除額(相続人の人数)を知る必要があります。
1-1.基礎控除額は死亡とみなされた日で判断
失踪宣告による相続発生日は、死亡とみなされた日です。
したがって、相続人も死亡とみなされた日で判断します。失踪宣告の申立日や審判確定日ではないので注意してください。
相続人を間違えると基礎控除額の間違えにも繋がるので、相続人の確認は非常に重要です。
生死不明者の相続人に亡くなっている人がいるなら、代襲相続や数次相続が発生するので、死亡日の前後をしっかりと確認してください。
関連記事を読む『【失踪宣告による相続】誰が相続人なのか間違えないように注意』
1-2.失踪宣告による相続税の納付期限
相続税の納付期限は、相続の開始を知った日から10日ヶ月以内です。
失踪宣告による相続の開始を知った日がいつになるかは、国税庁のホームページに記載があります。
以下は、国税庁のホームページです。
相続の開始を知った日は、失踪宣告の審判確定を知った日として扱います。
つまり、失踪宣告の審判確定を知った日から10ヶ月以内が、相続税の申告・納付期限です。
関連記事を読む『失踪宣告の期間は複数あり起算日や期限もそれぞれ違う』
2.相続人が生死不明だった場合の相続税
生死不明者が死亡とみなされたケースではなく、相続人が生死不明のケースについても説明していきます。
重要な点は以下の3つです。
- 相続税の納付期限は延長されない
- 遺産分割未了だと特例は適用されない
- 相続税の納付後に失踪宣告した場合
2-1.相続税の納付期限は延長されない
共同相続人の中に生死不明者がいると、遺産分割協議ができません。
生死不明者(相続人)を除外した遺産分割協議は無効になるからです。
ですが、遺産分割協議ができない場合であっても、相続税の納付期限は延長されません。
以下は、国税庁のホームページです。
遺産分割協議ができなければ、法定相続分で取得したものとして、相続税の計算および申告・納税をする必要があります。
相続人に生死不明者がいても、相続税の納付期限は延長しないので注意してください。
2-2.遺産分割未了だと特例が適用されない
遺産分割未了で相続税の申告をする場合、各種特例は適用されません。
- 配偶者に対する相続税額の軽減
- 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例
- 特定計画山林についての相続税の課税価格の計算の特例
- 特定事業用資産についての相続税の課税価格の計算の特例
たとえ配偶者が全財産を取得する予定だったとしても、遺産分割未了であれば配偶者の税額軽減は適用されないです。
ただし、「申告期限後3年以内の分割見込書」を相続税の申告書と一緒に提出しておけば、3年以内であれば特例は適用されます。
失踪宣告を検討しているなら、忘れずに提出しておきましょう。
2-3.相続税の納付後に失踪宣告が認められた
相続税の納付後に失踪宣告が認められたら、遺産分割協議を行います。
そして、遺産分割協議の結果にしたがって、相続税を計算し直してください。
配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用するなら、相続税が少なくなるはずです。相続税が少なくなれば、更正の請求も認められます。
ただし、更正の請求は遺産分割協議から4ヶ月以内なので、忘れずに請求してください。
3.失踪宣告と相続税に関する注意点
失踪宣告と相続税に関して、相続人が生死不明だった場合の注意点を説明します。
- 失踪宣告は相続税の期限に間に合わない
- 相続税を支払う金銭を用意できるか
- 死亡日によっては基礎控除額が変わる
3-1.失踪宣告は相続税の期限に間に合わない
失踪宣告を検討しているなら、相続税の期限(相続の開始を知った日から10ヶ月以内)には間に合わないと思って行動してください。
通常、失踪宣告の申立てから審判確定まで、短くても8ヶ月から10ヶ月、長ければ1年以上かかります。
※特別失踪は除く。
相続の開始後に相続人の生死不明に気付いた場合、時間的に間に合わないです。間に合わないのを前提として、相続税に対応してください。
関連記事を読む『失踪宣告の流れ|審判確定までには10ヶ月から1年ぐらい必要』
3-2.相続税を支払う金銭が用意できるか
相続人が生死不明だと遺産分割協議ができないので、相続財産から相続税を支払うのは難しいです。
つまり、自分の財産から相続税を支払う必要があります。相続税(金銭)が用意できなくても、納付期限は延長されないです。
相続税が高額になるなら、支払う対策もしておいてください。
3-3.死亡日によっては基礎控除額が変更
遺産分割未了で相続税を納税した後に、失踪宣告が認められると、基礎控除額が変更する場合もあります。
なぜなら、被相続人よりも生死不明者(相続人)の方が、先に亡くなっている場合があるからです。
以下の図を基に説明します。
(基礎控除額)
3,000万円+3人×600万円=4,800万円
失踪宣告により基礎控除額が増減するかは、代襲相続人の数によって決まります。
基礎控除額が増えるケース
(基礎控除額)
3,000万円+4人×600万円=5,400万円
生死不明者(相続人)に子が複数いれば、代襲相続人の数だけ相続人も増えます。
したがって、相続税の基礎控除額も増えます。
基礎控除額が減るケース
(基礎控除額)
3,000万円+2人×600万円=4,200万円
生死不明者(相続人)に子がいなければ、相続人の人数が減ります。
したがって、相続税の基礎控除額も減ります。
4.推定相続人に生死不明者がいる場合の対策
相続発生前の時点で、推定相続人に生死不明者がいると認識していた人もいます。
ですが、何の対策もしないまま相続が発生し、失踪宣告の相談・依頼に訪れます。
私が前もって相談を受けていたなら、遺言書の作成を強く勧めます。
正しい遺言書を作成しておけば、遺産分割協議が不要になるので、相続手続き(相続税含む)を進められるからです。
また、生死不明者の子どもに財産を残したいなら、遺贈で残すことも可能です。
推定相続人に生死不明者(行方不明者)がいると分かっているなら、面倒だと思わずに遺言書を作成してください。
5.まとめ
今回の記事では「失踪宣告と相続税」について説明しました。
失踪宣告により生死不明者が死亡とみなされた場合、審判確定を知った日から10ヶ月以内が相続税の申告・納付期限となります。失踪宣告であっても相続税は発生するので、相続財産の金額には注意してください。
亡くなった人の相続人が生死不明であっても、相続税の申告・納付期限は延長されません。遺産分割協議はできないので、遺産分割未了で相続税を申告・納付する必要があります。
遺産分割未了の場合、相続税の各種特例は適用できません。ただし、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておけば、失踪宣告後に適用することも可能です。
相続発生後に生死不明に気付いても、失踪宣告は相続税の期限に間に合いません。
一方、相続発生前に生死不明に気付いているなら、遺言書を作成することで遺産分割協議は不要となるので、必ず作成しておきましょう。
失踪宣告と相続税に関するQ&A
- 相続財産が基礎控除額以下でも申告は必要ですか?
-
不要です。
- 遺言書を作成する以外の対策はありますか?
-
相続発生前に失踪宣告の申立てをするのも方法の一つです。