認知に関することも民法の条文で定められています。
ただし、普段の生活で民法の条文を読むことは少ないので、何条を読めばいいのか分かりにくいです。
また、条文の文言も読みにくいので、親切な作りにはなっていません。
今回の記事では、認知に関する条文について説明しているので、民法の条文を読む際の参考にしてください。
目次
嫡出でない子は認知できる(民法779条)
民法779条では、嫡出でない子は父または母が認知できると定めています。
(認知)
第七百七十九条 嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができる。
民法の条文では父または母となっていますが、母に関しては分娩の事実により親子関係が発生しています。
ですので、親子関係がすでに発生している母は認知できません。
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認知能力(民法780条)
民法780条では、認知能力について定めています。
(認知能力)
第七百八十条 認知をするには、父又は母が未成年者又は成年被後見人であるときであっても、その法定代理人の同意を要しない。
認知をする人が未成年者や成年被後見人であっても、法定代理人の同意は不要です。
- 未成年者:親権者等
- 成年被後見人:成年後見人
上記の右側が法定代理人ですが、認知をするのに同意を得る必要はありません。
認知の方式(民法781条)
民法781条では、認知の方式について定めています。
(認知の方式)
第七百八十一条 認知は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによってする。
2 認知は、遺言によっても、することができる。
子を認知するには、市役所等に認知届を提出する必要があります。
また、遺言書で認知することもできます。遺言書で認知した場合は、遺言執行者が認知届を提出します。
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認知の相手方に関する条文
認知の相手方に関する条文は2つあります。
- 民法782条:成年の子
- 民法783条:胎児・死亡した子
それぞれ説明していきます。
成年の子どもを認知(民法782条)
民法782条では、成年の子の認知について定めています。
(成年の子の認知)
第七百八十二条 成年の子は、その承諾がなければ、これを認知することができない。
成年の子を認知する場合、子(本人)の承諾がなければ認知できません。
親が認知したいと思っても、子が成人しているなら子の気持ちが優先されます。
胎児または死亡した子どもの認知(民法783条)
民法783条では、胎児または死亡した子の認知について定めています。
(胎児又は死亡した子の認知)
第七百八十三条 父は、胎内に在る子でも、認知することができる。この場合においては、母の承諾を得なければならない。
2 父又は母は、死亡した子でも、その直系卑属があるときに限り、認知することができる。この場合において、その直系卑属が成年者であるときは、その承諾を得なければならない。
胎児を認知するには母の承諾が必要
父は胎児を認知することも可能ですが、母の承諾を得る必要があります。母の承諾が得られないなら胎児は認知できません。
ただし、母が出産した後は、母の承諾を得なくても子を認知できます。
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死亡した子を認知するには直系卑属が必要
死亡した子を認知するには、直系卑属の存在が条件になります。
例えば、認知する前に子が死亡していても、子に子(孫)がいれば認知できます。
ただし、直系卑属が成人しているなら、直系卑属の承諾を得る必要があります。
認知の効力は遡る(民法784条)
民法784条では、認知の効力について定めています。
(認知の効力)
第七百八十四条 認知は、出生の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者が既に取得した権利を害することはできない。
認知は出生の時に遡って効力を生じます。
ですので、認知された子は、出生の時から子であったことになります。
ただし、第3者がすでに取得した権利を害することはできません。民法910条も関係します。
認知の取消しに関する条文
認知の取消しに関する条文は2つあります。
- 民法785条:認知の取消し禁止
- 民法786条:認知に対する反対事実の主張
それぞれ説明していきます。
認知の取消しは禁止(民法785条)
民法785条は、認知の取消禁止について定めています。
(認知の取消しの禁止)
第七百八十五条 認知をした父又は母は、その認知を取り消すことができない。
認知をした親は、認知を取り消すことができません。
ただし、判例上では認知をした親も、民法786条の利害関係人に含まれるとしています。
関連記事を読む『認知の取り消しは原則として認められないが無効の主張は可能』
認知に対する反対事実の主張(民法786条)
民法786条では、認知に対する反対事実の主張について定めています。
(認知に対する反対の事実の主張)
第七百八十六条 子その他の利害関係人は、認知に対して反対の事実を主張することができる。
子や利害関係人は、認知に対して反対の事実を主張することができます。
そして、利害関係人には、認知をした父親も含まれます。
ですので、民法785条で認知の取消しが禁止されていても、反対(無効)の事実があるなら取り消すことが可能です。
認知の訴え(民法787条)
民法787条では、認知の訴えについて定めています。
(認知の訴え)
第七百八十七条 子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、認知の訴えを提起することができる。ただし、父又は母の死亡の日から三年を経過したときは、この限りでない。
父が認知してくれないときは、子どもの側から認知の訴えを提起できます。
認知の訴えは父の死亡後も可能ですが、父の死亡日から3年経過すると死後認知の訴えは提起できません。
関連記事を読む『死後認知とは父親が亡くなった後に認知を請求する手段』
認知後の監護に関する定め(民法788条)
民法788条では、認知後の子の監護について定めています。
(認知後の子の監護に関する事項の定め等)
第七百八十八条 第七百六十六条の規定は、父が認知する場合について準用する。
民法788条は民法766条(離婚後の子の監護)を準用しています。
以下は、民法766条の要点です。
- 子の監護は父母の協議で定める
- 協議が不調なら家庭裁判所が定める
父が認知をしたからといって、子の親権が移るわけではありません。
認知による準正(民法789条)
民法789条では、認知による準正について定めています。
(準正)
第七百八十九条 父が認知した子は、その父母の婚姻によって嫡出子の身分を取得する。
2 婚姻中父母が認知した子は、その認知の時から、嫡出子の身分を取得する。
3 前二項の規定は、子が既に死亡していた場合について準用する。
父が認知した後に父母が婚姻すると、婚姻によって子は嫡出子となります。
一方、父母が婚姻中に認知すると、認知の時から嫡出子となります。
認知と婚姻の前後により、嫡出子となるタイミングが違います。
相続開始後に認知された子の支払請求権(民法910条)
民法910条では、相続開始後に認知された子の支払請求権について定めています。
(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)
第九百十条 相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。
父親が亡くなった後に認知が認められると、すでに遺産分割協議は終了している可能性があります。
遺産分割協議が終了している場合、認知により相続人となった子は価格による支払請求権を行使できます。
遺産分割協議のやり直しを請求できるわけではありません。
さいごに
認知に関することも民法の条文で定められています。
認知能力であれば民法780条ですし、認知の訴えであれば民法787条となります。
認知について疑問があれば、専門家に相談する前に民法の条文を読んでおくと、説明が理解しやすくなるかもしれません。