認知後に事情が変わったからといって、認知を取り消すことはできません。
父や母が認知を取り消すことは、法律により禁止されています。
ただし、認知に無効要因があるなら、父であっても無効を主張できます。
今回の記事では、認知の取り消しと無効について説明しているので、認知で悩んでいるなら参考にしてください。
目次
1.認知の取り消しは法律で禁止
まずは、父による認知の取り消しが、民法で禁止されている点について説明します。
※母は認知者になることが少ないので省略。
以下は、民法の条文です。
条文を読むと分かるように、父による認知の取り消しは禁止されています。
- 認知の取り消し
- 認知を撤回すること
認知を後から撤回できると、父子関係が安定しないので、認知の取り消しはできません。
「養育費を払うのが大変だから認知の取り消し」
「自分の家族に知られる前に認知の取り消し」
上記のような認知の取り消しが認められないのは当然と言えます。
ただし、認知の取り消し(撤回)ではなく、認知の無効を主張することは認められます。
関連記事を読む『認知に関する民法の条文【779条から789条と910条】』
2.認知の無効を主張することは認められる
認知の取り消しではなく、認知の無効を主張することは民法で認められています。
以下は、民法の条文です。
※法改正により民法786条は、認知の無効の訴えに文言が変わります。
子や利害関係人は、認知に対して反対(無効)の事実を主張できます。
- 認知者の意思に基づかない
- 認知が真実に反している
それぞれ説明していきます。
2-1.認知者の意思に基づかない認知
認知者の意思に基づかないとは、勝手に認知届を提出している場合です。
第3者が認知届を勝手に作成して提出しているなら、認知者(父親)の意思に基づいていないので無効を主張できます。
ただし、無効が認められたとしても、父と子に血縁上の親子関係があるなら、最終的に母や子は認知の訴えを起こすことが可能です。
2-2.認知が真実の親子関係に反している
認知が真実に反しているとは、血縁関係にない子を認知している場合です。
子を認知する際に血縁関係を証する書類は不要なので、父は血縁関係にない子でも認知できます。
ただし、以下の2つでは認知の事情が違います。
- 血縁関係にないことを知らなかった
- 血縁関係にないことを知っていた
血縁関係にないことを知らなかった場合、初めから認知が間違っているので、無効を主張するのも当然でしょう。
血縁関係にないことを知っていた場合については、次章で詳しく説明していきます。
3.認知前に血縁関係を知っていても無効を主張できる
父が認知前に血縁関係を知っていた場合でも、父は認知の無効を主張できます。
以下は、最高裁の判例です。
どちらの判例でも、認知者(父親)は民法786条の利害関係人に該当すると判断しています。
そして、父親が血縁上の父子関係にないことを知りながら認知した場合でも、無効を主張できるとしています。
関連記事を読む『【認知に関する判例】争いが多いので最高裁の判例も多い』
3-1.父親が認知の無効を主張できる理由
血縁上の父子関係がないことを知りながら認知しているのに、認知の無効を主張できる理由として、以下の3つが判決理由で挙げられています。
- 認知者(父親)による無効の主張を一切禁止にするのは相当ではない
- 認知者(父親)を禁止にしても他の利害関係人が主張できてしまう
- 個別の事案に応じて必要があれば権利濫用で禁止すればよい
一般の人は判決理由まで気にする必要はないですが、父親も無効を主張できる点だけ知っておいてください。
司法書士から一言民法改正により父親も無効の訴えが起こせると条文に記載されます。
※施行日は未定。
4.さいごに
今回の記事では「認知の取り消しと無効」について説明しました。
認知をした父親は、後から認知を取り消せません。父子関係を安定させる意味もあり、法律で禁止されています。
ただし、認知に無効要因があるなら、認知をした父親も無効を主張できます。
たとえ血縁関係がないと知っていて認知した場合でも、父親は認知無効の訴えを起こせます。
認知の「取り消し」と「無効」では結論が違うので、間違えないように注意してください。