事実婚の配偶者は何十年一緒に暮らしても、法律上の相続人になることはありません。
そのため、事実婚では配偶者に財産を残すための相続対策が必須となります。
また、事実婚では父親と子どもの親子関係は、認知が無ければ発生しません。親子関係が発生していなければ、父親が亡くなっても子どもは相続人になりません。
事実婚と法律婚では相続対策の重要度が違います。
今回の記事では、事実婚の相続について説明しているので、まだ相続対策が済んでいなければ参考にしてください。
目次
1.事実婚の配偶者は相続人ではない
大前提として、事実婚の配偶者は相続人ではありません。
亡くなった人の相続人に誰がなるかは、民法により定められています。
以下は、民法の条文です。
民法により定められているので、たとえ別居生活が何十年だろうと配偶者は常に相続人となります。
民法890条だけを読むと、事実婚の配偶者も相続できると思われたかもしれませんが、民法は婚姻関係の成立についても定めています。
1-1.事実婚の期間が何十年あっても相続できない
民法上の婚姻関係は、婚姻届けの提出を成立条件にしています。
以下は、民法の条文です。
事実婚の夫婦は婚姻届けを提出していません。
したがって、事実婚の期間が何十年あっても、法律上の婚姻関係は成立しません。
現在の法律では、婚姻届けを市役所等に提出しない限り、配偶者として相続することはありません。
1-2.事実婚の配偶者に財産を残すには対策が必要
法律婚の配偶者は常に相続人となるので、何もしなくても相続することはできます。
※相続対策が不要という意味ではありません。
一方、事実婚の配偶者は相続人ではないので、財産を残すためには対策が必要です。
事実婚夫婦の相続対策は複数あるので、2人で話し合って決めてください。
主な相続対策には、以下があります。
- 婚姻届けを提出する
- 遺言書を書く
- 生前贈与をする
- 信託契約を結ぶ
- 生命保険金の受取人にする
どの対策にもメリット・デメリットがあります。財産の内容や法定相続人の存在、2人の年齢や生活プランなどによって選びましょう。
2.事実婚夫婦は遺言書を後回しにできない
法律婚の配偶者は常に相続人になるので、遺言書を作成していなくても相続できます。
そのため、「若いからまだ大丈夫」という理由で、遺言書の作成を後回しにすることが多いです。
ですが、事実婚の場合は法律婚と違い、「若いからまだ大丈夫」という理由で後回しにすることはできません。
遺言書を作成せずに亡くなってしまうと、事実婚の配偶者は1円も相続できないからです。
事実婚を継続するのであれば、遺言書の作成は必須といえます。
2-1.事実婚の配偶者に残したいという意思表示
正しい遺言書は法定相続人より優先されます。
遺言書とは本人の意思表示です。自分の財産を誰に残すかは本人が決めます。
遺言書を作成していなければ、作成していないことが意思表示になります。
簡単に言うなら、事実婚の配偶者に財産を残したくないから、遺言書を作成していないということです。
もちろん、事実婚の配偶者に財産を残したいが、遺言書を作成するのは面倒や縁起が悪い等の考えもあるでしょう。
遺言書の作成を後回しにする理由は人それぞれですが、事実婚の配偶者に財産を残したいのであれば、遺言書(意思表示)を作成しておきましょう。
関連記事を読む『事実婚では遺言書の作成が重要!配偶者に財産を残すなら書くべき』
2-2.遺留分は子どもがいるなら気を付けよう
遺言書を作成する際に注意するのが、遺留分の存在です。
遺留分を分かりやすく説明するなら、相続人に保障された最低限の相続分です。
たとえ全財産を配偶者に遺贈しても、遺留分権利者は遺留分を請求することができます。
ただし、遺留分を請求できる相続人は限られます。
- 法律婚の配偶者
- 子ども
- 直系尊属(両親など)
兄弟姉妹に遺留分はありません。
事実婚夫婦が遺留分に注意するケースは、別れた相手との間に子どもがいる場合や、直系尊属(両親など)が健在な場合などです。
遺留分の割合については、下記の記事で詳しく説明しています。
関連記事を読む『遺留分の割合|9つの組み合わせを覚えておこう』
3.その他の事実婚夫婦の相続対策
遺言書以外の相続対策についても、簡単に説明していきます。
- 婚姻届けを提出して法律上の配偶者にする
- 事実婚の配偶者に生前贈与しておく
- 事実婚の配偶者を生命保険金の受取人にする
3-1.婚姻届けを提出して法律上の配偶者にする
意外に思われたかもしれませんが、事実婚の夫婦が婚姻届けを提出することはあります。
法律上の配偶者の方が優遇されることが多いので、考えた末に婚姻届けを提出されるようです。
法律上の配偶者になれば常に相続人となるので、相続対策と考えることもできます。
婚姻届けの提出を阻む障害が解消されているなら、婚姻届けの提出は一番効果の大きい相続対策となります。
3-2.事実婚の配偶者に生前贈与しておく
事実婚の配偶者に財産を生前贈与しておくのも、事実婚の相続対策となります。
当然ですが、生前に贈与しておけば相続人かどうかは無関係です。
遺言書を書きたくない場合は、生前に渡しておくことを検討しましょう。
私が相談を受けた事例でも、遺言書は絶対に書かかないと言っていた人が、不動産の名義は配偶者に変更していたので、配偶者は不動産に住み続けることができました。
ただし、生前贈与には注意点も多いです。
- 贈与税は高額になりやすい
- 配偶者が先になくなる可能性
生前贈与のリスクについても、しっかりと説明を受けておきましょう。
3-3.事実婚の配偶者を生命保険金の受取人にする
事実婚の配偶者を生命保険金の受取人にすることもできます。
ただし、保険会社の定める条件を満たす必要があります。
- 法律上の配偶者がいない
- 同居している
- 生計を同一にしている
保険会社によって条件が違うので、各保険会社にてお確かめください。
また、法律婚に比べて税制面ではデメリットがあるので、生命保険金の受取人にするなら気を付けてください。
関連記事を読む『事実婚でも生命保険金を受け取れる|税制面ではデメリットもある』
4.事実婚では子どもの相続に認知が必要
事実婚夫婦の間に子どもが生まれた場合、父親の相続には気を付けてください。
なぜなら、父親と生まれた子どもには、法律上の親子関係が無いからです。
事実婚では婚姻中にならないので、父親の子どもにはなりません。
法律上の親子関係を発生させるには、父親が認知をする必要があります。
4-1.認知しなければ法律上の親子ではない
父親が認知をすることにより、法律上の親子関係が発生します。
子どもが認知されていないと、父親が亡くなっても相続人となりません。
ですので、まだ父親の認知が済んでいない場合は、必ず認知をしておいてください。
生前に認知する方法
生前の認知は本籍地(父親または子ども)の役所で、父親が認知届を出すことで手続きが完了します。
ただし、認知をするのに同意が必要な場合もあります。
- 子どもが成人なら本人の同意
- 子どもが胎児なら母親の同意
上記の場合は認知をするのに同意が必要です。
死後に認知する方法
父親が亡くなるまでに認知が済んでいなくても、父親の死後3年間は認知が可能です。
子どもの住所地または亡くなった父親の最後の住所地を管轄する裁判所に、死後認知の訴えを申立ます。
死後認知が認められると、生まれたときに遡って父子関係が認められます。
4-2.母親は分娩の事実により認められる
事実婚夫婦の間に生まれた子どもであっても、母親と子どもの親子関係成立に認知は不要です。
当然ですが、出産した人が母親です。何もしなくても子どもは母親の相続人となります。
5.さいごに
現在の法律では、事実婚の配偶者は相続人になりません。たとえ何十年一緒に暮らしていても結論は同じです。
そのため、配偶者に財産を残すための対策が必須となります。
- 遺言書を作成する
- 生前贈与する
- 生命保険金の受取人にする
- 婚姻届けを提出する
相続対策を何もしなければ、配偶者は1円も取得することができません。
また、父親と子どもの親子関係も、認知が無ければ発生しません。認知をしなければ父親が亡くなっても、子どもは相続人になりません。
事実婚と法律婚では相続対策の重要度が違うので、後回しにせず2人で話し合っておきましょう。