不動産の共有状態を解消する方法の1つに、共有持分の放棄があります。放棄した持分は不動産の共有者が取得します。
持分放棄は単独の意思表示で効力が発生しますが、不動産の登記は共有者との共同申請です。
今回の記事では、不動産共有持分の放棄について説明しているので、共有状態の解消を検討しているなら参考にしてください。
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【解消方法は複数ある】
1.持分の放棄は意思表示で効力発生
不動産を共有している場合、自分の持分を放棄することは自由です。放棄された持ち分は共有者に移ります。
(持分の放棄及び共有者の死亡)
第二百五十五条 共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。
共有持分の放棄は単独行為と言われているので、本人の意思表示のみで持分放棄の効力は発生します。
共有者に連絡をしなくても持分放棄の効力は発生しますが、証拠を残す意味でも書面で通知した方が良いです。
3人以上で共有している場合は、放棄した持分は各共有の持分割合に従って帰属します。
【例題】「母親4分の2」「長男4分の1」「次男4分の1」で3人が共有している場合です。
次男が持分を放棄すると、母親と長男が持分割合に従って4分の1を按分します。
- 母親:4分の1×3分の2=12分の2
- 長男:4分の1×3分の1=12分の1
持分放棄後の持分割合は以下になります。
- 母親:4分の2+12分の2=12分の8(3分の2)
- 長男:4分の1+12分の1=12分の4(3分の1)
不動産の共有者が多いと、共有持分の帰属計算が複雑になります。
2.持分放棄の登記には協力が必要
共有持分を放棄するのは本人の意思表示のみですが、持分放棄の登記をするには共有者の協力が必要です。
なぜなら、持分放棄による所有権移転登記は、本人(登記義務者)と共有者(登記権利者)の共同申請となるからです。持分放棄を共有者に伝えたからといって、不動産登記を単独で変更することは認められません。
土地の所有権の放棄の登記は単独ではできない
2-1.持分放棄による所有権移転登記
持分放棄による所有権移転登記について、簡単にまとめています。
- 登記原因:持分放棄
- 登記権利者:共有者
- 登記義務者:持分放棄する人
- 課税価格:固定資産評価額×放棄する持分
- 登録免許税:課税価格×2%
持分放棄の登記をするのにも、登録免許税という税金が発生します。あらかじめ確認しておいてください。
以下は、相続により不動産を共有にしたが、その後に持分を放棄した場合の不動産登記簿です。
*簡略化しています。
権利部(甲区)(所有権に関する事項) | ||
順位番号 | 登記の目的 | 権利者その他の事項 |
1 | 所有権移転 | 原因 令和元年5月20日相続 共有者 住所〇〇 持分2分の1 A 共有者 住所〇〇 持分2分の1 B |
2 | B持分全部移転 | 原因 令和3年7月1日持分放棄 所有者 住所〇〇 持分2分の1 A |
①相続によって不動産がAとBの共有になっています。
②Bが持分放棄をしたことにより、持分がAに移転しています。
関連記事を読む『【共有持分の移転登記】申請書の記載例を用いて説明』
2-2.共有者が登記に協力しない場合
持分放棄の登記がしたくても、共有者が登記に協力しない場合もあります。
ですが、登記義務者(持分を放棄した人)は登記権利者(共有者)に対して、登記請求権(登記引取請求権)を有しています。
登記権利者が協力しないなら、登記義務者は登記引取請求訴訟を起こすことができます。登記引取請求が認容されれば、単独で登記申請をすることが可能です。
ちなみに、弁護士から訴訟の連絡があった時点で、態度を変えて登記に協力する共有者もいます。
3.持分放棄で共有者に贈与税が発生する可能性
不動産の持分放棄をすると、共有者に贈与税が発生する可能性があります。
なぜなら、持分放棄は税法上は贈与とみなされ、共有者が贈与税の課税対象者となるからです。
以下は、国税庁の通達です。
(共有持分の放棄)
9-12 共有に属する財産の共有者の1人が、その持分を放棄(相続の放棄を除く。)したとき、又は死亡した場合においてその者の相続人がないときは、その者に係る持分は、他の共有者がその持分に応じ贈与又は遺贈により取得したものとして取り扱うものとする。
共有者同士が贈与税の課税を免れるために、持分放棄を利用するのを防ぐ意味があると言われています。持分贈与と持分放棄の結果は、実質的に同じだからです。
不動産の評価額によっては贈与税も高額になるので、あらかじめ税理士等に相談しておいた方がいいです。
3-1.持分放棄による贈与税の計算
持分放棄により共有者に贈与税が課税されるかは、不動産(持分割合)の価格を調べれば分かります。
- 建物:固定資産税評価額
- 土地:路線価または倍率方式
それぞれ簡単に説明します。
建物の共有持分を放棄する場合の贈与税
建物の共有持分を放棄する場合、以下の計算式になります。
「固定資産税評価額×持分割合」
上記の計算式で求められた金額が110万円を超えていれば、超えた額に贈与税が課税されます。
※年間110万円までは贈与税が非課税。
土地の共有持分を放棄する場合の贈与税
土地の共有持分を放棄する場合、以下の計算式になります。
「路線価(倍率方式)で求めた価格×持分割合」
路線価が定められている土地であれば路線価で計算して、路線価が定められていなければ倍率方式で計算します。
4.持分放棄と固定資産税の関係に注意
不動産を所有していると固定資産税の課税対象者となります。
- 固定資産税
-
土地・家屋等の所有者に対して、市町村が課税する地方税のこと
共有持分の放棄と固定資産税の関係では、以下の2つに注意してください。
- 不動産登記簿の名義で判断される
- 1月1日時点の所有者で判断される
4-1.不動産登記簿の名義で判断される
持分放棄をすれば不動産の所有者ではないのですが、登記を変更しない限り固定資産税は課税されます。
なぜかというと、固定資産税の課税は台帳課税主義を採っているので、不動産登記簿の名義を変更しない限り課税対象者となるからです。
(固定資産税の納税義務者等)
第三百四十三条 固定資産税は、固定資産の所有者(質権又は百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地については、その質権者又は地上権者とする。以下固定資産税について同様とする。)に課する。
2 前項の所有者とは、土地又は家屋については、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者(区分所有に係る家屋については、当該家屋に係る建物の区分所有等に関する法律第二条第二項の区分所有者とする。以下固定資産税について同様とする。)として登記又は登録がされている者をいう。
不動産の共有持分を放棄しても、不動産登記簿の名義を変更しなければ納税義務者のままです。
4-2.1月1日時点の所有者で判断される
固定資産税の納税義務者は、1月1日時点の所有者で判断されます。
したがって、持分放棄の登記を完了させても、その年の固定資産税については納税義務があります。
5.共有者が共有持分を放棄する可能性
あなたが共有持分を放棄しなくても、共有者が共有持分を放棄するのは自由です。
実際、処分が難しい不動産を共有していたら、共有者に持分放棄されたという相談を受けたことがあります。相手からの書面には、登記に協力しなければ訴訟を提起すると書いてありました。
共有者が先に持分放棄すると、法律で認められている手続きなので拒否できません。
不要な不動産(処分できない不動産)を共有にしていると、共有者が持分放棄する可能性があるので注意してください。
6.持分贈与や持分売却との比較
持分放棄以外にも、持分贈与や持分売却という方法もあります。
持分放棄 | 持分贈与 | 持分売却 | |
効力発生 | 単独の 意思表示 | 当事者間 の契約 | 当事者間 の契約 |
持分の 取得者 | 共有者 | 受贈者 *第3者も可能 | 購入者 *第3者も可能 |
税金 | 贈与税 | 贈与税 | 無し |
登録免許税 の税率 | 2% | 2% | 2% |
不動産の共有持分を手放したいだけなら、持分放棄で目的を達成できます。逆に、特定の人に譲りたいのであれば、持分贈与や持分売却を利用することになります。
持分放棄以外にも方法はあるので、不動産の価値などを考慮して決めてください。
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関連記事を読む『不動産の共有持分を売却するのに共有者の同意は不要』
7.さいごに
不動産の共有状態を解消する方法として、持分の放棄があります。
共有持分を放棄すると共有者に持分は移転されます。単独の意思表示で放棄できる点は便利なのですが、不動産登記は共有者との共同申請となります。
不動産の評価額と放棄する持分によっては、共有者に贈与税が発生します。不安がある場合は税理士等に相談しておいてください。
不動産登記の名義を変更しなければ、固定資産税の納税義務を免れることはできません。忘れずに登記名義を変更しておきましょう。
不動産の共有状態はデメリットが多いので、早めに解消しておくことをお勧めします。