亡くなった人が生活保護を受給していると、借金だけでなく返還義務にも気を付ける必要があるのはご存知でしょうか。
なぜなら、生活保護費の返還義務が発生していると、相続人が返還義務を引き継ぐからです。
実際、当事務所に来られた相続人の中には、生活保護費の返還を知らせる書面で死亡を知った人もいます。借金や返還義務以外にも、退去費用や税金滞納分を請求されることもあります。
今回の記事では、生活保護者が死亡した場合の相続放棄について説明しているので、相続放棄の参考にしてください。
生活保護者の相続放棄については、下記の記事で詳しく説明しています。
関連記事を読む『生活保護受給者は相続放棄できるのか?ケースワーカーには相談しよう』
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1.相続人は生活保護受給者の権利義務を引き継ぐ
原則として、相続人は亡くなった人の権利義務をすべて引き継ぎます。
以下は、民法の条文です。
(相続の一般的効力)
第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
亡くなった人が生活保護を受給していた場合、2つの点が重要です。
- 生活保護費を受給する権利は相続しない
- 生活保護費の返還義務は相続する
それぞれ説明していきます。
1-1.生活保護費を受給する権利は相続しない
相続人は亡くなった人の権利義務を承継するのですが、生活保護費を受給する権利は相続しません。
以下は、過去の判例です。
しかし、この権利は、被保護者自身の最低限度の生活を維持するために当該個人に与えられた一身専属の権利であつて、他にこれを譲渡し得ないし(五九条参照)、相続の対象ともなり得ないというべきである。
生活保護費を受給する権利は「一身専属権」なので、相続の対象とはなりません。
ですので、相続人であっても、生活保護費は受給できないです。相続人の生活が困窮している場合は、個人の権利として申立てをする必要があります。
1-2.生活保護費の返還義務は相続する
相続人は亡くなった人の義務を相続するので、生活保護費の返還義務も相続します。
そのため、亡くなった人に借金等が無くても、生活保護費に関する返還義務が発生していれば、相続人が返還義務を負います。
生活保護費の受給権とは結論が反対なので、間違えないように注意してください。
2.生活保護費の返還義務は2種類ある
亡くなった人に生活保護費の返還義務が発生していると、相続人が返還義務を相続します。
生活保護費の返還義務は2つ考えられます
- 資力があるのに保護費を受給
- 不正な申請により保護費を受給
根拠となる条文に違いがあります。
2-1.資力があるのに生活保護費を受給
資力があるのに生活保護費を受給していた場合、定められた金額を返還する必要があります。
以下は、生活保護法の条文です。
(費用返還義務)
第六十三条 被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。
資力がある人は生活保護を受給する必要がないので、市町村等に対する返還義務が発生します。
例えば、生活保護費を受給している間に、資力が回復していた期間があった場合です。資力が回復していた期間は、生活保護を受給する必要がないので返還義務が発生します。
当事務所に依頼されている相続人にも、生活保護費の返還を知らせる書面が届いています。
生活保護費の返還を知らせる書面で死亡を知った場合は、家庭裁判所に書面のコピーを提出するので捨てずに保管しておいてください。
関連記事を読む『相続放棄は絶縁状態の家族が亡くなっても必要』
2-2.不正受給による生活保護費は返還
亡くなった人が不正な申請により生活保護費を受給していた場合、当然ですが返還する必要があります。
以下は、生活保護法の条文です。
第七十八条 不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に百分の四十を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。
生活保護法78条により返還請求されている場合は、請求金額が高額になりやすいです。
実際、当事務所に依頼された人の中には、返還金が300万円以上の場合がありました。
ですので、役所より郵送物が届いている場合は、無視するのではなく必ず確認してください。
2-3.生活保護費の返還義務を調べるのは難しい
生活保護費の返還義務は借金等とは違い、信用情報機関には登録されていません。
したがって、返還義務が発生しているか調べるには、生活保護窓口(福祉事務所)に直接問い合わせるしかないです。
ただし、亡くなった時点では、生活保護窓口も返還義務に気付いていない可能性があります。
※後になって不正受給が発覚する可能性もある。
返還義務を知らせる郵送物は、死後数年経ってから届くこともあるので、郵送物のチェックは忘れずにしてください。
3.生活保護受給者の借金は相続人が返済
亡くなった人が生活保護を受給していた場合、相続人から以下のような質問をされることがあります。
「生活保護を受けていたので、借金は無いですよね」
結論からいえば、生活保護を受けていても、借金が存在する可能性はあります。
3-1.生活保護を受給する前に借りていた
亡くなった人が生活保護を受給する前に、借金をしていた可能性はあります。
借金があっても生活保護は受給できる
生活保護の受給要件に「借金をしていない」という項目はありません。
ですので、生活保護の受給要件を満たしていれば、借金があっても生活保護は受給されます。
借金の有無と生活保護の受給は無関係です。
生活保護を受給しても借金は無くならない
間違えやすいのですが、生活保護費を受給するようになっても、借金が0円になるわけではありません。
生活保護と借金は無関係なので、借金は残っています。
3-2.生活保護を受けていても借りることは可能
生活保護を受給していても、法律上は借金を禁止していません。
金融機関から借りることは難しいと思いますが、知り合いから借りることは可能です。
生活保護費から借金を返済することは禁止されているので、借金は残ることになります。
注意生活保護受給中に借金をすると、収入とみなされる恐れがあります。収入とみなされると保護費の返還義務が発生します。
3-3.亡くなった人から借金を相続している
一般的に、亡くなった人に借金があると、相続人は相続放棄することが多いです。
ですが、生活保護を受給している人の中には、相続放棄をせず借金をそのまま相続する人もいます。
なぜなら、借金を相続しても差し押さえられる財産が無いので、借金が増えても生活に影響がないからです。
実際、当事務所で依頼を受けた相続放棄でも、生活保護を受給している兄弟だけ相続放棄しなかったケースがあります。
4.生活保護受給者の退去費用は相続人が返済
生活保護を受給されていた人から相続人が引き継ぐのは、生活保護費の返還義務や借金だけではありません。
亡くなった人が賃貸不動産で生活していたなら、住居の退去費用も相続人が支払います。
退去費用は主に3つあります。
- 解約までの家賃
- 動産等の処分費用
- 部屋の原状回復費
それぞれ説明していきます。
4-1.解約までの家賃は相続人が支払う
退去費用の1つ目は、解約までの家賃です。
亡くなった人の賃貸借契約は、死亡しても解約までは継続しています。
そのため、相続人は解約までに発生した家賃を支払う必要があります。
亡くなる前は生活保護費で家賃を支払えても、死亡時点で生活保護は終了です。亡くなった後の家賃を、生活保護費で支払うことはできません。
4-2.動産の処分費用は相続人が負担
退去費用の2つ目は、動産の処分費用です。
賃貸借契約を解約する際には、部屋の中を空にする必要があります。物が少なければ片付けも簡単ですが、物が多い場合は片付けも大変です。
自分で処分するなら費用は安くできますが、処分業者に依頼すると費用は高くなります。
4-3.原状回復費は高額になる可能性
退去費用の3つ目は、部屋の原状回復費です。
生活保護を受給していた人が孤独死すると、遺体発見まで日にちが経過していることもあります。
亡くなった季節にもよりますが、夏場だと原状回復費を数十万円請求されることがあります。
実際、原状回復費が高すぎるので、相続放棄を決めた相続人もいます。
関連記事を読む『親族が孤独死すると相続放棄も検討【原状回復費用が高額!】』
5.生活保護受給者の相続人は病院代を請求されるのか?
原則として、亡くなった人が生活保護を受給していた場合、相続人に病院代の請求が届くことはありません。
なぜかというと、生活保護受給者は医療扶助の適用により、自己負担無しで診療を受けられるからです。自己負担が無い以上、相続人に請求することもありません。
例外は、医療扶助が適用されない治療を受けていた場合です。
生活保護受給者であっても、医療扶助が適用されない治療を受けると、自己負担となります。自己負担分に保険の適用はないので、全額(10割)が請求されます。
したがって、医療扶助が適用されない治療を受けていると、相続人に対して請求書が届きます。
実際、私が相談を受けた事例でも、生活保護を受けていた人が亡くなった後に、娘さんに対して約100万円の請求書が届いていました。
生活保護を受けていたからといって、病院代の請求が無いとは限らないので注意してください。
6.生活保護受給者の相続人は税金滞納分を請求されるのか?
亡くなった人が生活保護を受給していた場合、相続人が税金滞納分を請求される可能性はあります。
まずは、以下の条文を確認してください。
(公課禁止)
第五十七条 被保護者は、保護金品及び進学準備給付金を標準として租税その他の公課を課せられることがない。
生活保護を受給している間は税金を免除されているので、税金の滞納問題は発生しません。
ですが、生活保護を受給する前に税金を滞納していた場合は別問題です。
生活保護の受給が開始すると、滞納していた税金は執行停止になります。執行停止なので消滅したわけではありません。
したがって、生活保護を受給する前に税金を滞納していれば、相続人が滞納分を請求されることはあります。
司法書士から一言執行停止期間(生活保護受給期間)が長期間だと、滞納していた税金は減免(免除)されている可能性があります。
7.まとめ
今回の記事では「生活保護と相続放棄」について説明しました。
亡くなった人が生活保護を受給していた場合、借金だけではなく返還義務にも気を付ける必要があります。
なぜなら、生活保護費の返還義務は信用情報機関には登録されていないからです。生活保護窓口(福祉事務所)に問い合わせて確認するか、郵送物をチェックするしかありません。
相続人は亡くなった人の生活保護費の返還義務を引き継ぐので、支払うつもりがなければ相続放棄をしましょう。
また、生活保護を受給しているからといって、借金が存在しないわけではありません。
- 受給前に借りていた
- 受給中に借りた
- 受給中に借金を相続した
生活保護費の返還義務や借金以外にも、住居の退去費用や税金滞納分を請求されることもあります。
亡くなった人との関係性にもよりますが、安全の為に相続放棄をするのも身を守る手段となります。
相続放棄と生活保護の関係で分からないことがあれば、専門家に相談してみてください。
相続放棄と生活保護に関するQ&A
- 生活保護受給者が相続放棄すると却下されますか?
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生活保護を理由には却下されません。
- 返還義務に後から気付いても相続放棄できますか?
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死亡当時に気付くのが難しければ可能です。