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生活保護受給者は相続放棄できるのか?ケースワーカーには相談しよう

生活保護者が相続放棄
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「生活保護者は相続放棄できない」と断言している記事を、ネット上で多く見かけます。

ですが、生活保護者であっても相続放棄はできます。亡くなった人に負債(借金等)があれば、相続放棄するのは当たり前です。

問題になるのは、亡くなった人にプラスの財産(預貯金等)があった場合でしょう。相続放棄が生活保護法の規定に違反するかどうかです。

今回の記事では、生活保護受給者の相続放棄について説明しているので、相続放棄を検討しているなら参考にしてください。

生活保護者受給者が亡くなった場合の相続放棄については、下記の記事で詳しく説明しています。

目次

1.生活保護受給者は相続放棄できるのか?の意味

生活保護者は相続放棄できるのか?には2つの意味がある

まず初めに、「生活保護者は相続放棄できるのか?」について説明していきます。

上記の疑問には2つの意味が含まれています。

  1. 生活保護者だと相続放棄は却下されるのか?
  2. 相続放棄したら生活保護は取り消されるのか?

それぞれの疑問について、説明していきます。

1-1.生活保護者だと相続放棄は却下されるのか?

1つ目の疑問は、生活保護者だと相続放棄は却下されるのかです。

結論から言えば、相続放棄は認められます。
※条件を満たしている場合。

相続放棄の申述と生活保護には何の関係もありません。相続放棄申述書に記載する欄もないので、家庭裁判所も気にしません。

相続放棄の条件は、以下の2つだけです。

  1. 相続の開始を知った日から3ヶ月以内
  2. 亡くなった人の財産を消費していない

上記の条件と、生活保護費の受給は無関係です。

ネット上の記事では、生活保護費を受給していると相続放棄できないと断言していますが、相続放棄の申述は問題なく認められます。

1-2.相続放棄を理由に生活保護は取消されるのか?

2つ目の疑問は、相続放棄を理由に生活保護は取り消されるのかです。

生活保護の取消しに関係するのは、以下の条文です。

(保護の補足性)
第四条 保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。

出典:e-Govウェブサイト(生活保護法4条)

相続財産を放棄することが、最低限度の生活の維持に反しているかです。

相続財産がマイナスなら問題なし

亡くなった人の財産がマイナスであれば、相続放棄をしても問題になりません。

なぜなら、自分の生活を維持するためにも、相続放棄する必要があるからです。相続放棄しなければ、借金等の負債を相続することが確定します。

最低限度の生活を維持するためにも、相続放棄は必要だといえます。

実際、生活保護を受給されている人から、借金を理由に相続放棄の依頼はあります。

相続財産がプラスならどうなる

亡くなった人の財産が明らかにプラスであれば、相続放棄が問題になる可能性はあります。

ただし、法律に規定がないので、どうなるかは不明です。

ちなみに、ケースワーカーに相続放棄を相談に行くと、相続することを勧められると思います。「相続財産を生活の維持に活用してください」と立場的にも言います。

以下は、生活保護法の条文です。

(指導及び指示)
第二十七条 保護の実施機関は、被保護者に対して、生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示をすることができる。
2 前項の指導又は指示は、被保護者の自由を尊重し、必要の最少限度に止めなければならない。
3 第一項の規定は、被保護者の意に反して、指導又は指示を強制し得るものと解釈してはならない。

出典:e-Govウェブサイト(生活保護法27条)

上記の条文にも書いていますが、相続を強制できるわけではないので、勘違いしないように注意してください。

2.相続放棄するとケースワーカーにばれるのか?

生活保護者が相続放棄した場合、ケースワーカーにばれるのかを気にする人もいます。

普通に考えると、相続放棄したことをケースワーカーが知るのは難しいでしょう。

2-1.相続放棄しても普段の生活状況は変わらない

ケースワーカーが相続放棄に気付きにくい理由は、普段の生活状況が変わらないからです。

亡くなった人の財産を相続した場合であれば、口座の残高や生活状況から気付くこともできます。実際、相続がケースワーカーにばれた話は聞いたことがあります。

それに対して、相続放棄した場合は、口座の残高も増えないですし、普段の生活状況も変わりません。

ケースワーカーだからといって、すべてを把握しているわけではないです。

ただし、ケースワーカーにばれないからといって、相続放棄を悪用して生活保護費を受給するのは止めましょう。

2-2.ケースワーカーが相続放棄に気付く可能性

相続放棄をケースワーカーに黙っていても、気付く可能性はあります。

  • 親族がケースワーカーに報告
  • 何かのきっかけで相続の発生を知った

生活保護受給者が黙っていても、親族(共同相続人)がケースワーカーに報告するかもしれません。

あるいは、亡くなった人が生活保護者と同じ自治体に住んでいれば、何かのきっかけで相続の発生を知るかもしれません。

ただし、報告しなかったからといって、生活保護が取り消されるかは不明です。

3.相続放棄で生活保護が取り消された話を聞いたことがない

みかち司法書士事務所は相続専門の事務所なので、年間で約200件ほど相続放棄の依頼を受けています。相談も含めるなら300件以上になります。

ですが、相続放棄を理由に生活保護が取り消された話を、今まで一度も聞いたことがありません。

他士業(弁護士等)のホームページを読んでも、実際に取り消された事例は一件も掲載されていないです。

取り消された事例が見つからない理由としては、以下が考えられます。

  1. 黙って相続放棄している
  2. 相続放棄を黙認されている
  3. 取消しに納得している

①と②は生活保護が取り消されていないので、事例が見つからなくて当然です。

③は取消しで揉めていないので、事例が見つからないと考えられます。
※揉めないと弁護士等に相談しない。

もし、相続放棄を理由に生活保護が取り消された経験があるなら、ご連絡いただけると幸いです。

4.相続放棄で生活保護が取り消された判例はあるのか?

相続放棄が理由で生活保護が取り消された判例はあるのか、ネット上で調べている人は多いです。

実際、私も興味があり、ネットや書籍を調べた経験があります。

4-1.生活保護が取り消された判例は見つからない

他士業(弁護士等)のホームページや過去の判例を調べたのですが、残念ながら取り消された判例は見つかりませんでした。

「相続放棄は原則できません」や「相続放棄は認められません」という記載だけありました。

取り消された判例が有るのであれば、誰かが自分のホームページで紹介すると思うのですが・・・。

ただし、公表されていないだけで、取り消された人がいる可能性は残っています。

4-2.生活保護の申請では却下された事例有り

インターネット上で情報を探していると、生活保護の申請について事例が有りました。

生活保護の申請前に相続財産の活用をアドバイスされていたが、相続放棄をして生活保護を申請したら却下されたケースです。

ただし、申請人が不服申立てをした結果、却下は取り消されています。

却下を取消した判断事由で、重要な点は以下になります。

法第4条第1項の趣旨からすれば相続する権利のある資産は最低限度の生活の維持のために活用する必要があり、それを知りながら、生活保護を受けるために意図的に相続権を放棄したのであれば、法第4条第1項に抵触するものである。
一方、遺産分割協議の中で合理的な理由があって相続放棄をしたのであれば、法第4条第1項に違反したことにはならない。
従って、処分庁は、請求人が相続放棄したことについて、その経緯、理由等を調査のうえで判断する必要があった。

出典:平成22年1月5日生活保護申請却下決定処分に関わる審査請求

結論としては、相続放棄に合理的な理由があれば、生活保護法に違反したことにはならないです。

5.まとめ

今回の記事では「生活保護受給者の相続放棄」について説明しました。

生活保護費を受給中であっても、相続放棄の申述は受理されます。相続放棄の条件と生活保護は無関係です。

マイナスの財産や不要な不動産が相続放棄の理由なら、ケースワーカーも問題なく認めてくれるでしょう。

それに対して、相続財産がプラスなら、相続を勧めるはずです。相続放棄するのに合理的な理由が必要になります。

生活保護費を受給中でも、申述期間は3ヶ月以内なので、できる限り早めに決めましょう。

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