相続放棄を検討している人にとって、亡くなった人の公共料金は悩ましい存在です。
「解約しても大丈夫なのか?」
「支払っても問題ないのか?」
不安になり相続放棄の手続きが進まない人もいます。あるいは、すでに解約や支払いをしてしまい、後悔しているかもしれません。
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解約が保存行為または処分行為どちらに該当するかで結論が変わります。また、相続財産から支払うと処分行為と判断される可能性があります。
今回の記事では、相続放棄と公共料金について説明しているので、悩みを解決する参考にしてください。
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1.公共料金も債務として相続の対象

亡くなった人が電気・ガス・水道等の契約者だった場合、債務の相続(引き継ぎ)に注意してください。
なぜなら、公共料金の支払い義務も相続人が引き継ぐからです。
- 支払日前の利用分や滞納分も相続財産
- 解約するまでの料金も相続人が支払う
- 疎遠な相続人にも督促状は届く
1-1.支払日前の利用分や滞納分も相続財産
相続人は亡くなった人の権利義務をすべて引き継ぎます。
以下は、民法の条文です。
第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
一切の権利義務なので、支払日前の利用分や滞納分の支払い義務も相続人が引き継ぎます。
【事例】
被相続人|A
死亡日 |令和7年3月13日
相続債務|電気料金(2月・3月)
支払期日|翌月末日払い
Aが亡くなった場合、2月と3月の電気料金は、相続人に支払い義務があります。
公共料金は後払いなので、契約者が亡くなった場合、必ず未払い分が発生します。
高額な債務ではありませんが、相続人に支払い義務があるので覚えておいてください。
1-2.解約するまでの料金も相続人が支払う
電気・ガス・水道等の契約者が亡くなっても、解約するまで契約は続きます。自動的に終了するわけではありません。
したがって、相続人が支払うのは、死亡日までの料金ではなく、解約日までの料金です。
電気・ガス・水道等が不要であれば、早めに解約した方が良いでしょう。
解約と相続放棄については、【4.公共料金の解約と相続放棄】で説明しています。
1-3.疎遠な相続人にも督促状は届く
誰が相続人になるかは法律で決まっており、生前の関係性は考慮されません。
したがって、亡くなった人と絶縁状態だったとしても、公共料金の督促状等は届きます。
たとえ亡くなった人に一度も会ったことがなくても、相続人には支払い義務があるので注意してください。
相続したくなければ、法律上の手続きである相続放棄をしてください。
関連記事を読む『相続放棄は絶縁状態の家族が亡くなっても必要』
2.相続放棄すると公共料金も引き継がない

前章では、公共料金に関する債務も相続財産なので、相続人が支払い義務を引き継ぐと説明しました。
ただし、相続放棄した人は債務を引き継ぎません。
- 相続放棄した人は相続人ではない
- 公共料金以外に負債が無くても可能
- 預貯金や不動産も引き継げない
2-1.相続放棄した人は相続人ではない
亡くなった人が公共料金の契約者であっても、相続放棄した人に支払い義務はありません。
なぜなら、相続放棄した人は相続人ではないからです。
以下は、民法の条文。
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
亡くなった人の相続人ではないので、公共料金の支払い義務も引き継ぎません。
支払い義務を引き継ぐのは相続人であり、家族であっても相続放棄した人は引き継がないです。
2-2.公共料金以外に負債が無くても可能
亡くなった人の負債が公共料金だけでも、相続放棄できるのか不安に思う人もいます。
ですが、負債の額は相続放棄の条件に含まれていないので、負債が100円だったとしても問題なく認められます。
【事例】
被相続人|父親
相続人 |子ども
相続財産|公共料金(6,800円)、その他不明
放棄理由|生前に縁を切っているから
亡くなった人と縁を切っているという理由でも、相続放棄は問題なく認められます。公共料金の金額は関係ありません。
相続放棄したい理由があるなら、負債の額に関わらず手続きをして大丈夫です。
2-3.預貯金や不動産も引き継げない
相続放棄した人は公共料金の支払い義務だけでなく、亡くなった人の預貯金や不動産も引き継ぎません。
なぜなら、相続放棄とは債務の支払いだけを放棄する手続きではなく、相続自体を放棄する手続きだからです。
【事例】
被相続人|父親
相続人 |子ども
相続財産|公共料金(8,800円)、預貯金(500万円)
相続放棄すると8,800円の支払い義務から免れますが、500万円も手に入りません。
相続放棄するのは自由ですが、プラスの財産(預貯金や不動産)も取得できないので注意してください。
3.相続放棄の手続きは法律で決まっている

公共料金に関する債務を相続放棄する際の手続きについて説明します。
- 家庭裁判所に申述書を提出
- 相続の開始を知った日から3ヶ月以内
- 債務額に関わらず手数料や戸籍が必要
- 公共料金の額が不明でも問題ない
3-1.家庭裁判所に申述書を提出
相続放棄は家庭裁判所に申述書を提出しなければ認められません。
以下は、民法の条文です。
(相続の放棄の方式)
第九百三十八条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
家庭裁判所に申述書を提出する以外の方法では成立しません。
- 亡くなった人と縁を切っている
- 電気・水道・ガス会社への意思表示
電気・水道・ガス会社に意思表示をしても、家庭裁判所に申述書を提出していなければ、相続放棄の効力は発生しません。
以下は、よくある勘違いです。
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父が亡くなったので相続放棄します



分かりました
債権者(電力会社)が分かったのは、「相続放棄の手続きをする」という部分です。電気料金を請求しないという意味ではありません。
勘違いして電話等で意思表示だけしていると、相続が確定した後に解約までの電気料金を請求されます。
亡くなった人の債務を相続放棄するなら、申述書を家庭裁判所に提出してください。
関連記事を読む『【相続放棄の手続きは家庭裁判所】その他の方法では成立しない』
3-2.相続の開始を知った日から3ヶ月以内
亡くなった人の公共料金を相続したくないなら、「相続の開始を知った日」から3ヶ月以内に、家庭裁判所に申述書を提出してください。
原則として、相続の開始を知った日は、以下のどちらかになります。
- 亡くなったことを知った日
- 先順位相続人の相続放棄を知った日
何もせずに3ヶ月経過すると、単純承認したとみなされます。
- 単純承認
-
亡くなった人の権利義務をすべて引き継ぐ
単純承認したとみなされると、公共料金に関する債務の相続も確定します。相続するつもりがなければ、絶対に放置しないよう注意してください。
関連記事を読む『【相続の開始を知った日】相続放棄はいつからできるのか徹底解説』
3-3.債務額に関わらず手数料や戸籍が必要
亡くなった人の相続財産が公共料金に関する債務しかなくても、相続放棄の手続きには手数料や戸籍が必要です。
- 申立手数料は収入印紙800円分
- 必要な戸籍は亡くなった人により違う
申立手数料は収入印紙800円分
相続放棄の申立手数料は、公共料金に関する債務の額に関わらず800円です。
たとえ電気代やガス代の滞納料金が多くても、手数料の額は変わりません。
ただし、申立手数料は現金ではなく、収入印紙(800円分)で納めます。申立てには予納郵券も必要になるので、郵便局で一緒に購入するのが楽です。
収入印紙と予納郵券については、下記の記事で詳しく説明しています。
関連記事を読む『相続放棄の収入印紙と予納郵券を図を用いて説明』
必要な戸籍等は亡くなった人により違う
亡くなった人の相続財産が公共料金に関する負債だけでも、戸籍等は用意する必要があります。
ただし、必要な戸籍等は亡くなった人により違います。
以下は、基本となる戸籍等です。
- 被相続人の戸籍(死亡記載)
- 被相続人の住民票
- 相続人の戸籍(相続放棄する人)
相続人が親や兄弟姉妹であれば、上記だけでなく追加の戸籍も必要になります。
相続放棄の戸籍については、下記の記事で詳しく説明しているので、参考にしてください。
関連記事を読む『相続放棄には戸籍謄本が必要!誰がするかで枚数が違う』
3-4.公共料金の額が不明でも問題ない
相続放棄の申述書には、相続財産の概略を記載する欄があります。
公共料金の額を知っているなら、他の負債と合算した額を記入してください。
一方、公共料金の額を知らなければ、知っている負債の額を記入すれば問題ありません。他の負債も知らなければ「不明」と書いて問題ありません。
以下は、申述書の記載例です。


あくまでも知っている財産を記入するだけなので、知らなくても相続放棄には影響しません。
関連記事を読む『相続放棄は財産が不明でも可能なので無理に探す必要はない』
4.公共料金の解約と相続放棄


亡くなった人の相続人から、以下のような質問を受けることがあります。



公共料金を解約しても相続放棄できますか?
上記のような質問をする人が気にしているのは、公共料金の解約が相続放棄に影響するかどうかです。
公共料金を解約する行為が、保存行為または処分行為のどちらに該当するかで、相続放棄に与える影響が違います。
- 保存行為|相続放棄できる
- 処分行為|相続放棄できない
上記のどちらに該当するかは専門家によっても考えが違います。
4-1.解約が保存行為に該当するなら問題無い
公共料金の解約が保存行為に該当するなら、相続放棄は問題なく認められます。
以下は、民法の条文です。
(法定単純承認) 第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。 一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。 (後略)
相続財産に対する保存行為は、法定単純承認の規定から除外されています。
以下は、公共料金の解約を保存行為と考える理由です。
※他の考え方もあります。
電気・ガス・水道を解約せずに放置していると、基本料金等(負債)が発生します。
余計な負債を増やさないために解約するので、保存行為に該当するという考えです。
ネット上で調べる限りですが、保存行為と考える専門家が多いと感じました。
私も保存行為と考えているので、公共料金の解約は相続放棄に影響しないと考えています。
関連記事を読む『相続放棄は財産の保存行為をした場合でも認められる』
4-2.解約が処分行為に該当するなら単純承認
専門家の中には、公共料金の解約が処分行為に該当すると考える人もいます。
※可能性がゼロではないという意味。
万が一、公共料金の解約が処分行為に該当すると、単純承認したとみなされるので、相続放棄は認められません。
処分行為に該当する可能性は低いですが、心配な人は関わらない方が良いでしょう。
実際、私も相談を受けた際は、解約手続きに関わらないで済むなら、無関係でいた方が安全だと伝えています。
関連記事を読む『相続放棄が認められない|単純承認とみなされる3つの行為』
5.公共料金の支払いと相続放棄


公共料金を支払っても相続放棄できるかは、誰の財産で支払ったかにより結論が違います。
- 自分の財産|相続放棄できる
- 相続財産 |相続放棄できない
5-1.自分の財産で支払うなら影響なし
相続放棄した人は相続人ではないので、亡くなった人の公共料金を支払う義務はありません。
ですが、親族として支払いたい人もいます。もし公共料金の支払いをしたいなら、自分の財産(相続財産以外)で支払ってください。
なぜなら、自分の財産で支払うのであれば、相続財産の消費(処分)とは無関係だからです。
【事例】
被相続人|父親
相続財産|借金500万円、預貯金3万円
相続放棄|子ども
負債の方が多いので子どもは相続放棄したが、自分の財産から公共料金を支払った。
相続財産は消費していないので、単純承認とはみなされません。
亡くなった人の公共料金を支払うなら、自分の財産(相続財産以外)から支払ってください。
5-2.相続財産で支払うと単純承認の可能性
亡くなった人の公共料金を相続財産から支払うのは止めてください。
なぜなら、公共料金の支払い(債務の弁済)は、処分行為に該当する可能性があるからです。
処分行為に該当すると単純承認したとみなされ、相続放棄は認められません。
債務の弁済が処分行為または保存行為どちらに該当するかは、個別の事情によって判断されます。
相続放棄すると公共料金とは無関係なので、相続財産から支払うのは止めてください。
6.相続放棄しても公共料金を支払うケース


相続放棄した人に公共料金を支払う義務はありません。
ただし、特定のケースでは、公共料金を支払う必要があります。
- 配偶者は日常家事債務として支払う
- 不動産に住み続けるなら支払う
- 不動産の保存・管理に必要なら支払う
6-1.配偶者は日常家事債務として責任が残る


亡くなった人の配偶者は公共料金について、日常家事債務として連帯責任を負っています。
以下は、民法の条文です。
(日常の家事に関する債務の連帯責任) 第七百六十一条 夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。
相続放棄すると支払い義務は引き継ぎません。ですが、自分の債務(連帯責任)として公共料金を支払う必要があります。
【事例】
被相続人|A
相続財産|借金500万円、公共料金1万円
相続放棄|配偶者
配偶者は相続放棄したので借金500万円は相続しません。ですが、公共料金1万円は連帯責任として支払う義務があります。
日常家事債務については、配偶者に連帯責任があるので注意してください。
関連記事を読む『相続放棄と連帯保証人の関係は間違えやすい 』
6-2.不動産に住み続けるなら清算しておく
一般的に、亡くなった人と同居していた人が、相続放棄後も同じ不動産に住むことは少ないです。
ただし、以下のようなケースも考えられます。
- 自分や親族の不動産に住んでいる
- 同じ賃貸不動産を改めて借りる
相続放棄した後も同じ不動産に住むのであれば、公共料金は清算しておきましょう。
間違って相続財産から支払わないように注意してください。
6-3.不動産の管理に必要であれば支払う
亡くなった人が不動産を所有していても、相続放棄した人は引き継ぎません。
ただし、不動産を占有していた場合は、相続人または相続財産清算人に引き渡すまで、不動産を保存する必要があります。
以下は、民法の条文です。
(相続の放棄をした者による管理)
第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
不動産の保存に電気・ガス・水道が必要であれば、公共料金の支払いも必要です。
相続財産の保存義務に関しては、以下の記事を参考にしてください。
関連記事を読む『【相続放棄後の管理義務】法改正後の940条で責任者が明確になる』
7.賃貸物件や携帯も公共料金と同じ考え方
亡くなった人が契約していた賃貸物件や携帯も、公共料金と同じ考え方になります。
契約の解約が保存行為であれば、相続放棄には影響しません。一方、処分行為と判断されると、相続放棄は認められません。
また、未払分や滞納分を支払うなら、自分の財産から支払ってください。相続財産から支払うと、処分行為と判断される可能性が高くなります。
公共料金と同じく関わらなくて済むなら、賃貸物件や携帯の解約にも関わらない方が安全です。
8.まとめ
今回の記事では「相続放棄と公共料金」について説明しました。
亡くなった人が契約していた公共料金(未払分や滞納分)も、相続債務として相続の対象となります。
ただし、相続放棄すれば引き継がない点は、その他の債務と同じです。
公共料金の解約は、保存行為または処分行為のどちらに該当するかで、相続放棄への影響が違います。保存行為であれば無関係ですが、処分行為なら単純承認とみなされます。
公共料金の未払分や滞納分を支払うなら、自分の財産から支払ってください。相続財産から支払うと、処分行為と判断される可能性があります。
相続放棄するなら公共料金に関わらない方が安全です。やむを得ず関わる場合は、今回の記事を参考にしてください。
相続放棄と公共料金に関するQ&A
- すでに公共料金を解約しています。相続放棄は無理でしょうか?
-
保存行為に該当すると考えられます。相続放棄の手続きを進めてください。
- 相続財産から支払ってしまいました。相続放棄は無理でしょうか?
-
諦める必要はありません。専門家に相談してみてください。
- 相続放棄した後に公共料金を支払うと無効になりますか?
-
自分の財産から支払うなら問題ありません。