農地を遺言書により遺贈する場合、遺贈の種類によって農地法3条の許可に違いがあります。
相続人以外の第三者が特定遺贈により農地を取得するなら、農地法3条の許可を得なければ取得できません。
一方、相続人が特定遺贈により農地を取得する場合や、包括遺贈により農地を取得する場合は農地法3条の許可は不要です。
今回の記事では、農地の遺贈について説明しているので、遺言書を作成する際の参考にしてください。
目次
1.農地を特定遺贈するなら3条許可の有無に注意
原則として、農地を取得するのは農地法3条の許可が必要です。
農地を特定遺贈するなら、受遺者が重要になります。
なぜかというと、特定遺贈の受遺者によって、3条許可の有無が違うからです。
農地を特定遺贈するなら、誰が受遺者になっているか確認してください。
1-1.相続人以外が特定遺贈により農地を取得するなら許可が必要
特定遺贈の受遺者が相続人以外なら、農地を取得するのに農地法3条の許可が必要になります。
したがって、遺言書を作成する段階で、農地法3条の許可を得ることができるか確認しておいた方が良いです。
許可を得ることが難しいなら、遺言書の内容を変える必要があります。
どうしても農地を相続人以外に遺贈したいなら、包括遺贈も検討しましょう。
1-2.相続人が特定遺贈により農地を取得するなら許可は不要
特定遺贈の受遺者が相続人なら、農地を取得するのに農地法3条の許可は不要になります。
かつては、相続人が受遺者の場合も許可が必要だったのですが、法改正により変更になっています。
相続人に対する特定遺贈も相続と変わらないので、農地法3条の許可は不要です。
2.農地を包括遺贈するなら農地法3条の許可は不要
農地を包括遺贈により取得する場合は、受遺者が誰であっても農地法3条の許可は不要になります。
なぜなら、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有するからです。
農地を相続により取得する場合は許可が不要なので、包括受遺者も同じように許可が不要になっています。
関連記事を読む『【農地の相続】許可は不要だが届け出は必要なので忘れずに』
2-1.全部包括遺贈なら第三者も無条件で農地を取得できる
農地を所有している人が遺言書で全部包括遺贈をすると、受遺者が第三者であっても無条件に取得できます。
以下は、全部包括遺贈の記載例です。
遺言書
遺言者は、全財産をA(生年月日、住所)に遺贈する。
全財産に農地も含まれているので、Aが農地も取得します。
気を付ける点は、相続人の遺留分を侵害していると、遺留分侵害額請求を受ける可能性がある点です。
相続人が存在しなければ問題ないですが、存在する場合は前もって話し合っておく必要があります。
2-2.一部包括遺贈なら遺産分割協議により農地を取得できる
農地を所有している人が遺言書で一部包括遺贈をすると、受遺者を含めた遺産分割協議により農地の取得者を決めます。
以下は、一部包括遺贈の記載例です。
遺言書
遺言者は、全財産の3分の1をA(生年月日、住所)に遺贈する。
全財産の3分の1を取得する権利をAさんは遺贈されているので、相続人と遺産分割協議をして具体的に何を取得するか決めます。
そして、遺産分割協議により農地をAさんが取得することも可能です。
気を付ける点は、あくまでも遺産分割協議の結果によるので、Aさんが農地を取得できる保障はない点です。
3.農地を遺贈により取得した場合の登記原因日付
農地を遺贈により取得した場合も、所有権移転登記を申請することになります。
登記申請書には登記原因日付を記載するのですが、遺贈の内容によって日付が違うので気を付けてください。
3-1.相続人以外が特定遺贈で農地を取得した場合の日付
相続人以外が特定遺贈で農地を取得した場合は、以下の2つを満たした日が登記原因日付となります。
- 遺言書の効力発生
- 農地法3条の許可
通常、農地法3条の許可を得るのに1カ月はかかるので、登記原因日付を間違えないように気を付けてください。
3-2.包括遺贈や相続人が特定遺贈で農地を取得した場合の日付
包括遺贈や相続人が特定遺贈により農地を取得した場合は、遺言書の効力発生日(被相続人の死亡日)が登記原因日付となります。
農地法3条の許可は不要なので、被相続人の死亡と同時に農地を取得するからです。
ただし、遺贈による所有権移転登記の申請が終了したら、農業委員会への届出は必要なので注意してください。
4.遺贈により農地を取得したら届出は必要なのか?
原則として、農地を遺贈により取得すると、農業委員会への届出が必要です。
ただし、農地法3条の許可を得て農地を取得している場合は、農業委員会への届出は不要になります。
以下の遺贈により農地を取得した場合は届出が必要です。
- 相続人が特定遺贈により取得
- 相続人が包括遺贈により取得
- 相続人以外が包括遺贈により取得
相続人以外の第三者が特定遺贈により農地を取得した場合は、農地法3条の許可を得ているので届出は不要になります。
届出先の農業委員会は、農地を管轄する農業委員会です。
ほとんどの市区町村には農業委員会があるので、〇〇(市区町村名)+農業委員会で検索すると見つかるはずです。検索しても見つからない場合は、農地を管轄する市役所等にお問い合わせください。
5.さいごに
遺言書で農地を遺贈することも可能です。
ただし、相続人以外に農地を特定遺贈する場合は、農地法3条の許可を得なければ遺贈の効力は発生しません。
前もって農業委員会に確認しておく等の対策が必要ですし、許可を得るのが難しいなら遺言書の内容を変える必要があります。
どうしても相続人以外に農地を遺贈したいなら、特定遺贈ではなく包括遺贈にする方法もあります。包括遺贈であれば相続人以外でも許可は不要になるからです。
包括遺贈や特定遺贈により相続人が農地を取得する場合、農地法3条の許可は不要ですが農業委員会への届出は必要になります。
農地を遺贈する場合は、遺言書を作成する前に法律等を確認しておきましょう。