特定遺贈とは、遺言書に財産を特定して記載する遺贈のこと。
第三者に対して財産を残す場合に使用することが多いです。もちろん、相続人に対して特定遺贈をすることもできます。
今回の記事では、特定遺贈について説明しているので、遺言書を作成する際の参考にしてください。
目次
1.特定遺贈とは財産が特定されている遺贈のこと
遺贈には特定遺贈と包括遺贈の2種類があります。
- 特定遺贈:財産が特定されている遺贈
- 包括遺贈:財産を包括的に指定している遺贈
特定遺贈と包括遺贈の違いについて、簡単に説明しておきます。
1-1.特定遺贈と包括遺贈は何が違うのか?
特定遺贈と包括遺贈は同じ遺贈ですが、違う部分も多いので気をつけてください。
大きな違いとしては、包括遺贈は遺贈する財産を特定しません。
例えば、「全財産を遺贈する」や「財産の2分の1を遺贈する」のように、財産に対する割合を指定して遺贈します。
財産の一部を遺贈された場合は、相続開始後に相続人と遺産分割協議をして具体的に何を受け取るか決めます。
また、包括遺贈の受遺者は相続人と同一の権利義務を有するので、負債に関しても割合で引き継ぐことになります。
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1-2.特定遺贈の効力は遺言者の死亡により発生
遺言の効力は遺言者の死亡により発生するので、特定遺贈の効力も遺言者の死亡により発生します。
したがって、遺言書に特定遺贈が記載されていても、遺言者の死亡以前には何の効力も発生しません。
遺言者が遺言書作成後に、特定遺贈の対象財産を処分するのも自由です。特定遺贈の対象財産を処分した場合は、特定遺贈を撤回したとみなされます。
2.特定遺贈の書き方【具体例で説明】
特定遺贈の書き方を具体例を交えて説明していきます。自筆証書遺言を作成するなら記載例を参考にしてください。
- 預貯金の特定遺贈
- 不動産の特定遺贈
ただし、自筆証書遺言に財産目録を添付する場合は、わざわざ財産を記載する必要はありません。
2-1.預貯金を特定遺贈する際の記載例
預貯金を特定遺贈する場合は、預貯金口座が特定できるように記載します。
遺言書
遺言者は、下記の金融資産を、〇〇(生年月日、住所)に遺贈する。
記
〇〇銀行〇〇支店
普通預金
名義人 〇〇
口座番号 〇〇〇〇〇〇〇
ゆうちょ銀行の通常貯金
名義人 〇〇
記号 〇〇〇〇〇 番号 〇〇〇〇〇〇〇〇
基本的には、通帳の見開き1ページ目に記載されている情報を書き写せば大丈夫です。
2-2.不動産を特定遺贈する際の記載例
不動産を特定遺贈する場合は、不動産を特定できるように記載します。
遺言書
遺言者は、下記の不動産を、〇〇(生年月日、住所)に遺贈する。
記
(土地の表示)
所 在 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目
地 番 〇〇番
地 目 宅地
地 積 100.00㎡
(建物の表示)
所 在 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇〇番地
家屋番号 〇〇番
種 類 居宅
構 造 木造瓦葺1階建
床面積 80.00㎡
基本的には、不動産登記簿の記載事項を書き写せば大丈夫です。
関連記事を読む『遺言書で不動産を特定する書き方|曖昧な記載だと名義変更で困る』
3.特定遺贈は相続人以外も受遺者になれる
特定遺贈は相続人以外にもすることができます。
したがって、第三者や法定相続人以外の親族に財産を残したい場合は、特定遺贈で財産を渡すことが可能です。
3-1.孫に特定遺贈するなら法定相続人に該当しないか確認
孫に特定遺贈をすることにより、財産を残すことは可能です。
ただし、孫が法定相続人に該当しないか確認しておいてください。
- 孫を養子にしている
- 孫が代襲相続人になっている
上記のどちらかに該当するなら、特定遺贈ではなく直接相続させることも可能です。
3-2.第三者に特定遺贈するなら遺言執行者を指定しよう
第三者に特定遺贈するなら、遺言書で遺言執行者を指定しておきましょう。
なぜかというと、特定遺贈の受遺者であっても、1人で手続きはできないからです。
例えば、不動産の特定遺贈であれば、遺贈義務者と受遺者の共同申請となります。
遺言執行者を指定しておけば、遺言執行者が遺贈義務者として手続きを行います。
関連記事を読む『遺言執行者は遺贈登記だけでなく相続登記も申請できる』
4.受遺者は特定遺贈を自由に放棄できる
特定遺贈は遺言者の一方的な意思表示です。受遺者からすると望まない財産を遺贈される可能性もあります。
そのため、受遺者は遺言者の死亡後、いつでも特定遺贈を放棄することができます。
以下は、民法の条文です。
特定遺贈を放棄する方法に決まりは無いのですが、書面で証拠を残すことが多いです。
4-1.特定遺贈の放棄に期限はないが受遺者に催告できる
受遺者は遺言者の死亡後、いつでも特定遺贈を放棄できます。
ですが、いつまでも遺贈を承認するのか放棄するのか分からなければ、相続人や遺言執行者が困ります。
ですので、受遺者に対して、遺贈の承認または放棄を催告できます。
以下は、民法の条文です。
遺贈義務者からの催告に対して意思表示をしなければ、特定遺贈を承認したとみなされます。
4-2.特定遺贈の一部を放棄することも可能
特定遺贈の一部を放棄することも可能です。
例えば、不動産と預貯金を特定遺贈されたとします。
不動産だけ遺贈放棄して、預貯金は受け取るということも可能です。
不動産の特定遺贈と預貯金の特定遺贈をそれぞれ個別に判断しています。
関連記事を読む『特定遺贈を一部放棄することは可能なのか?』
5.特定遺贈の受遺者が死亡すると遺言書の効力は?
遺言書の作成後、遺言者よりも先に特定遺贈の受遺者が亡くなると、特定遺贈は無効となります。
以下は、民法の条文です。
受遺者の死亡により無効となった特定遺贈の財産は、遺言書に別段の定めがなければ法定相続人が相続します。
5-1.遺言書で受遺者の死亡に関して別段の定めも可能
遺言書で受遺者が先に死亡した場合について、予備的に別段の定めを記載することも可能です。
例えば、先に死亡した受遺者の子どもに遺贈する場合。
遺言書
1.金100万円をA(生年月日、住所)に遺贈する。
ただし、A が遺言者よりも先に死亡した場合は、Aの子どもB(生年月日、住所)に遺贈する。
上記のように記載しておけば、Aが先に亡くなっている場合、Aの子どもBに特定遺贈されます。
特定遺贈の受遺者が高齢の場合は、別段の定めについても検討しておきましょう。
5-2.相続開始後に特定遺贈の受遺者が亡くなった場合
相続開始後に特定遺贈の受遺者が亡くなった場合は、遺言書の記載どおり遺贈の効力が発生します。
ただし、受遺者は亡くなっているので、受遺者の相続人が特定遺贈の財産を引き継ぎます。
遺言執行者は戸籍謄本等を確認して、受遺者の相続人を間違えないように注意してください。
6.特定遺贈により発生する税金
受遺者も特定遺贈を受けることにより税金が発生します。
- 相続税
- 不動産取得税
- 登録免許税
それぞれ説明していきます。
6-1.特定遺贈は贈与税ではなく相続税の対象
特定遺贈により財産を取得すると、贈与税ではなく相続税の課税対象となります。
特定遺贈の受遺者が第三者であっても相続税なので、間違えないように注意してください。
また、相続税は連帯納付義務があるので、第三者に特定遺贈するなら前もって伝えておきましょう。
6-2.特定遺贈により不動産を取得すると不動産取得税
相続人以外の第三者が特定遺贈により不動産を取得すると、不動産取得税が発生します。
- 不動産取得税
- 不動産を新築・増築したときや売買・贈与等により不動産を取得した際に課税される税金のこと
間違えやすいのですが、相続人が特定遺贈により不動産を取得しても、不動産取得税は発生しません。
また、第三者であっても包括遺贈により不動産を取得した場合は、不動産取得税は発生しません。
第三者に不動産を特定遺贈するなら、税金が発生することを伝えておきましょう。
関連記事を読む『遺贈でも不動産取得税は発生するのか?』
6-3.特定遺贈による登録免許税は受遺者により税率が違う
特定遺贈により不動産を取得した場合、遺贈を原因として所有権移転登記を申請します。
所有権移転登記を申請する際の登録免許税は、受遺者が相続人かどうかで税率が違います。
- 法定相続人:0.4%
- 相続人以外:2%
第三者に不動産を特定遺贈する場合、登録免許税が高くなるので注意が必要です。
関連記事を読む『遺贈による登録免許税は受取人によって税率が違う』
7.さいごに
遺言書により財産を特定して遺贈することができます。
特定遺贈の受遺者は第三者も可能なので、親族以外に財産を残すことも可能です。
第三者が特定遺贈を受け取った場合でも、贈与税ではなく相続税の課税対象なので気を付けてください。
遺言者が亡くなる前に特定遺贈の受遺者が亡くなると、特定遺贈は無効になります。
遺言書を作成する場合は、文言だけでなく効力発生後についても知っておきましょう。