任意後見契約について定めている法律があるのはご存知でしょうか。
その名も「任意後見契約に関する法律」です。
任意後見契約に関する法律は、わずか11条しかありません。ちなみに、民法は1050条です。
11条の条文で任意後見契約に関することを定めています。任意後見契約を検討されているなら、一度は条文にも目を通しておいた方がいいです。
今回の記事では、任意後見契約に関する法律について説明しているので、まだ条文を読んでいなかった場合は参考にしてください。
任意後見契約に関する法律の趣旨(第1条)
任意後見契約に関する法律第1条では、法律の趣旨を定めています。
以下は、法律の条文です。
任意後見契約だけでなく、任意後見人に対する監督についても定めると記載されています。
ちなみに、法律の第1条では、目的規定や趣旨規定を定めていることが多いです。
任意後見契約に関する用語の定義(第2条)
任意後見契約に関する法律第2条では、用語の定義について定めています。
以下は、法律の条文です。
任意後見契約の当事者は、「委任者」と「受任者」です。
任意後見監督人が選任されているかで、受任者の呼び名が変わります。
条文を読む際は、用語の定義を間違えないように注意してください。
任意後見契約の方式(第3条)
任意後見契約に関する法律第3条では、任意後見契約の方式について定めています。
以下は、法律の条文です。
任意後見契約は公正証書で作成しなければ成立しません。当事者間で契約書を作成しても無効です。
公正証書を作成できるのは公証人なので、任意後見契約書も公証人が作成します。
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任意後見監督人の選任(第4条)
任意後見契約に関する法律第4条では、任意後見監督人の選任について定めています。
以下は、法律の条文です。
任意後見監督人の選任に関する条文は、非常に重要なので読み込んでおきましょう。
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任意後見監督人の選任申立て(第4条1項)
本人の判断能力が不十分な状態になると、任意後見監督人の選任申立てが可能です。
選任申立ては、以下の人からできます。
- 本人
- 4親等内の親族
- 任意後見受任者
本人だけでなく任意後見受任者も申立て可能です。
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任意後見監督人の選任で法定後見は取消し(第4条2項)
本人が成年被後見人・被保佐人・被補助人だった場合、任意後見監督人の選任により、法定後見は取消しとなります。
法定後見人と任意後見人が同時に存在することは、法律上ありません。
任意後見監督人の選任には本人の同意(第4条3項)
本人以外が任意後見監督人の選任申立てをするには、本人の同意が必要です。
ただし、本人の判断能力が低下していて、意思表示できないときは除きます。
任意後見監督人が欠けた場合(第4条4項)
任意後見監督人が欠けた場合、家庭裁判所は請求または職権により新しい任意後見監督人を選任します。
以下の人から、任意後見監督人の選任請求ができます。
- 本人
- 本人の親族
- 任意後見人
何らかの事情により任意後見人が欠けた場合は、新しい任意後見監督人を選任しましょう。
任意後見監督人は複数人選任できる(第4条5項)
原則として、任意後見監督人は1人です。
ただし、家庭裁判所が必要であると認めるときは、請求または職権により2人目の任意後見監督人を選任できます。
任意後見監督人の欠格事由(第5条)
任意後見契約に関する法律第5条では、任意後見監督人の欠格事由について定めています。
以下は、法律の条文です。
任意後見監督人になれないのは以下の人です。
- 任意後見受任者の配偶者
※任意後見人 - 任意後見受任者の直系血族
※任意後見人 - 任意後見受任者の兄弟姉妹
※任意後見人
任意後見人を監督する立場なので、身内は除外されています。
任意後見人を親族にしていると、親族は任意後見監督人の欠格事由に該当する可能性が高いです。
本人の意思の尊重(第6条)
任意後見契約に関する法律第6条では、本人の意思の尊重等について定めています。
以下は、法律の条文です。
任意後見人は後見事務を行うにあたって、本人の意思を尊重し、かつ、心身の状態及び生活の状況に配慮しなければなりません。
任意後見契約の効力発生時には、本人の判断能力は低下しています。
ですが、任意後見は本人のために行う事務なので、任意後見人の好き勝手にはできません。
任意後見監督人の職務(第7条)
任意後見契約に関する法律第7条では、任意後見監督人の職務について定めています。
以下は、法律の条文です。
任意後見監督人は後見人に対して、後見事務の報告を求めたり財産の調査ができます。
一方、家庭裁判所は任意後見監督人に対して、事務の報告を求めたり財産の調査を命じることができます。
家庭裁判所は任意後見監督人を通じて、任意後見人を間接的に監督します。
任意後見人の解任(第8条)
任意後見契約に関する法律第8条では、任意後見人の解任について定めています。
以下は、法律の条文です。
任意後見人に不正な行為や著しい不行跡等の任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は請求により解任することができます。
解任請求ができるのは、以下の人です。
- 任意後見監督人
- 本人
- 本人の親族
- 検察官
任意後見人の不正行為を見つけたときは、本人の親族も解任請求できます。
任意後見契約の解除(第9条)
任意後見契約に関する法律第9条では、任意後見契約の解除について定めています。
以下は、法律の条文です。
任意後見契約の解除方法は、後見開始前と後見開始後で違います。
後見開始前はいつでも解除できる(9条1項)
任意後見の開始前(任意後見監督人の選任前)なら、当事者はいつでも任意後見契約を解除できます。
ただし、公証人の関与は必要なので、解除する場合は注意してください。
後見開始後は家庭裁判所の許可(9条2項)
任意後見の開始後(任意後見監督人の選任後)は、任意後見契約を解除するのに家庭裁判所の許可が必要です。
また、解除するのに正当な事由も必要になります。
関連記事を読む『任意後見契約は解除できる|時期により方法が違うので注意』
任意後見と法定後見の関係(第10条)
任意後見契約に関する法律第10条では、法定後見との関係について定めています。
以下は、法律の条文です。
原則として、任意後見と法定後見では、任意後見が優先されます。
例外的に後見開始の審判ができる(第10条1項)
家庭裁判所は本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、任意後見契約の登記がされていても、後見開始の審判等をすることができます。
どのような事情があれば認められるかは、個別具体的に判断されます。
後見開始の請求は任意後見受任者等も可能(第10条2項)
後見開始の請求者は、民法で定められています。
- 本人
- 配偶者
- 4親等内の親族
- 検察官
ただし、例外としての後見開始については、以下の人からも請求可能です。
- 任意後見受任者
- 任意後見人
- 任意後見監督人
本人のために後見が必要なら、任意後見受任者等も請求できます。
任意後見開始後なら契約は終了(第10条3項)
任意後見開始後(任意後見監督人の選任後)に後見開始の審判を受けると、任意後見契約は終了となります。
一方、任意後見開始前(任意後見監督人の選任前)に後見開始の審判を受けた場合、任意後見契約は存続します。
任意後見人の代理権消滅の対抗要件(第11条)
任意後見契約に関する法律第11条では、任意後見人の代理権消滅の対抗要件について定めています。
以下は、法律の条文です。
任意後見人の代理権の消滅は、後見登記を取り消さなければ善意の第3者に対抗できません。
*善意とは知らないという意味です。
任意後見契約を解除しているのに、任意後見の登記が残っていると、第3者は任意後見契約が存在していると勘違いします。任意後見契約を解除した場合は、忘れずに登記を抹消しましょう。
任意後見に関係するその他の法律
任意後見に関係する法律は、「任意後見契約に関する法律」以外にもあります。
「家事事件手続法」では、任意後見監督人の選任等について定められています。
- 選任申立ての管轄|217条
- 精神状況の意見聴取|219条
- 陳述および意見聴取|220条
- 申立ての取下げ制限|221条
上記以外についても、条文に記載されています。
通常、家事事件手続法まで読むことはありませんが、参考までに記載しておきました。
まとめ
今回の記事では「任意後見契約に関する法律」について説明しました。
任意後見契約に関する法律は、わずか11条しかありません。ですが、内容は非常に重要です。
任意後見監督人の選任(第4条)や任意後見契約の解除(第9条)などは、しっかりと読んでおきましょう。
個別の条文についても、詳細な記事を作成しているので、興味のある箇所があれば確認してください。