債務者が遺留分の請求権を行使しないので、代わりに行使したいと考える債権者もいます。
ですが、遺留分侵害額請求権は、債権者代位の目的になりません。
遺留分を請求するかどうかは債務者(遺留分権利者)が決めます。第3者が決めるわけではありません。
今回の記事では、遺留分侵害額請求権と債権者代位について説明しているので、疑問を解消する手助けにしてください。
目次
1.遺留分侵害額請求権は債権者代位の目的にならない
債務者の遺留分侵害額請求権は、債権者代位の目的になりません。
- 債権者代位
- 債務者に属する権利を債権者が行使すること
以下は、最高裁の判例です。
※法改正により遺留分減殺請求権が遺留分侵害額請求権に変わりました。
債権者代位の目的にならない理由として、以下の2つが挙げられています。
- 請求の意思決定は遺留分権利者
- 債務者が財産を相続するかは不確実
それぞれ簡単に説明していきます。
1-1.遺留分を請求するかは遺留分権利者が決める
遺留分侵害額請求権を行使するかは、遺留分権利者が決めます。
亡くなった人が遺留分権利者に財産を残さなかったとしても、遺留分権利者に不満がなければ問題ありません。
例えば、父親が遺言書で母親に全財産を残した場合です。
母親が全財産を取得することに納得していれば、子どもは遺留分侵害額請求権を行使しません。
たとえ子ども(遺留分権利者)に財産が無くても、債権者は代位行使できないです。
判決理由の中で、請求権の行使は「行使上の一身専属性を有する」と判断されています。
- 行使上の一身専属性
- 権利の行使が権利者に限られること
つまり、請求権を行使するかは、遺留分権利者のみが決めれます。第3者の意思介入は許されません。
関連記事を読む『遺留分侵害額請求権とは金銭を請求する権利』
1-2.債務者が財産を相続するかどうかは不確実
債権者の中には、債務者が将来相続する財産を当てにして、金銭を貸す人もいます。
ですが、債務者が財産を相続するかは不確実です。相続財産の有無も不明ですし、相続放棄を選ぶ債務者もいます。
判決理由の中で、債権者は「将来相続する予定の財産を期待すべきではない」と説明しています。
もともと債務者の財産ではないので、遺留分を放棄したとしても、債権者を不当に害するわけではありません。
2.特段の事情があれば債権者代位の目的になる
遺留分侵害額請求権は債権者代位の目的になりません。
ただし、裁判要旨にも書いてありますが、特段の事情があれば目的になります。
裁判要旨では、「権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる場合」を特段の事情としています。
例えば、遺留分侵害額請求権を第3者に譲渡した場合です。
遺留分侵害額請求権の譲渡行為を、権利行使の意思表示と判断しています。
ただし、遺留分侵害額請求権を譲渡する人は少ないので、債権者代位の目的になる機会は少ないでしょう。
あくまでも、特段の事情があれば、例外的に債権者代位の目的になるだけです。
3.債権者は遺留分放棄を取り消せない
債務者が遺留分を放棄した場合でも、債権者は遺留分放棄を詐害行為として取り消せません。
- 詐害行為
- 債務者が債権者を害すると知ってした行為
遺留分侵害額請求権と違い、遺留分放棄については判例がありません。
ただし、債務者の相続放棄を争った判例があります。
以下は、最高裁の判例です。
相続放棄が詐害行為取消権の対象ではないので、遺留分放棄も詐害行為取消権の対象ではないと考えられています。
「遺留分侵害額請求」や「遺留分放棄」するかどうかは、債務者が決めます。債権者が決めることはできません。
関連記事を読む『相続放棄は詐害行為に該当しない【周辺知識も徹底解説】』
4.まとめ
今回の記事では「遺留分侵害額請求権の債権者代位」について説明しました。
債務者が遺留分侵害額請求権を行使しなくても、債権者は代位行使できません。
請求権を行使するかは債務者(遺留分権利者)が決めます。債権者であっても請求できません。
また、債務者が遺留分放棄をしても、債権者は詐害行為で取り消せません。
遺留分に関する権利は、遺留分権利者(債務者)に意思決定権があります。債権者には無いので気を付けてください。
遺留分と債権者代位に関するQ&A
- Q.債務者に収入が無くても、債権者代位はできませんか?
- A.できないです。
- Q.遺留分の一部だけで債権の支払いが可能です。債権者代位はできませんか?
- A.できないです。