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相続放棄は詐害行為に該当しない【周辺知識も徹底解説】

相続放棄は詐害行為に該当しない
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あなたに借金があっても、相続放棄するのは自由です。

相続放棄は相続に関する身分行為なので、債権者が詐害行為で取り消すこともできません。

ただし、相続放棄以外の行為が詐害行為に該当したり、相続放棄ではなく限定承認と扱われることはあります。

今回の記事では、相続放棄と詐害行為について説明しているので、相続放棄する際の参考にしてください。

1.相続放棄は詐害行為取消権の対象にならない

結論から言えば、相続放棄は詐害行為取消権の対象になりません。

以下は、最高裁の判例です。

相続の放棄は、民法四二四条の詐害行為取消権行使の対象とならない。

出典:裁判所ウェブサイト(昭和49年9月20日最高裁判所第二小法廷判決)

相続放棄は財産を目的とした法律行為ではなく、相続に関する身分行為だからです。

1-1.相続人に借金があっても相続放棄するのは自由

亡くなった人の相続人は、相続の開始を知った日から3カ月以内に相続の判断をします。

相続するかどうかは相続人が自由に決めれるので、債権者が強制することはできません。

仮に、相続放棄が詐害行為取消権で取り消せると、債権者が相続を強制できるのと同じことになります。

相続人に借金があっても、相続放棄するかどうかは自由に決めれます。

 

2.生前贈与を受けて相続放棄すると詐害行為の可能性

亡くなった人から生前贈与を受けて、相続発生後に相続放棄することは可能です。

ただし、亡くなった人の債権者を害する目的で、生前贈与と相続放棄を使用すると、生前贈与が詐害行為に該当する可能性があります。

生前贈与が詐害行為に該当するなら、債権者は生前贈与を詐害行為取消権で取り消せます。

例えば、亡くなった人に預貯金が500万円と借金が500万円ある場合です。

亡くなる直前に500万円を相続人に生前贈与して、相続開始後に相続放棄すれば借金は相続しません。

ですが、生前贈与の目的が債権者を害するためなので、生前贈与は詐害行為に該当する可能性が高いです。
※詐害行為に該当するには一定の要件がある。

債権者は相続放棄を取り消すことはできませんが、生前贈与が詐害行為に該当するなら、生前贈与を取り消すことで債権を回収できます。

 

3.破産手続開始の決定後に相続放棄しても詐害行為にならない

相続人が破産手続開始の決定後に相続放棄しても、債権者に対する詐害行為になりません。

相続の発生時期により理由は違うのですが、詐害行為に該当しないという結論は同じです。

3-1.破産手続開始決定前に相続発生なら限定承認になる

破産手続開始決定前に相続が発生

破産手続開始の決定前に発生した相続を、破産手続開始の決定後に相続放棄しても、破産財団に対しては限定承認の効力となります。

限定承認
プラスの財産を限度にマイナスの財産を負担する相続

以下は、破産法の条文です。

(破産者の単純承認又は相続放棄の効力等)
第二百三十八条 破産手続開始の決定前に破産者のために相続の開始があった場合において、破産者が破産手続開始の決定後にした単純承認は、破産財団に対しては、限定承認の効力を有する。破産者が破産手続開始の決定後にした相続の放棄も、同様とする。

出典:e-Govウェブサイト(破産法238条1項)

相続人が相続放棄しても詐害行為に該当しませんが、そもそも相続放棄ではなく限定承認の効力となります。

したがって、亡くなった人の負債を支払っても相続財産が残るのであれば、相続財産(残余部分)も破産手続きの中で破産債権者に支払います。

3-2.破産手続開始決定後に相続発生なら相続放棄は自由

破産手続開始決定後に相続が発生

破産手続開始の決定後に相続が発生した場合、破産手続きとは無関係です。

したがって、相続放棄するかどうかは、原則どおり相続人が自由に決めれます。自己破産した人も相続放棄はできます。

当然ですが、自己破産後に相続放棄しても、債権者に対する詐害行為に該当しません。

 

4.遺産分割協議は相続放棄と違い詐害行為取消権の対象

勘違いしやすいのですが、相続放棄するのと遺産分割協議で財産を取得しないのは、別の法律行為です。

そして、遺産分割協議は相続放棄と違い、詐害行為取消権の対象となります。

なぜかというと、相続放棄は身分行為なのですが、遺産分割協議は財産を目的とした法律行為だからです。

遺産分割協議が財産を目的とした法律行為である以上、詐害行為の要件を満たすなら詐害行為取消権で取り消せます。

遺産分割協議と詐害行為に関しては、以下の記事で詳しく説明しています。

 

5.さいごに

今回の記事では「相続放棄と詐害行為」について説明しました。

相続放棄は詐害行為取消権の対象に該当しません。たとえ相続人に借金があっても、相続放棄するかどうかは自由に決めれます。

ただし、相続放棄以外の行為が詐害行為に該当したり、他の法律で相続放棄の効力を否定される場合があります。

生前贈与を受けた後に相続放棄すると、生前贈与が詐害行為に該当する可能性があります。

また、破産手続開始決定前に発生した相続について、破産手続開始決定後に相続放棄しても、破産財団に対しては限定承認となります。

遺産分割協議は相続放棄と違い、詐害行為取消権の対象になる点も注意してください。