相続放棄は詐害行為に該当しない|被相続人の処分が問題になる可能性

相続放棄は詐害行為に該当しない
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相続放棄を検討しているが、「借金がある状態で相続放棄すると、詐害行為として取り消されるのではないか」と不安になり、検索している方もいます。

結論から言えば、相続放棄は詐害行為に該当しません。

なぜなら、相続放棄は身分行為であり、財産を減少させる行為とはいえないからです。

もっとも、相続放棄と詐害行為は無関係というわけではなく、被相続人の生前の財産処分が問題になるケースはあります。

この記事では、

  • 相続放棄がなぜ詐害行為に該当しないのか
  • 例外的に注意すべきケースは何か
  • 相続に関する他制度との違い

判例の考え方を踏まえながら、相続人側の立場で分かりやすく解説していきます。

記事作成者
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目次

1.相続放棄は詐害行為には該当しない

結論から言えば、相続放棄は詐害行為には該当しません。

以下は、最高裁の判例です。

相続の放棄は、民法四二四条の詐害行為取消権行使の対象とならない。

出典:裁判所ウェブサイト(昭和49年9月20日最高裁判所第二小法廷判決)

相続放棄が詐害行為に該当しない理由として、2つ挙げられています。

  1. 相続放棄は財産を減少させる行為ではない
  2. 相続を強制させることはできない

1-1.相続放棄は財産を減少させる行為ではない

詐害行為とは、債権者を害する目的で財産を減少させる行為のことです。

ですが、相続放棄は相続人としての地位を放棄する行為であり、財産を減少させる行為ではありません。

第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
出典:e-Govウェブサイト(民法939条)

相続放棄をしたからといって、自分の財産が減少するわけではなく、結果として増えなかっただけです。

財産を減少させる行為ではない以上、相続放棄は詐害行為には該当しません。

1-2.相続人に借金があっても相続は強制できない

相続人に借金があるからといって、相続放棄が詐害行為として取り消せると、実質的に相続を強制できるのと同じになります。

相続放棄のような身分行為を、第3者(債権者)が強制することは認められません。

亡くなった人と絶縁状態だった人や、他の相続人と争いたくない人は、自分に借金があっても相続放棄して問題ありません。

相続放棄するかは、相続人が自由に決めることです。借金の有無は関係ありません。

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2.相続放棄と違い被相続人の行為は詐害行為になり得る

相続人の相続放棄は詐害行為に該当しません。

しかし、相続人が相続放棄した結果、被相続人が生前に行った財産処分について、詐害行為が問題となる場合があります。

なぜなら、相続放棄により借金を返済する人がいなくなり、生前の財産処分が改めて問題として浮かび上がるためです。
※債権者が詐害行為に気付く。

被相続人の財産処分が詐害行為に該当するかどうかは、相続放棄の時点ではなく、財産処分が行われた時点で、次の3つの条件を満たしていたかで判断されます。

1.被相続人が無資力であったか
2.被相続人が債権者を害すると認識していたか
3.財産を受け取った推定相続人も、そのことを認識していたか

以下では、被相続人の財産処分が、これら詐害行為の条件に該当するのかについて、順に説明していきます。

2-1.財産を譲った結果、被相続人が無資力になった

被相続人に借金があっても、財産を譲るのは問題ありません。

問題になるのは、財産を譲った結果、被相続人が無資力になった場合です。


▼家族構成

父親・長男・二男

▼父親の資産

預貯金|1,000万円
借金 |500万円

▼生前贈与

長男|500万円
二男|500万円

父親は預貯金(1,000万円)を生前贈与した結果、借金(500万円)を返済できる資産を失っています。


被相続人は借金を返済できる財産を有していましたが、財産を譲ったことで、返済に充てる資産がなくなっています。

このように、財産を譲った結果として被相続人が無資力になる場合は、詐害行為の前提条件を満たすことになります。

注意無資力とは0円という意味ではなく、弁済するのに十分な資産が無い状態のこと。

2-2.被相続人が債権者を害すると知っていた

被相続人(債務者)が財産を譲った結果、債権者を害すると知っていた場合、詐害行為に該当する可能性があります。

上記の「害すると知っていた」とは、積極的に損害を与える意思があったかではありません。財産を譲った結果、債権者に損害が生じると分かっていたかどうかです。


▼父親の資産状況

預貯金|1,000万円
借金 |500万円(月10万円払い)

父親の収入は年金のみ
※18万円(2か月分)

▼生前贈与

長男|500万円
二男|500万円

父親は年金収入しかなく、預貯金を全額贈与すると、債権者への返済が滞ると容易に分かる状況です。


被相続人が財産を譲った結果、債権者への返済が滞ると分かっていた場合、詐害行為の前提条件を満たすことになります。

2-3.推定相続人も債権者を害すると知っていた

被相続人(債務者)が財産を譲ると、債権者を害することになると、推定相続人(財産取得者)も知っていた場合、詐害行為に該当する可能性があります。

財産を取得する側の推定相続人も、その結果を認識できていたかどうかです。


▼家族構成

父親・長男
※父親と長男は同居

▼父親の資産

預貯金|1,000万円
借金 |500万円(月10万円払い)

父親の収入は年金のみ
※18万円(2か月分)

▼生前贈与

長男|1,000万円

父親と長男は同居しており、父親に借金があることも知っていました。父親が全財産を贈与すると、債権者への返済が滞ると容易に分かる状況でした。


財産の贈与時に相続放棄を検討していたかではなく、被相続人の贈与により債権者に損害が生じると認識できたかが、詐害行為の判断基準となります。

3.破産手続中に相続放棄しても詐害行為ではない

相続人が破産手続中に相続放棄しても、詐害行為には該当しません。

ただし、相続の発生時期によっては、詐害行為ではなく、破産法の決まりにより相続放棄の効力が制限されます。

この点は、詐害行為とは別の制度上の問題として整理する必要があります。

3-1.破産手続開始決定前に相続発生なら限定承認になる

破産手続開始決定前に相続が発生

破産手続開始の決定前に発生した相続を、破産手続開始の決定後に相続放棄しても、破産財団に対しては「限定承認」の効力となります。

限定承認

亡くなった人のプラスの財産を限度に、マイナスの財産を負担する相続のこと

以下は、破産法の条文です。

(破産者の単純承認又は相続放棄の効力等)
第二百三十八条 破産手続開始の決定前に破産者のために相続の開始があった場合において、破産者が破産手続開始の決定後にした単純承認は、破産財団に対しては、限定承認の効力を有する。破産者が破産手続開始の決定後にした相続の放棄も、同様とする。

出典:e-Govウェブサイト(破産法238条1項)

相続人が相続放棄しても詐害行為には該当しませんが、破産財団に対しては限定承認の効力となります。

したがって、清算手続きをしても相続財産が残るなら、残余財産も破産手続きの中で破産債権者に支払われます。

3-2.破産手続開始決定後に相続発生なら相続放棄は自由

破産手続開始決定後に相続が発生

破産手続開始の決定後に相続が発生した場合、相続放棄と破産手続きは無関係です。

したがって、相続人の相続放棄も通常どおりの効力が発生します。

当然ですが、自己破産後に相続放棄しても、債権者に対する詐害行為には該当しません。

4.相続に関する他制度と詐害行為の関係について

前章までで説明したとおり、相続放棄は詐害行為に該当しません。

しかし、相続に関する他の制度は、相続放棄とは違う問題が発生します。

  • 遺産分割協議
  • 遺留分侵害額請求

上記について簡単に説明するので、詳細については関連記事を参考にしてください。

4-1.条件を満たした遺産分割協議は詐害行為になる

相続放棄により財産を取得しないのと、遺産分割協議により財産を取得しないのは、まったく別の法律行為になります。

そして、条件を満たした遺産分割協議は詐害行為に該当します。

なぜなら、相続放棄は身分行為ですが、遺産分割協議は財産を目的とした法律行為だからです。

財産を目的とした法律行為である以上、詐害行為の条件を満たせば詐害行為取消権で取り消せます。

遺産分割協議と詐害行為に関しては、以下の記事で詳しく説明しています。

4-2.遺留分侵害額請求は代位行使の問題になる

相続人の遺留分が侵害されている場合、遺留分侵害額請求権の行使により、相続人は金銭を取得できます。

問題になるのは、相続人(債務者)が請求権を行使すれば借金を返済できるのに、意図的に請求権を行使しない場合です。

遺留分侵害額請求権を行使しないなので、詐害行為ではなく債権者による代位行使の問題になります。

興味のある方は、以下の記事で説明していますので参考にしてください。

5.相続放棄と詐害行為に関するQ&A

相続放棄と詐害行為について、よくある質問と回答を説明します。

借金が高額でも相続放棄は詐害行為に該当しませんか?

相続放棄は詐害行為に該当しません。

相続放棄は、法律上の地位を放棄するという身分行為であり、債務者の財産を直接減少させる行為ではないからです。

相続放棄をする前に、債権者へ相談する必要はありますか?

法律上、相続放棄をする前に債権者へ相談する義務はありません。

生前贈与が詐害行為に該当すると、相続放棄は無効になりますか?

相続放棄は無効になりません。生前贈与が問題になるだけです。

詐害行為が原因で相続放棄が認められなかったケースはありますか?

ありません。相続放棄と詐害行為に直接の関係はないからです。

相続放棄を理由に、債権者から損害賠償請求される可能性はありますか?

相続放棄を理由に損害賠償を請求されることはありません。

相続放棄のQ&Aについては、上記以外にもあるので参考にしてください。

結論|相続放棄は詐害行為に該当しないが注意は必要

今回の記事では「相続放棄と詐害行為」について説明しました。

相続放棄は、相続人としての地位を放棄する制度であり、詐害行為には該当しません。

したがって、相続人に借金がある場合でも、相続放棄は自由に選べます。

ただし、相続放棄したことにより、被相続人の生前の財産処分が詐害行為として問題になる可能性はあります。

また、財産を取得しないという結果は同じでも、遺産分割協議は詐害行為に該当する点には注意してください。

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